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どうなるのか日本の食料・生産調整を考える

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座談会 その2 生産者が安心できる長期的な支援策必要

生産者が安心できる長期的な支援策必要

◆安定した生産への支援が普及の鍵を握る  ――思い切った政策を作りあげていくに...

◆安定した生産への支援が普及の鍵を握る

 ――思い切った政策を作りあげていくにはまず具体的には何万トンを国内で供給するのかという目標を立て、それに必要な面積はどのくらいか、ということを打ち出す必要があると思います。さらにそれをどういう条件で作るか、コストがいくらかかるか、だからどの程度支援がいるのか、という組み立てになってくると思いますが。
 築地原 政府は食料・農業・農村基本計画のなかで飼料穀物の自給率を現在の25%から平成27年には35%にもっていきたいとしています。10ポイントアップという計画ですね。
 現在の耕作放棄地や追加的な生産調整面積10万ha等をふまえ飼料用米とホールクロップサイレージで約40万haが作付け可能面積だと農水省は示しています。飼料用米の単収500kgとすれば200万トンですし、専用品種でかりに1トンが実現すれば400万トン生産可能という試算はできると思います。いずれにしても、飼料用米の増産への取り組みを国家戦略として位置づけ、目標の設定とそれに向けた工程表をぜひ示してほしいと考えています。
 平位 全農のプロジェクトで立てた目標は、当座は10万ha程度できないかということでした。これはその後、たまたま20年産の生産調整拡大分と同じということになってきたわけですが、ざっと単収800kgとして80万トン程度ということですね。全農が国内飼料原料として扱っているトウモロコシのうちの約4分の1です。
 ただし、先ほども指摘したように全国的に取り組むためのシステム、オペレーションが必要になるわけです。これまで飼料業界が米を使う場合は、米の業界のほうでデリバリーをすべてやっていただいていたわけです。要はトヨタのカンバン方式で、飼料工場がほしいときに米を持ってきていただいていた。はっきり言って米の業界におんぶに抱っこの流通だったわけです。
 それから飼料工場では主原料ラインではなくて副原料ラインで米を使っていてこの副原料ラインをすべて米に置き換えた場合、20万トンまでだったらなんとか今の設備でできる。しかし、それを超えると設備投資も必要になる。ですから主原料ラインにまわすのか、それとも新たな副原料ラインを作るのかということも課題になります。どのくらいの量を使用していくのかを考える場合には、相当に条件を詰めていかなければならないということです。
 ――逆にいえば、生産段階で安定的に飼料用米が調達できるという展望がしっかりしていないと全国的に展開するための設備投資もできないということですね。
 平位 根本はそこだろうと思います。

◆「また変わるのでは?」が現場の声、信頼できる政策転換のメッセージを

 佐藤 その点でいえば、現場で出ている声は、この政策はまた変わるのではないかということです。トウモロコシがまた安くなれば輸入に走るんでしょう、今だけ騒いでいるんでしょう、と。
 先日も国会議員が視察に来られたのですが、われわれが言ったのは、この政策は衆議院議員の任期では話にならない、最低限でも参議院議員の二期分が必要だと(笑)。つまり10年以上のスパンで考えてもらわないと進まないと訴えたんです。そこがいちばんです。
 さらに種子の問題ではたとえば40万haで飼料用米を生産するとすれば、その100分の1の4000haの採種ほ場が必要になる。さらにその種子を選別にかけなければなりません。われわれのJA管内にはそのための種子センターが2か所あり両方とも40ha規模の対応能力です。そう考えると全国には種子センターが100か所必要になるという計算です。こういう設備投資まで本当に本気でやるんですね、というのが現場の声です。
 保管の問題もあります。20年産では庄内全体で340haぐらいですから、2300トン程度の保管場所が必要になる。それでやっと最近、系統外の倉庫も使いながら保管できるめどが立ちました。われわれはカントリーエレベーターも作りたいと思っていますが、作ったとたんもう飼料用米は不要ですよ、となったら誰が経費を負担するのか、ということになる。だから本当に10年、20年というスパンのなかでやっていくんだと明言してもらって、何とかやれそうだなという判断に農家が立たないと生産が増えていくという現場を作るのは非常に厳しいと思います。
 かりに飼料用米として生産するのではなく、どの農家が生産した米でもそのなかから飼料用として利用するというのであれば、もっと基本的な農政の転換が必要になると思います。つまり、主食用には800万トン程度を確保し、そのほかは飼料用米など他用途利用を考えるということですが、その場合は最低価格で買い入れますよ、という価格支持政策で支える。
 しかし、それができないというのであれば飼料用米生産のためのカントリーエレベーターなど保管、流通施設整備に国がきちんと支援するということがなければとても現場では負担はできません。
 よく収量が増えるから手取りも増えるという話になりますが、そう簡単ではありません。たとえば、今、われわれの地域では飼料用米は平田牧場との話し合いでトン4万6000円と通常より少し高めの水準で取引していますが、キロ46円のうち乾燥調製料が20円かかる。これは定額ですから量が増えれば増額になります。それから保管料など諸々の経費を合わせると全部で31円になりますので、手取りはキロあたり15円ということになります。1トン穫れても手取りは1万5000円にしかならない。これが現場の状況です。
 だから、政策としては、たとえば次の世代まで農地を守って維持していくという取り組みへの支援、それから温暖化への対応、またインディカ米を品種とするならODAとしての対応にもつながる、といった諸々の観点からの国家戦略として位置づけをしてもらわないと。農水省の予算だけではたぶんきちんと対応できないと思います。これから日本が今まで以上に世界のなかでの位置を保つとすれば、自国で飼料穀物を可能な限り調達することがアフリカの飢餓を救うんだ、というぐらいの観点で飼料用米を位置づけて予算を確保していくことが必要ではないかと思います。
 こういう部分も国民の方々に理解してもらわないと、もし飼料価格が下がったときに、なぜ農業にだけいっぱい補助金出すのかということになってしまいかねない。

◆減産政策から増産政策への転換こそ重要な視点

 ――相当腰を据えた取り組みがないと定着しないということですね。
 佐藤 減反ではなく、この際は真の意味での転作をしていかないといけないということになっていると思います。飼料用米に限らず、大豆の自給率も低いし、われわれとしては飼料用米と大豆と菜種、この3つを自給率を上げる作物だと位置づけているわけです。
 しかも大豆の後に飼料用米を植えると、大豆は窒素補てんをしますから肥料分が少なくて済む。コスト低減にもなるわけですし、大豆の連作障害も起きなくなる。それから菜種は6月の中旬から下旬に収穫に入るわけですが、それでは大豆を植えられない。だから6月の初旬に収穫できる菜種を育種してほしいということもあります。
 そうすると飼料用米を作った後に菜種を播く。そして菜種を翌年の6月始めに収穫したあとにすぐに大豆を播く、という2年3作ができて、1枚の田んぼをフル活用して自給率の向上につながることになるのではないか。
 平位 JA庄内みどりのような地域内完結型の取り組みのほか、今後、進めなければならなないと考えているのが、一例をあげると東北のある地域にはすでに水田が250haほど放棄されているところもあるということです。そこで飼料用米をつくるといっても、地権者はもう主食用米では生産が続けられないから放棄してしまったわけですから、作り手をどうするかを考えなくてはならない。その際は新しい発想で、今までの稲作農家というイメージを超えた、たとえば地域の農家の了解のもとに飼料会社がオペレーターに委託して生産をするといった新しい発想で国土全体を再活用するというような考え方も必要だと思っています。
 築地原 そうですね。出資法人をつくるとか、場合によっては連合会、JAがより直接的に生産を担うといったこともあっていいと思いますね。
 平位 それから新しい意味での前向きな食糧管理制度というか、食料政策のなかで、国家管理で国土を最大限活用して飼料用米、加工用米、輸出用米などに関する総合食料計画のなかで確実に20年間は政策で支えるといったことが必要だと思います。飼料業界についても確実に最低100万トンは使うということをきちんと決める。そういうベースがないと具体的に進まないし、国際的な状況からみてもそういう総合政策を考える状況に入ってきていると思います。
 築地原 食料増産・自給率向上を図るためには、主食用に加え飼料用米や米粉用米等の非主食用のトータルな米の用途別管理が必要となり、MA米のあり方とあわせ、戦略的かつ柔軟な備蓄制度の確立が必要です。
 今の国際ルールや国内の政策の枠組みは食料が過剰ないしは需給が緩和基調だということを前提にしていると思います。しかし、その前提・潮目が変わりました。構造的なひっ迫基調に変わり、その中では輸出国も自国民を飢えさせてまで輸出なんかしませんから、輸出規制や禁輸をするということになりますが、しかし、それは輸出国の食料主権だということになる。その一方、輸入国の食料主権とは、可能な限り国内生産を強化し食料自給力を強化するということだと思います。
 ですから、前提とした環境が変わってきたことで、国内政策も国際的なルールづくりも再構築していく段階に来ているということだと思います。そのためにも、食料増産・自給率向上対策を国家戦略として打ち出し、現行予算を大幅に上回る必要な予算を確保することが是非とも必要です。
 ――ありがとうございました。 

【著者】佐藤秀彰氏 (JA庄内みどり遊佐営農課統括課長) 築地原優二氏 (JA全中農業対策部部長) 平位修一氏 (JA全農畜産総合対策部部長)

(2008.08.05)