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米粉ビジネス最前線

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「余った米を使う」意識から脱却を

米粉こそ需要に応じた生産
インタビュー (財)日本穀物検定協会・萩田敏参与

 農水省は21年度の概算要求で転作拡大部分や調整水田などの不作付け水田などを対象に新たに米粉用米を生産する場合、10アールあたり5万円を23年度までの3年間毎年助成する支援措置を打ち出した(下図)。
 ただし、交付要件には「実需者との播種前契約等があること」がある。米粉や米粉製品が確実に消費されるよう加工事業者や販売業者との連携が必要だとの考えによるもので、生産者やJAも関係者と連携して新たに米粉事業を興すという意識が求められる。水田をフル活用する地域農業振興策として米粉への支援措置に期待があるが、そのためには農商工連携による新たな米粉商品開発など、「商品を見据えた農業」が一層大切になるだろう。先ごろ発足した「国内産米粉推進ネットワーク」の理事に就任したこの問題に詳しい(財)穀物検定協会の萩田敏参与は「余った米を使う、という発想から脱却を」と強調している。

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 新たなビジネスづくりの視点で

◆小麦粉製品と比べない

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萩田敏参与氏

 ――小麦の価格高騰で米粉への注目が高まり、また、支援策が見えてきたことで産地にも期待がありますが、米粉食品の位置づけをどう考えるべきですか。
  大事なのは自給率の向上ですから、当然、原料米は国産を使うということです。輸入小麦が高騰しているからといった価格問題であれば外国産米を使った米粉でもいい、となってしまう。 国内の農業資源を使って自国の食料を確保するというのが根本。ただ、米は「粒」の消費では限界もある。そこで今の食生活を変えることなく米の消費を拡大でき、地域農業振興も図れるということから、私は米粉に注目すべきだと考えてきました。
 ――JAでも米粉パンをつくるなどの取り組みがみられます。米粉生産を事業とするにはどんな視点が必要でしょうか。
 いつも強調しているのは、小麦粉食品を基準とした商品開発にこだわらないということ。小麦粉の代替として使えないか、と小麦粉商品に近づける必要はないと思います。たとえば米粉を使ったうどんはゆでるとコシがないといわれますが、それなら短くカットしてパスタにしてしまう。コシがないというが、それはゆで時間が短くて済むということでもある。それなら調理に手間のかからない米粉パスタ、と提案し米粉の特徴を活かす。ベトナムにフォーがあるわけですから。
 その一方で100%米粉にこだわる必要もない。パンであればやはり小麦粉の食感にみな慣れていますから、そこを米粉100%にしようとすると壁にぶつかる。小麦粉やグルテンと混ぜて、米粉の特徴を活かした商品バリエーションを広げるという発想も必要だと思います。フランスパンが硬いのは硬い生地にしかならない小麦だったからでしょ。その特徴をいかしたパンということですよね。それが文化にもなっている。
 そのためには米粉の機能性を知ることも大切です。たとえば、米粉は油の吸収が小麦よりも抑えられます。

◆米粉の特徴をいかす

 ――天ぷら粉にできればヘルシーですね。
 実際、かき揚げは小麦粉よりパリッと揚がりますよ。しかも油の吸収は少ない。たこ焼きは明石焼き風にできます。なにも小麦粉と競争しようというのではなく、こうした米粉の特徴を示して消費者がどう判断するかだということです。
 そのほか、高アミロースの米粉であれば食後血糖値の上昇が抑制されたり、原料米に紫黒米を使えばアントシアンが豊富、赤米ならタンニンが豊富でともにポリフェノールであり、各種ビタミン類(B、E、P)等を含むため健康食材としてもアピールした米粉食品ができるかもしれません。
 ――産地にとってはどういう取り組みが求められますか。
 トマトでは生食用とジュース用では栽培品種が違うように、米粉用米の生産も最終的に供給する商品を見据えた生産が必要になるということです。コシヒカリが必ずしも米粉に向くわけではない。つまり、余った米を米粉に回すという意識を捨てること。そして商品開発は生産段階だけではできないから、まさに農商工連携で取り組まなければならないし、それが米粉の生産・供給体制をつくるということだと思います。
 そうした取り組みを進めるなかで、生産者としては低コスト化が課題です。多収穫品種の開発も重要ですが、直播や乾燥コストを抑えるため刈り取りを遅らせほ場で水分を落とすなどの試みや、また、病害虫防除の必要性も変わってくるかもしれない。たとえばカメムシ被害があっても米粉なら品質上問題はないかもしれない。そうなると防除に農薬代をかけるより、多収をめざして追肥にコストをかけるなど栽培手法も変わってくる。
 こうしたことを実践するなかで、コスト計算をし経営のなかに組み込んでいくことが大事ではないかと思います。そしてきちんと供給するという契約意識も必要です。

◆安全・安心にはコストをかける

 ――経営に組み入れるための指標はありますか。
 たとえば小麦粉と競争できる米粉の卸価格をキロ200円とすると加工コストを考えても原料米は60kgで5000円にはできる。10俵とれれば5万円ですから助成金と合わせて10aで10万円になりますね。
 一方、キロ200円の米粉が10万トン生産されれば200億円ですが、たとえば100円のあんパン一個に使われている小麦粉の原価は6円〜8円でしょう。つまり、米粉も最終商品になれば何倍もの市場価格になることが見込まれ、200億円の米粉が少なくとも1000億円程度の米粉製品市場にはなる。19年産の主食用の過剰作付けは35万トンだったわけですが、これを新たな商品開発の努力をして米粉にすれば数千億円の市場も見込める。そのためには農商工連携が必要だということです。
 ――その連携の具体的なイメージは?
 たとえば、米粉パンは小麦粉パンにくらべて焼きたてから時間がたつと味が落ちるのは確かです。しかし、それなら地場の直売所などで焼きたてパンとしてその日のうちに売り切るという戦略を立てる。そのために直売所で一日4回パンを焼くということにすれば、実はオーブンのサイズは4分の1でいいということになりませんか。こういうビジネスモデルをまず作ってから助成措置を使って製粉機などの導入をすべきだと思いますね。しかもパンをつくるための製粉機はでんぷん損傷しない方式が必要になる。一方、団子をつくるなら微細粉ではなく粒度が粗くないとうまくいかない。どういう米粉製品をつくるかが決まらないと機械の導入もできないわけですし、それに合わせた米生産もできないはずなんです。
 ――安全・安心も重要ですね。
 安全・安心にはコストをかけよ、に尽きます。第3者機関に原材料米、米粉の安全性や品質を確認してもらうなど取り組みが必要です。これから産地あげて新たな米粉ビジネスを立ちあげて地域農業振興するには、消費者、実需者に信頼される流通形態と、米粉の自主規格づくりとスタンダード化が欠かせないと思っています。

【著者】インタビュー (財)日本穀物検定協会・萩田敏参与

(2008.09.25)