シリーズ

「農協改革の課題と方向―将来展望を切り拓くために」

一覧に戻る

第1回 連載のテーマと筆者の思い

・10の提言を一層具体化
・農協の存在意義と存立条件の明確化が重要
・本連載で力を入れて取り組みたい4つの主題

月1回とは言え1年間の連載原稿の執筆は大きな心理的負担になるとは思ったのだが、現場の実践家の皆さんにも読んでいただける本紙への執筆の魅力も大きく、お引き受けすることとした。
 連載のタイトルは平凡だが「農協改革の課題と方向」とさせていただき、副題として「将来展望を切り拓くために」を付け加えさせていただいた。
 12月20日付の本紙に「09年新連載」として、この連載に取り組もうとする筆者の問題意識や執筆課題について荒々の紹介をいただいているが、今回は第1回でもあるので、これらの点についてもう少し具体的に説明しておきたい。

◆10の提言を一層具体化

 月1回とは言え1年間の連載原稿の執筆は大きな心理的負担になるとは思ったのだが、現場の実践家の皆さんにも読んでいただける本紙への執筆の魅力も大きく、お引き受けすることとした。
 連載のタイトルは平凡だが「農協改革の課題と方向」とさせていただき、副題として「将来展望を切り拓くために」を付け加えさせていただいた。
 12月20日付の本紙に「09年新連載」として、この連載に取り組もうとする筆者の問題意識や執筆課題について荒々の紹介をいただいているが、今回は第1回でもあるので、これらの点についてもう少し具体的に説明しておきたい。
 端的に言えば、右の「新連載」で紹介いただいた2冊の記念出版、すなわち小池恒男編著『農協の存在意義と新しい展開方向』(A)と藤谷編著『日本農業と農政の新しい展開方向』(B)(共に昭和堂より出版)での筆者の論述を出発点とし、その論述を補足ないし一層明確化することに力点をおきたい、と考えている。
 記念出版(A)では、その最末尾(結章第2節)に「新しい農協運動のデッサン―10の提言―」を執筆した。限られた執筆枚数で“10の提言”を書くのは骨が折れたし、舌足らずになってしまった面が多かった。本連載の第1の狙いは、この“10の提言”を一層具体化し、より明確にすることにある。
 本連載の第2の狙いは、記念出版(B)に関る。筆者は、地域農業振興・活性化の基本条件は、1つは、日本農業の国家・国民に対する役割の明確化(“農政理念の確立”)である。この点は、1999年に制定された「新基本法」によって明確にされた、と筆者は考えている。もう1つは、その役割発揮を可能にし助長する予算的裏付けをもった国の農政施策の体系的整備である。後者の役割を果たすのが、「新基本法」第15条で策定が義務づけられている「基本計画」である。現行農政の問題の焦点は、この「計画」の中身にある、と見てよい。
 同時に問われなければならないのは、地域農業振興・活性化の決め手となる条件である。それは自治体農政と現場農協との本格的役割発揮であると筆者は考えている。そのため、農協の地域農業対応問題の検討は記念出版(B)で取り扱うこととし、編著者である筆者が担当者となった。

◆農協の存在意義と存立条件の明確化が重要

 そんなわけで、記念出版(B)で筆者が必死に取り組んだことについても、本連載の中に折り込んで行きたい、と考えている。筆者は(B)の序章で、次のように述べたことを紹介しておきたい。
 「筆者は、…“財界農政論”は、国の農政展開に大きな影響を与えて来ているだけではなく、マスコミの農業・農政に関する論調にも大きく影を落として来ている、と見ている。さらにはそのことによって、一般国民はもとより、農業者およびその重要な組織である農協グループにまでも、諦めムードを増幅し、農業・農政のあり方をまともに考える意欲さえ奪って来ているように思われてならない」と(4頁)。
 要するに、農協グループの農政改革運動と地域農業対応機能確立への取り組みを強く期待したいし、その取り組み方策について具体的提案も行いたいと考えている。
 筆者は、農協グループ(現場農協とその連合組織)の現状について、率直に言って、強い危機感を抱いている。厳しい状況が幾重にも重なる中で、農協グループは何時まで生き延びることができるのか、という憂慮の念で一杯である。全国的な視野で見てすばらしい姿を実現している農協が現に存在していることを承知しているが、それはほんの一握りの農協に過ぎず、むしろ例外的な存在である。
 その基本原因は、農協グループが、日本という高度に発達した経済社会の中での“独自の存在意義”(レーゾン・デートル)の明確化及びその具体化と、“確かな存立条件”の明確化及びその整備に、大きく立ち遅れて来たためではないか、と筆者は考える。
 この2つの基本課題の解決なしには、農協グループの“将来展望”を切り拓くことはできないはずである。3年に1度開催される農協全国大会の議案作成が農水省の思惑に左右されるのではなく、常にこの2つの基本課題に焦点を絞ったものであってほしいと強く願うものである。記念出版(A)の副題「他律的改革への決別―」の意味することは、農協への改革課題の提起と取り組みへのプレッシャーが農水省やその意を受けた全中・全国連から打ち出される姿からの脱却を、ということである。農協グループの改革は常にその存在意義を高め、存立条件を強化するための改革でなければならず、それ故に、“他律的”ではなく“主体的”取り組みでなければ本物の改革とはならないだろうからである。

◆本連載で力を入れて取り組みたい4つの主題

 本連載で取り上げたい検討主題についてその概略を説明しておこう。
 第1は、左記の第1の“基本課題”をどう考えるべきかについて、筆者の見解を提起したい。“農協運動の使命(ミッション)をどう見極めるか”ということである。
 第2は、左記の第2の基本課題をどう考えるべきか、である。日本という世界一高度に発達した経済社会の中で、資本主義企業を中心とする他業態に伍して競争力と取引力とを確保しつつ存立し続け、しかも農協運動としての使命を追求できる条件確保は、容易なことではないはずである。どう考えるべきか、厳しく問われている課題である。
 以上2つの基本課題の見極めに端緒を開いたのは、平成9年の第21回全国農協大会に全中が提案し採択された「JA綱領」であった。筆者は「JA綱領」(特にその「前文」)の意義について、口が酸っぱくなるほど喋りかつ書いて来た。そのせいか研究者の間でも、ようやく「JA綱領」に注意が向けられるようになったことは喜ばしい。ただし、「JA綱領」はあまりにも簡潔過ぎて、特に“存立条件”の明確化は極めて不十分である。
 そこで、この点について筆者の考え方を明確にするために、農協の組織運営面、事業活動面、経営管理面の3面から検討・提案を行うこととしたい。
 第3に、その中で特に提起したいのは、農協の人的体制の問題であり、殊に経営者問題である。失礼ながら、この点が、農協グループの最大のアキレス腱だ、というのが筆者の認識である。こういう農協グループから嫌われるようなことは、行儀のよいほとんどの農協研究者は言わないのだが、この問題を解決できない限り、農協グループの将来展望を切り拓くことは絶対不可能だと筆者は考えている。
 最後に第4として、記念出版(B)での私共の思い切った立編――国の農政にも大きな影響を与えて来ている“財界農政論”への徹底批判と日本農業再生に向けての戦略的課題の検討・提起――をベースにして、農協の地域農業対応と農政活動のあり方について考えてみたい。その際、平成16年の農協法改正によって中央会の役割が変質したのではないか、という点についても注意を喚起したい。
 本連載では、以上の4本の主題を設定して、特に第2〜第4の3つの主題については、可能な限り具体的提案に結びつけられるように努力したい。

 読者の皆さんには、是非記事内容に対する忌憚のないご批判とご要望をお寄せいただきたい。そのことを特にお願いし、本連載のスタートの言葉としたい。

【著者】藤谷築次
           京都大学名誉教授

(2009.01.21)