シリーズ

「農協改革の課題と方向―将来展望を切り拓くために」

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第4回 最重要課題は組織運営改革と組織基盤の強化では

・農協改革の3つの課題をどう認識するか
・広域合併農協づくりの弱点
・有効な組織運営システム構築の方向
・組織基盤強化をめぐって

農協改革は待ったなしの厳しい情勢下で、一層強力なかつ的確な対応が求められているが、筆者は、近年取り組まれてきた農協改革は、事業改革に片寄り過ぎており、組織面の改革と経営管理面の改革の軽視が、事業改革の着実な成功すら阻んでいると思われてならない。
 この連載で何度も繰り返すことになるが、問われるのは"何故農協改革が必要なのか"、"農協改革の目的は何なのか"ということだ。それは、"農協の協同組合らしさの確保"とそれを活かした"農協の使命の追求"を可能にする条件をどう確保するか、という問題に他ならない。

◆農協改革の3つの課題をどう認識するか

 農協改革は待ったなしの厳しい情勢下で、一層強力なかつ的確な対応が求められているが、筆者は、近年取り組まれてきた農協改革は、事業改革に片寄り過ぎており、組織面の改革と経営管理面の改革の軽視が、事業改革の着実な成功すら阻んでいると思われてならない。
 この連載で何度も繰り返すことになるが、問われるのは“何故農協改革が必要なのか”、“農協改革の目的は何なのか”ということだ。それは、“農協の協同組合らしさの確保”とそれを活かした“農協の使命の追求”を可能にする条件をどう確保するか、という問題に他ならない。
 確かに農協の事業面の改革が、“重視すべき”改革課題であることは間違いない。しかし、他の改革と切り離して取り組んでも、必ずしも成果は挙がらない。実は、農協改革の“最重要課題”は今回取り上げる組織面の改革であり、事業面と組織面の両改革を担保するための農協改革の“決め手となる改革”は、次々回に取り上げる経営管理面の改革であることを、まず強調しておきたい。

◆広域合併農協づくりの弱点

 農協運動の重要な手段として組合員が協同保有し協同管理する「農協という事業経営体」の適正規模が、農協をめぐる諸情勢の変化の中で、旧来の町村規模よりも相当大きくなったために、広域合併農協づくりを進めて来なければならなかったことは間違いない。
 しかし、農協運動の本質は組織運動であり、農協の事業活動が“組合員の協同活動”としての内実を確保できなければ、組合員に事業メリットを実現することも、農協運動の使命を果たすこともできるはずはない。
 広域合併農協づくりの最大の弱点は、右のような農協運動の特性ないし内実の維持・確保をいささか疎かにし過ぎてきたことだと言わざるを得ない。要するに、広域合併農協らしい組織運営システムの工夫が足りなかったのである。その結果、多くの広域合併農協で“組織の根腐れ病”が発生している、と筆者は見ている。それは、組合員の心情的農協離れの進行であり、さらには、事業利用結集力の弱体化である。事実、組織規模が大きくなるほど組合員1人当たりの事業利用分量は小さくなっているのである。
 協同組合研究の大先達のお一人である藤沢光治氏が『協同組合研究』の最新号に特別寄稿された論文「『協同組合らしさ』再考」を拝読した。心洗われる思いをしたのは筆者だけではあるまい。協同組合が“協同組合らしさ”を失えば、「あとに残るのは三流の中小企業か購買クラブか自己中心的な同業組織、あるいはその混合物でしかない。それらにどれほどの社会的貢献ができようか」という氏の一言は、傾聴すべき農協への警句と受け止めてほしいものだ。

◆有効な組織運営システム構築の方向

 広域合併農協の組織運営システム整備のあり方については、記念出版(A)(※)で筆者が行った“10の提言”の第4提言(組合員の総意を結集できる組織運営の工夫を)として筆者の考え方をまとめているのでご参照いただきたいが、その要点は次の2点である。1つは、組合員と農協との結節点の役割を果たす役員(とくに理事)の定数を絞り込み過ぎないことであり、もう1つは、管内を適切に区分した地区毎に、地区の組合員の総意を結集できる「地区運営委員会」を整備し、それを全域の総意を結集する公式の機関である「理事会」の下部機関と明確に位置づけた組織運営の二段階制の確立を目指すことである。広域合併農協づくりの過程で、行政庁と中央会の強力な指導によって役員定数が極端に絞り込まれすぎてしまった現状の下では、この“二段階制”は重要な意味を持つ、と筆者は考えている。
 筆者がこのような広域合併農協の組織運営の要諦に思い至ったのは、広域合併に取り組み新しい農協づくりに苦労された、しかも協同組合の本質を理解しておられる現場農協の何人かの役職員の方々の、“こんなに役員数を絞り込んでしまっては、農協は組合員から浮いてしまう”等、示唆に富む問題提起に負うところが大きい。

◆組織基盤強化をめぐって

 今回はもう1つ検討しておかなければならない問題がある。農協の組織基盤強化の意義及びあり方である。問題の焦点を明確にしておきたい。
 第1は、正組合員の高齢化と減少が続き農協組織の活力低下が続く中で、組織活性化に向けての農家世帯員の複数組合員化の取り組みが重要性を増して来ていることである。この取り組みは、農協が家の組織から個々人の自主的・主体的加入を基本とする協同組合組織としての本来の姿への転換の取り組みと位置づけてこそ一層の意味を持つ。
 さらに重要な意味づけは、今や正組合員である農家の戸主・世帯主(大半は男子)が、分化し、多様化して来ている個々の世帯員、特に農家の女性や若い世代の農協への期待・要求を的確に反映できなくなって来ている状況の打開策として、である。
 もとより、農家世帯員の複数組合員化が農協の組織運営の改革の成果に結実するかどうかは、総代会や理事会、各種の農協の改革委員会等への多様な正組合員の参加条件の整備や、そのベースとなる多様な組合員組織の育成と活性化への取り組みを進めることが大前提となる。
 組織基盤強化の第2の課題は、地域住民の准組合員としての積極的組織化である。この取り組みの意義を、単なる事業基盤強化策や員外利用規制強化への対応策に矮小化してはならない。その基本的意義は、「JA綱領」が提起した「農業と地域社会に根ざした組織としての社会的役割を誠実に果たします」という新しい運動理念実現に不可欠の取り組みだ、という点にある。「住みよい、魅力溢れる地域社会づくり」(A)は、農家・農業者と一般地域住民との創意工夫に富んだ多様な協同活動によって、はじめてなし得ることだからである。
 加入推進の決め手は、基本的には右の(A)への賛同を求めることだ。そのためには、農協の地域社会づくりの理念と意欲が地域住民に理解されることであり、そのための多様な取り組み実績を積み上げることである。

【著者】藤谷築次
           京都大学名誉教授

(2009.04.20)