シリーズ

「農協改革の課題と方向―将来展望を切り拓くために」

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第8回 農協の経営者改革をどう進めるか

・農協改革の決め手は何か
・農協の最大のアキレス腱
・役員問題をどう打開するか
・組織代表理事と学経理事とで

 今回と次回の二回で農協の経営管理面の改革課題を検討する。本連載で筆者は、農協改革とは事業改革のことだと言わぬばかりに、事業改革の重要性が声高に叫ばれ、金融事業改革、経済事業改革への取り組みがなされて来たことに冷やかな見方を提示して来た。
 もとより事業改革の重要性を否定するわけではないが、最も重要な改革課題は組織運営改革であり、農協改革の決め手となる改革課題が今回から取り扱う経営管理改革であることを強調しておきたい。

◆農協改革の決め手は何か

 今回と次回の二回で農協の経営管理面の改革課題を検討する。本連載で筆者は、農協改革とは事業改革のことだと言わぬばかりに、事業改革の重要性が声高に叫ばれ、金融事業改革、経済事業改革への取り組みがなされて来たことに冷やかな見方を提示して来た。
 もとより事業改革の重要性を否定するわけではないが、最も重要な改革課題は組織運営改革であり、農協改革の決め手となる改革課題が今回から取り扱う経営管理改革であることを強調しておきたい。重要な事業改革が必ずしも成功していないのは、組織運営改革(組合員の農協への結集力の強化)と経営管理改革への取り組みをいささか疎かにし過ぎて来たためではないか、と筆者は訝っている。そのことが、事業改革の遅滞にとどまらず、農協の存立の危機にまで連動していることを役職員の皆さんに認識してほしいのである。

◆農協の最大のアキレス腱

 農協の経営管理改革の基本課題は、本物の組織運営と本格的な事業改革を可能にする以下の2つの条件を、それぞれの農協が創意工夫を凝らして、確実に整備することである。
 第一の条件は、広域合併農協に相応しい経営管理機構の整備であり、この課題は次回に取り扱う。
 第二の条件は、世界一高度に発達した、といっても過言ではない日本の経済社会の中で、取引相手、競争相手となる有力な他業態に伍して農協が存立を確保してゆける事業・経営体としての基本条件を可能な限り整備することである。その基本条件とは、言うまでもなく質の高いマンパワーの確保、すなわち役職員体制をいかに高度化するか、という課題である。今回はそのなかでも、核的心課題と考えられる役員問題を取り扱う。
 農協の“役員問題”とは何か。
 筆者は、農協陣営が“役員問題”の深刻さを認識できていないことこそが問題の核心だと考えている。3年前の「全国大会議案」では、「適切な役員体制の構築と着実な経営管理」という課題が明確に提起され、「役員選出のあり方等の見直し」までが直戴に提案されたのだが、今回の「議案」には、“役員問題”がまったく提起されていないわけではないが、問題提起の明確さと力強さが感じ取れない。“役員問題”は改革された、とでも言うのであろうか。
 “役員問題”の焦点は、言うまでもなく、トップマネジメント機能の担い手である常勤役員体制の弱体性である。農協の最大のアキレス腱は、正にその経営者問題である、といっても過言ではない。筆者は随分以前からこのことを問題提起し続け、関係者に不快感を与え続けて来たが、農協改革の基本課題はここにある、と考えているので、主張を取り下げる気持は全くない。

◆役員問題をどう打開するか

 恐ろしいことに、農協指導に責任を持っているはずの中央会の中にも、この点に関する問題意識が欠落していることが分り、愕然とした思いに駆られたのは、二度、三度に止まらない。
 筆者が、経営者問題の改革に関して最も心配していることは、失礼ながら大半の組織代表理事の無理解である。もとよりその背景には、一般組合員の意識の低さがある。組織代表理事の無理解とは、一つは、農協のトップマネジメント機能は、組織代表理事でも一般に熟し得ると考えられていることである。二つは、職員上がりの学歴理事に、多額の損失が発生した場合の経営責任が取れるのか、さらに三つは組合員の立場に徹した農協の舵取りができるのか、という不信の意識である。
 このような組織代表理事を中心とする役員問題に関する意識の低迷は、トップマネジメント体制強化に向けての国の法制度面の手当ての分りにくさや、全中の模範定款例制定等の不味さも、影響していると思われてならない。前者については、特に経営管理委員会制度を導入して、業務執行機能と意思決定・監督機能とを分離すれば、あたかも業務執行体制が自動的に強化できるとでも言わんばかりの搦手戦法であり、極めて分りにくい。同制度については、それ自体に様々な問題があるが、ここでは言及しない。
 また後者については、特に全中が、あるべき常勤役員の名称を、「学識経験者」から「実務精通者」に変更したことである。後者の名称が、組織代表理事に“それなら自分も当てはまる”という与しやすい思いを助長させた、と勘繰りたくもなるのである。

◆組織代表理事と学経理事とで

 農協のトップマネジメント機能確立に向けての常勤役員体制は、組織代表理事と有能な幹部職員から登用する学識経験理事とで構築する以外に基本的には手がない。後者の積極的登用こそが決め手である。
 筆者は、そのトップマネジメント機能を、(1)組織代表機能、(2)組織統括機能、(3)事業革新機能、(4)経営管理機能、の四種に区分している。組織代表理事は組合長、副組合長として、(1)、(2)の機能を高度に発揮すべきである。そのために厳しく問われるのは、組織リーダーに相応しい品格と高い識見であり、誰にでも務まるポストではない。学経理事は(3)、(4)の機能をしっかり担うことが大切である。これらの機能は、非常勤理事を勤めたからと言って担えるほど単純な機能ではない。これら(3)、(4)の本格的機能発揮がなされていないことが、農協の危機的状況を生み出す基本要因ではないのか、と筆者は考えている。
 大切なのは(4)の経営管理機能を有能な学経理事が、事業・経営の統括管理者としての専務の立場で担うことであり、事業分野別の(3)の機能は複数の学経常務理事で担われるべきである。残念ながら、専務理事の立場に立っている学経理事は、全国的に見ても意外に少ない。
 問題は、このような方向でトップマネジメント体制を整備することの重要性についての認識をどう形成してゆくかであり、組合員レベルでの話し合いを増進することが大切である。
 もう一つは、しっかりとしたトップマネジメント体制の構築を可能にする役員の立場・役割別の選出基準の詰めであり、その方向で役員構成の誘導を可能にする役員推薦会議のメンバー編成や運営のあり方が、もっと詰めて考えられるべきである。

【著者】藤谷築次
           京都大学名誉教授

(2009.09.03)