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「食は医力」

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第37回 食と価格の問題を真剣に考えてみよう

・品質より価格で勝負する小売業
・安かろう悪かろうの悪循環の理由は
・目玉セールで泣かされる農業者・納入業者
・「合成の誤謬」を知っていますか

 週末に食材を買いに出て感じるのは値段への過剰なこだわりです。1円でも安くという消費者心理に対応して、店のほうももっぱら価格競争に終始しているような気がします・・・

◆品質より価格で勝負する小売業

 週末に食材を買いに出て感じるのは値段への過剰なこだわりです。1円でも安くという消費者心理に対応して、店のほうももっぱら価格競争に終始しているような気がします。
 「当店では、この品を自信をもってお勧めします。値段も大事、でも品質も大事」というような姿勢が感じられることはめったにありません。
 もちろんA社のBという同じ食品を選ぶなら、よそより1円でも安いほうがいいに決まっています。そのために流通経費を減らし回転率を高めて正札を下げるよう努力するのは、流通業者として当然のことです。
 しかし安いだけで品質は二の次、三の次という商品で勝負するというのは、健康に直結する食品の場合、正道とは到底思えません。
 駅前に豆腐類の安売り店が店開きし、「工場直送」などのビラがたくさん貼ってあります。一度、買ってはみたものの、豆腐としてのおいしさが感じられなかったうえに、安全かどうかの表示もあいまいでした。で、以後はいつも素通りです。でも安さが受けてでしょう、結構にぎわっています。


◆安かろう悪かろうの悪循環の理由は

 こんなふうに、へたすると安かろう、悪かろうの悪循環になりかねない昨今の食材事情ですが、以下の諸点が理由として考えられます。
 (1)不況が長引き、家計防衛のために少しでも安いものを買おうとする。
 (2)食が乱れて味覚が低下し、食材の質に以前ほどこだわらなくなっている。
 (3)中国などから安い食品が大量に入るようになった。
 (4)小売店の大型化などで、食材の価格決定権を圧倒的に流通側が握り、安売りを主導している。
 大型店では「本日の目玉」として特売品が積み上げられています。野菜をはじめ納豆、豆腐、卵、ヨーグルト、調味料など対象はさまざまで、それらのおかげで家計が助かるのは事実です。


◆目玉セールで泣かされる農業者・納入業者

 しかし、セールをうまく利用することは大事ですが、問題がないわけではありません。
 一つはたとえセール品でも品物としての評価が不可欠であり、普段買わない食材なのに安いからというだけで買うという行動には、いったん立ち止まってよく考えてみる必要があります。
 もう一つは、セール品の狙いです。私が思いつくのは、目玉で来客を増やす、「この店は安い」という印象を植え付ける、早くさばいてしまいたい、特に加工品などブランドを浸透させる狙い、などです。ですから、それらを考えながら、簡単にセールに乗らないことも大事です。
 さらにスーパーなどでの目玉セールのために、農業者でも食材生産者でも納入価格で泣かされているケースが少なくないことは無視できません。消費者はおかげで得をしたように見えても、長い目で見れば供給面にもじわじわと悪影響が及んでいくのです。
 少しでも安い品をという消費行動が進めば進むほど、生産者は販売価格の低下に苦しみ、良い品を生産することよりも安く生産することを第一義的に考えるようにならざるをえなくなります。


◆「合成の誤謬」を知っていますか

 デフレ経済は、生活防衛という消費者の本来、正当な行動によって加速される一面もあります。「家計第一」は個々の家計では正しい行動であっても、生産者も含めた世の中全体となると間違いになる。これを「合成の誤謬」と言います。
 ではどうするか。わが家では高い品には高いなりの意味があることが多い、と考えるようにして品物を選んでいます。
 果物でも野菜でも同じ品種であれば、高いものは新鮮だったり、安全だったり、味が良かったりする可能性が高いということです。
 とはいえ単に見た目の良さで値段が高いものもあるので、気をつける必要がありますけれども。食と価格は大事な問題なので、次回、さらに具体的に考えてみたいと思います。

【著者】浅野 純次
            経済倶楽部理事長

(2012.03.21)