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JA全農燃料事業
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JA全農燃料事業がめざすもの

JA全農燃料部長 平井信弘氏に聞く

 原油高騰や暫定税率の失効など石油事業を取巻く環境は激変している。LPガス事業もオール電化住宅や競合エネルギーとの競争激化など厳しい環境にある。しかし、農家組合員からはJA―SSもLPガス事業も、営農だけではなくライフラインとしての満足度も期待度も高い事業だ。  
  そこで、厳しい環境下でJA全農の燃料事業は何を目指していくのかを、平井信弘燃料部長に聞いた。

石油事業

◆すばやく暫定税率失効に対応

JA全農燃料部長 平井信弘氏
JA全農燃料部長
平井信弘氏

 ――20年度の事業についてお聞きする前に、暫定税率失効では大変だったと思いますが、早めに対応を決められましたね。
  平井 混乱することは予想されていましたから、4月1日以降のオーダーを早めにもらっていました。それを見ると、4月1日、2日は通常の4倍のオーダーがあり、4月上旬でみても通常の140%ありましたから、とても運びきれないので前倒しで暫定税率見合い分を値引いて配送しました。
  ――JA―SSでの販売価格はどうだったんでしょうか。
  平井 1日から下げたのは全体の73%、7日時点で100%価格を下げています。農協さんや組合員さんから“すばやい対応でよかった”とお褒めの言葉をいただきました。

◆原油高騰で灯油需要が減少し経営を直撃

 ――原油価格が高騰していますが、JA−SSにはどういう影響がでていますか。
  平井 ガソリンはある意味で生活必需品ということであまり需要量は減っていませんが、灯油が前年対比で2割ほど落ち込んでいます。ハウス加温用のA重油も灯油と同じくらい落ち込んでいます。SSの収益に寄与していた部分が落ち込んだ結果、黒字SSが17年度は56%と6割近くあったのが、18年度は42%と14ポイント赤字SSが増えています。19年度も同様に厳しい状況にあります。
  ――A重油の需要も落ち込んでいるわけですね。
  平井 西日本の施設園芸用ですが、販売価格が上がらずコスト負担が増えれば生産者としては使用を控えざるをえないということです。

◆商系との差が急速に縮まっているセルフSS

 ――現在のJA―SS数はいくつですか。
  平井 3月末で3630SSです。昨年1年間で275SSを廃止し、112ヶ所でセルフSSを立ち上げましたから、実質163減っています。かつては4200SSありましたから、およそ600SS減ったことになります。
  ――セルフのJA―SSは何ヶ所ですか。
  平井 349SSで、全体の9.6%です。業界全体では15%弱で5ポイントくらい下回っていますが、急速にその差は縮まってきています。
  ――セルフの方が収益性はかなり良くなるわけですか。
  平井 例えば、フルサービスで10人で200kl売っているSSだったのが、セルフにすれば2人ですみますし、300klになっても2人でいいわけです。施設に投資するイニシャルコストを別にすれば、ランニングコストで一番大きいのは人件費ですから、ここをどう抑えるかがポイントになるわけです。
  ――SSの場合、人件費率が高く経営面を圧迫しているケースが多いですね。
  平井 商系とは違い灯油の配達とかしているので、止むを得ない面はあります。ただ、東北の灯油配達は冬場だけですから、配送拠点の集約化など工夫して効率化を進めていきたいとは考えています。
  ――県域マスタープランに基づいたJA−SSの集約・統合が、引き続き20年度の重点課題だと思いますが、最終的な姿としてはどのように考えられているのでしょうか。
  平井 現在、燃料事業をしているのは560JAです。そしていま約3600SSありますが、将来的には、900のセルフSSと900のフルサービスSSそして中山間地などのライフラインとしてのSS1100ヶ所。合計2900SSにと考えています。
  そして21年度末までにセルフSSを500ヶ所と計画していました。そして19年度末に300ヶ所の計画が前倒しになり349になっていまので、20年度は当初の400から420に計画を上方修正しました。

◆老朽化SSのリニューアルと集約化

デザインを一新したセルフSS
デザインを一新したセルフSS

 ――かなりピッチがあがっているわけですね。
  平井 その背景には、第1次、第2次オイルショック時に建設されたSSがかなりあります。建築後30年以上経過しているSSが全体の約36%、20年以上だと60%強になりあます。とくに30年以上経過しているところは漏洩の危険性がありますから、早急にリニューアルしていく必要があります。それから30年前には、1JA1SSということで最大4900SSまでいったわけですが、燃料事業を行っているJAは560ですから、リニューアルと同時に改めて配置を見直す必要があります。道路も当時とは変わっていますしね。
  ――リニューアルも含めて着々と進んでいるわけですね。
  平井 リニューアルには1SSあたりおおよそ1億円必要ですから、900セルフにするにはこれから約500億円の投資が必要です事業環境が厳しい中でどこに優先順位を求めていくかということになります。

◆組合員から期待されている事業でもある

 ――組合員の生活にとって事業に対するニーズはどうですか。
  平井 組合員の経済事業の期待と満足度を聞いた全中のアンケート調査結果を見ると、JA−SSとLPガス事業は、満足度も高いし必要性も高いという結果になっています。
  ――そうしたなかで、セルフSSのCIを変えデザインも一新しましたね。
  平井 コスト競争力のあるセルフの業態を中心にすることと、組合員さんに差別化していくためにCIを変えました。
  ――経営受託の件数はいくつくらいですか。
  平井 全農エネルギーの受託が73、県域子会社での受託が39、県本部受託が36で、合計148件です。
  ――経営受託はうまくいっていますか。
  平井 フルサービスの場合はJAにもノウハウがあったと思いますが、セルフの場合はノウハウの蓄積がJAには不足する部分がありますから専門家集団に任せれば一定の成果はあがりますし、数量を3倍にしてJAにお返しをした例もあります。
  ――いままでのお話から20年度の石油事業の重点は、老朽化したSSのリニューアルを含めてセルフを中心とした集約化をさらに進めていくことですね。

◆灯油や重油の配送合理化も課題

 平井 もう一つは、とくに積雪地を中心とした民生用灯油と施設園芸用重油といった配送油種も事業としてはかなりのウェイトを占めています。冒頭にも申しましたが、原油価格の高騰で数量が落ち込んでいますし、コストが上がっていますから、配送の効率化を考え、再構築していこうと考えています。
  ――JA域を超えた拠点の集約化も考えているのですか。
  平井 いまはSSを拠点に配送していますが、それを集約化していきたいと考えています。LPガス事業では昔は販売所からボンベを運んでいたわけですが、いまは充填所を中心に運営されています。それほど広範囲ではありませんが、それに近い形ができればと思っています。
  灯油の配送は冬場だけですから、配送する人も年間雇用ではなく冬場は出稼ぎに出ている人とかJAのOBで危険物取扱いの資格を持っている人にお願いするとかできないかといったことも考えています。
  ――A重油に代るものとして「低硫黄ハイカロリーA重油」の普及を進めていますね。
  平井 中味はLCOという分解軽油で、車のエンジンには不適切ですが、カロリーがA重油より3%高く、硫黄分が3分の1くらいです。高知県が19年度6〜7割の地区で実験的に使いました。物流面の課題がありますが、今後、西日本の園芸地帯を中心に普及拡大していきたいと思っています。

LPガス事業

◆保安を見直し事業を再構築する

LPガス事業は充填所を中心に運営
LPガス事業は充填所を中心に運営

 ――LPガス事業の20年度の課題はなんですか。
  平井 一番の課題は保安です。全農は全国域ですから経済産業省の原子力安全・保安院の直接の検査を受けます。改めて保安体制について見直して指導をし、事業を再構築していこうと考えています。
  ――LPガス事業は県域が中心になっている事業だといえますね。
  平井 石油は北海道も入れて7基地と元売の製油所から、オーダーに応じてローリーで配送していますが、デリバリーが全国レベルになっていますし、JAの売上データーもリアルタイムで分かるようになっています。一方、LPガスの場合は県の充填所を核にデリバリーを県域で行っています。本所は輸入とか行政対応と保安というように役割分担が明確になっている事業だといえます。

◆単位消費量を増やすことでまだまだ伸びる事業

 ――人材育成も課題となっていますね。
  平井 GSV(ガススーパーバイザー=LPガス運営指導者)制度による連合会の人材育成ですね。
  系統の場合、大型給湯器などの普及率が低く、台所のコンロだけだったりして単位消費量が小さいのですが、専門家が推進するとシステムキッチンとか大型給湯器などが普及し、単位消費量が増えているわけです。
  ――単位消費量はどれくらいなのですか。
  平井 業界では1戸当たり24.3kg/月に対して、JAグループは15.1kgと約9kgも少ないわけです。
  ――まだ伸びる余地があるわけですね。
  平井 オール電化などでLPガスの消費量は毎年2%くらい落ちていますが、JAグループで見る限りまだまだ単位消費量を増やすことで伸ばしていける余地は十分にあるとみています。そういうことをJAに指導できる要員であるGSVをきちんと育成しようということです。

JAグループのLPガス事業の実態

◆卸小売の一体化で県域事業をどう構築するか

 ――そのことで直売販売所の新規需要を獲得していくわけですね。
  平井 そうです。システムキッチンなどを普及することで消費量を伸ばしていこうということです。
  もう一つはバルク供給で効率よく配送することも課題です。
  ――そのほかでは…
  平井 卸小売の一体化が業界全体の課題だといえます。1販売所5000戸くらいの規模がないと効率的な運営ができませんから、県域でどう事業を仕組んでいくかが喫緊の課題になってきています。
  ――今日はありがとうございました。

(2008.04.30)