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『21世紀の農業を支える、待望の星!!』
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基幹防除剤として躍進する「スタークル」

三井化学

 三井化学(株)が開発した浸透移行性の殺虫剤「スタークル」・「アルバリン」が上市7年目に入った。いわゆる、テトラヒドロフラン環という化学構造の導入により、分子内にハロゲンを含まない独特の構造をもつフラニコチニル系化合物・ジノテフランを有効成分とした殺虫剤で幅広い殺虫スペクトラム、優れた浸透移行性、カメムシに対する高い防除効果、各種難防除害虫に対する高い効果の発揮、さらに天敵のクモ類に影響がほとんどないほか環境に対してもやさしいなど、多くの優れた特長を併せもつ。「スタークル」・「アルバリン」の開発経緯、特長、市場性、今後の研究開発の方向性などを同社に取材し、特集をまとめた。

◆第3世代のネオニコチノイド

「ジノテフラン」剤は優れた浸透移行性が魅力
「ジノテフラン」剤は優れた浸透移行性が魅力

 「スタークル」・「アルバリン」(商品名、一般名:ジノテフラン)は、三井化学が開発し、平成14年に上市された。ネオニコチノイド系殺虫剤に位置づけられ、動植物への安全性、構造新規性の高い薬剤として知られている。
 また、多彩な使用方法、広い殺虫スペクトラムなどの優れた性能により適用範囲が広く、水稲、野菜、果樹、花き類における半翅目、鱗翅目、双翅目、甲虫目および総翅目に対して高い効果を発揮する。
 農業、こと植物防疫においては薬剤抵抗性害虫、耐性菌の発達が大きな問題としてあげられ、また、近年では環境保全への関心も高まりつつあり、これらの解決手段として、新たな作用性・構造をもち、かつ高い安全性を有する新規農薬の開発がつねに求められている。
 殺虫剤におけるこれまでの系統を見ると有機リン、カーバメート、ピレスロイドの3大系統が大きなシェアを占めていたが、1990年代に登場したネオニコチノイド系は、既存系統とは異なる作用性、その優れた性能により、01年には全殺虫剤市場の10%の売上と大きく需要を伸ばし、4大系統の1つに成長した。
 ネオニコチノイド系は、高い殺虫活性と植物への浸透移行性を特徴としており、これらの優れた性能は、例えば、わが国では稲作における育苗箱処理での長期残効性による省力化を果たし、農業の発展に多大な推進力となった。
 91年上市のイミダクロプリド(商品名:「アドマイヤー」)以下、ニテンピラム(同:「ベストガード」)、アセタミプリド(同:「モスピラン」)、チアクロプリド(同:「バリアード」)、クロチアニジン(同:「ダントツ」)、チアメトキサム(同:「アクタラ」)、そしてジノテフラン(同:「スタークル」・「アルバリン」)の計7成分が開発されている。
 ネオニコチノイド系はニコチンにおけるピリジン環に相当する含窒素芳香環が必須骨格とされ、その構造によりクロロニコチニル系(第1世代)およびチアニコチニル系(第2世代)に分類されてきたが、93年に見出された「スタークル」・「アルバリン」は従来の概念を一新することになる。
 本剤は、独自性の高い構造(テトラヒドロ−3−フリル)メチル基により、フラニコチニル系(第3世代)と呼ばれ、塩素原子および芳香環を唯一含まない新しいタイプのネオニコチノイドとして位置づけられている。

◆浸透移行性に優れる「スタークル」の特性

 「スタークル」・「アルバリン」の特性として先ず挙げられるのが、植物への浸透移行性に優れている点。この特長により、粒剤処理では速やかに作物体内に行き渡り、茎葉散布では葉裏の害虫にも到達することで、より効率的に持ち前の殺虫効果を発揮する。
 また、この性能を活かして、粒剤の水稲本田施用によるカメムシ防除、顆粒水溶剤の育苗トレイ灌注処理、粒剤の果菜類への育苗期株元処理など、効率的な害虫防除に貢献する多彩な処理方法を実現している。
 次に指摘したいのは、幅広い殺虫スペクトラム。ジノテフランは、主にウンカ類・ツマグロヨコバイ・カメムシ類・アブラムシ類・コナジラミ類・コナカイガラムシ類などの半翅目害虫に対して高い殺虫効果を示すが、その他にもハモグリバエ類などの双翅目害虫、コナガに代表される鱗翅目害虫、イネミズゾウムシやキスジノミハムシなどの甲虫目害虫など、幅広い殺虫スペクトラムを有し、より効率的に害虫防除に貢献することから大きな魅力となっている。
 「スタークル」・「アルバリン」の横顔を語るには、カメムシ類への確かな防除効果も指摘すべきだろう。アカヒゲホソミドリカスミカメ、オオトゲシラホシカメムシ、クモヘリカメムシなど水稲の斑点米カメムシ類はもとより果樹カメムシ類に対しても、高い殺虫効果に加えて吸汁阻害効果を示す。
 特に、粒剤による水稲の斑点米カメムシ類の防除を実現したことは画期的なできごとだったと思える。
 さらに、近年、寄生範囲が広くキュウリやメロンをも加害するトマトハモグリバエ、有効な殺虫剤が限られていてトマト黄化葉巻病ウィルスを媒介するタバココナジラミ・バイオタイプQなど難防除害虫への優れた防除効果も見逃せない。
 最後に、「スタークル」・「アルバリン」の安全性の高さも特筆しておきたい。人畜に対する毒性は低く、原体・製剤ともに普通物。魚毒性もA類相当であり、しかも鳥類に対しても毒性が低く、環境に優しい薬剤に仕上げられている。

アカヒゲホソミドリカスミカメ トゲシラホシカメムシ ミナミアオカメムシ ヒメトビウンカ

◆液剤など豊富な剤型

 上市から7年目に入った「スタークル」・「アルバリン」。単剤における最初の農薬登録は平成14年4月24日のことで、『スタークル顆粒水溶剤』・『アルバリン顆粒水溶剤』、『スタークル粒剤』・『アルバリン粒剤』、『スタークル箱粒剤』・『アルバリン箱粒剤』、『スタークル粉剤DL』・『アルバリン粉剤DL』だった。
 ほぼ、その2年後に『スタークル液剤10』・『スタークルメイト液剤10』、『スタークル1キロH粒剤』・『スタークルメイト1キロH粒剤』が農薬登録を取得し、豊富な剤型を揃えた。
 「スタークル」が系統における商品名、「アルバリン」が商系での商品名。系統、商系それぞれに、強味をもつ販社の起用は、本剤の普及推進においてバランス感覚に富んだものではなかったかと思える。
 平成19農薬年度の実績を見ると液剤380KL、粒剤2200トン、粉剤2000トン、顆粒水溶剤180トンとなっている。
 一方、混合剤の最初の農薬登録は平成14年4月26日の『Dr.オリゼスタークル箱粒剤』だった。平成19農薬年度の実績は830トン(8万3000ha相当)に成長した。因みに長期残効型箱処理剤市場は、約70万haと思われる(本紙推定)。
 平成19農薬年度における「スタークル」・「アルバリン」の単剤、混合剤の売上高は、全農C価ベースで94億円(本紙推定)となっている。100億円の突破は秒読み段階にあり、確固たる殺虫剤の地位を構築しつつある。今後は、ポールポジションの確保を目指していく。

◆現場、顧客第1主義を貫く「スタークル」にかける夢

 このように、「スタークル」・「アルバリン」はその幅広い殺虫スペクトラム、省力性、広い適用範囲および多彩な使用方法、ポジティブリスト制度下での使用者のニーズにも応え、作物はもちろんのこと環境に対しても優しいなど、数多くの優れた特長を有している。
 社会的ニーズに対応した、実践的な21世紀型の殺虫剤と思える。
 「トレボン」(一般名:エトフェンプロックス)とのすみ分けも整理したい重要な事項だ。「スタークル」・「アルバリン」は浸透移行性があり、水稲、野菜、果樹を中心に展開されている。
 一方、「トレボン」は浸透移行性がない薬剤、その作用は、接触による。汎用性のある殺虫剤として「農家の常備薬」としての位置づけだ。
 「私たちは、(「スタークル」・「アルバリン」を)現在を到達(着地)点ではなく1つの通過点と見ています。わが国の殺虫剤のNo.1に躍進すべく、全社を挙げた取組みを実践していきたい」と「スタークル」・「アルバリン」に賭ける夢を語るのは、同社国内アグログループの桜間千明グループリーダー。
 普及推進に当たっては「現場、顧客第1主義を貫き通したい。実績を積んだ故の存在感、信頼された「スタークル」・「アルバリン」のブランド力のプラスイメージを浸透させることが、最大の戦略」(同)だという。そのために、「技術サービスやマーケティングの強化を図り、生産者、市場、流通のニーズに的確に応えていきたい」(同)とのこと。
 なお、同社の今後の研究開発においては、農薬登録申請中の新規殺菌剤「MTF−753」(有効成分:ペンチオピラド)の存在も注目される。野菜、果樹など園芸用の殺菌剤で灰色かび病、菌核病、うどんこ病などの防除に期待が寄せられている。
 さらに、同氏は、日本農業への貢献にも言及し、「生産者の皆様には、適用範囲が広く、省力的かつ高活性、環境負荷が小さいといった農薬の提供を通じて、効率性が高く、高品質な農産物生産をサポートし、ひいては食の安全・安心に貢献していきたい」と、同社の取組み姿勢を明らかにした。

スタークル関連剤のラインアップ

(2008.07.25)