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カントリーエレベーター品質事故防止強化月間(8月15日〜10月15日)
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「環境こだわり米」を支えるCEの役割

現地ルポ JAグリーン近江(滋賀県)

 滋賀県は日本一の琵琶湖を擁し、早くから環境問題に取り組んできた県だ。農業においても琵琶湖の生態系に影響を与えない生産方法が追求され県が認証する「環境こだわり米」の取組みが広がってきている。そうしたなか、地域ごとに品種などが異なる「環境こだわり米」を一手に荷受するカントリーエレベーター(CE)をJAグリーン近江が建設した。竜王町にある「環境こだわりCE」に取材した。

「改革の6K」で施設のイメージアップを

◆京阪神の食料生産基地

大小120余りの河川が注ぎ込む日本一の湖・琵琶湖は、滋賀・京都・大阪の水がめであると同時に、その周辺は京阪神圏の豊かな食料生産基地ともなっている。
琵琶湖東岸から三重県境にまたがる2市3町が滋賀県最大規模を誇るJAグリーン近江の管内だ。JAの19年度耕種部門販売高は約70億円だがその75%に相当する約53億円が米穀(麦・大豆含む)販売というように、水稲を中心とした農業が昔から営まれている地域でもある(耕種部門以外に畜産部門が約44億円ある)。
管内は大きく3つの地域に分けられる。湖周辺の標高84m〜200mの安土・大中・能登川・近江八幡・五個荘で構成される「湖辺地帯」。そして、標高200m〜300mにある八日市・竜王の「中間地帯」。さらに標高が高い(300m〜400m)日野・永源寺地域がある「山間地帯」だ。
湖辺地帯は、大中の湖干拓地を中心に肥沃な土壌と登熟期の夜間の高温など湖特有の気象条件などで、反収が比較的高い水準にあり管内生産量の半分近くを産出している。
中間地帯は、認証制度に基づく減農薬・減化学肥料栽培による米づくりが盛んな地域で、管内生産量の3割強を産出している。標高が高い山間地帯は、比較的冷涼な気象条件のため反収は比較的低い水準にあるが、品質や食味が安定しているという特色がある。

◆地域ごとに特色ある米づくりが

作付けされている品種は、コシヒカリ・キヌヒカリ・日本晴と滋賀県のオリジナル品種の秋の詩でほぼ9割を占めているが、地域によって特徴がある。例えば同じ湖辺地帯でも、近江八幡地区は前記4品種の作付けが全体の85%を占めているが、大中地区ではこの4品種は38%しかなくヒノヒカリが31%を占めている。ヒノヒカリは、九州が主産地だったが地球温暖化の影響なのか近年は九州産の品質が低下しているため、安定生産ができる滋賀県産への需要が増えているという。
中間地帯は、前記4品種を中心に後で述べる「環境こだわり米」を多く産出している。山間地帯では、コシヒカリとキヌヒカリが中心だが日野地区では、この2つと日本晴がそれぞれ3割前後づつ作付けされている。
JAではこうした地域の特性と生産者の創意工夫を活かし、多様なニーズに応えた米づくりを推進し「売れる米づくり・売り切れる米づくり」に取組んでいるが、とくに安全・安心が見える「環境こだわり米」に力を入れて取り組んできている。

◆50トン貯蔵ビン66基で小ロット区分管理が可能に

左から森本さん、大橋課長、高畑さん
左から森本さん、大橋課長、高畑さん

「環境こだわり米」とは、農薬・化学肥料の使用量を慣行栽培の5割以下にした栽培方法をとることと、琵琶湖と周辺環境への負荷を削減するなど環境に配慮して栽培された米で、滋賀県知事が認証した米のことだ。
琵琶湖などの環境に負荷をかけないとは、代かきから田植え期間の農業濁水は、琵琶湖の環境や生態系に影響を与える大きな原因となるので、この時期の農業濁水(泥水)を流さないようにすることだ。この農業濁水を流すことは、肥沃な田んぼの土壌や肥料成分を流失することでもあり、米づくりにとってもマイナスとなるので、水尻をしっかり閉め水を田んぼ外に流さず作業しようということでもある。
こうした「環境こだわり米」を集中集荷する施設として、竜王町に建設されたのが「環境こだわりカントリーエレベーター・とれさランド」だ。このCEは、空気を加温せず空気中の水分を除去し、一定湿度の乾いた空気で米を目的の水分まで自然乾燥するDAG方式を採用。50トンの乾燥貯蔵ビンを66基保有し、栽培に合わせた区分で荷受できるようになっている。
こうしたCEをつくったのは、同じ品種の「環境こだわり米」であっても地域ごとに区分して管理できるからだ。実需者からの「○○地区の環境こだわり米のコシヒカリを欲しい」というオーダーにも応えられるなど、それぞれの産地の特徴ある米を送り出す「売れる米づくりの拠点」として位置づけたからだと同JAの大橋吉次営農事業部米穀施設課長。
実際にはあまり細かく地区を分けても大変なので、行政区分でわけて荷受していると、このCEの主任オペレーターの??畑輝彦さんは語る。

◆一番気をつけるのはDAGなので過乾燥

「とれさランド」とは、生産から製品出荷までの履歴が管理されていることを表している。それは生産者の生産履歴に始まってCEでの荷受工程、乾燥工程、籾摺工程、貯蔵工程、そして出荷記録まですべて記録管理されており、万が一問題が発生した場合でも、原因究明と被害の拡大を最小限に抑えることができる。それは同時に「ブランド化」する有効な手段であり、消費者への品質保証ともなり、信頼を高めることにもなる。
少量多品種を管理しなければならないので、??畑さんたちオペレーターの人たちはいろいろ苦労があるのだろうと思うが、一番気をつけていることはとの問いに、「コンタミ、過乾燥を避け、良品質米を出荷できるようにすることだ」と??畑さんは答える。
コンタミについては、機械の自動ロックやエアレーションでほとんど問題はないようだ。いまは麦が入っているので、これが出荷後、米の集荷が始めるまでに66基のビンを掃除するのが大変だが、コンタミ防止上も欠かせない作業となる。
「過乾燥って?」と思わず聞き返したが、DAG方式の場合は乾燥しやすいからだという。ここではマドラー(攪拌棒)がないのでローテーション乾燥するので「過乾燥しないように気を使いますね」ということだ。

◆オペレーターの心意気示す「改革の6K」

ハトが入らぬよう全面に防鳥ネットを張る
ハトが入らぬよう全面に防鳥ネットを張る

JAにはいまライスセンターも含めて13の乾燥調製施設がある。??畑さんも含めてCEの主任オペレーターはほとんどの人が検査員の資格も持っている。まさに米麦の集荷から出荷までの乾燥調製・保管・出荷の責任を負っているといえる。毎年、収穫前に稼動会議を開き、その年の荷受に向けての体制を整えているという。
そうしたなかから生まれたのが「現場の3Kから改革の6Kへ!」という行動目標だ。環境こだわりCEの事務所の窓に、外から見えるように貼ってあった手書きのポスターにはこう書いてあった。

〜施設のイメージupをはかります〜
現場の3Kから改革の6Kへ!
謙虚→意識の改革をはかります!
効率→効率的に作業を行います!
綺麗→きれいな施設をめざします!
改善→安全な施設を目標に!!
感謝→心と笑顔で答えす!
向上→さらなる飛躍を誓います!!
米穀施設課 チーム夢みらい

この6つのKに、JAグリーン近江の米事業を支えるCEのオペレーターの人たちの心意気が的確に表現されていると思った。そしてこうした思いを実現させていくことで、事故を防止するだけではなく「良品質な米」の出荷を保証していくことになるとも。
また、ハト対策として、ハトが施設機械に入らないよう全面防鳥ネットを張るとともに常に清掃にも心がけている。

◆拡大する「環境こだわり米」の作付

JA全体でのCEの稼働率は70%くらいということだが、環境こだわりCEの場合は19年産米で2950トンとほぼ100%に近い稼働率だ(処理量3000トン)。麦は処理量756トンを超える814トンなので、もてる能力をフルに発揮しているといえる。
JAグリーン近江の「環境こだわり米」への取り組みは平成13年産米からで、年々作付面積が増えてきている。それには、県や国だけではなくJAとしてもさまざまな奨励金や生産資材の優遇措置が手厚くなされてきていることもあるだろう。JA管内の水稲作付け面積は約8000haだが、19年産米での「環境こだわり米」作付は2000haと18年産米より700ha増加。20年産米では約2400haとなり、22年産米では2500haを目標にしていると営農事業部農産振興課の森本由宏さん。
CEなど施設で荷受する米はすべてJA米(環境こだわり米もJA米)を目指し、さらに1.9mm網目使用の「一級米」にも取り組んでいる。この取り組みも年々拡大し19年産米ではJA全体で14万袋/30kgにも上っている。
このほか、お米のおいしさを競う「プリップリ米コンクール」を毎年開催するなど、安全・安心だけではなく美味しさをも追求した米づくりにJA全体で取り組んでいる。

◆少量多品目管理で付加価値をつける

そして生産者が丹精を込めてつくったこだわりの米を「改革の6K」を掲げる??畑さんたち「チーム夢みらい」の人たちが、しっかり乾燥調製した「良品質米」として出荷され、消費者の食卓まで届けられている。
しかし、減農薬・減化学肥料など環境にこだわった米は、全国的にも増大していると森本さんはいう。何らかの付加価値をつけないと差別化できないとも。その付加価値が50トンという小ロット貯蔵ビンで「産地ごとの特徴ある米を区分管理している」ことにあるのだとも。
少量多品目を管理することは大変だが、それがJAの売れる米の販売戦略の柱に位置づけられているということだ。それは、オペレーターの人たちの6Kの心意気に大きな期待がかかっているということでもあるのだろう。

(2008.08.11)