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家の光文化賞JAトップフォーラム2008
家の光文化賞JAトップフォーラム2008

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今こそ求められるトップの決断 教育文化活動で地域に輝くJAづくりを

(社)家の光協会・家の光文化賞農協懇話会

 (社)家の光協会と家の光文化賞農協懇話会は「正念場を迎えたJAと教育文化活動の役割〜今こそ求められるトップの決断〜」をテーマに8月4、5日東京都内で「家の光文化賞JAトップフォーラム2008」を開いた。同フォーラムは今年で10回め。毎回参加者が増え、節目を迎えた今回は全国から300人を超えるJA代表者らが参加し、過去最多の規模となった。
 家の光協会の江原正視会長は第24回JA全国大会決議で「JAは教育文化活動を展開し組合員の参加・参画意識の醸成に取り組む」と明記されていることを指摘し、教育文化活動が「JAグループの基本方針として位置づけられたことを意味する。この活動の重要性とトップの役割について理解を深め、『地域に輝くJA』として発展されることを祈念する」とあいさつ。また、懇話会の木村春雄会長は「全国のJAが教育文化活動を積極的に展開し地域文化の発展に尽くしていきたい」と述べた。

木村春雄懇話会会長

◆JAは地域の公共財

フォーラムでは最初に昨年もコーディネーターを務めた村田武・愛媛大学特命教授が課題提起した。
村田教授は世界の食料事情が需給ひっ迫基調、価格高騰に様変わりしているなか、WTO交渉はいまだに輸出国主導で決着しようとしており、7月末の交渉決裂は、「食料危機に対応できずに機能不全に陥っているWTO体制を示した」と指摘。また、日本が主張した輸出規制に対する規律強化とは「各国の食料主権の放棄を求めるもの。これは戦後国際社会の正義に反する恥ずかしいこと」との認識を持つべきと強調した。
ただ、一方で自給率を上げる以外に食料安全保障実現の道はないことを国民が感じ始めたのも事実で、「農業後退に歯止めをかけ地域農業振興のためのセーフティネットを張らせるチャンス。農政活動も正念場にある」。
同時にJAにとっては地域社会の危機にも目を向けるべきで、格差拡大、市町村大合併による「民」の活力低下・「公」の後退のもとでは「協同運動、総合JAへの期待が高まっている。JAは地域の公共財。その期待から逃れられない」と話し、教育文化活動には地域循環型社会の一翼を担うという視点と、さまざまな協同活動との連携が求められているのでは、と提起した。

江原正視会長 木村春雄懇話会会長 村田武・愛媛大学特命教授
江原正視
会長
木村春雄
懇話会会長
村田武
愛媛大学特命教授

◆組合員は「顧客」ではない

柳楽節雄専務
坂野百合勝
代表
柳楽節雄専務
柳楽節雄
専務

協同組合経営戦略フォーラムの坂野百合勝代表が特別報告で強調したのは「組合員は顧客ではない」こと。 JAの事業によって提供されるモノやサービスなどが「組合員に商品として受け取られれば運動は起きない」。共同の行動者であるという前提で事業運営を行うことが大切で「事業計画にも組合員の責任がある。そこから私たちがつくったJA、という意識も生まれる」。役員の役割はそうした「協同の風土を先頭に立ってつくることだ」と強調した。
その組合員には、経済、健康、地域環境などのニーズに加え、自分が主役になって活動するという自己実現まで含めた多くの願いがある。それを実現するのが「幸せづくりの最良の手段としてのJA」であるとして、教育文化活動は組織の主体である組合員を元気にし願いを実現するもの、と位置づけるべきだと話した。
また、経済事業などと違って教育文化活動は数値化されないため、活動の発展のためには組合員、職員への表彰制度なども導入すべきだろうと指摘した。
家の光協会の柳楽節雄専務は元気なJAをつくるために「教育文化活動がもっとも必要なものと再度確認を」と呼びかけ、教育文化活動を支援する家の光事業の役割を話した。
そのなかで来年5月に創刊1000号を迎える『家の光』は継続的な協同組合の学習女性組織など組合員組織の育成・活性化組合員と組合員、組合員とJAの絆の強化、などの点で重要なテキストであることを強調した。

◆「組合員力」を高める活動を

石田正昭・三重大教授
石田正昭
三重大教授
北川太一・福井県立大教授
北川太一
福井県立大教授

事例報告後の全体討議ではコメンテーターの石田正昭・三重大教授がJAには地域住民を巻き込む活動が必要になっているとして「田んぼのあっち側に向けた話が大切。それが田んぼのこっち側も良くすることになる」と指摘。こうした活動のためには組合長をはじめとしたトップ層が認識を共有することが大事だと提言した。
北川太一・福井県立大教授は「食と農にねざす地域協同組合をめざす」という理念が大事と指摘し、地域住民を含む組合員の主体的な活動を支える教育文化活動には、「トップが職員の小さなつぶやきをくみ取ってそれを励ましながら進めることが大切になる」と提言した。
討議で議論になったのは坂野氏が強調した「組合員」か、「顧客」か。坂野氏は改めて「組織の強さとは組織の主体、すなわち組合員の強さだ」と話し、“顧客”は主体になれないとした。ただ、組合員には「特別な学習をしないとなれない」ことから、教育文化活動とは「組合員力を高めること、組合員らしくなってもらうことだろう」と提起した。
この点について参加者からも「自分たちがつくった農協、という原点に戻そうと考えている。そのうえでわれわれの農産物を支持してくれるなどJAの真の顧客づくりも役割だ」との発言もあった。
事例報告をしたJAいるま野は「人に優しい地域社会をめざして」、JA福岡市は「地域の存在感のあるJAをめざして」が基本理念。村田教授は「志の高さが表れた理念。教育文化活動は、大変な時代だからこそ新しい暮らしの文化を築こうということでもあるだろう。JAの役職員はしっかり役割を理解してほしい」とエールを贈った。

《事例報告概要》
協同の「誠心」でJAづくり進める
JAいるま野・小澤稔夫代表理事組合長

JAいるま野・小澤稔夫代表理事組合長

「人に優しい地域社会づくりをめざして」が基本理念。農業振興を中心にした地域社会実現のため地産地消の拡大に力を入れている。19の直売所を開設、今後も大型店を計画している。高齢者などがすぐ近くで新鮮な農産物が買えるようにと考えた。
地域とのふれあい活動では埼玉西武ライオンズと浦和レッズの協力による野球、サッカー教室、トランペッターの日野皓正氏を招いたこともある吹奏楽フェスティバルなども開いている。福祉活動ではJAは広域斎場の指定管理者に指名されているほか、デイサービスも実施。
2月には衛星通信システムを搭載しATMが稼働できる移動車「あぐりプラネット号」を導入した。これは中山間地域へのサービスだけでなく災害時の派遣も視野に入れたもの。
今、地域社会ではふれあいが減少していると思う。協同組合運動の発展はお互いの「誠心」によって実現されるものと考えている。その実践によって愛されるJAをめざしていきたい。

 

《事例報告概要》
食と農を守る地域農業協同組合をめざす
JA福岡市・倉光一雄代表理事組合長

JA福岡市・倉光一雄代表理事組合長

「人と自然の関わりを大切に地域に愛されるJAをめざす」が理念。管内農地2000haの維持のために「博多じょうもんさん」ブランドの浸透や学校給食への供給拡大、環境保全型農業「赤とんぼの里づくり」に取り組んでいる。
組合員活動活性化の基礎なるのは、支店別に作成している行動計画。地域活動、サークル活動、食農教育活動などを計画に入れ本店が実践の管理を担っている。
教育文化活動を充実させるにはリーダーが大事と考え、人づくり、運動の核となる組合員の育成にも取り組んでいる。そのために組合員向けの「協同組合講座」を開く。また、食農教育では組合員が講師となる食農ティーチャー制度もある。
やはり人づくりが大事だ。JAのトップ層の考えを理解し、そこに自分自身の考えも全面に出していける職員、組合員をつくるべきだと思う。旧来の考えにとらわれない新進気鋭の人材をJA運営に活かしていくことがトップの役割だと考えている。

(2008.08.12)