特集

「今日の農協のあり方とJA共済事業の役割」

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【インタビュー】
農家組合員や地域の人とともに歩む共済事業をめざして

安田舜一郎 JA共済連経営管理委員会会長
聞き手 石田正昭 三重大学大学院教授

 JA共済事業は、「絆の強化と仲間づくりによる組織・事業基盤の維持・拡大」を中長期展開方向として定め、その実現のために、19年度からの「3か年計画」に取り組んでいる。その取り組みの基軸となっているのは「3Q訪問活動」による全戸(個)訪問だ。そして今年7月には、経営管理委員会に安田舜一郎新会長を迎え、「3か年計画」実現に向けて新たな体制が整った。そこで安田会長にJA共済事業だけではなく、いまJAがもつ課題も含めて、これからの進むべき方向などについて語っていただいた。聞き手は石田正昭三重大学大学院教授にお願いした。

最重要課題は「3Q訪問活動」に着実に取り組むこと

◆総合JAの事業の基本を理解した上で専門性を発揮

安田舜一郎JA共済連経営管理委員会会長

安田舜一郎
JA共済連経営管理委員会会長

 石田 全国のJAの代表として会長に就任されましたが、これからどのような運営をしていくお考えですか。
安田 野村前会長が目指されていたこと、取り組まれていたことを踏襲し、より具体化していくことが私の当面の責務だと考えています。
しかし、保険業界の環境、農業情勢やJAの経営状態など、刻々と取巻く環境が変わっているのが現状です。そうした中で、経営管理委員は組織の代表ですから、JA共済連の機能として総合事業体であるJAへの責任をしっかりと果たしていくというのが役目です。そのことを経営管理委員会のなかで改めて意識していくことが基本だと思っています。
石田 日本全体が高齢化社会になり、JAの組合員や農村の高齢化率はそれより高いなど、共済事業の環境は厳しいですが、いま力を入れていることは何でしょうか。
 安田 社会の少子高齢化のなかで、保険・共済事業は成熟した事業環境にあると認識しています。そのなかでいま取り組まなければいけないのは「3Q訪問プロジェクト」とよんでいる全戸(個)訪問活動を、もっと具体的かつ着実に行い、契約者・組合員の皆様に対して説明責任を果たすことに尽きると思います。
そして、高齢化を含めた各種保障ニーズに応えた開発をし、JAの総合事業の柱となるように機能させていけば事業の維持拡大ができると思いますし、私はそんなに心配はしていません。
石田 3Q訪問活動でそうしたニーズを聞こうとするわけですね。
安田 説明責任、そして共済事業としての安全・安心をきちんと訴えていくような訪問活動をすることです。
石田 聞くことは決まっているわけですね…。
安田 基本はありますが、JAには営農とか信用事業での財産運用とか、政治や経済の話題もありますから、いろいろな情報を提供することです。訪問して話すことで信頼関係ができます。そこから話題が広がりニューパートナーの獲得にもつながっていくわけです。
石田 業績として上がる前に信頼関係を築くことですね。
安田 そういうことです。
石田 JAの職員はそのくらいの会話ができないといけないわけですね。
安田 総合JAである以上、職員はJAの各事業の基本部分をマスターしたうえで、担当する事業の専門的な知識をもたないと説明責任を果たせません。ですからLAにしても自分のJAで行っている各事業の基本的な知識を持ったうえで「3Q訪問活動」ができるようにしなければいけないと思います。このことは、共済事業だけではなく、金融渉外も営農経済渉外にもいえることです。
石田 共済事業だけの問題ではないわけですね。
安田 全中、全農、農林中金など全国連がそういう認識をもってやっていく必要があるのではないでしょうか。

◆生命・建更で築いてきた信頼関係を活かして第三分野も

石田正昭 三重大学大学院教授

石田正昭
三重大学大学院教授

 石田 目標ではニューパートナーを3か年で204万人獲得することになっていますが、これはかなり大きな数字ですね。
 安田 LAが意識的に取り組めば可能だと思います。LAはいま全国に約2万1800人います(19年度末現在)。1人当たりに直すと3年間で93人強、1年に30人ですから日々の努力の積み重ねが必要です。
 石田 JA共済は「ひと・いえ・くるま」の総合保障といっていますが、1共済種類のみの利用者が全組合員の5割強、2共済種類が同3割弱、3共済種類が同2割程度です。いままでは生命共済や建更に力がはいっていて、年金とか医療などの生存保障、あるいは自動車共済への転換が遅れたのではないかと思いますが、いかがですか。
 安田 生命共済・建更の長期共済で経営基盤を築いて、生命にかかる万が一(死亡)や想定外の自然災害があっても保障を通じて大きな「安全・安心」を提供できる取り組みをすすめてきました。これは間違いではないと私は考えています。そのなかで、生存保障などの「第三分野」では生損保や外資に比べると遅れたのは、現実です。しかし、私たちには生命共済や建更で得た信頼関係があります。その信頼関係を活かして、国の年金制度や社会保障が問題になっているなか、年金や医療保障、さらに若い層を獲得する起点となる自動車共済にしっかり取り組んでいかなければいけないと考えています。
 若い人にいきなり生命共済や建更などの長期共済を推進しても難しい面があります。このことから、地方の生活で欠かせない自動車共済から取り組んでいくのがベターではないかと思いますね。

◆地域社会への貢献はJAの理念であり使命である

 石田 これからは「地域にどう貢献するか」が重要な課題だと思いますが、その点はいかがですか。
 安田 農業も含めて地域社会へ貢献していくのは、本来、JAの経営理念であり使命だと私は考えています。普段からいろいろな形で地域に貢献していくことが大事です。これは共済事業だけではなくJAの総合事業全体のなかで取り組むことによって、さらなる効果が期待できます。
 共済事業では、交通安全ミュージカルなどの交通事故未然防止活動や介助犬育成・普及支援活動、さらに健康増進活動などさまざまな社会貢献活動をしていますが、まだまだPRが不足している部分もあると思います。
 石田 かなり人とお金も使っていると思いますから、もっと社会に広く知ってもらう方法はないのかと思いますね。JA共済連では地域活動の助成をしていますが、これをもっと拡大するとか…。
 安田 JAやJAの助けあい組織や女性部と連携して、地域活動を促進する奨励など目に見える形でどう貢献できるのか、それが共済事業にどうつながってくるのか。今後とも継続して取り組みをすすめていきたいですね。

◆JAグループ全体で地域を盛り上げるプログラムを

 石田 ぜひ、お願いします。いま全中では「JAくらしの活動」といっていますし、家の光は「元気なJAをつくる教育文化活動」というプログラムがありますが、JA共済連、農林中金を含めたJAグループ全体で地域を盛り上げてコミュニティを支援していくということをイメージできるプログラムが必要だと思いますね。
 例えば、「JA共済」のCMに小さくてもいいから「地域とともに歩む」というテロップを入れる。そしてそのテロップをJA全農でもJAバンクでも共通して使うことで、「地域とともに歩むJAグループ」というイメージができ、そのなかで各分野が役割を果たしていることになるのではないかと思います。
 安田 「ひと・いえ・くるま」は事業ですから組織コンセプトにはなりません。JA共済のコンセプトとして「地域とともに歩む」というようなコンセプトづくりを検討してみてもいいですね。
 石田 共済だけではなくJAグループの組織戦略としても必要ではないでしょうか。
 安田 何のために事業をするのかという方向性がはっきりするので、LAやJA職員そして連合会職員の意識づけとしても重要ですね。
 石田 全中の「JAくらしの活動」では、高齢者や子ども、食農教育などで、組織横断的な組織活動をすべきであるという提案をしていますが、「3Q訪問活動」も地域づくりというコンセプトのもとで進めた方がいいと思いますね。「ひと・いえ・くるま」から入ると「もう加入している」で終わりになるけれど、地域のその他の活動で親しい関係が築けていれば「いつもお世話になっているので入ろうか」ということではないでしょうか。

◆経営トップと次世代リーダーが同じ感度を持てる研修を実施

 石田 そういう地域に貢献できるようなJA職員がいて、それにプラスLAがいるような体系にしないといけないと思いますね。
 安田 そういう意味では、管理職から意識づけをしないといけないと思いますね。
 石田 ES(職員満足)、CS(顧客満足)が大きなテーマになっているようですが、幕張の研修センターではどんな研修をしているのでしょうか。
 安田 いま力を入れているのは、「次世代リーダー養成コース」と今年度からはじめる新任共済担当常勤役員を対象にした「共済担当役員セミナー」です。「次世代リーダー養成コース」は、昨年123JAから204名が、今年も200名を超える方が受講しています。ES・CSについても、現場のリーダーと経営トップが同じような感度をもってもらうことをコンセプトにしています。
 石田 ES、CSは共済だけではなくすべてに共通する考え方ですよね。
 安田 共済事業はJAあっての事業ですから、一歩踏み込んで研修しているわけです。

◆日本農業の将来像を政策提案できるJAグループに

 石田 JAの専門性と総合性というお話がありましたが、外からみると共済は1つの事業に見えますから、そこの部分だけを外す「信用・共済分離」論が出てくるのだと思います。
 安田 JAは総合事業によって農家・組合員や地域の人たちの暮らしをお互いに補完しあいながら守っていくという目的・理念があります。JA共済はその相互扶助に基づいたものだから保険ではなく“共済”なんです。だからこれを分離することは“農協無用論”につながります。
 自給率がこれだけ低いなかで、JAをなくして食料をどうするのか、日本農業を将来にわたって構築していけるのかと考えれば、それはできないでしょう。日本の将来をどうするのかという大きな視点にたって、総合JAとしてのあり方、そして信用・共済・営農・経済がなぜ一体的に必要か、きっちりとらえていただきたいと思います。
 石田 総合JAであることが組合員の生活を豊かにし、さらに地域と農業も豊かになることによって、地域社会を守るという好循環が期待できます。その好循環の実現のために日本では以前から総合JAという形ができてきているということですね。ですから、それに相応しいJAの運営をしていかなければなりません。そこをきちんと引っ張っていくのが、これからの全国連のリーダーの役割ではないかと思いますね。
 安田 難しいことですが、一歩ずつでも本来の農協のあるべき姿に向かって、4つの全国連が一体的な認識をもって取り組んでいくことが重要だと思います。いまは時代の変革が激しく、事業環境の変化が大きいです。JAグループは、そのような環境においても日本農業の将来像を政策提言できなければなりませんし、仮に提言できなければその責任を放棄しているに等しいと思います。
 石田 行政の下請けではなく、行政を動かせる組織にならなくてはいけない…。
 安田 そうなんです。行政が動かないところは、私たちが結束力を高め、自ら働きかけることがいまの時代は必要だろうと思います。
 石田 ぜひ頑張ってください。今日は貴重なお話をありがとうございました。

インタビューを終えて
 協同組合は「組織体のために事業体がある」という特別の性質を持った経済団体である。決して「事業体のために組織体がある」わけではない。がしかし、実際はその傾向が強くなっている。
 今回、その事業体のうちの一本の大きな柱、全共連の組織代表に就いた安田会長は「農家の立場とJAの立場は常に一体である」との強い信念に基づいて共済事業の業務執行をコントロールすると明言された。共済事業は協同組合の基本理念である相互扶助の精神を発揮する最たる事業であり、組合員の豊かな生活や安心して暮らせる地域づくりに貢献することで、JAと農家組合員や利用者の”安心や信頼の絆” を深めたいと述べた。心強いメッセージである。
 また、その安心や信頼の絆づくりのうえで、総合事業体である単位JAでは、常勤役員の資質向上と結束がとくに重要であると指摘した。また、全国段階では、主要4団体(全中、全農、農林中金、全共連)の組織代表がJAグループのあるべき姿へ向けて共通認識を深めることがとくに重要であるとし、定例の会合開催を提案したという。これまで定例的なこの種の会合がなかったこと自体驚きであるが、よい提案である。継続して貰いたい。
 そうした当たり前の努力が「組合員・JA・地域社会間の好循環」を作り出すと期待している。(石田正昭)

(2008.10.02)