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本紙アンケート
本紙アンケート「売れる米づくりに向けたJAの米事業戦略」2008結果まとまる
(集計データは速報値)

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【562JAが回答】
計画生産の徹底に向け産地JAの努力が明確に ―「売れる米づくり」めざし需要情報の伝達を重視―

 本紙では、「JA米」の生産や販売計画の策定と実践などJAの米事業戦略の現状と今後を考えるため、全国主要米産地のJAを対象にアンケート「売れる米づくりに向けたJAの米事業戦略」を実施。562JAから回答があり、このほどその調査結果をまとめた。
 JAの米事業では、需要に応じ販売を起点とした事業の推進が求められているが、今回のアンケートでは19年産米で過剰作付けにより米価が大幅に下落したことをふまえ、生産調整の徹底に向けたJAの取り組みについて調査する質問項目を初めて設けた。その結果、JAから生産者への生産調整に関する情報伝達は、19年産にくらべて20年産では取り組みが強化されていることが分かった。具体的な取り組みでは、生産調整の未実施者への働きかけを4割を超すJAが重視しているとの結果となった。
 また、「JA米」の取り組みでは、すでに安全・安心と信頼確保のため当然のこととして推進しているJAも多く、そのうえでさらに高品質な米づくりや、業務用ニーズなど多様な需要に応える生産、地産地消による生産者手取りの確保などの課題に取り組んでいる姿も浮かび上がった。
 ただ、生産調整の実施・未実施に対する不公平感と米価下落による産地の苦境を訴える声も多く、農業経営安定と食料自給率向上のために「国の主導」を求める指摘もあった。

水田農業経営の安定のためメリット措置の明確化を

◆19年産のJA集荷率は49%

 本紙のこのアンケートは今年で5回目。調査は今年3月から4月にかけて実施した。
 回答に協力をいただいたJAの19年産米生産量は合わせて708万5300トン(504JAベース)となった。本調査は米の生産量で19年産の全国生産量870万5000トンの81%をカバーしていることになる。
 19年産の米集荷率は全国平均で49.0%。東日本では54.6%、西日本では39.2%だった(図1)。前回調査結果の18年産集荷率は全国で47.7%。19年産ではわずかに高まったことになる。
 ブロック別では北海道がもっとも高く79.5%、ついで北陸69.9%、東北64.3%となった。一方、関東、東海、近畿、四国では30%台にとどまっている。
 今回の調査では「生産調整の徹底や需要情報の説明」への取り組み状況を聞いた。
 その結果、「実施した」との回答が19年産では全国で71.5%だが、20年産では75.1%と4ポイント近く増えたことが分かった。東日本、西日本別にみても19年産より20年産での取り組みが増えており、全国的に生産調整の徹底に向けたJAの努力が伺える(図2)
 20年産についてブロック別にみると「実施した」との回答は、北陸87.8%、四国87.2%、東北85.3%、甲信越82.2%で、これらの地域では8割を超すJAが取り組みに力を入れたことが分かる。
 生産調整の徹底のために生産者に伝達した情報としてはもっとも多かった回答は「JA管内としての達成・未達成情報」で全国で78.4%だった。地域別、ブロック別に大きな差はない。JAは生産調整方針の作成者であることからJA管内の状況を説明することがもっとも優先されるのは当然のことといえる。ついで多かった回答は「県全体についての達成・未達成情報」。全国で55.5%となった(図3)
 また、今年度は生産調整未実施者への働きかけもJAグループの課題となっていたが、この点については全国で40%のJAが取り組んだという結果だ。ブロック別では、東北57.3%、甲信越53.5%、中国52.6%、関東47.1%が全国平均よりも高かった。
 生産調整の徹底のための情報伝達と合わせ、計画生産に向け主食用米に関する需要情報を伝達することも求められているが、今回のアンケート結果では「農協管内についての需要情報」がもっとも多く全国で60.9%の回答率となった。ついで「県全体についての需要情報」が全国で59.5%、「価格動向」が同52.6%の順となった(図4)
 前回、前々回調査では、この質問の回答率の1位、2位は「価格動向」と「県全体の需要情報」となっていたが、今回の調査ではJA管内に対してどんな需要があるのか、といった情報伝達を重視しているとの結果が示された。また、「銘柄別需要情報」や「用途別需要情報」については、地域差がみられ、北海道ではいずれも45%、銘柄別需要情報は甲信越で51.2%、中国で59.5%と回答率が高かった。

◆販売計画の策定は8割超

 米の販売計画を策定したとするJAは全国ベースで8割を超えた(図5)
 その販売計画の柱として重視しているのが、「生産履歴記帳の実施」で全国で82.7%と回答率がもっとも高かった。ついで「JA米の販売」、「連合会との連携強化」、「直接販売の拡大」、「有機栽培・特別栽培米等の生産」などとなった(図6)
 JAの米の出荷・販売先についても今回のアンケートで調査したが、結果は連合会への出荷が全国ベースで7割を超えた。そのほか卸売業者、その他では直売所、地域の外食産業などがあがっている(図7)
 先に紹介したように販売計画の柱では「JA米の販売」も重要視されていることが分かったが、20年産でのJA米への取り組みは全国ベースで76.3%、「一部の生産者などから取り組む」との回答を合わせると
8割を超えるという高水準の取り組みとなっている(図8)
 生産者へ周知徹底の方法は、JA米の要件等を解説したパンフレットなどの配布(61.4%)、集落座談会での説明(59.4%)が高く、その他、生産部会での説明など、JAの日常的な活動の場で地道に浸透を図るという取り組みが定着しているようだ(図9)。生産者への理解促進に王道はなく定期的なコミュニケーションがもっとも重視されているともいえる。
 JA米の取り組みが進むにつれ、各地で基本3要件に加えて、要件を上乗せするJAも出てきた。
 それを調査したのが図10だが、「設定している」との回答は全国ベースで28.1%だった。東日本が33.4%とやや高い。また、設定している要件としては「網目」と「品種銘柄」の指定が多い。
 また、JA米の要件を基本にして、独自の栽培基準で集荷・販売に取り組むJAもあるが、図11に示したように約6割近くのJAが取り組んでいることが分かった。
 その内容は、減農薬減化学肥料などについて定めた「都道府県の認証基準による栽培」がもっとも多く全国で57.1%となった。そのほか肥料など特徴のある生産資材を使うなどJA独自の栽培基準で生産者の組織化を図り、有利販売につなげていこうとするJAも少なくなく、全国ベースで46.1%のJAが取り組んでいる(図12)

 ただし、自由回答欄で一部を紹介したように、地域特性を活かした独自の米づくりを進めても、一方で価格下落が生産者の意欲を削いでいるとの声も強い。米生産の維持のために、いよいよ担い手の確保も急務になっているとの指摘もあった。
 計画生産に向けて生産調整の着実な達成に奮闘する姿が浮かび上がる一方で、特徴ある米づくりに努力し生産者の結集を図っても、手取りの増加に結びつけるには課題が多いと感じているのが現場。買取集荷や播種前契約などの必要性を強調する声も昨年より増えたとの印象が強く、JAとして実践すべきことを模索しているが、政策としても計画生産に取り組む現場には経営安定のための支援策が一層明確に示されることが求められている。

JA米に取り組む現場の声(アンケート自由回答)

JA独自の栽培基準の回答例
○化学肥料99.6%削減+農薬72%削減。
○「減化学肥料無農薬」、または「無農薬」、「種子消毒」、「薬剤4剤以内」、または産地指定。
○農薬・化学肥料の慣行より5割減の栽培。
○本田の防除回数を規程。
○JA独自の発酵堆肥を10aあたり500kg散布。また、特別栽培専用肥料を10aに30kg散布。
○海藻アルギット肥料使用米(減化学肥料、減農薬50%)。
○レンゲ作付すき込みによる元肥、レンゲの繁茂が悪い場合は、指定された半分有機の元肥、穂肥を使用すること。
○21年から「種子の温湯消毒」を追加予定。
○JA独自の土づくり資材の使用とたんぱく値と整粒基準での合否。
○「米の精」有機肥料の100%使用による減農薬減化学肥料栽培米。
○販売先との協議で決定(農薬、肥料関係)。
○地域ブランド米(特別栽培米)をエコ農産物認証制度で栽培。
○JA独自基準により県認証を取得。無農薬無化学肥料。6割減農薬無化学肥料。5割減農薬減化学肥料。
○飲める水で作る特別栽培米。
○JAの育苗センターで播種された苗を使用し、5/20以降に田植を確認されたコシヒカリ、RC出荷のみ。
○移植時期の統一。除草剤の使用回数。追肥の禁止。病害虫防除剤の使用回数。
2段乾燥の実施。農薬の節減(原体成分11以内)。
○棚田米(標高350mの棚田で山の湧水を利用した米)。
○肥料農薬節減栽培による環境保全米づくりに取り組み環境保全米ネットワークの認証を受けること。
○古くから行われているハザ干し(天日乾燥)によるコシヒカリ。
○20年産から品種をヒノヒカリに限定、慣行栽培より農薬を3割減を対象とした契約栽培を実施中。
○県のエコロジー農産物認証を受けたコシヒカリ。施肥、防除方法を統一。
○天然にがりを耕起前1回、田植後3回散布を要件。
○JA独自の栽培基準で減農薬・低タンパク米の生産販売を実施。
○ミネラル農法、アイガモ農法、木酢使用。無化学肥料、減農薬栽培米。
○独自肥料を秋に稲わらとすき込みする「秋仕込み米」で食味向上を図る。
○生活排水の混入のない特別栽培米。
○食味計による数値をクリアした米。
○乳白、心白を除くため田植を2週間程度遅く植付すること。
○肥料はJAの施肥基準、農薬は育苗、殺虫、殺菌、除草を各2剤。
○農薬成分6以内/10a、窒素成分4kg以下/10a。
○それぞれの地域に合った施肥、農薬基準を品種ごとに設定。
○土壌分析を行いJA独自の肥料で作付。
○全農の指導のもと農薬節減栽培米を生産。農薬の使用を慣行量の1/2以下に抑え6剤9成分に。
○JA米を基準として、実需者との協議で作成した栽培指針で作った米。
○JA施設にて乾燥・調整され、色彩選別機で処理されたもの。集荷円滑化対策に加入する生産者が生産する米穀。

「売れる米づくりの努力の一方、輸入するのは根本的に間違っている」
今後の米づくりの課題
○生物多様性農業、消費者との交流。
○販路拡大。
○食味・品質ともに安定した米づくりはすでに確立できている。課題があるとすれば需要のある業態(外食を含む業務用米等)に特化した品種の米づくりに転換していくべき時期か。
○米価の上昇。
○減農薬、安全安心米の販売、直販米の推進。
○精米販売を中心に力を入れ、業者よりも個人にPR推進。地元の米の美味しさとイメージの向上に努めたい。
○オリジナルブランド米の販売、及び独自販売。
○売れる米をつくっても、現在の米価下落のなか再生産ができない。安全性の確保と安心の提供については、コストがアップするが、販売価格で吸収できない。
○委託販売の価格低迷により農家による直接販売が増加しているのが実態。
○実需の共同仕入れに対応したロットの拡大。
○コシヒカリに特化しない生産体制の整備。買取販売による集荷向上。
○地産地消、安全・安心のアピール。
○インターネットの利用。
○集荷される米はすべて買取とし生産者価格の安定と地産地消での有利性を全面にアピールしていきたい。
○H19年の広域合併当初から売れる米づくりに取り組んでいる。どのJAより転作等、国の方針にも従っているが首都圏など過剰作付や乱売による全国的な価格低下で正直に米づくりに取り組んでいる農家が苦しんでいる。
○食味による販売価格設定。
○JA産直センターで販売拡大を行う。
○量販店向けニーズに合った品種と営農組合を対象にした作付けの推進。
○安心・安全な農産物を提供することと食農教育の一環として、小学校へ生産者が出向き主食となる米について食の大切さを説明すること。
○実需者の意向把握と意向に応じた商品開発、地帯別作付計画に基づいた品種銘柄の生産による品質向上。
○特別栽培米を中心に環境に配慮した米づくりをPR。
○適地適産と安定価格で販売できる環境の構築。
○均質で安定供給に対応できる玄米ばら集荷の拡大とバラ玄米流通によるコスト低減を目指す。実需者側の受け入れ態勢が整えば、紙袋・フレコン等を使用しない販売を提案している。
○流通については中間の業者等がなくストレートに販売できるシステムづくり。国内産の安全性のアピールと新たな消費の方法の提案。
○農家の直販を減らしJAへの集荷を増やす努力をしたい。
○統一資材を精米袋に表示。
○学校給食への納入が課題。
○販路の拡大と販売方法の多様化。
○品質の向上はもとより安全・安心米に留意したこだわりある米作りに努めたい。
○せめて朝ごはんはご飯を食べる食育を。とくに小さい子供を持つ親御さんに。
○学校給食はごはんを主に。パンは米粉パンで。
○新品種による収量の多い米づくり。
○低価格米への取組み(消費者、実需者ニーズに対応)。消費減少と低価格米への嗜好のなか販売状況は競争激化している。
○生産現場の情報が消費者に伝わっていない。生産現場からのこだわり、栽培管理等を常に消費者へ提供できるシステムが必要。
○卸や業務用米では安価な米を求めている。これからは食味は普通のもので値ごろ感のある米を栽培し販売していかなければ。高品質米だけでは需要がなくなっていくと思われる。
○米価が下落しているため生産者の生産意識が低くなっている。生産者の意欲向上が必要。また、米だけでなく裏作での収入確保が必要となっている。
○現在の方式では、売れない米も売れる米も一緒。現実にほとんどが面積ベースでの論議になっている。売れる米づくりの表現は正しくない。今後は主食・非主食をあわせたなかで生産者の作付選択が進んでゆくと思うが、「売れる米づくり」の定義をきちんと見直すべきだ。
○特別栽培を実施しても、価格につながらない現状を生産者に説明してもなかなか理解してもらえない。
○温暖化等に伴う気候の変化への対応(1等米比率の向上、維持をどのように進めていくか)。
○Aコープや直売所を通じての「地産地消」の割合を拡大すること。
○一部地域では各々地域ブランド米の生産販売に取組みをはじめているのでJAとしても支援していきたい。
○今年から買取米を行う。
○安い米作り。直売所での販売数量のアップ。海外販売。
○地域のこだわり、例えば水であったり、肥料、農薬の使用量であったり、安全、安心をアピールする事が重要。
○一般栽培においても減農薬、減化学肥料を目指した契約栽培の拡大を進める。
○売れる米づくりとしては流通、販売面も大事だが、今後は食料事情が逼迫してくるなかで国の確固たる方針が必要である。
○最近、高温等により白未熟米の発生が問題になっている。
○農家手取り最低基準価格の設定が必要。
○消費者の立場に立ち、安全・安心を前提として生産地=消費地で地産地消に取り組む。
○担い手の確保が課題だ。
○安定生産を行うため、播種前、収穫前契約の構築による安定価格の維持。流通コスト低減に向けた取り組み。特別栽培米の安定生産。
○昨年品種混入事故があった。履歴、記帳を重点として消費者が安心して購入できることも重要と思う。
○低価格米、減農薬等の付加価格米いずれも価格競争になっている。当JAではJA精米工場で精米しているため利益確保できているが、いかに消費者に再生産価格保証などを理解していただくかが鍵。
○上位等級米比率向上。
○等級は1等米を確保した上で食味値77点の平均を保つこと。また当産地は寒暖差を利用した米作りに適した産地であるので食味を生かした流通で対応したい。
○今ずり米(店頭・精米・販売網の確立)を産直店舗で実施。
○主食として考え安売り合戦はやめる。ちゃんとした規格のものを流通させる。
○県共計の見直し、契約栽培米の取組み、JA直売米の拡大。
○米の需給調整はすべての農家が参加してこそ意味がある。
○コシヒカリの需要が低下しているため、需要に応じた品種選定を行う。業務用米の需要が増大するなか多収穫米の導入を行い契約栽培の実施で農家所得の向上を目指す。
○米を輸入しない。需要量増加への対策必要。
○米生産は依然過剰傾向にあり、ブランド米として更なる品質向上と需要に応じた米作り体系が必要。
○系統販売において販売価格形成力が弱い。
○学校給食、直売、量販店、生産調整に参加しない個人、業者対策が課題。
○各地が売れる米づくりに努力している反面、消費減が進むなか生産調整と外国米の輸入など根本的に間違っているのではないか。
○計画生産の徹底(過剰作付けが全国的に課題)。売る自由、作る自由と、売れる米づくりの明確化が必要。
○「安全・安心」な米をモットーに取り組み。JAでは全農委託米と直売所における買取米(特栽米等)で対処しているが直接販売数量を増やすと、リスクも大きくなる。
○消費者等実需に理解されること。そのための運動が重要。これを平行させないと価格先行だけでは難しい。
○販売比率で個人購入者が多くなり食味の安定=品質の向上が最重要に。
○米は日本人の主食である。自分の利益になりすぎていないか商社等に対して指導してほしい。現実は米は不足しているのだから販売できるところにはもっと作付しても良いと思う。
○系統を通じ産地指定をめざし販売推進。系統とともに販売強化をめざし流通面、販売戦略を実施している。
○「売れる米づくり」=産地間競争という構図は果たして今後の日本農業にとってプラスなのだろうかという疑問を抱いている。国内の食料自給率向上のため、米・麦・大豆・飼料作物といった、本来の適地適産に向けた取り組みの主導を国に望みたい。
○消費者の安全・安心志向が強いので、生産者がどこまでそれに対応できるか。
生産量と消費量(販売可能量)とのバランス、一般米と特栽米の価格設定や基準、安心、安全と品種栽培地域の選定が課題。
○今後は輸出も含め、検討しないといけない。環境保全米については、これは何なのかをもっと消費者へ伝えていく活動が必要である。
○「買ってもらえる米」を作る。生産者手取りが向上する流通を選択する。
○消費者の食の安全に対するニーズは中国の問題等もあり年々増大していく。当JAは品質面もさることながら、トレーサビリティの強化と信頼をより築いていく方針。
○米価低迷が続き生産者の生産意欲が衰退。そのうえ後継者が育たない状況である。また機械が壊れると同時に離農する生産者が見受けられる。
○JA米は履歴が明確であるので差別化を一層進めてほしい。
○JA米が有利販売に結びついていないので、JA米が価格面でも有利に扱われるような位置づけが必要。
○さらに基準を高めたJA米が必要。
○消費者にJA米をもっとPRし適正な管理のもと栽培していることを知っていただきたい。

(2008.10.03)