特集

農業協同組合新聞創刊80周年記念
食料安保への挑戦(1)

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【主要5政党に食料・農業・農村政策を聞く】
活発な論戦を通じ有効策の具体化を

インタビュアー 武蔵大学教授 後藤光蔵

 食料品価格の高騰や頻発する輸入食品問題などを背景に国民には食料自給率向上への関心がかつてなく高まっている。しかし、農業現場は高齢化がますます進行、農地の維持と担い手確保などまさに課題が山積している。農業再生のための有効な政策をどう打ち出すか。近く行われる国政選挙でも国民的な選択課題となる。主要政党の国会議員に後藤光蔵武蔵大学教授にインタビューしてもらった。各議員は編集部が依頼した。

◆民的争点となった食料・農業問題

武蔵大学教授 後藤光蔵
武蔵大学教授
後藤光蔵

 現在起きている世界的な食糧危機は73年の食糧危機とは違って構造的なものであり、この不安定な状況は短期に終息するものではない。加えて食の安全安心を揺るがす様々な事件が次々に起きている。食料の安定供給における「量」と「質」の両面で国民は大きな不安を感じている。「21世紀新農政2008」のサブタイトルが「食料事情の変化に対応した食料の安定供給体制の確立に向けて」となっているのもこの状況を反映している。
 基本計画の45%の自給率目標がなかなか達成できないにもかかわらず、政府与党を含めすべての政党がそれを超えた50%の目標を掲げて選挙戦を戦うのもこの状況の反映である。日本農業の再構築と自給率向上へ向けて、これまでの長期の動向を逆転させ得るのはどの政党の政策か。次の総選挙で食料・農業問題は、農業関係者の枠を超えた国民的な主要争点の一つとなったのである。

◆日本の農業危機の原因をどう考えているのか

 極めて低い食料自給率、農業従事者の減少・高齢化、耕作放棄地の増加など日本農業の危機は極めて深刻であり、実施する政策の結果を確実に出さなければ日本農業は危機から崩壊に転落する瀬戸際にいる。加えてこの事態は高度経済成長時代からの長期にわたる歩みの積み重ね・結果である。ニュアンスの差はあれ、どの政党もこれまでの政策の抜本的な転換を主張するのはこの二点に規定されている。抜本的な政策転換にはいうまでもなく正確な現状認識が必要である。どの政党の現状認識がより深くかつ正確であるか、有権者は注意深く聞く必要があるだろう。
 これまでの農政は工業優先政策と自由化政策に規定されてきたと短くまとめてしまうと、ヒアリングした各議員の認識に大きな差異はないということにもなるが、丁寧に聞くと各政党間には現状をもたらした原因の認識には違いは存在する。これらの違いは、それぞれが提起する政策の重みや深さを規定する。
 その認識の差は、一つは次に触れる各党の経営支援政策の内容を規定することになっている。もう一つはGATTに始まりWTOやFTA/EPAに続く国際交渉・関係の評価やそれに対する姿勢に反映する。これまでも国際交渉の結果は日本農業のあり方に大きな影響を与えてきたが、継続するWTOやFTA/EPA交渉の結果は今後の日本農業を左右する極めて大きな要因となる。これらの国際交渉の評価、今後それらに臨む各党の姿勢は大きな争点である。

◆経営支援政策の違い

 自給率向上の実現にはどのような経営支援対策が有効か、現在実施されている水田・畑作経営所得安定対策の評価も含め、この点が最大の争点である。これには二つの側面がある。
 一つは品目横断的経営安定対策の導入過程の論点でもあった、政策の対象経営を絞ることの当否である。与党の主張するように担い手を育て自給率を向上させる上で政策対象を限定して施策を展開することが有効なのか、農業を続けたい人全てを対象にし、やる気を持ち続け頑張ってもらわなければ自給率向上など不可能だとする野党の考え方が有効なのかという対立である。結局制度発足時には、集落営農組織を対象に認めるなど一定の弾力化が行われた。今回、さらに政府・与党は、面積要件は市町村独自の判断に委ねるとし、一層の弾力化が図られることになった。与党はその姿勢を柔軟化し野党の主張に歩み寄ったといえるが、インタビューからもわかるのだがこの見解の対立は依然として存在し解消したわけではない。
 二つめは経営支援策の内容である。品目横断的経営安定対策(水田・畑作経営所得安定対策)における麦・大豆等は基本的に過去実績を保証するのみである、米については高関税の存在を前提に米価の下落緩和措置のみであり、それも下落傾向が続く時には不十分な措置に過ぎない。つまり政府与党の経営支援策は経営を育て自給率を向上させていくという点で、つまり抜本的な政策転換という点で不十分な政策だと野党は批判する。自民党の山田議員も今の政策が十分でないという。地域に相応しい営農類型を描きそれらの経営が存続できるような直接補償制度が必要だとされるがまだ党の見解にはなっていない。
 野党3党は、自給率の向上には生産費を基準に、市場価格とその差額を補填するという考えに立った施策が必要だとする点で一致している。その基本点についての具体的な制度提案では、民主党、社民党は面積に基づく直接支払い(民主党「農業者戸別所得補償制度」)、共産党は価格政策(不足払い)という違いはあるが、生産費を基準として補償するという考えは与党の政策と大きく異なる。
 選挙結果によっては水田・畑作経営所得安定対策に代わる施策が実現する可能性もある。今後、選挙戦を通して各政党は施策を一層具体化していくだろう。最大の争点である経営支援策をめぐって、どの政策が最も効果的か、またWTO協定との関係はどうかなど活発な論戦の展開とそれに基づく有効な施策の具体化を大いに期待したい。
(「自由民主党 参議院議員 山田俊男氏」・「公明党 衆議院議員 西 博義氏」・「民主党 参議院議員 平野達男氏」・「日本共産党 参議院議員 紙 智子氏」・「社会民主党 衆議院議員菅野哲雄氏」)

(2008.10.22)