特集

紙面審議会
農協運動の仲間たちに役立つ新聞づくりを目指して

一覧に戻る

「農業協同組合新聞」 紙面審議会(上)

 本紙は今年、創刊80周年を迎えたことを機に、改めて幾多の困難を克服し、地域農業の活性化と日本農業の再建に向けて奮闘しているJAグループの役職員の方々が、勇気と誇りを持てるような紙面をつくっていくという決意をこめて「農協運動の仲間たちが創る新聞をめざして」いくことを宣言いたしました。
 そこでこれまでの本紙のあり方を検証すると同時に、今後、本紙が取り組むべき課題は何かについて、紙面審議会を開催し検討していただきました。本紙は、ここに寄せられた多くのご意見を真摯に受け止め「農協運動の仲間たちが創る新聞」の実現に向けてまい進していきたいと考えています。

紙面審議会委員
(五十音順)

◇足立 武敏
 JAにじ(福岡県)代表理事組合長
◇今村奈良臣
 東京大学名誉教授
◇大多和 巖
 元農林中央金庫副理事長
◇尾崎  進
 元JA全農常務
◇北岡 修身
JA高知春野(高知県)代表理事組合長
◇熊谷 健一
 JAいわて中央(岩手県)専務理事
◇近藤 博彦
 前農林年金理事長
◇菅原 章夫
 JA栗っこ(宮城県)代表理事組合長

◇仲野 隆三
 JA富里市(千葉県)常務理事
◇藤谷 築次
 京都大学名誉教授
◇前田 千尋
 元JA共済連理事長
◇松下 雅雄
 JAはだの(神奈川県)代表理事組合長
◇村上 光雄
 JA三次(広島県)代表理事組合長
◇山地  進
 食料・農林漁業・環境フォーラム顧問(元日本経済新聞論説委員)

◇座 長
 梶井 功
 東京農工大学名誉教授

 

トップダウン的発想ではなく現場から考えた提案を
協同組合理念の実現に情熱かけた創業者の志を忘れずに

◆独自の視点で問題点を掘り下げる姿勢は評価

足立 武敏氏
足立武敏氏

 梶井 今日はJAの役員の方が7名出席されていますので、まず、JAで本紙がどのように読まれているのか。そしてどのようなご意見があるのかからお聞かせいただきたいと思います。足立さんからお願いします。
 足立 日刊紙ではないので、速報的な性格のものではなく、しっかりした企画物や注目記事の解説など、ものごとに深く切り込む新聞だと理解しています。特集号にこの新聞の真骨頂があり、今回の80周年記念号のように読み応えがある、新聞というより雑誌、という印象を持っています。そういう意味で、非常に理論的で協同組合の真髄を学ぶには役立ちますが、長い記事が多いので、短く軽く読める記事もあると嬉しいなと思います。それから、登場人物が固定しているかなという印象があります。もう少し現場で悩み苦しんでいる人を登場させて欲しいと思いますね。
 梶井 北岡さんはどうですか。
 北岡 身内の新聞というイメージをもっていましたが、けっこうユニークに外からツボを突いたJAグループに対する記事もあり、気を引き締められることがあります。そしてこれはと思う記事はコピーして職員にまわしています。
 菅原 9月30日号の「焦点」で「事故米不正規流通」について、根本的な問題をとらえ解説されていました。これは日刊紙ではなかなかとれない視点だと思います。ニュース性はなくてもいろいろな問題点を掘り下げながら、農業協同組合運動はいまどういう立場にあるのか。あるいは農協同士が協同意識の中で発展できるための問題点なども紙面で取り上げてもらえればと思います。
 その上で、文字が少し小さいのでもう少し文字を大きくしてもらえるともっと良いと思いますね。

今村奈良臣氏
今村奈良臣氏

 足立 私のところでも文字が小さいという話があり、いろいろな新聞と比較したら、この新聞の文字が一番小さかったですね。いまの時代はもう少し文字が大きい方がとっつきやすいといえますね。
 梶井 熊谷さんはいかがですか。
 熊谷 私も皆様と同じ意見です。文字が小さく、文章が長すぎる。できれば読者を引きつける「見出し」。次に書く文章は主要事項を出し、最後を明細でまとめる。また、内容が固くて専門用語が多く、わかりにくい。特に研究者は、具体性がうすく、評論的で現場から遠く感じます。これは担当記者の文章のテクニック、表現力の差もあると思います。

◆もっと親しみやすく読みやすくする工夫を

大多和 巖氏
大多和巖氏

 梶井 松下さんはどうですか。
 松下 新聞の内容については皆さんのお話の通りですが、農協を応援するという新聞の立場からすると、もう少し農協の役職員が登場すると、私たちや職員の励みになると思います。
 文字はもう少し大きい方がいいですね。「JAはだの」の広報誌も最近文字を大きくしましたし、いまはそういう流れだと思いますね。それから写真などをもっと使うととっつきが良くなるのではないでしょうか。内容はいいのですから、もう少しとっつきやすさを重視してもらうといいのではないかと思いますね。
 村上 私がこの新聞を読む時にはどうしても身構えて、ボールペンでチェックしたり、アンダーラインを引きながら読みます。そしてこれはと思った時には切り取ります。ということは、かなり集中しないと読めないし、核心に触れた重要な記事、論文が多い、ということであろうと思っています。
 梶井 いままでJAの皆さんからは、旬刊という性格を活かして問題点を掘り下げた記事が多くそのことは評価されていますが、長すぎるとか、文字の大きさの問題もあってとっつきにくいという指摘がされましたが、仲野さんはいかがですか。

尾崎 進氏
尾崎進氏

 仲野 いろいろなものを読みますが、新聞には顔があるなと思います。顔とはなにかというと、1面はもちろんですが、村田武教授が『現代の「論争書」で読み解くキーワード』で、本の紹介をしながら世界の動きや食料について書かれていますが、これが顔だと思います。そして固いというご意見もありますが、あの固さは私には心地がよい固さですし、楽しみにして読んでいました。
 今後の紙面についてですが、私は基本的な部分はあまり大きく変えるべきではないと思います。そのうえで取り上げ方に工夫をして、現場でもっと活かせるようにというご意見には賛成です。私はここ数年の本紙は捨てずに取ってあり、何か書くときにもう一度広げて参考にしています。だから、顔は変えて欲しくないのです。

◆JAの第一線をリードする人たちに読まれる新聞に

梶井功氏
梶井功氏

 梶井 大多和さんいかがですか。
 大多和 農林中金も他の全国連も元気なJAがあってのものですし、JAが元気に活動できるようにお手伝いするのが全国連の役割です。農林中金のあと農林中金総研社長のときには、そのために役に立つような資料などの要請があれば協力するようにと、研究員に話をしていました。
 新聞の内容については、先ほど北岡さんからもご指摘がありましたが、JAグループ以外の人たちにも農業協同組合や協同組合の意義や有用性について思いをもっておられる方がいることが分かり元気づけられます。できれば農協陣営だけではなく、外の人にも読んでもらいたいと思います。
 尾崎 最近は読ませてくれるものが多いなと思っています。私は論文がとても大事なのではないかと思います。日本のメディアで論文らしい論文を掲載する新聞はないのではないかと思うからです。良い論文を掲載するには、編集も大事ですね。大きな記事とトピックス的なものをうまく組み合わせるとか。
 論文で注意していただかないといけないのは、長ければいいというものではないので、精査する必要がありますね。事故米の不正規流通についての解説は、問題発生から間髪を入れず良い記事でしたが、米を担当していた者として欲をいえばもう一つ突っ込みが足りないと思いました。
 また、毎日発行されるのではないので、新聞の形式がよいのか検討してみる必要もあるのかなと思います。
 近藤 まとまった記事として大事なことが掲載されているので、切抜きを作ったりしています。ただ、文字が小さく読むのが大変かなと思いますね。
 いろいろな方々が登場されますが、全国連の方が多いと思いますので、JAや県段階では距離感があるように思います。また農業政策という面では行政との距離をどうとるかはなかなか難しいところがあるのかなと思います。とくにここしばらく農水省は構造政策ということで規模拡大や法人化あるいは選別政策をすすめていますが、それに対する論点が載っていますが、本紙の姿勢や距離感が難しいなという感じで読ませてもらっています。
 前田 紙面が固いかなという印象はありますが、系統だって書かれているので個人的には勉強になりますね。ただこの記事をJAの第一線で組織をリードしていかなければいけない現役の部課長クラスが読んで、“うちでもこういうことをしなければ”という思いをもってもらうために、もう少し部数を増やして欲しいと思いますね。現場の人たちは忙しいと思いますが、関心をもってもらい寸暇を惜しんで目を通してもらえるチャンスがあればいいなという思いがあります。
 新聞というのは毎日読み捨てるという感覚があるので、シリーズなどはファイルして保存できるような編集をしてもらえるとありがたいですね。

◆評論と報道を有機的に関連づけて

北岡 修身氏
北岡修身氏

 梶井 JA関係の方々のご意見をお聞きしてきましたが、研究者の立場から今村さんどうですか。
 今村 私はこの新聞にいろいろと執筆しているので批判される立場でもあるわけです。先ほどから固いといわれていますが、ずいぶん柔らかく書いているつもりです。そして私の基本原則は、現場から考えたことを書くことで、トップダウン的発想ではなく、ボトムアップ路線で書いているつもりです。現場で考えたことから一般原則とか政策課題や提案・提言をするように努力してきたつもりです。
 そしていま何をしているかといえば、JA総研研究所長として、地域の農業・農協の革新をどのように進めていくのか、という観点も踏まえて、全国の762の全JA組合長に所信を書いていただくように手紙を出しお願いをしています。
 調べてみると、戦後農協ができて62年経ちますが、全国のJA組合長の所信集がまとめられたことは一度もありません。これがまとまったらぜひ本紙にも載せてもらい、第25回JA全国大会に向けての新しい路線をつくるための一助にしていただきたいと思います。
 近藤 昭和50年代末ごろに、7人の組合長にインタビューしてまとめた冊子を全中で出しましたが、全組合長はありませんね。インタビューをして分かったことは、もちろん共通項もありますが、地域が違うこともあり個性的でした。ですからいまなら762JAあれば762通りの組合長の所信があってしかるべきですね。
 梶井 藤谷さんいかがですか。
 藤谷 関西の研究者の間では、この新聞を読まない人は“もぐり”だといわれて、非常に注目されていますし熱心に読まれています。
 しかし、この新聞の性格は何かと考えると大変に分かりにくく、3つくらいの顔を持っています。一つは評論紙という顔です。これが研究者に非常に注目されている顔です。二番目は、農協協会の協会活動PR紙という顔です。三番目が、報道紙という顔です。この報道紙という顔が一番弱いという感じがしています。農業・農政面と農協面の評論についてはきちんとやっていただいていますが、もっと報道面で取材できる部分があるのではないかと私は思っています。
 さらにいえば評論面と報道面をどう有機的に関連づけるか。いままでもそうしてきたことは分かりますが、もっともっと有機的な関連づけを工夫しないと新聞らしくないのではないかと思います。そのことでどこにもない存在、ユニークな存在を主張できる新聞として発展させることができるのではないかと思い期待をしています。

◆世界はどんでん返しの時期問われる紙面の企画力

熊谷 健一氏
熊谷健一氏

 梶井 最後になりましたが山地さんお願いします。
 山地 いま活字ジャーナリズムの衰退ということがいわれ、困難なところにきています。それはテクニカルな問題では解決できません。大新聞でも広告がwebに取られ毎年減少しています。そしてテレビにも翳りがみえてくるなど、構造変化にどう対処するかというところにきています。
 本紙に限ってみると逆に有利な条件があるといえます。本紙が80年前に創刊されたときは、世界大恐慌のときですが、いままた世界がどんでん返しの時期に入り、このあとの世界をどういう筋道で描くかを考えるときになっているわけです。米国や欧州で起きたことは遠いかもしれないけれどいつか必ず影響を及ぼしてくる。そういうものをどう受け止めたらいいのかと考えたときに、JAの役員も職員もこの新聞を読むことになると思います。そういう記事が出なければいけないし、そういう人を動員する企画力をもち、コミュニケーション能力を養っていかなければいけないと思いますね。
 梶井 記事が長くて読みにくいという指摘がありましたが、その点については山地さんはどうお考えですか。
 山地 問題は何といっても工夫ですよ。長いというなら必ず要約をつけることです。座談会などでは読みやすくするために、もう少し細かく区切ってとっつきやすくすることが大事ですね。最近は写真やグラフなども使いかなり工夫をしていると思っています。
 それから最近では大新聞では問答スタイルの記事が増えていますが、誰にでも分かるようにし、場合によってはJAの広報誌にも転載できるように考えてあげることなど、工夫以外にないですね。
 そして、協同組合という理念によるビジョンとそれを実現するために情熱をかけて新聞を発刊した創業者の田中豊稔さんを私は尊敬しますし、その初志を忘れずそのことが上手に知らされ、読者のハートに訴えることが重要ではないかと考えます。

◆迎合せず「本当にそうか」という疑問を大事に

近藤 博彦氏
近藤博彦氏

 梶井 この1、2年の記事で記憶に残っているようなものがありますか。先ほど仲野さんからは『現代の「論争書」で読み解くキーワード』という話があり、尾崎さんからは事故米についてありました。私はこれは他の新聞では取り上げていないし勉強になったと思ったのは「農薬の安全性を考える」というシリーズで、千葉大の本山教授の研究成果を取り入れ、農薬を空中散布しても人や生態系に影響がないという記事でしたね。
 山地 JAの経営者にインタビューしてまとめた山崎誠さんの「JAリーダーの肖像 ―協同の力を信じて」は素晴らしいと思いましたね。
 前田 個々の記事というよりは、JAと農家組合員あるいはJAと生協との結びつきを苦労して実現したという事例を知ることが、全国的に運動を展開するうえでは大きいと思い読んでいますね。
 山地 現場に行って生の実情を知り、生の声を聞き、一般化について示唆をすることは時間がかかることだけど、一番読まれるのだと思いますね。
 足立 梶井先生の「時論的随想」は、まことに農業関係者の溜飲を下げる内容で気分がよくなりますね。
 それから最近では9月10日号の1面で「原料原産地表示は食品の安全性を保障しない」という一般マスコミの論調とは違う視点から解説されていて、考えさせられました。マスコミの論調はそれがさも正しいかのような伝え方をしますが、それが常に本当ではないことは歴史が証明しています。「本当にそうなのか」という疑問は物事を考える出発点ですし、迎合しない報道姿勢は希少価値があります。これからも「○○は本当に正しいのか、事実なのか」という検証記事を期待したいですね。
 熊谷 愛知県JAひまわりで開催された農業協同組合研究会の梶井会長の第8回シンポジウムの報告で、山下一仁前農林相農村振興局次長の執筆した「農協との決別なしに農村は復興しない」の論文に真正面から批判した記事が印象に残っています。消費者、大企業の経営者が誤認する内容のあの記事を農協関係者は許すべきではない。できれば日本経済新聞で反論してほしかったです。
「農業協同組合新聞」紙面審議会(下)

(2008.11.26)