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JA全農酪農部特集
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生乳・乳製品の販売促進と需給調整機能の強化をめざす

JA全農酪農部 林譲二部長に聞く

 来年3月から乳価再引き上げが決まり、飼料価格高騰で経営環境が厳しくなっている酪農家にとってやや先の見通しが持てる状況になってきた。しかし、景気後退のなか消費減退が牛乳・乳製品に与える影響が懸念される。酪農の生産基盤を維持していくための生乳・乳製品の販売促進にも期待がかかる。安心・安全な国産牛乳・乳製品を安定して供給していくためのJA全農酪農部の今後の事業展開について林譲二部長に聞いた。

◆生産意欲につながる乳価引き上げ

JA全農酪農部 林譲二部長
JA全農酪農部
林譲二部長

 ――まず酪農の生産現場の情勢についてお聞かせください。
 いちばん大きな課題は何と言っても生乳生産費の高騰です。
 直近ではかなり値下がりしてきましたが、世界的な金融危機が発生する以前は飼料だけなく燃料も含めて高騰しておりました。一方で生乳が適正価格で売れず、経費だけが上がり、当然のことですが生産者の手取りは減る状況が続いています。減るどころかマイナスになる場面も出ており、そうなると生乳生産も順調には伸びないということになります。
 今年の生産量は北海道では前年比102%を超えるぐらいになると思いますが、都府県は前年比97%前後になるのではないかと思っています。北海道が伸びているのはやはり自給飼料が確保できるからで、購入飼料高騰の影響は都府県よりも少ないということです。しかし、都府県はどうしても購入飼料が中心ですからコスト上昇でかなり離農も進んでいます。
 全農酪農部では生乳、乳製品販売事業のほか、乳用牛導入事業も展開しており、優良な乳用牛を酪農家に供給したいと考えていますが、生産者の手取りが思うように伸びないなか、乳用牛の更新もままならないという悪循環に陥っているのが大きな課題です。

 ――危機打開のために来年3月からの乳価再引き上げが決まりました。交渉の経過などをお聞かせください。
 4月から飲用向け生乳について1キロ3円の値上げが実施されているわけですが、それでも生産費の高騰に追いついていかないということから、各指定団体や中央酪農会議とも連絡を取りながら、今年10月からのキロ10円値上げを求めて6月末から乳業メーカーと交渉を始めました。
 7月末、そして8月末に回答を求めたわけですが、具体的な回答を受け取ることができませんでした。理由は、4月の値上げ影響の分析がまだ十分にできておらず、夏の需要期をふまえて回答したいと。しかし、それでは生産者がもたない、何としても9月末には具体的な回答が欲しいと交渉したわけです。回答をもらうことによって生産者の生産意欲につながっていくとの考えからです。
 そうした方針で乳業メーカーと交渉を進めたなか、日本ミルクコミュニティから飲用向けキロ10円の値上げ回答をもらいました。
 ただ、実施時期については量販店など関係先への交渉もあることから、21年3月の乳価から値上げということになったわけです。それでもこれが弾みになって明治乳業、森永乳業からも同レベルの回答をいただいた。今回、日本ミルクコミュニティが大手メーカーに先立って回答していただいたことについては私たちも非常に評価していますし、生産者からも評価されるはずだと思っています。
 これで生産者は意欲も湧いてくるし少し先が見通せたなということではないかと思っています。

◆需給調整が大きな課題に

 ――一方、生乳・乳製品の販売環境についてはいかがですか。
 乳製品については昨年あたりから飼料穀物高騰の影響や国際相場が上昇し、また、乳製品自体も豪州の干ばつなどで不足しており、ユーザーにとっては海外からの輸入品の手当てが非常に難しくなりました。
 国内の乳製品も、需要に合わせて18年度、19年度と減産型の生乳計画生産にしたことから、結局、国産乳製品が不足、春先にはバターが足りないと国が緊急輸入をしましたね。
 ただし、9月のリーマンブラザーズの破綻以降の金融危機による原油やトウモロコシ価格の低下の影響で一部、海外から入ってくる乳調製品も安くなってユーザーも少し手当てがしやすくなっています。脱脂粉乳については依然として不足が続いていますが、こういうなかで来年はどうなるのか。まず考えられるのが生乳も乳製品も需給緩和してくるのではないかということです。
 ――どういう理由からでしょうか。
 これだけ消費が減少しているなか、価格転嫁が消費減少に拍車をかけるのではないかということです。
 現在、飲用向け消費は前年比で97%程度ですが、それがさらに数パーセント下がる可能性はあると思います。一方、生産は乳価が上がれば生産意欲も出てきますから回復するということになると思います。生産がそれなりに回復・維持されるなかで消費が落ちれば当然、需給は緩和してくる。乳製品の消費も落ちるとみられますから全体として需要が減退してくるのではないかとみています。
 他方、海外の乳製品は安くなってきていますから、ユーザーにとっては手当てをしやすく、海外の乳製品が入ってくることになる。来年上期はまだ脱脂粉乳が不足しているでしょうからそれほどでもないでしょうが下期には需給緩和が明確になってくると思います。
 そうなれば生乳の需給調整にも取り組まなければならなくなります。
 われわれは需要期の夏は北海道、東北、九州などの産地から首都圏、中京・関西圏に牛乳向けに回す広域流通生乳という取り組みを行っており、一方、冬は余乳を処理して乳製品を製造するという需給調整をしています。こうした機能をますます発揮しなければならないと考えています。
 これが酪農部に課せられた最大の課題でいかに円滑に行っていくかです。

総合乳価の推移

◆生産基盤を守るための乳製品販売に力入れる

 ――販売事業の課題についてはどう考えておられますか。
 売れるものをいかにリーズナブルな価格で供給していくかだと思っています。
 たとえば、今年は脱脂粉乳が足りない分は脱脂濃縮乳で供給しようとかなり力を入れました。脱脂粉乳よりもフレッシュで風味や味がいいですから、そういう面でのアピールができればと思っています。もっともそれだけに価格が高いので使いやすい価格で供給することも課題になると思います。液状乳製品は生産者、乳業メーカーにとっても取り組みを進めていかなければならない乳製品で、これらは脱脂粉乳やバターと違って賞味期限が短く簡単には輸入できないからです。
 そのほか売れ行きが見込めるものとしては殺菌乳があります。これは缶コーヒーなどの飲料に入れる牛乳でかつては脱脂粉乳が使われていました。これも味が違うという理由もありますが、脱脂粉乳は需給変動が大きいこともあり手当てがなかなか難しいということもあります。殺菌乳は加工向けよりも優先的に供給ができるということもあって、味の点に加えてある程度安定的に確保できるということですし、ユーザーにとってはハンドリングもいい。粉乳を溶いて使うという必要はなくそのまま使えるわけですから。ということから大きく伸びてはいませんが落ちてもいない。こういう液状乳製品をリーズナブルな価格で供給できれば需要は増えると思っています。
 ――消費拡大運動についてはどう取り組みますか。
 消費拡大や理解醸成運動は生産者団体と乳業と普及協会で作った日本酪農乳業協会(Jミルク)や中央酪農会議と連携して取り組んでいます。そのなかで今年初めて6月1日を「牛乳の日」と設定しそのイベントにも参加しました。
 酪農部としての取り組みは一般紙の広告で牛乳のよさや牛乳がどうやって生産されているかなどを年4回ほど全面広告でアピールしていますが、これは続けていこうと考えています。
 牛乳の日のイベントでは搾乳体験なども評判でしたし、消費者の方は牛乳を基幹食品のひとつであるという意識を結構持っていただいているのではと思いました。こうして成果も徐々にではありますが出てきて、これが大きくなっていけばいいと思っています。
 ――ありがとうございました。

(2008.12.12)