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農業倉庫火災盗難予防月間スタート(20年12月15日〜21年2月15日)
農業倉庫火災盗難予防月間スタート(20年12月15日〜21年2月15日)

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良質米の質を落とさず保管管理し消費者の食卓へ

現地ルポ JAなすの(栃木県)

 農業倉庫はカントリーエレベーター(CE)とともに、米麦の販売・流通の重要な拠点施設だ。火災盗難はもとより、近年は米についても安全・安心は当たり前と考えられ、生産履歴と同様に倉庫における「保管履歴」の開示が求められるなど、細心の品質管理がなされなければ、産地として選ばれない時代になってきている。
 JAグループは毎年この時期に「農業倉庫火災盗難予防月間」運動を実施している。自主保管管理体制を再点検し、よりいっそうの充実強化をはかるこの運動の意義は、年々高くなってきている。そこで今年は、8600t強を保管できる低温倉庫をこの9月に稼動した関東の良質米産地・JAなすの(栃木県)に取材した。

中央ライスターミナル(品質向上物流合理化施設)
中央ライスターミナル(品質向上物流合理化施設)

◆バラ集出荷施設を集約し一元管理する拠点に

寺崎課長(右)と細岡係長
寺崎課長(右)と細岡係長

 「うわ! でかい…」。取材に訪れたときの第一声だ。間口25mの倉庫が6室連なっているから150mある。奥行きは下屋を含めると41.5m(倉庫部は26.5m)、倉庫の高さはもっとも高いところで9m。収容能力はフレコン5220t強プラス紙袋3400t、合わせて8600t強の低温倉庫だとJAなすの営農経済部の寺崎政徳米麦課長は庫内を案内しながら説明してくれる。
  今年8月に竣工、9月から稼動したこの倉庫の正式名称は「JAなすの品質向上物流合理化施設」という。JAのホームページでは「中央ライスターミナル(倉庫)」と施設一覧で表記されているので、本紙では親しみのあるこちらを使わせてもらう。
  正式名称にもあるようにこの倉庫は、JAなすの管内の3つのCEや2か所のライスセンター(RC)などで集荷された米を管内ほぼ中央に位置するこの倉庫に集約して一元管理することで物流の合理化とコスト低減をはかり、低温倉庫による品質管理で年間を通して良品質米を安定して供給することを目的に建設された。
  倉庫の前に広い空き地が広がっている。不思議に思ってみていると、「ここの敷地は4haあって、CEと集荷施設も建設予定」になっているのだと細岡盛米麦課係長が教えてくれた。つまり米も野菜もここに集めて品質管理し物流を合理化するJAの大拠点にしようという計画なのだ。米については「均質なものをつくりバラ出荷しコストを抑えていきたいから、ここで一元管理したい」のだと寺崎課長は構想を語る。

◆日本有数のコシヒカリ産地JA

 JAなすのは、栃木県の北端に位置し、大田原市・那須町・那須塩原市の2市1町からなり、平成8年に管内6JAが合併して誕生した。東は八溝山系を境に茨城県と北は那須山脈で福島県と接し、那須・塩原などの観光地も抱えているが、那珂川水系の河川が流れる平野部には那須扇状地がひらけ、首都圏に近いという地の利も活かして、水稲、畜産、園芸などの農業が盛んな地域だ。
  この地域で生産されている農畜産物には、「那須の春香うど」「栃木のニラ」「栃木のトマト」「那須高原のアスパラ」「那須の美なす」(ナス)、「那須の白美人」(ネギ)、「那須の春菊」「那須の生しいたけ」「那須のブロッコリー」「栃木のイチゴ」をはじめ数多くの園芸作物が作付けされ「園芸目指せ100億円」をスローガンに奮闘している。また、畜産でも和牛が全地域で飼育され「栃木の和牛」の主産地となっている。
  しかし、JAの販売事業221億円強の43%を占める約95億円が米の販売(19年度)だというように、この地域の農業の主体は水稲で、その生産能力は100万俵(60kg)あり、現在は約70万俵を出荷している。生産拡大を推進している早生の「なすひかり」もあるが、その95%がコシヒカリだというから、JA段階でみれば日本でも有数のコシヒカリ産地だといえる。

◆生産者の思い込め独自基準で栽培される「なすそだち」

出荷を待つ「なすそだち」
出荷を待つ「なすそだち」

 JAでは、温湯消毒された種子の使用、使用農薬成分を11に抑え(県基準は16成分)、病害虫防除は箱施用と無人ヘリ防除、1.85mm以上の網目使用、種子更新100%、生産履歴を必ず記帳するなどの生産要件や水管理、施肥体系などを含めた独自の栽培基準を設定した「JAなすの新安心基準米」の生産拡大に積極的に取り組んでいる。
  そしてこの米を全農を通じて販売している「栃木こしひかり」とは区別し、独自ブランド「なすそだち」(商標登録取得、左上写真)として販売をしているが、これをさらに拡大していきたいと考えている。「なすそだち」に、県内でも良質米産地として知られるこの地域の生産者の思いもこめられているように感じられた。
  この米は現在、環境に優しい米として生協関係にも販売されている。生協では「田んぼの生き物調査」を行ったり田植えとか収穫のときに生協組合員が訪ねてくるが、生産段階だけではなく、収穫後にどのように乾燥調製され食卓に届くまでどのように保管されているのかについても関心が高まっているという。
  CEで乾燥調製された後、籾摺りされてこの倉庫で低温保管されることで、常に一定の品質が保たれていることを知ると「安心する」という。そのことで、消費者の産地に対する信頼がさらに深まるという効果もあるようだ。

◆全倉庫を年4回自主点検し事故防止

 倉庫は単に保管することから、収穫された米を食卓に届くまで、収穫されたときのおいしさを保つように保管・管理することで、米穀販売事業の拠点施設としての機能を果たすことになる。それだけ倉庫の管理担当者の責任は重いともいえる。
  JAなすのでは、8月から稼動したこの倉庫に、常時2名の職員を配置し、入出庫・在庫管理から穀温・水分管理などの倉庫管理業務に万全を期している。取材に訪れた11月上旬は、RCなどからの入庫分だけで、大口のCEからの入庫は年明けからになるという話だったが、フレコンに詰められきちんとはいつけされた「なすそだち」が出荷を待っていた。
  新築の倉庫だから、火災報知機や消火栓など火災への備えは万全で、防犯についても警備会社と契約するなどしており心配はないといえる。
  5つの倉庫を集約化してこの倉庫が建てられたのだが、JA管内にはまだ30の倉庫がある。JAでは、在庫確認と保管管理を点検するために、米麦課職員全員で、全倉庫を「年に4回、自主点検」している。そこで問題点があれば即改善してきている。倉庫の点検は、品質保持、在庫管理のために必須な作業だが、忙しいとついつい後回しにされることが多い。全員で年4回自主点検しているJAなすのの姿勢には学ぶことが多いといえる。

◆これからも注目される米販売戦略

 独自の「新安心基準」で生産され「なすそだち」のブランドで生協からの信頼をえ、さらに一般実需にその輪を大きく広げようとしているJAなすのにとってこの「中央ライスターミナル」の建設は、「品質を一定にし、消費者に届けるまで質を落とさず」保管することと、正式名称にも現れているように、この場所にバラ管理施設を集約することで「物流合理化」を実現し、品質とコストの両面での優位性を築くことで、これからの米販売戦略を進める第一歩といえる。
  関東北部の良質米大産地であるJAなすのの動向はこれからも注目されるにちがいない。

(2008.12.16)