特集

新年特集号
食料安保への挑戦(3)

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【インタビュー】
農業復権こそ国民の期待に応える政策

環境変化に即した貿易ルールの構築を
市場原理主義の修正で未来を拓く
山田俊男 参議院議員
インタビュアー:梶井功 東京農工大学名誉教授

 農業、農政などでグループにとって課題の多い一年が開けた。WTO農業交渉は予断を許さない状況にあるなか、新年早々には自給率50%を目標とした基本計画の検討が始まる。生産者、はもちろん、消費者にとってもこの国の食と農の将来展望を拓く議論に期待は高い。今、農政はどうあるべきか。山田俊男参議院議員と梶井功東京農工大名誉教授に語り合ってもらった。

◆作り直しが必要なWTO交渉

 梶井 山田さんの新年の国政報告のなかで、WTO交渉について、各国の多様な農業の共存を図ろうという日本提案の趣旨が生かされておらず、今も続く食料危機の解決にならないWTO交渉は作り直すことが必要である、と主張されていますね。私も大賛成です。
 山田 いちばんの問題意識は昨年のFAOサミットと洞爺湖サミットは、地球温暖化による異常気象の多発と食料価格高騰などを背景にして開催されたのではなかったかということです。
 では、その後、サミットをふまえてWTO交渉での議長案が修正されているかといえばどこにもそれはない。むしろ先進輸出国寄りのまとめをしようとし、途上国に対しては分野別工業製品の関税撤廃も主張している。時代の変化に全然即したものになっていないということがいちばん納得できません。
 梶井 ドーハラウンドは開発ラウンドとなっていたはずですが、途上国の利害の反映はほとんど考えられていないと思いますね。
 山田 そうです。中国、インドなど食料輸入途上国にとって輸入急増にセーフガードが発動できる項目はものすごく大事なルールだと思います。そこを米国が譲らない。これでは途上国への配慮、食料輸入国に対する配慮、それから食料をめぐる新しい環境変化、これをまったくふまえていない。
 とくに昨秋以降、金融危機が深刻化するなか、これは新自由主義を押し進めた結果だとの反省もなく、貿易と投資の拡大を背負わせるためだけのWTO交渉になってしまった。開発ラウンドであるという理念が放り投げられているのではないか。ここは日本も考え直さなければならないことです。
 梶井 今こそどういう貿易ルールであるべきかを考えるときなのに、今の交渉枠組みに合意することが金融危機をも救うなどという議論はおかしいということですね。そういう意味でWTOの作り直しは非常に重要だと思いますが、党ではどういう議論になっていますか。

◆多様な農業の共存に向けた国民の合意形成を急げ

山田俊男 参議院議員
山田俊男 参議院議員

 山田 ジレンマに悩んでいると思います。ひとつは、景気が低迷どころか恐慌状態で、わが国輸出企業は円高で苦しみ雇用問題も抱えている。ここでWTO交渉を日本が止めたといった話には到底できないとの考えがあると思います。
 しかし、かといって今のファルコナー議長案では重要品目数の8%確保も厳しい。ましてや砂糖とでん粉について何としても関税割当の新設を実現しなければならないという課題もある。それからミニマム・アクセス(MA)。昨年の事故米問題は、現行の約77万トンものMA米が処理できないことも原因だったわけで、それが今の議長案では100万トンを超える。これは到底受け入れられない。
 こういうジレンマに苦しんでいるわけですが、だからこそここでもう一度原点に立ち返り、開発ラウンドの名に値し、それから輸入国への配慮をきちんと盛り込み、さらに食料高騰、食料不足という新しい環境のなかでの、農産物貿易のルールはどうあるべきかについて、やはり提起せざるを得ない。政府にもしっかりと認識を一致させた対応を求めたいと考えています。
 梶井 この問題は孤軍奮闘になるかもしれませんが、本当にがんばってもらわなければならない問題です。
 山田 場合によっては政権交代も、という年ですが、では、民主党の小沢代表がいつも言っているように、わが国は貿易立国だから農業も例外ではない、という路線で交渉が進められていいのか。
 だからこそ国民合意が必要なんです。経済界、マスコミも含め、新しい環境のなかでわが国の食と農を全体としてきちんと守る、とりわけ大事な国民の主食である米、それから農地、担い手、美しい景観、これを守るという国民合意を早急に実現しなければならないと思います。

◆生産力を強化できる担い手育成が重要

 梶井 さて、食料自給率50%に向けた工程表が出され1月から審議会で議論していくということですが、これは相当の覚悟がなければ難しいと思います。この問題ではどこに重点を置くお考えですか。
 山田 食料自給率の向上は、国内生産の強化と消費者にきちんと国産を選択してもらうという両面が大事ですね。そのうえで生産面としては農地利用のあり方、耕地利用率、それから担い手対策、作物対策、この4点がポイントになると思います。
 農地は、かつてより少なくなっているとはいえ引き続き転用が進み、しかも狭い農地で転用が進むから効率的に利用できる環境はますます悪くなっている。私は農地の問題は、都市づくりは一体どうあるべきかということと改めて関連させて考えるべきだと思っています。たとえば、公共施設も届け出制だけでいいのか。農地のいたずらな転用を規制することが求められます。
 担い手対策のポイントは農業できちんと食べていける働き手を作れるかどうかにかかっています。耕地利用率の向上は、つまり二毛作ができるかどうかでもあります。そのためにはやはり集落営農がきちんとできており、そこに中心となる担い手がいて農地を団地的・効率的に利用し、冬作にも取り組めるという形がなければならない。そうなるとやはりしっかりした担い手を意識的に作り上げていかないといけない。その担い手に対して直接支払いをきちんと行うという施策がなければならないと考えています。
 この点については農業者を選別せず、とにかく生産費をカバーできる所得補てんをしていけば、自ずから担い手が育ち、そして一方では担い手に農地を任せようという人も出てくるはず、という考え方もあります。しかし、私には、現状を考えるとスピードが必要ではないかという心配がある。意識的に担い手を作るため、困難ですがどうしても政策にけじめをつける仕組みに踏み出していかなければいけないのではないか。
 ところで、作物対策については、今度は飼料用米や米粉について10アール当たり5万5000円を支払うという仕組みにしました。これは相当の対策ではないかと思っています。

◆農地と後継者確保策をどう構想するか

 梶井 農地の転用について原点に戻り厳しく規制するということは大賛成ですが、今後10年、転用をゼロにするのは実際は難しい。重要になるのがその穴埋めをするための農地を作る対策であって、たとえば混牧林の設定なども考えるべきです。
 これからの畜産のあり方を考えれば今まで通りの濃厚飼料依存はあり得ないでしょう。やはり国土を利用した畜産をもう一回見直すことも考えなくてはならない。その際、山のなかに多い耕作放棄地を復活させようするなら周囲の山と一緒に混牧林として利用できる仕組みをつくるほうがはるかに有効な土地利用になる。私は今の草地利用権設定の規定を拡充し、林地と共存できる混牧林として活かせるような制度に仕組み直すべきでは、と思っています。
 山田 なるほど。そこは大いに検討しなければなりませんね。
 梶井 担い手政策については、私は2つに分けて考えるべきではないかと思います。ひとつは担い手を特定する対策ですがそれは後継者対策ではないか。
 フランスのD(就農助成金)は10年間農業でがんばるという青年に日本円にして年350万円ほど支給する。しかもその彼女も一緒にがんばるというのであれば2人分つける。特定の担い手対策の必要性を言うなら、それは若い農業後継者についての手当を制度化すべきではないかということです。
 そしてもうひとつの政策が飼料用米や米粉用米、それから裏作麦などに対して不足する所得に追加払いをつける政策を担い手対策とする。ただしこれは人ではなく生産物に助成する仕組みで考えるべきだと思います。
 指摘したいのは、所得補てん対策を生産物、販売物を対象に実施しても、50アール未満の方々の層のウェートは小さいということです。全農家を対象にする政策はいかがかと言われますが、ウェートを考えれば対象者を限定した場合とくらべ財政負担がそれほど多くなるとは思えないですがね。
一方、支援対象を最初に限定する政策では規模拡大意欲を持てない人が出てくるということが問題だと思うんです。

◆途上国、輸入国への配慮の実現を

 山田 生産に対する対策は否定しませんが、作物の価格を支えるための補てんにはなかなか国民合意が得られないだろうと思います。ここはやはり所得補てんの仕組みが必要ではないのか。私は、構造改革一点張りの考えで対象農家を絞り込めとか、他国と競争力のある経営体を作れ、といった極端な市場原理主義の人たちが言っていることを受け止める気は毛頭ないんです。また後継者対策の重要性は同感です。しかし、少なくとも地域のなかで伸びていこうという経営や、あるいは地域の農業生産の向上を実現できる経営に向かって進もうとしているところに対策を打っていくことが必要だということです。
 梶井 生産物に対する所得補てんについては、今のWTOの規則では輸入国であろうと輸出国であろうと無差別に規則を当てはめていること自体が非常に問題なんですよね。同じ国内助成政策のあり方にしても輸入国でやっていることと、輸出国では意味が全然違う。この点はWTOの場でも断固主張していってもらわなければならないと思います。
 山田 そこはFAOサミットなどで福田前総理を始め各国の首脳がそれぞれの国で農業生産力を強めていかなければならないと言ったことと軌を一にすると思います。
 この問題も新しい環境のなかでのWTOルールとしてどう認めさせるかという大事な点です。輸入国や途上国における農業生産の強化について配慮あるルールを作るということですからね。
 梶井 議員のおっしゃる農業復権に向けた年になるようご活躍を期待します。

対談を終えて
  議員が年頭に配られた「山田としお国政報告」第3号には、“今年こそ農業復権の年に”という大見出しがつけられていた。議員の意気込みがよくわかる。
  09年は重要課題が山積している。WTO農業交渉も、今年が決着の年になるのだろう。食料自給率を50%に引き上げる食料・農業・農村基本計画改訂論議が始まる。株式会社に大きく農業参入の道を開く農地法改正も用意されている。農林水産省自体が、地方農政事務所廃止も視野に大改革されるらしい、等々。どれ1つとっても容易ならざる難問である。これらの難問を、“農業復権”になるように解けるかどうか、である。
  特に問題なのはWTO農業交渉だが、議員も問題にされていたように、今のWTOのあり方は“時代の変化に全然即したものになっていない”。
  “新しい環境のなかでの農産物貿易ルールの構築”が、“農業復権”の大前提になる。頑張ってほしい。(梶井)

(2009.01.21)