特集

女性特集 第54回JA女性大会−いきいきした町づくり・村づくりをめざして
食料安保への挑戦(4)

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【提言 農村女性のみなさんへ】
生産者と消費者の強固なスクラムを築こう 地域を拠点とする協同組合運動のさらなる発展を

生活クラブ生協連合会 会長 加藤好一

◆遊佐町の人びととの出会い産直提携の礎としての「せっけん運動」 かとう・こういち...

◆遊佐町の人びととの出会い
産直提携の礎としての「せっけん運動」

生活クラブ生協連合会会長 加藤好一
かとう・こういち 昭和32年生まれ。55年大学卒。生活クラブ生協(神奈川)入職、63年同理事に就任、平成3年コミュニティクラブ生協専務理事に就任、平成6年退任、同年生活クラブ(神奈川)常務理事就任(政策調整部長兼務)、8年生活クラブ生協連合会計画部部長、11年同常務理事就任、12年同専務理事に就任、18年同会長理事に就任、現在に至る。同年生活クラブ・スピリッツ(株)取締役就任、現在に至る。

「第54回JA女性大会」の開催、誠におめでとうございます。JAの女性の皆さんのご活躍に心から敬意を表します。
私がJAの女性たちの活動としてまず頭に浮かぶのは、遊佐町農協(当時)の女性部の、1974年から現在まで続いている「せっけん運動」のことです。生活クラブはこのところ、山形県庄内地方で取り組んでいる、豚に給餌するための飼料用米の生産で注目されていますが、その中心がこの遊佐町です。遊佐町は秋田県との県境にあり、鳥海山からの豊富な湧水に恵まれた日本有数の米どころです。その美しい景観は私たちの誇りです。
この遊佐町とは1972年から米の産直をすすめてきました。遊佐町は合計18万俵の米が生産されますが、このうち10万俵を、生活クラブ組合員が年間予約登録を基本に食べています。さらに33%ほどある米生産調整の圃場で作られる大豆や園芸作物等にも取り組み、現在ではその提携関係が複合的、重層的な形になっています。こういう提携の歴史を重ねるなかで、5年前から飼料用米の生産に着手したのです。
当時、増えつづけた生産調整の結果、産地では大豆の連作障害等いろんな問題が噴出していました。一方、中・長期的には「食料危機」の不安が、短期的には遺伝子が組み換えられた米国産の穀物の増大によって、これからどのようにして「素性の確かな」遺伝子組み換えでない飼料を手に入れていくべきか、という大きな課題に直面していました。
そんな状況のなかでの飼料用米の生産でしたが、その作付面積は年々倍増し、昨年は遊佐単独で170ヘクタール、隣の酒田市と合わせると320ヘクタールにまで拡大しました。この取り組みは、今日の日本農業の課題とも言える、「水田フル活用」に向けた意義ある実験だと自負しています。
こうした遊佐町と生活クラブとの関係の礎にあるもの、それが遊佐町農協女性部の「せっけん運動」でした。遊佐町の美しい景観を守り、とりわけ米づくりに不可欠な「水」を汚さないためのこの活動は、大いに生活クラブの女性たちの共感するところとなりました。この共感を出発点として、今日の提携関係が築かれてきたといっても過言ではありません。

◆協同組合運動の新しいうねり
がんばれ!「農村の女性たち」

ところで、私も仕事柄、提携産地に訪れる機会が多いのですが、日常的なJAのみなさんとのお付き合いの相手は多くは男性諸氏であり、女性のみなさんのお顔を拝見する機会は限られたものでした。しかし、生活クラブは生協であり、その組合員の大半は女性です。とすれば、生協組合員とJAの女性の皆さんとの交流・意見交換をもっともっと活発にしていく必要があるはずと、常々思ってきました。
食料自給率が40%にまで低下し、生産現場では高齢化が進んでいます。耕作放棄地も増え、「限界集落」という言葉も日常用語になるかの状況です。こんな厳しい農業を取り巻く情勢のなかで、そこに活力を持続させるべく努力しているのが、「農村の女性たち」であることを私たちは知っています。だからこそ、そういう女性たちがもっともっと登場してほしいと思うのです。
昨今あちこちにある農産物直売所の活況(本当に多くなりました)、農産加工品や郷土料理などを事業とする地域での起業、そういう場での伝統的な食文化や生活技術の継承、戦後の日本の農業を支えてくれた「昭和1ケタ世代」のリタイアが進行しつつあるなかでの「福祉・介護」の活動。
こういう生活と地域が必要とする活動を、主人公となって担う多くの「農村の女性たち」がいる。本当に心強いことです。そこには、従来とはやや違った意味における、今日的な「総合農協」の姿があるように思えます。
農業生産基盤をどう立て直すかの課題とともに、新たな雇用や福祉・介護の仕組みをどうしていくかも重要な地域の課題のはずです。生産活動を含む「生活のあり方」それ自体が「多面的」なわけですから、このように事業と運動が「地域」の中で「総合化」するのは当然です。
昨秋の米国発の金融危機において明らかになった、自分だけ、その時だけよければいい、という利益追求のみを旨とする強欲な経済至上主義。その対極にあるのが協同組合運動であり、その協同組合運動の新しいうねりとも言える「農村の女性たち」の活動と元気は、未来への希望です。

◆生活クラブの女性たちのがんばり
共同購入から起業・地域福祉へ

飼料用米イメージ
生活クラブ生協では、餌の自給率向上や地域の環境、農地の保全をめざして、減反田を利用した飼料米を豚に与える事業を実現した。

ところで、生活クラブの女性たちも、「農村の女性たち」と同じような活動に、1980年代の初頭から取り組んできました。その一つが生活クラブで「ワーカーズ・コレクティブ」と呼んでいる、組合員が主体となって始めた「働く場」づくりの運動です。「雇われでない働き方」「自らが経営者でもある働き方」を目標に、「協同組合原則」をふまえつつ仲間同士で出資しあって起業するのです。
こういう起業は、当初はレストランや仕出し弁当、パン屋など、「料理」や「食」に関係するものから始まりました。しかし、数年にしてリサイクルショップ、保育、編集などに業種が広がり、現在では600団体、総事業高136億円、そこで働く女性たちは1万7000人を超えています。生活クラブの組合員総数は31万人ほどですからかなりの数です。
1990年代には、こうした運動は高齢者を中心とする地域福祉(市民参加型福祉)の分野に活動の場を広げます。特に2000年に介護保険制度が導入されて以降その数が急激に増え、いまでは生活クラブに関係するワーカーズ・コレクティブで、最も事業所数・事業高が多いのがこれです。
生活クラブ生協は、これらの女性たちの活動を支援し、広げていくために、特別養護老人ホームやデイサービスなどの建設にも努力しており、いまでは首都圏を中心に重層的な地域福祉のネットワークが張り巡らされています。
訪問介護、通所介護、食事サービス、居宅介護支援等、たくさんのワーカーズ・コレクティブがこれらの活動を担い、これらのサービスを提供するメンバーの数は1万人を超えています。サービスを受ける側の利用登録者数も5.5万人になり、これら福祉関連の総事業高は90億円を超えました(事業実績関連の数字は2007年度のもの)。
「農村の女性たち」の各地における活動は、生活クラブの女性たちのこのような事業と運動と、大いに重なり合うのではないでしょうか。こうした、協同組合による「多面的」「総合的」な地域活動の分野においても、これから相互の経験交流や事業提携がすすめられたら素晴らしいことだと思います。

◆待ったなしの食料自給率向上
不可欠な生産者と消費者の相互理解

昨年生活クラブは、食料自給率向上のための、「政策提案運動」に取り組みました。総選挙が近いといわれた昨年の秋に、「水田フル活用」等を推進させていくための政策提案を、大慌てで全政党に提出し、回答を得ました。
その動機は、一昨年くらいからの世界的な「食料危機」が、食料自給率の低い国々(日本や特にアフリカ等の南の国々)をもろに直撃したからです。
生活クラブはこれまで、産直提携を通じて、飼料用米や国産油糧原料としての菜種の生産振興など、食料自給率向上のために様々な取り組みを進めてきました。その取り組みのなかで、中・長期的に安定した農業経営が展望できるような、政策的・財政的な支援の必要を痛感してきました。その思いをいまこそ社会に訴えかけていこうと考えたのです。
この運動がどれほどの成果をあげたかはわかりません。しかしこの運動を通して、大切なことを再確認できました。それは組合員リーダーたちの、「消費者が受身ではなく、市場に(考え行動する)主体として登場しないと」という「決意」に表われています。
当時、東大教授でいまは熊本県知事である蒲島郁夫さんが、小泉元首相が例の「刺客」を大量に送り込んで大勝利した総選挙の直後に、朝日新聞の紙上で次のようにコメントされていました。
「自民党の劇的な勝利の背景には、都市と地方との連帯の薄れがある。かつて都市には農村出身者が多かった。古里があった。だが、都市部の出身者が増えるにつれ、都市から地方への所得の分配は批判を浴びるようになった」。
消費者と生産者の分断は、都市と地方との分断につながります。これをどう相互理解と対等な形にしていくかが、今日の大きな課題です。「食」の不祥事がもたらしてくれた国産志向を本物にし、低価格に追い詰められている一次産品の価格を「適正」にしていくためにも、それが問われています。そして、どう決着するにせよ、WTO交渉後の様々な問題に立ち向かっていくためにも、これは不可欠な課題です。
政策提案運動を担った生活クラブの女性たちは、各政党の関係者との話し合いのなかで、「農業政策」ではなく「食料政策」としての意味合いの大切さを訴え続けました。農村と都市、生産と消費を従来型に線引きせず、国民共通課題であるはずの「食料」問題(=「環境保全」)という理解を広げることの大切さ。そのためには従来の「消費者」とは違う、新しい「主体」を「消費者」のなかに登場させていかなくてはという熱い思い。組合員リーダーたちの「決意」とはこのことです。
私たちは、生協活動を通して、今後とも消費者として生産現場を知ることの必要をさらに訴えかけていきます。そして、「自給」「循環」を基本とする、「命と食」の運動にさらに取り組んでいくつもりです。
同時に私たちは、日本の「食料」問題を解決していく手がかりは、「農村の女性たち」の元気と、そういう皆さんによる「生産者と消費者の掛け橋」としての活動をおいて他にないと思っています。
社会情勢は困難を極め、今年は大変な一年になりそうですが、臆することなく、地域を拠点とする協同組合運動をより発展させ、生産者と消費者の強固なスクラムを築いていきましょう。

(2009.01.27)