特集

第55回全国JA青年大会特集
青年大会特集

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【現地ルポ】
新ブランド「かすやそだち」始動

青年部がJAを動かした!
現地ルポ 「千石興太郎記念賞」に輝いたJA粕屋青年部の挑戦

 2月17日の第55回JA全国青年大会で開催された平成20年度JA青年組織活動実績発表全国大会。九州ブロック代表として発表し、見事最優秀賞(千石興太郎記念賞)に輝いたのは福岡県のJA粕屋青年部だった。発表者の長澤基之さんは、青年部としてJA役職員などにプレゼンテーションを行い、米の新ブランド『かすやそだち』の立ち上げに尽力。そのほかにも地元小学校で合鴨農法による体験学習を主催するなど、地域貢献活動にも精力的だ。「みんながアイディアを出し合っていけば、農業経営・農協運動を変えていける」という意味を込めて、"知"が"参"集すれば"千"人と言わず農家全てが"笑"うことができる『知参千笑(ちさんちしょう)』をコンセプトに活動する長澤基之さんを訪ね、青年部や自身の活動などを聞いた。

◆農業はアイディアだ!!

JA粕屋は昭和58年に5農協が合併して発足したJAだ。福岡市東部に隣接した1市7町が管内で、基幹作物の米はJA粕屋PB(プライベートブランド)『おひさまの詩(うた)』として販売している。
組合員数1万3451人(うち正組合員数4528人)だが、青年部は160人と小規模だ。「男30で独立!」と決めていた長澤さんは平成17年、勤めていた広告代理店を辞め、専業農家として後を継ぎ、JA粕屋青年部に入った。
「最初の1〜2年は米3ha、アスパラ10aほどの耕地を、土日もナシ、盆正月もナシ、でやっていたけどぜんぜん儲けにならなかった。2年目はもう食べていけない…と諦めていた」。すでに結婚し2児の父だったが「このままでは家族を食べさせていけない」と悲観していたという。
しかし、まだ若いんだからどうにかなる、失敗しても次がある、と一念発起。「ただ作るだけでなく、販売戦略まで手がければいい。農業はアイディアだ。60〜70代の先輩たちではできないアイディアが、30代の自分ならできる!」と考え、広告代理店で培った経験も活かし、合鴨農法を取り入れ、ギフト用米の販売などをはじめたことでなんとか黒字経営へ転じることができた。
さまざまなアイディアを生産・販売に取り入れたいという考えは青年部の盟友たちも同じだった。
JA粕屋の管内人口は30万人。米を1人あたり年間60kg消費するとなると、年間需要は1万8000トン。これだけの需要があるなら「地産地消」で地元の人たちに粕屋のお米を食べてもらおうと、盟友たちが力を結集。ただ地産地消を推進するだけなく、減農薬減化学肥料で『f認証』(福岡県認証農産物)を取得し、『おひさまの詩』とは異なる新ブランドのお米を作ろうと、JA粕屋青年部創部以来初のプロジェクトを始動したのだ。
盟友160人が力をあわせネーミングを募集しマーケティングを実施。その結果決まったブランド名『かすやそだち』を、組合長はじめ役職員にプレゼンテーションしたところ「すばらしい!」との絶賛。青年部とJAとの共同でプロジェクトチームを作り、当初予定の23年産よりも1年前倒しで22年産からカントリーエレベーターでの区分集荷をすることが決まった。青年部がJAを動かしたのである。
「現在は準備段階。まだまだこれから」(青年部員)だが、試験販売や試食会などはまずまずの好評。「23年の本格始動に向けて頑張っている最中」だ。

◆青年部が子どもたちや地域とJAの架け橋に

地元の小学校で、子どもたちと一緒に育てた米を食べながら笑顔で話す長澤基之さん
地元の小学校で、子どもたちと一緒に育てた米を食べながら笑顔で話す長澤基之さん

JA粕屋青年部は他にもさまざまな形で地域に根ざした活動をしている。地元の小学校で1年を通じて合鴨農法による苗作りから、田植え、草刈り、稲刈り、そして美味しく食べるまでを体験する『ダックパーティー』もその1つだ。
稲とともに育った合鴨を一緒に食べることで、命の大切さや尊さを学び、「いただきます」の意味を考える。開始から3年、子どもたちはもとより、学校の先生や保護者にも好評だが、何より主催者の長澤さんが楽しんでいる姿が非常に印象的だ。
地元の子どもたちと触れ合えることが何より楽しいという。「ぼくが子どものころは、よく畑や田んぼの中で遊んでいたし農家の人々とも付き合いがあった。でも今は子どもたちが田畑に入ると怒られたりして、農家と地域との触れ合いがなくなってしまった。こういう現状を変えていきたい。最近は地元の小学生たちが田んぼに遊びに来て、手伝ってくれたりする。道を歩いていても元気にあいさつしてくれる。それが本当に嬉しい」と満面の笑顔で話す。
『ダックパーティー』に限らず、青年部が地元の幼稚園や小学生と交流する学童農園は、現在18校を数える。他にも学校給食のジャガイモを地域ぐるみで育てる『ジャモにーちゃん部隊』の活動には1000人を超える参加者が集まるなど、青年部は地域とJA、農業とをつなぐ架け橋になっている。

◆農業をやりたい若者はワンサといる

田植えの風景。5年生全員が参加し、長澤さんもともに遊びともに学ぶ
田植えの風景。5年生全員が参加し、長澤さんもともに遊びともに学ぶ

現在、青年部代表として福岡県農青協の活動にも参加している長澤さんは、青年部の活動目標や将来の展望などについても色々な考えを語る。
その中で、何よりも今一番力をいれたいことは、担い手対策だという。若者がより多く農業に入ってくることで盟友を増やし青年部の活動を活発化させていきたいと話す。
「『農業をやりたい!』という若い人はワンサといる。だけど問題は間口が狭いこと。初期投資がかなりかかるし、やはりイチから農業をやるのは非常に難しい。だからこそ農協がもっと積極的に対策を打ち出して欲しい」と、農協として担い手対策をより充実させるべきだし、そのためには青年部も力を注ぎたいと力を込める。
その1例として、若者の就農を促進するイベントを開いてみたいという。「就職の合同説明会のように就農専門の説明会を開きたい。若者には“就活”じゃなくて“農活”をやってもらう。その時にはやはり青年部が積極的に出て行って呼びかけをしたい。たとえば青年部員なら年齢も近いから、若い人も悩みや不安を相談しやすいと思う」。
また就農後の相談窓口も青年部で設けることができれば、より気楽に若者の新規就農者が農協を利用できるようになるのではないか、と考える。「若い人間が窓口になって、営農や経営の相談にのってあげたい」という。青年部だからこそできること、青年部でないとできないことはたくさんある。
初期投資の多寡や営農・経営指導不足に限らず、若者の新規就農を困難にしている要因は多くある。たとえば、農地取得や農業経営支援などにかかわる法律が複雑なことだ。青年部の盟友を増やし、活動をより活発化していくためにも、農協や青年部には法整備の問題を国や行政に訴えていく活動も必要だ。

◆青年部が動けばJAを変えられる

全国的に見てJA青年部は盟友数の減少傾向に歯止めがかからず、活動自体にも行き詰まり感が否めない。過去5年間に全国で9426人の盟友が組織を離れ、現在の盟友数は6万6927人だ。しかしこんな時代だからこそ、盟友の力を結集したいと長澤さんは力説する。
新ブランド『かすやそだち』プロジェクトも、盟友160人全員がすべての活動に参加したわけではない。自身の経営が忙しく、なかなか集会や運動に参加できない盟友も多い。しかしそういう人は、様々な意見やアイディアを出すことで活動に参加できる。体が貸せないならば、せめて頭だけでも貸して欲しい、というのが長澤さんの考えだ。
多くのアイディアが集まれば、そこから新しい道が見えてくる。実際『かすやそだち』のネーミングアンケートには160人の盟友から、200を越える案が集まった。多くのアイディアが集まることで、1人では考えられなかったアイディアに出会う。するとそれが刺激になって、新しいアイディアが生まれる。
まさに『知参千笑(ちさんちしょう)』の実践だ。
青年農業者の中には、今の農協運営に不満を持っている人もいるだろう。しかし不満があるなら意見を出してはたらきかけていくことが必要だ。長澤さんは全国の盟友たちに「青年部が動けばJAを変えられる。盟友同士アイディアを出しあって、農協を、経営を変えていこう」とメッセージを送った。

田代 勘
JA粕屋青年部部長

田代 勘 JA粕屋青年部部長

JA粕屋は福岡市が近く兼業農家が多いので、なかなか青年部として活動するのは難しい環境です。また近郊に大都市があるけれども、他の産地に比べるとブランド力があまり強くないので、なかなか販売が伸びていきません。このままではいけないということで、新ブランドを作ろうと立ち上がりました。
しかしその活動を青年部だけで終わらせてはいけないし、何より新ブランドに説得力が必要だということで、農協役職員の方々にプレゼンテーションをして『かすやそだち』のプロジェクトが始動しました。今は22年産米からの本格始動に向けて、動いているところです。
今の時代はやはり、ただ農作物を作るだけではなく、産地全体をレベルアップさせて個人の売り上げを伸ばしていかなければなりません。共選よりも個選が多いのが現状ですが、原点に戻って活動していきたいと思います。

(「インタビュー JA粕屋(福岡県)横大路廣章 組合長」の記事へ)

(2009.03.03)