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21年度畜産・酪農対策決まる

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全政策価格を据え置き  加工原料乳補給金単価は実質12円に引き上げ

肥育牛対策に600億円など総額1901億円

配合飼料価格が過去に例をみない高騰をもたらし、わが国の畜産・酪農経営は経験のない危機に見舞われ、これまでに廃業に追い込まれた生産者も少なくなく、また、営農を続ける生産者にも負債が増大するなど極めて厳しい状況にある。配合飼料価格は引き下げがあったものの、高騰する前に比べればまだトンあたり1万3000円高の高水準であり、そこに加えて景気後退で畜産物価格の低迷が追い打ちをかけている。
 こうした状況のなか21年度畜産・酪農対策は総額1589億円、前年度対策からの継続も含めて1901億円にのぼる規模で決定された。対策の概要を紹介する。

◆生乳生産管理向上対策で実質引き上げ−補給金単価

 3月5日に開催された食料・農業・農村政策審議会畜産部会は農林水産大臣諮問を妥当と答申、全政策価格の据え置きが決まった(表1)。JAグループも今回の政策要請で据え置き求めたが、配合飼料価格の引き下げ等、政策価格の算定には引き下げ要因も見込まれるなか、現行価格の据え置きが決まったことは、実質的な引き上げを確保できたといえる。加工原料乳の限度数量も195万トンに据え置かれた。
 さらに今回は加工原料乳生産酪農家に特段の措置が決定された。加工原料乳生産者補給金単価は、20年度は初の期中改定が行われ1kg11.85円となり、21年度もこの価格が適用される。そこに関連対策として0.15円を上乗せする事業が決定、実質1kg12円の水準となった。(表2)
 この事業は生乳生産管理向上特別対策事業で総額は3億円。食の安全に関心が高まるなか、酪農家が生産履歴の記録など生乳の安全確保の取り組みを促進する目的で加工原料向け生乳出荷の実績に応じて交付される。

◆肥育牛1頭1万7000円支援

 今回の対策決定で大きな焦点となったのが肉用牛対策だ。景気低迷で牛肉価格が急激に下落。生産者は素牛を高価格で導入し、高騰した配合飼料で肥育してきており販売価格の低迷は経営危機に直結している。
 牛肉価格の下落に対しては家族労働費の8割を補てんする肉用牛肥育経営安定対策事業(マルキン事業、財源は国3:生産者1))と、物財費割れの6割を補てんする肥育牛生産者収益性低下緊急対策事業(補完マルキン事業、財源は国100%)がある。
 しかし、牛肉価格の低迷でマルキンと補完マルキンの補てんを合わせても、品種によっては物財費割れを埋めきれない状況も生じている。生産者にとって物財費は現金支出をともなうもので切実な課題だ。これらの対策の充実をJAグループは求めていた。
 決定した対策ではマルキン事業で174億円(前年度170億円)、補完マルキン事業で318億円(同103億円)と予算を拡充した。
 これに加えて肥育牛経営等緊急支援特別対策事業も拡充する。
 これはマルキン事業に参加する生産者が(1)生産性を高める畜舎づくりの取り組み(換気の改善、防暑や給餌の改善など)、または(2)飼料自給率の向上の取り組み(エコフィード、農場副産物の活用など)のいずれかに取り組む場合、出荷牛1頭あたり1万円を奨励金として交付するもの(基礎部分)。
 さらに、この基礎部分に加えて、早期出荷などの取り組みを行う場合は7000円が上乗せされ合計1万7000円が交付される事業だ。予算額は128億円で、マルキン・補完マルキンとあわせて620億円を確保した。20年度予算では313億円だった肥育経営対策(マルキン・補完マルキンと1頭5000円の緊急支援特別対策)は今回、異例の予算規模となった。

◆子牛対策は販売価格に着目

 子牛価格も19年度後半から下落傾向となり20年度はとくに黒毛和種の価格下落が激しく、昨年12月時点で
肉用子牛資質向上緊急支援対策事業の交付対象基準価格(都道府県平均価格)が40万円を下回っているのが24県。畜産主産県のほとんどが該当し、飼料費高騰の影響で所得は大幅に減少している。
 子牛価格の下落対策では40万円を下回った場合に交付金が交付される仕組み(肉用子牛資質向上緊急支援事業)が20年度に措置されたが、要件ごとに支援単価が異なるなど、現場からは「分かりにくい」との声が出ていた。
 JAグループも子牛の再生産を保証するため40万円を確保する分かりやすい支援対策を要求した。
 その結果、交付対象を販売子牛に着目するなど改めた。
  交付金単価は発動基準価格との差額を1万円きざみとし、1頭あたり1〜5万円。ただし、4、5万円が交付されるのは若齢繁殖雌牛に限定される。優良な繁殖雌牛への転換を促進するためだ。

◆とも補償に28億円―酪農対策

 3月から飲用乳価が1kg10円引き上げられた。
 一方で値上げで飲用牛乳消費が減少した場合、飲用向け生乳が乳価の低い加工向けに振り向けられることも考えられる。その際、加工向け生乳の処理能力の違い等から飲用牛乳向けの減少に、地域間でばらつきが生じることも想定される。加工向けの増加率が全国平均に比べて多い地域は、そうでない地域にくらべてプール乳価が低くなることになりかねない。
 こうした問題を想定し、プール乳価低下の影響を緩和するため、セーフティネットとしてとも補償事業を21年度から充実することとした。
 その仕組みは、飲用向けの全国平均減少率を超えた減少分に対しては、1kgあたり30円を補償。平均減少率以内の減少分については1kgあたり20円を補償するというもの。20年度より補償単価を上げ予算総額28億円を措置した(飲用需要変動対応緊急支援事業)。
 また、飲用向けの多い都府県では生乳の季節的な需給変動に応じた生産が重要となっているが、不需要期の乳価下落の影響を緩和するための補完的なセーフティネットとして、経産牛1頭あたり2400円を不需要期支援交付金として交付することも決めた。
 そのほか優良授精卵の導入など酪農生産基盤強化緊急対策事業(10億円)や、チーズ、液状乳製品、発酵乳向け生乳を基準数量を超えて供給した場合への奨励金(新規拡大分1kg12円、増加実績分同10円)を交付する生乳需要構造改革事業(86億円)なども盛り込まれた。

◆地域保証価格を10円上げ―養豚対策

 養豚対策でも生産コスト上昇で収益性が悪化していることをふまえ、地域保証価格を10円引き上げ1kg490円とし、21年度は43億円を確保した(うち追加分12億円)。
 そのほか、飼料基盤対策では草地改良対策として土壌改良資材費や、マメ科牧草などの導入経費への助成などが決まった。また、現場のニーズが大きい3分の1補助付きリース事業は21年度に64億円を前倒しして確保した。
 今回の対策は厳しい財政事情にあっても、危機的な畜産・酪農の実態をふまえ、大規模なものとなった。ただし、配合飼料価格安定基金の財源問題や、景気の悪化にともなう畜産物価格のさらなる低迷の懸念など、畜産・酪農生産基盤を確固としたものにするには未だ不透明な要素も多い。JAグループでは今後、政府で緊急経済対策が検討される場合には、これら残された課題についての対策が措置されるよう働きかけていく方針だ。

(2009.03.16)