特集

JA全農燃料部

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JA全農燃料事業の到達点と21年度の重点課題

激しく変動するなかでも組合員への安定供給をめざして
平井信弘JA全農燃料部長に聞く

 平成20年度の燃料事業は、暫定税率失効に始まり、投機マネーによる原油価格のかつてない高騰、そして米国に端を発した金融危機による下落と激動する1 年だったといえる。そうしたなかで組合員への安定供給を実現してきたが、3か年計画最終年度である21年度の重点課題は何かを平井信弘部長に聞いた。

◆100ドル以上乱高下した原油価格

平井信弘JA全農燃料部長

――20年度前半は原油価格が高騰し、後半は一気に下がるなど激動の1年でしたが、その影響は…
平井 米国のWTI原油価格ですが、最高147ドルまで上がり、そして30ドル台まで下がるというかつてない値動きでした。原油で1バーレル1ドルの変動はキロリットル当たり600円相当値動きすることです(1リットル当たり60銭)。いまピーク時からみると100ドル下がっていますので、1リットルあたり60円くらい下がっているわけです。
――価格の乱高下で振り回された1年でもあったわけでね。
平井 一時はWTI原油が1バーレル200ドルまでいくのではないかという話もありましたが、サブプライム問題で金融市場が崩壊するのとあわせて価格が下落しました。
――相当に投機マネーが入ってきていたということですか。
平井 サウジアラビアの原油生産コストは1バーレル3〜4ドルです。カナダにオイルサンド(原油を含んだ砂)とか、CTL(石炭液化燃料)などの代替エネルギーの採算点が55ドル前後だといわれいます。こうした代替エネルギーは原油価格が高くなるとフル生産になります。ですから、代替エネルギーの採算点を超えた部分は、投機マネーによる高騰であったということになると思います。

◆安定供給することが全農の使命

――そうしたなかでの事業は厳しいですね。
平井 私たちは農家組合員に安定供給するために全国の沿岸基地に在庫を持っています。石油基地は全部合わせると通常20万キロリットルくらいになりますから、原油価格が下がると多額の評価損がでることになります。
そういう意味で20年度決算はかつてないほど厳しいものとなりました。
――灯油やA重油さらにLPガスもそうですね。
平井 安定供給することが全農の使命ですから、どうしても在庫を持たざるをえません。LPガスも原油価格に連動して価格が変動しています。LPガスは直接輸入をしていますから、法定備蓄として在庫を持たざるをえません。しかもLPガスの場合は、消費者が実際に使った分だけ請求しますから、ボンベに入って軒下に置かれているものは全農の在庫になります。
――価格が高騰したことによる需要の影響はありますか。
平井 ガソリンはそれほどではありませんが、灯油とかA重油は、価格が高騰したことで需要が落ちています。A重油の場合、一時、130円台/リットルになりましたから、ハウスみかんの場合には採算に合わないから「古い木を切ってもうやめよう」という人もいました。また、民生用灯油の場合は、多少寒くても昼間は焚かないとか…。
――今後の原油価格見通しはどうですか。
平井 中国、インドなど発展途上国の需要が増えてきますが、一方で先進国での省エネも進んでいますから、50〜60ドル近辺とは思っていますが、予測はなかなか難しいといえます。

石油事業

◆老朽化した施設のリニューアルが課題

――そうしたなかで現在の石油事業はどういう状況にありますか。
平井 石油事業では施設園芸用のA重油や民生用の灯油を別にすれば、大半はJA―SSに依拠していますから、ここ数年来、そのJA―SSのリニューアルをどう進めていくかが大きな課題となっています。とくにセルフサービスのスタンドをどう増やしていくかということです。
採算面でいうと、フルサービスの経費は平均して12円/リットルですがセルフだと7円弱で、5円違いますから、それだけ安く売ることが可能だということです。セルフ化したところでは、組合員さんから価格の面で喜ばれることが多くなっています。
――SS業界はセルフ化を中心に大きく変化してきているということですか。
平井 スーパー業界と同じで、地元中小の商系SSと全国チェーンとのせめぎ合いになっています。
――廃業するところも多いようですね。
平井 JAグループもそうですが、昭和48年の第1次オイルショック、第2次オイルショックの昭和54〜55年当時に建設されたSSがいまでは30〜40年経っているので老朽化し、漏洩リスクが大きくなってきていることもあります。
――自動車の販売が不振のようですが、そうするとガソリンの需要も減っていきますか。
平井 自動車の保有台数が頭打ちですし、ハイブリットとか電気自動車の需要が増えていますから、ガソリン需要は減っていくと思います。

◆進むセルフ化 ―販売量の4割は14%のセルフで

――そうしたなかで、JA―SSの運営はどのようにしていくのでしょうか。
平井 SSのコストで一番高いのは人件費ですから、セルフ化が大きな流れになると思います。
表1はセルフ化率を県別にみたものですが、全国に3417JA―SSがありますが、その内の13.7%、468がセルフSSです。商系を含めて全国に約4万4000のSSがありその内の16.8%がセルフです。

以前はJAの場合、商系の半分くらいしかセルフ化されていませんでしたから、ずいぶん追いついてきました(図1)。そして17道府県では、セルフ化率が商系よりも高くなっています。

例えば宮城県は4軒に1軒がセルフですが、セルフだけで県内JA―SSの販売量の3分の2を占めています。
――全国的には…
平井 全国ではセルフSSの割合は約14%ですが、販売量では4割を占めています。

◆マスタープラン見直しで時代にあったSSに

――3か年計画では21年度で500SSをセルフにする計画でしたね。
平井 今年3月末で468か所で、今期中の予定が100か所ありますので、今期の早い時期に計画を達成できる見通しです。
――組合員からもセルフ化は支持されているのですか。
平井 かつては「フルサービスでなくては」という要望が多かったのですが、最近は「セルフにして小売価格を抑えてほしい」とJAの理事会でいわれるようになりました。
平成14年〜16年に県別マスタープランをつくり、最終的には、現在の3417SSを2700にする。そのうちの1100がライフラインとしてのSS、950がセルフ、850がフルサービスという計画でした。JA合併や道路事情の変更があり、これが陳腐化してきていることや、いまの状況ではフルサービス850が生き残るのは厳しいのではないかと思い、新しい状況でマスタープランを精査して見直しを行っています。
――セルフ向けの新CIデザインも普及しましたね。
平井 北海道と長野を除く地域では今年中に普及する予定ですし、好評を頂いています(写真)

LPガス事業

◆保安体制を確立し販売力を強化

――LPガス事業の課題はなんですか。
平井 一番の課題は保安です。全農は全国域ですから経済産業省の原子力安全・保安院の直接の検査を受けますので、保安体制について強化すると同時に販売力を強化していくことです。
――需要はどういう傾向ですか。
平井 LPガスの需要もオール電化などに押され毎年3%くらいづつ減少しています。
――単位消費量はどれくらいなのですか。
平井 業界では1戸当たり24.2kg/月に対して、JAグループは15kgと約9kgも少ない(下表2―3)ので、オール電化などでLPガスの消費量は毎年落ちていますが、JAグループで見る限りまだまだ単位消費量を増やすことで伸ばしていける余地は十分にあるとみています。

◆携帯電話時代にマッチした保安システムガスキャッチを普及

――保安では「ガスキャッチ」(新型無線機NCU)の普及が掲げられていますが、これはどういう仕組みのものですか。
平井 保安については、約290万戸(下表2‐2)に供給していますが、そのうちの約94万戸が監視センターであるJPセンターと電話回線でつながれ、異常燃焼などが起きればすぐに止められるなど、保安・安全について万全な体制がとられています。

ガスキャッチは図2のように電話回線ではなく、無線機で保安情報などを伝送するものです。いまは携帯電話が普及して固定電話をもたない人も増えていますから、そういう時代にマッチした保安システムで、業界ではJAグループだけのシステムです。さまざまな応用ができるシステムなので、これからの時代のガス事業のスタンダードにしていきたいと考えています。

◆ガス事業でもJA・県域でマスタープランを作成

――LPガス事業は県域が中心になっている事業ですね。
平井 LPガスの場合は県の充填所を核にデリバリーを県域で行っています。本所は輸入とか行政対応と保安というように役割分担が明確になっている事業です。
――今後の計画としてはどのようなことを考えられていますか。
平井 保安や物流を考えると、5000戸くらいの単位でまとめていかないと厳しいものがありますので、石油と同じように県ごととかJAごとにマスタープランをつくって、将来に向かってどうしていくかを検討していくことにしています。
これからは電気とかほかのエネルギーとの競合が厳しくなっていきますから、保安体制を強化して安全性を確保しながら、いかに効率よくして、採算性を向上させるかを検討するということです。
――全県を一つにということもありうるわけですか。
平井 すでに栃木では会社化して全県一本化していますが、こういう動きもでてくると思います。LPガスは資格取得が必要とか、専門性などが問われますから、JA域を超えて大同団結した方がよいというケースもあると思います。
――ほかのエネルギーとの競合ということがありますが、全農として新しいエネルギーの事業化は考えているのですか。
平井 化石燃料から、燃料電池とか太陽光発電へとは考えています。太陽光の場合は、欧州のように余剰電力を高く買ってくれればもっと普及すると思っています。
燃料電池については、LPガスをエネルギー源にした家庭用燃料電池の事業化が総合的なエネルギー事業の柱の一つに今後はなっていくのではないかと思っています。

(2009.04.23)