特集

水田農業の現場から考える新基本計画の課題
農業所得の増大で農業・農村に元気を取り戻す

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【座談会 その2】
水田フル活用を支える農業者の取り組みに新たな支援策必要

清水 紀雄氏(兵庫県篠山市、清水農場)
齋藤 隆幸氏(山形県真室川町、農事組合法人りぞねっと代表理事)
築地原優二氏(JA全中・農業対策部長、5月7日より担い手・農地総合対策部長)

平成の農地改革への対応  ――農地と担い手対策についても提起されていますがポイ...

平成の農地改革への対応

 ――農地と担い手対策についても提起されていますがポイントをお話ください。
  築地原 農地法等改正法案が国会で審議されていますが、改正案では農地についての制度の基本を所有から利用へとの考え方で第一条を見直すことになっています。 それにともなって新たな面的集積システムをつくることになっているので、JAが地権者と担い手の仲介役となって農地の利用集積の役割を発揮していこうと提起しています。その際、当然ながら、担い手がいる地域ではその担い手に集積していくことになりますが、どうしても中山間地域など高齢化等が進み担い手がいない地域では、JAが農業経営に取り組むことも必要ではないかと提起しました。
 いずれにしても、この取り組みは利用権を通じた安心システムをどうつくっていくかが大事だと思っています。高齢化が進み、また土地持ち非農家の方も結構いますから、地域に根ざしたJAとして一定の役割を果たすべきだし、耕作放棄地を解消していくということも大切です。
 担い手については今回、「地域を担う日本型担い手のあり方」と新規就農者の確保等を提起しました。
 わが国の場合は多様な担い手で農業生産を担っていて、小規模の農家、兼業農家、中山間地域の農家もいますから、集落営農組織や家族農業経営、法人にもがんばってもらわなければなりませんが、それだけではわが国の農業は担い切れない。今後とも地域の担い手をきちんと位置づけ、JAの事業にとっても引き続き中枢となってもらう必要があるのではないかということです。
 こうした地域の担い手も政策対象としていくことが必要ではないかということです。ただ、どのようなかたちで政策の対象にしていくかは検討が必要で、たとえば経営安定対策の対象にするのか、また、新しい直接支払いの対象とするのか、議論してきちんと位置づけようということです。
 合わせて新規就農者に対して思い切った対策が必要ではないかということです。
 新規就農者のうち60歳以上の離職就農者が50%を超えていますから(下図)、こういう方も含めてトレーニングセンターを設置したり、後継者育成基金をつくるなどの支援対策により定着してもらうことが必要だと考えています。

◆生産調整は必要不可欠

 ――品目対策についても具体的な提起がありますが、今日は水田農業の部分をお願いします。
 築地原 基本的な考え方は、国民の主食である米はやはり需給と価格の安定が必要であり、今後とも生産調整は必要不可欠ということです。
 選択制といった議論がありますが、需給調整を緩和して完全に市場に任せたら、供給過剰と大幅な米価下落が想定されます。そうなればとくに担い手の方ほど経営的な打撃を受けると考えています。
 生産調整のあり方については議論が必要だと思っていますが、生産調整そのものに対するというより、実施者に対するメリット不足など対策の具体的な内容と支援水準等に対しての不満があるのでないかと考えており、生産調整の実施者が実感できるメリット措置の充実と万全な経営安定対策措置が必要ではないかということです。
 いずれにしても生産調整の限界感、閉塞感があるのでそれを緩和する仕組みを検討することは必要だと思っています。大事なことは、計画生産による米の需給と価格の安定、そして地域の水田フル活用を通じた食料自給率の向上です。それによって将来にわたって水田農業が安定することが大事であり、結果として地域社会の活性化、美しい水田や農村を守っていくことになるのではないかということです。
 齋藤 生産調整は絶対必要だと思います。その中で水田農業に政策を盛り込み消費用途別に作付けすることは水田維持のためには重要なことでしょう。私たちの最上地域には集落営農組織は僅かしかなく、生産調整部分を主にした受委託組織です。つまり、小規模でもしっかりと経営をやっていくぞ、という意気込みの農家が多いということでしょう。そうであれば担い手としてしっかり体力をつけておく必要があります。
 土地利用型の場合は農業機械投資が非常に大きいですから、経営を大きくするときには1000万円単位の投資が必要になる。しかし、地域を考えれば高齢化でフェードアウトしていく農家の方々がいるわけですからわれわれが地域を守っていくという体力を持つ必要があるということです。
 だから、今、集落営農的に経営を大きくしなさいと積極的に言うと、それは農地を剥がすことだと地域で捉えられかねない。やはり参議院選挙で小規模農家の反発があったというのは過言ではないと思います。あの時に意見が通ったんだと思っている人もいるでしょう。それは政策に対する反発であって地域農業を混乱させようということではない。地域が置かれている環境のなかで担い手をどうするか考えていくしかない。私たちとしてはしっかり経営をやり、来るべき時期にはしっかり地域を支えられる営農ノウハウを持ち、そのためのトレーニング、勉強の場が必要だと思います。

◆検証すべき耕作放棄された理由

 清水 農地と担い手の問題は、耕作放棄地解消の問題にもつながっていくのでしょうが、耕作放棄地には耕作を放棄した理由があると思う。
 たとえば、私の村では昭和44年にほ場整備事業をやって、土地改良負担金などいろいろなお金をかけて農業をしてきたにも関わらずなぜ耕作放棄が出るのか。いちばん多いのはやはり鳥獣害によって農産物が穫れないということです。最初に触れたように私も昨年は被害にあいました。
 だから、農地を有効利用することはたしかに大事だけれど、放棄した理由が除去されない限り、たぶん耕作は復活しない。
 鳥獣害以外にも、地域はベッドタウン化しているから水田の隣に住宅地ができたりする。そうすると防除にしても、たい肥をいれて土づくりしようとするにしてもすぐに苦情がくる。挙げ句の果てには空き缶や空ビンが田んぼに捨てられている。
 私も国道沿いのほ場では、道路側を100メートル歩くと肥料袋2袋分ぐらい空き缶がたまる。だから、田んぼ鋤をしよう、草刈りをしようと思ったらまず空き缶拾いをしなければならない。これはマナーの問題ではありますが、たとえば水田フル活用政策でいろいろ助成金が出ますよと言っても、田んぼに行くたびに年に5回も6回も空き缶拾いをしなければならないとなれば負担です。そこを担い手に任せようといっても、こういう耕作放棄する理由が解消されていなければ担い手も引き受けないでしょう。
 だから、耕作放棄地については市町村とJAグループがその原因を除去するお手伝いをしますよ、ということも掲げる必要があると思います。
 そのためにはなぜあの田んぼは耕作されなくなったのかということをJAの営農指導員や全農が提唱しているTACなどの職員が各農家を回るなかで情報を集めるべきではないかと思います。個々人ではなかなか分かることではなく、組織で集めれば全体の事情が分かると思うんですね。

新規就農者を地域で支える仕組みを

 それから新規就農者のうち60歳以上が多いといっても、それは定年退職帰農でしょうから、こういう方々は退職金等である程度の資金はある。問題は若い人。資金がないわけです。そこをどうカバーするのか。
 たとえばリース事業を優先的に活用できるようにするなど、具体的な対策が明示される必要があると思います。
 私たちの地域では新規就農者には作業受託から始めてはどうかと指導しています。農機具はJAで中古を買う。作業受託は料金が一定だから、料金×面積で収入が分かるからです。そこからスタートして新しい農機具代の資金を貯めていってはどうか、ということです。
 私も米価の大幅下落で新しく購入を予定してした農機具をあきらめたことがありますから。 さらに専業だけでなく兼業で農業ができる方法も新規就農者のために考えたほうがいい。たとえば、春と秋以外、JAで農業機械の整備員として雇うとか、市役所で農業関係データの集計などに雇用するとか、そういった生活を安定させる部分をつくらないとなかなか農業には取り組めないのが現実だと思います。

分かりやすい政策に整理

 ――産地確立交付金など現行の支援策についてもかなり具体的な提起があります。ポイントをお願いします。
 築地原 まず産地づくり交付金等です。水田フル活用元年ということですが、フル活用のためには麦・大豆の増産対策、米粉用米、飼料用米などの新規需要米の振興対策の充実が必要だということです。とくに新規需要米については主食用にくらべて所得差がありますから十分にメリットを実感できる支援水準が必要だと提起しています。
 10aあたり5万5000円の交付金を前提にしても、主食用と飼料用米などでは5万1000円程度の所得差があります。麦・大豆は2000円から3000円程度の差です。4月10日に政府・与党でとりまとめられた追加経済対策では新規需要米は2万5000円増額されましたからこの差は縮まりますが、十分にメリットを実感できる支援水準が必要であるということです。
 それから交付金の仕組みも課題です。今、水田等有効活用促進対策と産地確立交付金に分かれていて、それぞれの対策に狙いはあるわけですが、やはり現場からはより分かりやすくしてほしいという声があります。
 現場に分かりやすく、活用しやすい形での見直しが必要であるのではないかということです。
 生産条件不利補正対策、いわゆるゲタ対策ですが、飼料用等の新規需要米についても麦・大豆と同様に外国との生産コスト差を補てんする仕組みが必要ではないかと提起しました。
 一方、収入減少影響緩和対策、いわゆるナラシ対策では、米価が下落すれば連動して標準的収入も減少することから、米価下落に対しても生産調整実施者の所得を確保するためにナラシの充実が必要ではないかということです。
 具体的には標準的収入の固定化と、現行の補てん割合の9割を10割にすべきではないかということ、さらに再生産コストを割り込んだ場合は国が全額補てんする、いわゆる「岩盤対策」も必要ではないかということです。

◆生産目標数量の配分も課題

 需給調整のあり方ですが、生産数量目標の配分については、今は過去の販売実績に応じた配分を基本として、未達成の県、市町村に対する生引きを行うという方法です。この生引きは実効性に問題があります。未達成県にいくら生産調整面積を上乗せしても結果として消化できなければ累積されてしまうという問題です。
 一方で過去の需要実績に応じた配分を徹底すれば、未達成の県、市町村の生産目標数量が増加することになってしまう。結局、供給過剰になって不公平ではないかという問題が生じる恐れがあります。
 ここはどうするか非常に悩ましいけれども、ひとつは産地確立交付金の交付は生産調整の100%達成が要件になっていることです。未達成地域が一気に100%達成するというのは難しいことを踏まえて、段階的に達成するということでも産地確立交付金の交付を認めて、生産調整の取り組みを促す方法は考えられないかと思っています。

地域が一体となって取り組めるメリット対策を

 たとえば、60%達成、80%達成、そして3年めに100%などです。当然単価は6割、8割ということにする。また、計画達成ができなければその分は返還が求められるということにしてはどうか、など生産調整の達成が困難な地域の取り組みを促進できるあり方について検討が必要です。
 それから生産調整の円滑な推進のためには行政の役割というものも大事ですから、農業者と農業者団体との連携なり、実効確保のための体制づくりと支援がどうしても必要です。
 いずれにしても生産調整の実効性の確保、公平性の確保のためには生産現場の状況、平場なのか、中山間なのか、担い手がいるのか、あまりいないのか、それから米の適地かそうでないのかといったことをふまえた生産数量目標の配分のあり方について検討する必要があります。難しい問題ですが、やはり適地適産というのがめざすべき方向だろうと思っています。
 それから出口対策も重要です。
 需給調整の実効確保のためには豊作等による供給過剰分を市場から隔離する出口対策が当然必要ではないかということです。ただ、この効果は未実施者にも及ぶことには留意が必要です。現在の集荷円滑化対策では、加入率や区分出荷米に対する助成水準が低いという問題がありますが、今後、需給調整の実効性確保と公平性を確保するための対策のあり方について検討していきたいと考えています。
 最後は政府備蓄のあり方と流通・販売対策です。
 備蓄運営は国内産の需給安定に資するような運営が必要です。MA米を含む備蓄の水準、運営方法、それから当面は需要が不透明な米粉用などの振興に資する非主食用米も含めた備蓄制度の構築が必要です。
 とくにMA米については国家貿易を堅持することが大事で、食の安全・安心の確保が前提ですが、国内産米の需要には影響を与えないで食料安全保障の強化が図れるよう用途別輸入・管理を徹底することも必要だと提起しています。
 流通・販売対策では、国民の多様なニーズに応えて新規需要米を含めた多様な用途、品質、価格による国産米の供給体制が必要だと考えており、とくに米粉用米や飼料用米については、実需との結びつきに基づく生産、流通、販売とあわせ積極的な需要開発も生産振興の観点から大切だと考えています。
 清水 篠山市は転作率が平均42.1%です。ただ、5年前から認定農家は10%減免するという取り組みをしています。これは10a以下の方は生産調整をしませんから、当初から対象からはずしておこうということになり、そのため他の生産者の生産調整面積が増えてしまったからです。
 篠山市には201の生産組合があり、黒大豆の生産に取り組んでいるのが175、そのうちの3つが特定農業法人になっています。そういう点で生産調整は集落営農が助けてくれる面があります。たとえば黒大豆の乾燥機などは購入しなくても料金を払えば利用することができる。そういう仕組みをつくり、生産調整に取り組みなおかつ米と遜色のない所得をいかに確保するかということから、黒大豆生産で対応してきたわけです。ただ、黒大豆の生産が増えればやはり価格は下がる。今年の1月末で1kgあたり2200円でした。20年前は3500円以上でしたから1000円は下がった。そうするとコストに合わなくなってきたら、今まで人海戦術でやってきたものを余計に機械でやるように変えていかなければならない。
 水田農業は自分より上流の田んぼで水路掃除をしてくれなければ下流域で米づくりはできないわけで集落の共同作業が基本です。ですから、生産調整のメリットも地域の生産者すべてが対象になるべきです。農業者間に差をつけるとこうした共同作業ができないし、集団的に転作することも合意できなくなる。
 飯米だけ作っているという人は別にしても、少しでも販売する人は地域営農者という括りにして、転作に取り組めば全員にメリットがあるという政策が必要ではないか。

◆新規需要米が生産調整達成の鍵

 齋藤 私たち担い手にとっては、すべての政策が生産調整の上に成り立つという考え方にしてほしいです。
 一昨年の夏、仮渡し金7000円議論は農家に大きなメッセージを残しました。米も他の農産物と一緒で余れば値段が崩れる、ということだと思います。
 あの問題はだれかを批判する問題ではなくて、生産調整に取り組んで需要と供給のバランスをとること。ここをまず大前提にしていただきたいし、絶対に引いてはいけない点だと思います。
 山形県内にも生産調整未実施の自治体がありますが、今年、新規需要米の取り組みのなかで私たちは、この未実施地域をなんとか解消できないかという努力もしています。
 私たちは米粉にすることはできますから、どう消費するかということを全農と一緒に知恵を絞ったら、なんとかやれるという見通しができた。その担保がとれたので、未達の市町村の担当者になんとか未実施者に新規需要米で生産調整をやってもらうように説得してほしい、と私たちから働きかけました。
 生産された米をわれわれが米粉にするわけで、こういうかたちで問題を少しでも解決していこうということです。今の制度を活用してやれることをとにかくやって結果をよくすることだと思っています。新規需要米についてはJAグループが事業としてしっかり取り組み、結果を残すことだと思います。それが新たな食文化が生まれたとか、自給率が向上したというところにつながっていくと思います。

◆現場で充実した組織討議を

 齋藤 今回示された基本的考え方は組織討議をしてもっと精査して整理されるものだと思いますが、大会議案に盛り込むべきことはまだあると思います。
 確かに大きい流通の部分についてはみなさんが議論をしていい取り組みにもっていけますが、そこからあふれたところ、いわゆるニッチな部分については誰も議論しないという傾向があると思います。
 そうではなくて、いろいろな部門でがんばっている人がいるのですから、点をつないで線にしたときにブランドになるというような産地形成も考えていただきたい。
 たとえば、山形のサクランボはそれ自体はブランドだと思いますが、○○さんのサクランボとしてはブランドになっていないですね。私の住む真室川には超一級品の牛、米があり、冬場の山菜などがあります。地域内を線で結んで産地地域をブランド化するというような取り組みも検討していくべきではないかということです。小さい取り組みも拾い上げていってほしいと思います。
 やはり自分たちの力、あえて農業力と言いましょう、われわれは自らの努力でここまでやれる、しかし、再生産するにはこんなことが必要だという、自らのアピールも大事だと思います。
 清水 環境や地域貢献ということも大事ですが、農村で人が癒される、笑顔の持てる農村をつくるということも大事だと思います。10年先のビジョンをみんなが描けるような政策や自らの取り組みが求められていると思いますね。
 築地原 今回は元気をどう取り戻すかというのがキーワードだと思っています。そのためにJAグループの生産・販売戦略の構築、などの自らの取り組みをどうするかということが非常に重要です。あわせて新たな直接支払制度や品目政策等の政策確立を求めていくということです。この組織討議を踏まえ、JAグループとしての方向づけをしていきたいと思います。
 ――ありがとうございました。

(2009.05.11)