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新たな協同の創造とJA共済事業
JA共済事業特集

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農協運動の原点に立ち返り組合員・地域に貢献する その1

安田舜一郎 JA共済連経営管理委員会会長
聞き手:村田 武 愛媛大学連携推進機構教授

 この秋に開催される第25回JA全国大会のメインテーマは「大転換期における新たな協同の創造〜食料・農業・地域への貢献とJA経営の変革〜」だ。
 そこでこの大会テーマの意味をどうとらえ、「新たな協同の創造」のために、JAは何をしなければならないのか。そしてそのなかでJA共済事業はどのような役割を果たすのかを安田舜一郎経営管理委員会会長に聞いた。聞き手は村田武愛媛大学連携推進機構教授。

「3Q訪問活動」で信頼を深め、新たな共済ニーズを発掘する

◆「大転換期」の意味を考え行動することから

安田舜一郎 JA共済連経営管理委員会会長
安田舜一郎
JA共済連
経営管理委員会会長

――現在の経済状況について「100年に1度の大不況」といわれていますが、農業問題を研究してきた者にとっては、100年前といえば昭和初期のアメリカの大恐慌が波及した「昭和農業恐慌」を思い起こします。
今回の不況で日本で深刻な影響を受けている産業は、自動車や電機などの外需依存産業ですが、昭和農業恐慌のときの外需依存は養蚕と生糸でした。アメリカ経済が破綻し女性の靴下などに使われていた生糸市況が破綻し、昭和農業恐慌となって農村を直撃しました。それを打開していくうえで時局匡救運動、救農土木事業と並んで、今日の総合農協につながる産業組合運動が本格的に展開されていきます。
そして今回の不況から抜け出るには、外需依存から内需への転換、つまり農業など第1次産業や中小企業など地域経済が活性化しなければいけないということですし、そのなかで協同組合運動がどうがんばるかということになると思います。
1980年のICA総会におけるレードロー報告では、21世紀は「飢餓と闘うことが協同組合運動の課題だ」と提起され、同時に日本の総合農協の優位性を強調しています。
そういう意味で第25回JA全国大会議案のメインテーマ「大転換期における新たな協同の創造」は、まさにその通りだと私は思います。
「大転換期」について私はそういう理解をしていますが、安田会長はどうとらえておられますか。
安田 現在の状況は、経済がグローバル化するなかで実態のないマネーが躍り、食料にまで投機的なマネーが入り込むような市場原理主義経済が、アメリカの金融危機をきっかけに破綻した結果だと考えています。
社会に対する経済のあり方や人々の価値観が大きく変わろうとしています。このような中で、私たちの農協運動は「運動」であって利益を追求する企業体ではないという原点に戻り「大転換期」の意味ををきちんと考えて行動することで、どう地域に貢献していけるかがこれからの課題だと思います。

◆地方へ経済危機の影響が出るのはこれから

安田 共済事業は幸いにも運用面で目先の利益の獲得に走らないで、きちんと契約者に返していくことを最優先に、安全・安定的な運用を心がけていましたので、今回の金融危機の被害は軽微でした。
しかし系統の中では当面の利益を追求せざるをえないこともあり、痛手を受けた事実もあります。そうした事実のなかから、JAグループは運動としての協同組合の原点に帰り、地域に貢献していくことが大事だと思います。
そして農業は食、すなわち国民の生命の源をつくるものだということを、国としてきちんと位置づけることで、構造的にも考え方も大転換をはかり、そのうえで総合事業としてのJAの運動を復活しようということです。
――かつて国際金融は貿易の決済をすることが主たる業務でしたが、それを離れてまったく新しい金融資本主義といわれるような状況を招いてきたと思います。当初はこれほどアメリカの影響を受けるとは思っていなかった日本が、実態経済が外需依存型ということで深刻な影響を受け、それが地域にもおよんでいるわけです。
今回の大不況が地域経済やくらしに与えている影響をどうつかまえたらよいとお考えですか。
安田 本来なら、金融の目詰まりさえ解消すればよかったはずです。しかし、目先の利益の確保のために人間の命ともいうべき食料・穀物さらに石油という生活に関わるところにマネーが入り込み暴れましたが、それに規制をかけられなかったために実態経済への影響がでたということだと思います。
消費の落ち込みは地域社会にも及んでおり、ブランド化作物に影響が出はじめています。実質的な意味で地方に影響が出るのはいまからだと思います。

◆セーフティーネットの役割を果たした満期共済金2兆5820億円

村田 武 愛媛大学連携推進機構教授
村田 武
愛媛大学連携推進機構教授

――共済事業への影響はどうですか。
安田 生・損保各社には契約の落ち込みなどの実質的な影響が出ていますが、20年度のJA共済は当初計画に近い実績をあげることができました。しかし、JA共済への影響も21年度からだと思いますので、組合員やJAの期待にどう応えていけるのかが問われる年でもあると思います。
――この不況の中でほぼ計画通りの実績を確保されたということは、組合員が自らのセーフティーネットをJA共済に求めてきていることは感じられましたか。
安田 生活のなかでのセーフティーネットということはJA共済の始まりから受け継がれてきたDNAですから、いまことさらには感じません。しかしここ数年前から、以前にご契約いただいた共済の満期共済金支払いが増加して20年度は2兆5820億円になっており、それだけセーフティーネットの役割を果たしてきたと思います。
そして、満期ということはそのセーフティーネットが途切れるわけですから、次の安心・安全を確保してもらうためのご契約をどういただくかということになります。

◆日本農業の根幹は水田その機能を活かした施策を

――「大転換期」に突入したJAにとって、第25回全国大会のもっとも重要な議題はなんだとお考えですか。
安田 国民の食と命を預かっている農業をどう位置づけていくのか、そのことがいま一番大きな課題だといえます。
つまり、私たちJAの事業が、地域が活性化するために、そして組合員や地域のみなさんにどう貢献できるか。これは永遠のテーマですし、いまは腹を据えてしっかり取り組んでいかなければいけないと思います。
――愛媛県の南予地域は耕作放棄地が全国トップクラスという深刻な地域で、鳥獣害被害も深刻で、高齢者も兼業農家も新規参入者も含めて丸ごと地域の人材を組織しないと地域を守りきれない状況がでてきています。
安田 全国どこでも一緒だと思うのですが、平場はまだいいのですが、条件不利地域では将来の後継者がいない、農業を継続できないというところがかなり多いのが現実です。
私は日本の農業の基礎は水田だと考えていますから、そこをしっかりした政策で対応しなければいけないし、いままでの国が行ってきた減反政策から意識を変えないといけないと思います。

◆飼料用米など計画生産する施策に参加する人はみな担い手

――具体的には…
安田 いままでの米6割、他の品目4割という米を中心とした面積による施策よりも、麦・大豆・野菜・飼料用米や米粉原料など4割のなかでしっかり計画生産する政策と予算を組み、米についてはある程度マーケットに任せる。そして何ha以上が担い手と決めるのではなくて、この計画生産に取り組んでくれる人はすべて日本の食料を担ってくれる担い手だと位置づけることです。
中山間の不耕作地では麦とか大豆を作れといわれても作れません。ここには水田の機能しかありませんから、米を作ることで不耕作地をなくす。
そして重要なのは中山間地や条件不利地域への施策です。いまの中山間地への直接支払いはあれもしなさい、これもしなさいと制約が多すぎて施策としてはよくありません。条件不利地で水田農業を営むこと自体が国土保全であり環境保全だという考えにたち、施策をうたないといけないと思います。
4割の部分にどう施策をあてて計画生産していくかということと中山間地の国土保全、環境保全に対する施策という2本立てで水田農業を構築することです。例えば、飼料用米でも外国との穀物の価格差をきちんと手当てすれば自給率はどんと上がります。
――日本農業の根幹は水田だというお話ですが、本当にその通りだといえます。中山間地の水田を水田として維持することが国土保全の基本だということが大事なことです。農業政策の根幹をどうするかと考え、水田をきちんと保全するためにどういう支えが必要かと考えると、品目横断型とか4ha以上とかではだめですね。
安田 いまの施策は分かりにくいです。農家に説明していても私たちが分からなくなってしまいます。誰もが“ああ、そうなんだ”と不公平感を持たず、計画生産を守っている人は努力すればメリットがあると納得できる分かりやすい施策でないといけないですね。
――「計画生産」という言葉を使われましたが、これは「需給の管理」について国がきちんと責任を持つということですね。
安田 そうです。
(「その2」へつづく)

(2009.05.15)