特集

地域農業振興と生産資材

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【種子消毒に欠かせない農家に信頼され定着】
「健康な土づくり」と「環境にやさしく」が奏功  JA会津いいで「西会津げんき米」

JA会津いいで(福島県) 「西会津げんき米」

 日本の米どころと言われている福島県会津地方。その会津地方は、北にそびえる飯豊山(いいでやま)の伏流水をふんだんに使い、良質米産地として名高い。良質米のひとつとして「会津エコ米」と「西会津げんき米(「げんき米」)」が挙げられ、特に「げんき米」は行政が進めている「健康な土づくり」に加え、さらに踏み込んだ産地ブランドを構築するために生物農薬を導入した。地域農業の振興と生産資材の関わりをJA会津いいで管内に取材した。

微生物農薬という新しい技術が地域農業の振興に貢献
微生物農薬という新しい技術が地域農業の振興に貢献


クミアイ化学の微生物農薬「エコホープ」

◆健康な土と微生物農薬が作り出す「げんき米」

福島県会津地方は、200万俵を生産するという東北を代表する米産地の一つだ。その会津地方北西部に喜多方市、耶麻郡西会津町、同北塩原村を管内とするJA会津いいでがある。北にそびえる飯豊山の伏流水をふんだんに使って、良質米を生産する産地として高い評価を得ている地域で、JA販売高の7割は米だという。
新潟県と接し、JA会津いいでの西部に位置する西会津町は、かねてから良質米産地として知られている。会津4JAの統一栽培基準による会津エコ米のほかに最近は、町(行政)とも連携して特別栽培米の生産に取り組んでいる。この特栽米はこの地域での米という特色を鮮明に打ち出すために「西会津げんき米」(以下「げんき米」)のブランドで販売されている。
西会津の米は食味や品質がよいということから、東京の大手卸会社が通常よりも高い価格で仕入れて販売をしていたが、販売をより優位に展開するために付加価値をつけた生産ができないか、という提案がされたことがきっかけになって特栽米や減化学農薬・減化学肥料栽培(減々栽培)に本格的に取り組むようになったと同JA営農部西部営農課の山口隆司さんが経過を語ってくれた。
「げんき米」栽培の特徴の一つは、町が進めている土の栄養分やミネラル成分のバランスを整えて土壌を健全にし、その土で栽培された作物を食べることで体の健康づくりを推進するという「健康な土づくり事業」をベースにした土づくりに力を入れていることだ。
そしてもう一つが、微生物農薬である「エコホープ」による種籾消毒だといえる。

◆環境に優しく抜群の防除効果を発揮するエコホープ

環境にやさしい「エコホープ」
環境にやさしい「エコホープ」

「エコホープ」はクミアイ化学工業(株)が、静岡県内で採取した糸状菌トリコデルマ・アトロビリデSKT‐1(以下「有効微生物」という)を有効成分として、平成15年に水稲用種子消毒剤として販売を開始し、JA全農とともに推奨している微生物農薬だ。
エコホープは、化学農薬のように直接病原菌に殺菌力を発揮するのではなく、催芽から出芽作業の過程で有効微生物が稲の種子表面で大量に増殖して、ばか苗病や細菌病などの原因病原菌と競合することで、病原菌の生育・増殖を抑制し、発病を制御するという働きをするものだ。
適用病害虫は、いもち病、ばか苗病、苗立枯病(リゾープス菌)、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病、ごま葉枯病で、200倍に希釈して種子を24〜48時間浸漬して処理する。
エコホープは液状だが、粉沫製剤化して保存性や輸送性を改善、さらにイネ褐条病に対する効果を付与するとともに、細菌病に対する効果をさらに高めた「エコホープDJ」が開発され、平成20年から販売されているが、使い勝手が向上したと好評だ。
いずれのタイプのエコホープも薬剤耐性菌出現の心配はなく、各種の化学農薬の耐性菌に対しても高い防除効果を示している。さらに土壌中では速やかに自然界に存在する菌量のレベルまで減衰し、水系では死滅する。水生動物や他の生物への影響がほとんどみられないなど、環境に優しいことも特筆される。
さらに、微生物農薬なので、使用成分回数にカウントされないということも、特栽米や減々栽培に取り組む産地には大きな魅力になっている。

◆3万7000枚の育苗箱を供給

「エコホープ」処理中の種籾(写真上)と消毒後の種籾を苗箱に播種・覆土
「エコホープ」処理中の種籾(写真上)と消毒後の種籾を苗箱に播種・覆土

西会津町にあるJA会津いいで西部営農センター内の西会津育苗センターでは、平成15年の販売開始と同時に特栽米に限らずすべての種子消毒にエコホープを使っている。「げんき米」の栽培基準では「種籾消毒」は温湯消毒でもよいことになっている。しかし、山口さんは「温湯消毒をするためには施設が必要でコストがかかる。エコホープの経済性が魅力だ」と説明する。
西会津のJAへの出荷者は約500人。そのうち「げんき米」に取り組んでいる人は108人で、面積にして約100ha、育苗センターの苗を利用しているのは50haだという。
「げんき米」を含めて今期はエコホープで種子消毒した約3万7000箱の苗を供給する予定になっている。10a当たり20箱強と計算するとおよそ180haへの供給となる。5月の連休前後から5月末にかけての田植えに合わせていまは連日作業が続けられている。
センターには9棟のハウスがあるが、最盛期にはこれだけでは足りないため農家のハウスを借りて育苗していると、実際に作業にあたっている受託組合の目黒輝夫組合長はいう。
消毒だけを依頼してくる生産者もいるので、この時期の育苗センターは「猫の手も借りたい」忙しさだという。
育苗センターでは液状のエコホープだが、「げんき米」生産者が個人で種子消毒する場合は「エコホープDJ」を使用することが、栽培基準で定められている(温湯消毒でも可だが)。個人の場合には粉沫状の「DJの方が使いやすい」と高く評価されている。
エコホープを使い始めて今年で6年目となるが、「いままでに病気が発生したことは一度もなく、素晴らしい薬剤だ」と山口さんは評価している。
特栽米の「げんき米」だけではなく会津地域4JAの統一基準で栽培される「エコ米」など、西会津で生産される米の大部分がエコホープで消毒された種子によっており、そこに微生物農薬という新しい技術が信頼され確実に地域農業に根づき、振興の架け橋となっている姿をみることができた。

(2009.05.21)