特集

斑点米カメムシ防除対策

一覧に戻る

「アカヒゲ」発生予察技術の開発

中央農業総合研究センター 北陸研究センター 上席研究員 樋口博也

 アカヒゲホソミドリカスミカメは、日本全土に分布している。本種は、コムギ、イネなどを加害する害虫であるが、日本では特にイネに対する加害が重大である。
 アカヒゲホソミドリカスミカメは、日本全土に分布している。本種は、コムギ、イネなどを加害する害虫であるが、日本では特にイネに対する加害が重大である。成虫はイネが出穂すると水田に侵入し籾から吸汁し斑点米を発生させ、米の品質を著しく低下させる。また、斑点米の発生には、水田に侵入した雌成虫が産下した卵に起因する幼虫の関与が大きいことも明らかにされている。

◆はじめに

水田内、イネの草冠高に設置した合成性フェロモン剤を誘引源とした粘着トラップ アカヒゲホソミドリカスミカメは、日本全土に分布している。本種は、コムギ、イネなどを加害する害虫であるが、日本では特にイネに対する加害が重大である。成虫はイネが出穂すると水田に侵入し籾から吸汁し斑点米を発生させ、米の品質を著しく低下させる。また、斑点米の発生には、水田に侵入した雌成虫が産下した卵に起因する幼虫の関与が大きいことも明らかにされている。
 本種は、1970年代から80 年代までは北海道でのみ斑点米を発生させるカメムシと考えられていたが、1990 年代にはいり、東北・北陸地域においても本種による斑点米の被害が認められるようになった。
 本種の雌は性フェロモンを放出し雄を誘引し、性フェロモンの成分も明らかにされた。
 そこで、中央農業総合研究センター北陸研究センターでは、信越化学工業株式会社、新潟県農業総合研究所、富山県農林水産総合技術センター、山形県農業総合研究センター、長野県農業試験場と共同で「合成性フェロモンを利用したアカヒゲホソミドリカスミカメの発生予察技術の開発」に取り組んだ。
 発生予察を行うには、発生時期や発生量を的確に把握するための簡便でかつ精度の高い調査法を開発する必要がある。現在、アカヒゲホソミドリカスミカメの発生状況を調査する手段として、予察灯と捕虫網によるすくい取り調査が行われている。
 予察灯は設置経費や設置場所などの制約があり、すくい取りは多大な労力を要し、発生消長を把握するための効率的で有効な手段であるとは言い難い面がある。
 これに対し、合成フェロモン剤を誘引源としたトラップは取り扱いが簡単であり、カメムシに対し誘引性の高いフェロモン剤を開発できれば発生予察に利用できる可能性が高い。

(写真)水田内、イネの草冠高に設置した合成性フェロモン剤を誘引源とした粘着トラップ

 

◆合成性フェロモンの検討

アカヒゲホソミドリカスミカメ成虫 本種雌が放出する性フェロモンの主たる3成分を100 : 40 : 3の比率で混合したものが雄に対し誘引性が高いことが報告されている。
 そこで、雄に対し誘引性の高い合成性フェロモンの量を検討した。合成性フェロモンは主たる3 成分を100: 40: 3 の比率で混合し、ゴムキャップに含浸させたものを使用した。合成性フェロモン0.01mgを誘引源としたトラップに誘殺される雄数は、未交尾雌10 頭を誘引源としたトラップに誘殺される雄数と差が認められなかった。
 さらに、合成性フェロモン0.01mg をゴムキャップに含浸させた誘引源の雄に対する誘引性は1カ月間は低下なかった。
 したがって、トラップを使い雄の誘殺数により野外の成虫の発生消長を把握しようとする場合、誘引源として合成性フェロモン0.01mgをゴムキャップに含浸させたものが有効であると考えられた。

(写真)アカヒゲホソミドリカスミカメ成虫

 

◆合成性フェロモントラップの誘殺消長

 フェロモントラップの発生消長把握における有効性を評価するためには、トラップの誘殺消長がトラップを設置した場所周辺の発生消長を的確に捉えているか否かを明らかにする必要がある。
 そこで、水田内に設置したフェロモントラップの誘殺消長をすくい取りによる個体数の消長と比較し、本種の発生消長把握におけるフェロモントラップの有効性を検討した。
 トラップは粘着板( 24 × 30cm ) 2 枚を横置きで背中合わせにした粘着トラップを使用した。合成性フェロモン0.01mg を含浸させた誘引源は、粘着板上辺の中央部に設置した。粘着トラップは水田の中央部に設置し、設置高はトラップの下辺が常にイネの草冠部にくるように適宜調節した。
 2005 年に「コシヒカリ」で調査した結果の1 例を第1 図に示した。すくい取りでは、6 月23 日、29 日、7月5 日に雌雄成虫が捕獲された。さらに、7月25 日以降8 月中旬まで成虫が捕獲された。粘着トラップでは7 月中旬まで連続的に誘殺があり、8 月上旬から再度連続的に誘殺が認められた。
 すくい取り雄数が多かったのは6 月23 日の35 頭、7 月5 日の12 頭、8月6 日の7 頭であったが、トラップでもほぼ同じ時期に誘殺される雄が多くなる傾向が認められ、6 月22 日に10頭、7 月2 日に7 頭、8 月4 日に5 頭の雄が誘殺された。トラップの誘殺消長は、すくい取りで認められた雄の消長とよく似たパターンを示した。
 したがって、フェロモントラップの誘殺消長は本種成虫の水田での発生を反映しており、成虫の発生消長を把握する場合、合成性フェロモン剤を誘引源としたトラップの利用は有効であると考えられる。

◆おわりに

 水田内で本種成虫の発生消長を把握する手段として捕虫網による「すくい取り法」が確立されているが、この代替手段として合成性フェロモン剤を誘引源としたトラップは有効であると考えられる。
 本種の防除は薬剤防除に依存しているのが現状である。新潟県では、極早生、早生品種を対象とした薬剤散布時期は出穂10 日後とその10日後の2 回が適当であるとされている。また、殺虫効果が高く残効期間が長い薬剤を出穂期10 日後頃に1 回散布することで、斑点米率を低く抑えられることも報告されている。
 最初の薬剤散布時期が出穂後10 日前後であれば、その防除要否を判断するのに出穂期以降の水田内での成虫数が利用できると考えられる。水田内での成虫数の調査はこれまですくい取りに限られていたが、フェロモントラップによる誘殺雄数が利用できる可能性が考えられる。
 今後は、水田でのフェロモントラップの誘殺数と斑点米率の関係を明らかにし、より正確で簡便な発生予察技術の開発に努めたい。

kamemushi-1.gif

 

(2009.08.04)