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緊急調査 全国530JAに聞く21年産米の作況
本紙調査 21年産米の作柄

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21年産米の作況、推計値は全国「98」 全国530JAに聞く

北海道・北東北は7月の低温・日照不足が影響
今後の天候で回復の見込みも
南九州は平年並みを確保

 本紙は21年産米の作柄などについて、8月下旬にJAの米事業担当者への聞き取り調査を行い、このほどその結果をまとめた。全国530JAの協力が得られ、作付け面積、平年収量、JA管内の作況指数の見通しなどをもとに集計した結果、全国作況は「98」が見込まれるとの結果となった。

 本紙は21年産米の作柄などについて、8月下旬にJAの米事業担当者への聞き取り調査を行い、このほどその結果をまとめた。全国530JAの協力が得られ、作付け面積、平年収量、JA管内の作況指数の見通しなどをもとに集計した結果、全国作況は「98」が見込まれるとの結果となった。
 21年産は各地で日照不足が心配され、7月以降は低温が続き出穂・開花期への影響が懸念された。ただし、本調査を実施した8月下旬には、8月上旬に好天が続いたことを多くの担当者が指摘、生育の遅れはあるものの当初よりも作柄は回復したとの回答が多かった。ただし、米の消費減、景気後退などで米価水準や売れ行きを心配する声は多く、最終的な作柄とともに課題は多い。

全国の21年産米の推定作況指数

JA米担当者の現場実感

◆8月に生育回復か

 調査は8月24日から28日にかけて実施。東京都を除く46道府県のJAを対象に調査協力を依頼した。
 聞き取り調査項目は「JA管内の21年産米作付け面積」、「管内の平年(基準)反収」、「調査時点での作況指数見込み」、「一等米比率見込み」のほか、各地の米事業の課題、政策要望なども合わせて聞いた。
 その結果、530JAから協力が得られた。作付け面積の合計は137万haを超えた。
 作況指数の推計にあたって、管内の平年単収に差がある場合は、作付け面積比率を聞き取り、その比率から21年産米の生産見込み数量を計算した。
 また、作況指数見込みについては、茎数、穂数、穂長などJA担当者によるサンプル調査結果から回答を得ているところも多い。また、普及センターの見方と合わせての回答もある。
 これらの推計値を集計した結果、作況指数は全国で「97.7」となったことから、今回の調査結果では「98」の見込みとした。

◆不稔の発生を懸念ーー北海道

 天候不順で生育の遅れが報告されていた北海道。民間の調査機関、米穀データバンクが7月末時点で発表した作況見込みは87だった。
 道内のJA担当者の回答を総合すると「6月も低温で、7月は曇天続き。日照がなく、曇り、雨、曇りの連続」だったようだ。
 ただし、8月上旬には天候が回復し好天が続いたという。多くのJAではこの時期に開花期を迎えたことから深刻な影響は避けられたとみる。ただし、個人差や地域差、品種差が今年は大きいとの指摘もある。たとえば、成苗と中苗などの栽培方法による生育ステージのずれが、曇天・低温続きの時期にあたっていたかどうかといった要因や、水管理、新品種導入の初年度だったことなども指摘され、不稔率は高まるとの声は多かった。
 8月の天候回復の好影響を指摘する現場がある一方、6月、7月の低温で「そもそも茎数が少ない。これから回復するといってもどこまでか不安」との声もあった。
 こうしたことから作況指数は90を下回るといった声も決して少なくなく「不稔が多い。皆無作ではないかと思われるほ場もある。管内では85と推計」との声もあり、本紙集計では92となった。

◆多くは天候回復に期待

 東北地方も7月は低温・日照不足で推移してきたが、8月に入ってからは「雨は多いが気温は高い」、「持ち直してきているのでは」(青森)、「日照も温度も確保できた」(岩手)、「天候影響は少ない」(山形)、「低温傾向でかえって高温障害がなかった」(秋田)などの声が寄せられた。
 生育は「4日から1週間の遅れ」(青森)収穫は「10日から14日遅れか」(秋田)、「稲が軟弱で倒伏が心配」、「穂が短く粒が少ない」(福島)などの指摘も聞かれた。また、「ヤマセに強い品種導入が奏功しそう」(青森)との声もあった。
 関東地方では平年並みよりもやや収量は下回るとの見方が多いなか、千葉では「出穂期の長雨、開花期の強風で作況は悪化する」、「カメムシも多い」との見方が示された。そのほか「倒伏が心配」(栃木)と稲の生育を懸念する声も。
 新潟から北陸では「長雨で肥料が散布できず収量減になりそう」(新潟)、「7月には葉いもちが全域で発生した」(同)など低温・長雨の影響が出ている。
 作況は「思ったほど悪くない」(石川)との見方がある一方、「粒は大きくなりそうだが、そもそも穂が短い」(同)との声もあった。「天候次第で収量は上がる」(新潟)の見方もあるが、「減農薬栽培の広がりで紋枯病が7月に全域で発生した」(新潟)といった栽培方法への懸念も聞かれた。
 中部、東海から近畿では「生育に問題はない」(滋賀)、「今後、台風被害がなければ平年並み」(愛知)、「長雨だったが持ち直した」(岐阜)との地域がある一方、「冷夏の影響あり」(三重)、「未熟粒、乳白が増える」(同)など作柄の悪化を予想する声も少なくない。
 また、兵庫では「8月の集中豪雨で被害大」との声も寄せられた。

◆中国地方、集中豪雨も

 中国地方ではやはり7月の集中豪雨で「土石流、冠水が広がっている」(山口)との災害の影響や、「出穂後の低温が心配」(岡山)のほか、登熟が始まった地域で「倒伏が多く見られる」(広島)との指摘もあった。
 また、山陰では作柄を懸念する声が多い。「茎数は確保できたが、日照不足でモミ数は少ない。減収を予想」(鳥取)、「開花期の受粉が悪かった。多雨、日照不足の影響か。未熟粒も多い見込み」(島根)。
 四国はおおむね平年並みを予想する声が多かったが、一部で不作を予想。高知では「高温障害の発生がある」と品質を心配する声もあった。
 九州では、宮崎、鹿児島で平年並みとの予想だが、福岡、佐賀、大分では、天候不順から90台の前半を予想する声が多く92〜96の推計値となった地域もある。また、ウンカの発生も報告された。

 

政府及び民間流通における6月末在庫の推移

 

「不作なのになぜ下落? いつも農家に説明できない」
在庫増のなかで価格への懸念も

 


◆肥料高騰で経営厳しく

ミニマム・アクセス米の販売状況 全国的に不作傾向の推計となったが、JA担当者からもっとも多く聞かれたのが「米価が不安」という声だ。
 「20年産の在庫があって不作でも米価は上がる見込みがないのでは」(新潟)との指摘に代表される。
 今年6月末の在庫は昨年より38万トン多い298万トン。しかし、政府保有在庫は99万トンから86万トンに減り、民間在庫が82万トンから127万へと45万トンも増えた(図上)。
 理由は販売不振。20年度の米の消費量は1人・年間あたり59Kgとついに60Kgを割った。景気後退の影響で09年1-3期の寿司店の売り上げは前年比マイナス18%、和食店がマイナス13%と米の消費減に影響している。家庭向け精米では、大手量販店による安売り競争も拍車をかけている。
 「不作なのになぜ米価が下がるのか。農家にいつも説明できない」(茨城)との声が生産現場を物語る。
 肥料高騰の影響は当然、稲作にも影響し「経営は非常に厳しい」(福井)、「資材高騰を米価に何とか反映できないかと考えている」(茨城)、「1俵1万5000円がないと経営はもたない」(栃木)と切実な声も寄せられた。
 こうしたなか、農業政策への注文、期待、不安の声も聞かれた。
「今の生産調整では不平等感が強い」、「水田フル活用は分かるが農家への説明のタイミングが悪かった」、「米粉は現場に力出る。もっと推進を」などのほか、総選挙直前の調査だったこともあって「政権交代で政策変更が不安」との声がある一方、「戸別所得補償に期待。ただしFTAが心配」との指摘があったが、「農業が国策の主軸になっているか」との声が印象に残る。
 天候の推移と同時に、日本農業の根幹である米政策にこの秋、どういう姿勢が示されるか、にも生産現場は注視している。

【表】
 平成7年からのミニマムアクセス米の輸入量は928万トンにものぼる。在庫は111万トンも。 今回の調査ではJA担当者から「MA米は援助用、加工用にきちんと回してほしい」などMA米管理に厳しい意見も。一方、米業界には1俵1万を切る水準で主食用に常時流通しているとの指摘もある。

 

農水省の8月15日現在の作柄見込みに関する記事

(2009.09.02)