特集

新たな協同の創造と生産者と消費者の懸け橋をめざして

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生産者とともに自給率向上をめざす JA全農の水田フル活用対策

・21年産は約8300トンに急増 産地と実需者との連携で需要拡大
・今年度は1900ha超の見込み稲作農家と畜産農家の結びつきをサポート

 昨年の世界的な食料危機を受け、各国で食料の増産と安定供給のニーズが高まってきた。自給率の低い日本ではそのためのひとつの方法が水田をフルに活用した生産だ。米粉や飼料用米といった米の新規需要を開拓し自給率向上を図るとともに、主食用米の計画生産を通じて水田農業の経営安定につなげようという取り組みでもある。
 JA全農では、この水田フル活用対策としてどのような事業を展開しているのか。今回は「米粉」と「飼料用米」にスポット当てて紹介する。

米 粉

21年産は約8300トンに急増
産地と実需者との連携で需要拡大


ファミリーマートの米粉商品 JA全農の米粉原料米の生産・供給は20年産では取り扱い実績は350トンにとどまったが、21年産では約8300トンにまで大幅に拡大する見通しだ。
 後半に紹介する飼料用米と同様、政策支援として米粉・飼料用米には「新規需要米として10アールあたり5.5万円+需要即応型として2.5万円を追加、計8万円」と昨年度より手厚い交付金が決まったことが大きく、主食用の計画生産の達成のための対応として取り組みが進んだ。JAグループの基本方針も米粉、飼料用米の生産・供給は水田フル活用を通じた食料自給率の向上をめざす国の方針に対応した取り組みとの位置づけ。計画生産の取り組みと生産者手取り確保の観点から、政策支援のある新規需要米での取り組みは、県域において地域流通することを基本とし、県域をまたがる生産と需要の結び付けを含め、需要確保に取り組んでいる。
 ただし、米粉の場合は「先に需要があってそれを確保したうえで、作付けをするのが基本」(米穀部米輸出・需要拡大推進室)である。
 21年産で飛躍的に取り扱いが増えたのも、さまざまな需要者からの米粉へのニーズの高まりがあったからだといえる。
 そうした米粉ブームを背景にした具体的な動きのひとつが、今年3月からコンビニの(株)ファミリーマートが新潟コシヒカリを原料にした米粉パンなど米粉商品を全国約7000店舗で発売したことだろう。発売商品は米粉パンのほか、シュークリーム、ショートケーキ、お好み焼きなど。
 JA全農は伊藤忠ライス(株)と協力して新潟コシヒカリの米粉を供給している。ファミリーマートはこれまでも米粉商品を随時販売してきたが、JA全農との提携によって原料を安定的に調達できるようになったことから全国展開できるようになったという。
 コンビニの米粉商品で原料米を産地指定するのは初のケース。包装紙には全農マークも添付し、国産米の消費拡大と安心・安全をアピールしている。
 「米の新たな需要拡大と自給率向上などで3者の考えが一致した。今後も関係業者との連携を積極的に行っていく」(同)という。

(写真)ファミリーマートの米粉商品

◆県域流通と県間調整で役割分担

 もっとも米粉原料としては主食用より大幅に低価格なため、また、生産者手取りの確保のため、事業の基本は流通経費のかからない地産地消を基本として取り組んでいる。その役割を担うのが県本部等で、全農本所は、ファミリーマートなど広域流通需要者(製粉メーカー等を含む)への推進により産地と需給の調整を担う、というように役割分担をしている。
 県本部が具体化した事業の事例としてはJA全農みえと井村屋製菓(株)の連携がある。
 三重県津市に本社のある同社は「三重県産米粉」を使った『あんまん』を生産・販売することを8月12日に発表した。
 井村屋製菓では、より安心・安全な素材で信頼の置ける商品の提供と地元素材を使った商品を、との意識が高まっており、三重県産米の消費拡大、自給率向上というJA全農みえとの思いが一致し実現した。米粉にはあんを引き立てる口溶けのよいふんわりとした食感の生地ができる効果があるという。
 今回は21年産の新規需要米約100トンを供給する契約を締結するとともに、三重県産米粉を使った商品開発を相互で継続して研究していく体制もスタートした。
 このほかの県でも、学校給食の米粉パンなどへの供給や、お好み焼きなど地域名物の原材料として、また、餃子の皮の原料としてなどなど、多様なニーズがありそれに応える取り組みが進められているという。

エーコープ商品「国産米粉ミックス」◆独自商品の開発・販売も

 一方、JAグループとして内部完結的な米粉商品開発と普及も進んでいる。
 製粉メーカーと連携し、JAグループが供給した原料から製造された米粉を使いJA組合員などに米粉商品として供給されているのが、昨年夏に発売したエーコープ商品「国産米粉ミックス」だ。
 ホットケーキ、ピザ、ナンなど多用途に活用できるよう開発したもので、米粉6割、小麦粉(国産)4割とした。米の消費拡大と生産基盤確立のためにJA中央会、女性部、地方自治体などと普及を図り、女性部の共同購入、Aコープ店舗、直売所などで販売、料理レシピの充実を求める声からレシピコンテストなども開催して、「順調に拡大してきている」(生活部食品企画課)という。そのほかエーコープ商品には「もちもちミルクパン」や「米粉入り天ぷら粉」などもある。今後、米粉入りのお好み焼き粉やうどん、そうめんなどの米粉入り乾麺の開発も予定している。
 米粉の需要拡大には小麦の代替品ではなく、新規の需要、商品開発が必要である。こうしたJAグループ独自の商品開発の実績をもとに、連携先への提案力を強めることも期待されている。

(写真)エーコープ商品「国産米粉ミックス」

 

◆需要に結びついた安定供給の確保を

 米粉を一過性のブームに終わらせないためには、需要・消費に結びついた安定供給の確保が必要である。
 生産者にとって米粉原料米を生産することは主食用の栽培体系と変わらないことから負担は少ないが、需要者の求める品質と価格に対応していく必要があるため、製粉適正のある品種による栽培、コストダウンを実現できる多収穫品種などの導入が課題となる。
 JA全農では、需要者から品質的に評価され、生産者手取りをできるだけ確保するための多収穫品種「モミロマン」の試験栽培を今年度から茨城県内JAの協力で行っている。この品種は耐倒伏性に優れ、直播栽培に適し収量も高いという。この秋の試験結果が注目される。生産者の意欲を高め、産地・JAと製粉メーカーなど需要者との結びつきを強める総合的な事業展開が期待されている。

 

飼料用米

今年度は1900ha超の見込み稲作農家と
畜産農家の結びつきをサポート


◆地域流通と広域流通

 米穀部が事業展開する飼料用米の流通・供給事業は、生産者からJA、JAから全農(県本部)・県連へ、という主食用米の集・出荷の仕組みを基本に流通スキームが構築された。
 政策支援があるとはいえ、飼料用トウモロコシの代替として米を販売することになるため、生産者手取りを確保する低コスト流通と低コスト生産がまずは取り組みの基本となる。
 このうち低コスト流通の実現では、地域内での稲作農家と畜産農家の結びつきをつけることが必要となる。
 飼料用米も主食用米と同じようにJAのカントリーエレベーター(CE)やライスセンター(RC)に出荷し、乾燥と保管、輸送が必要となるが、販売単価の低い飼料用米でもこれらにかかるコストは主食用と同水準。これをいかに抑えるかの点からも、まずは地域内で流通を完結させることが重要になる。
 そのために稲作、畜産農家や地域飼料会社など取り組み主体とそれをバックアップするJA・連合会、地域水田協議会による体制が必要になる。また、これを促進するため、消費者とも連携し、国産飼料用米を給与した畜産物として付加価値をつけた販売までを視野に入れる取り組みも必要で、実際に生協との協同のかたちで実現している地域も増えつつある。
 しかしながら、飼料用米に生産者が意欲的に取り組もうとしても地域内の需要を超える生産数量となるケースもある。こうした場合の受け皿として考えられたのが全国流通スキームである。

飼料用米の流通フロー

(表)飼料用米の流通フロー

 

◆配合飼料会社と連携

 全国流通スキームは全農が全国の配合飼料会社に販売するのが大きな特徴だ。地域の需要を超えて生産された飼料用米を畜産需要のある地域と結びつける機能を果たす。このスキームは全国的に飼料用米の取り組みが進むことを想定して、「不特定多数の稲作農家と畜産農家を結びつけるもの」でもある。
 事業の概要は▽出荷契約に基づき全国共同計算を実施、▽販売期間は生産年の12月から約1年間、▽販売価格は輸入穀物価格(トウモロコシ)に連動し4半期ごとに変動、▽精算は販売終了後に実施、などとなっている。

◆収穫前まで飼料用米への切り替えは可能

 全国流通スキームは、米の生産・集荷・出荷から、実需者までを系統の飼料会社等と連携して結びつけるJAグループのネットワーク力があってこその総合力だといえる。
 ただし、各地の飼料用米数量がある程度まとまらないと、輸送費等の抑制が難しくなる点や、実需者の飼料用米への安定供給ニーズに対応するためには保管経費が増えるなどの課題もある。
 産地にとっては生産調整達成のための飼料用米など新規需要米の取り組みでもあるが、生産者の手取りを確保するという点では、供給ロットをまとめるための取り組みも求められる。
 一方、低コスト生産の点では、多収穫品種の普及・導入や、肥料・農薬の投入量を減らす試み、さらに乾燥・調製コストを削減するため刈り入れ時期を遅らせる立ち枯れ乾燥に取り組むことも必要となる。

水田フル活用で飼料用米の本格生産をめざす◆生産者と消費者の願いの実現に向けて

 飼料用米の流通スキームは20年産からスタート。コストダウンのための団地化による取り組みや安全・安心を担保する生産履歴記帳の実施、CE・RCへの出荷と主食用との区分管理などに地域が一体的に取り組むことをめざしている。品種は主食用の通常品種でも対象としている。品質基準は「飼料用米自主規格」を定めている(水分、異物混入率など主食用の農産物検査の3等以上の確保)。また、作付け後であっても収穫前まで主食用米から飼料用米へ切り替えも可能で、その点では地域によっては今からでも対応することができる。
 JA・地域が一体となって取り組んだ結果、
今年度の全農の取り扱い面積は昨年比2倍以上の1900ha超となる見込みである。
 生産者のやりがいと経営安定、自給率向上を望む消費者の願いをかなえるためのJA全農の機能の発揮が今後も期待される。

(2009.09.18)