特集

【第25回JA全国大会特集】新たな協同の創造と農と共生の時代づくりをめざして
“守りから攻めへ”生産者と消費者の懸け橋となるために
【インタビュー】
永田正利 JA全農経営管理委員会会長
聞き手:吉田俊幸 高崎経済大学学長

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【トップインタビュー】 この3年間の改革の成果を踏まえて  永田正利(JA全農経営管理委員会会長)

・農家との接点を強めるTACの活動
・徹底した安全・安心対策で消費者ニーズに応える
・全国組織の情報網・総合力を活かして
・日本農業を守るため加工や外食でも明確な産地表示を
・いまの時代、攻めの姿勢でシェアの拡大を

 ここ数年、JA全農は経済事業をめぐる厳しい状況のなか、自らの組織・事業を改革するために「生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋」を経営理念として掲げ改革に取り組み着実に成果をあげてきた。そうした改革の成果を踏まえて、22年度からは「大転換期」に向けた新たなスタートをきることになる。そこで現在の経済事業および全農を取り巻く課題と今後の方向について永田正利経営管理委員会会長に聞いた。聞き手は、吉田俊幸高崎経済大学学長にお願いした。

◇農家との接点を強めるTACの活動

永田 正利 JA全農経営管理委員会会長 ――最近の食や農業の状況をみると、高度経済成長以降の状況が大きく変わる転換期にいまきていると思います。とくに農家所得の減少や農村経済が変化しています。JAや全農の経済事業の果たす役割が大きくなってきていると思いますが、いかかですか。
 永田 お話の通りだと思います。農村と都市の格差が広がってきましたし、農村自体が過疎化している状況です。この状況は基本的に農業所得で暮らしていけないということです。だから高齢化し後継者がいないというのが現状です。担い手を育成しようとしていますが、平場ではなんとか農業経営ができても、中山間などの集落にいくと難しいというのが実態です。直売所をつくり地域農業を活性化しようとしていますが、現実には後継者がいません。
 そうしたなかで農業協同組合の基本は、経済事業ですから、農家の期待の7〜8割は経済事業に対するものです。
 ――農村の状況をみると、担い手育成も必要だが、高齢者・女性、兼業農家を経済事業の中でどうやって包括していくかが、協同という意味でも非常に重要だということですね。そういう面でいま全農が力を入れているのがTACですね。
 永田 経済事業のこれからの方向で大事なことはTACをいかに育てるかということです。そして、全国的に経済事業が組合員の前に出て行く機会が少ないので、TACによって農家との接点をつくり、農家の要望をいかに汲み上げてくるか、そしてJAや全農がやっていることをいかに農家に伝えるかが大事だと思います。信用・共済事業は渉外活動をしっかり行い農家との接点を見出してきましたが、経済事業はその点で遅れていたので、これをしっかりやっていくしかありません。そういう意味で私はTACが一番大事な仕事だと考えています。
 ――私も低価格の資材供給を始めTACの皆さんが土壌診断の指導をしたり、経営改善の支援をしたり成果をあげていると聞いています。と同時に、農家は自分の作ったものをどう売ってくれるのか、あるいは何を作ったらいいのかという情報を望んでいるので、そういう面でもTACの活動を強化したほうがいいと感じていますが…

 

◇徹底した安全・安心対策で消費者ニーズに応える

吉田 俊幸 高崎経済大学学長 永田 全農の基本的な役割は、生産資材をできるだけ安く農家のみなさんに提供していくことと、生産された農畜産物をできるだけ高く販売することの二つだです。そして農家からは、生産したものは少しでも高く売れる対応をして欲しい。またどんなものを作ったら安定的な経営ができるのかについても情報提供して欲しいという当然の要望があります。
 消費者のニーズにあったものをキチンと生産してもらい、それを再生産できる価格で販売する方法をつくることは全農の大きな仕事だと思っています。
 ――生産資材を安く提供するのも全農の仕事で、この間だいぶ工夫をされているようですね。
 永田 私が全農の会長に就任した昨年の7月は、肥料原料・飼料原料・原油の価格が高騰していたときでしたが、組織内ではコストダウンの努力を積み重ねましたが、それだけでは解決しないので国に緊急対策を要請すると同時に、消費者の皆さん方にも国産農畜産物の需要の拡大を呼びかけるなどいろいろなことを実行してきました。
 コストダウンをすると同時に全農は、例えば肥料原料はそのほとんどを輸入に頼っていますから、原料を安定確保することも大事な仕事として努力をしています。
 ――量販店や生協、外食などへの直販事業ですが、バイイングパワーの強いそうした取引先と全農が安定的な取り引きを行い生産者の手取りを確保していくことは大きな課題だと思いますが…。
 永田 消費者にできるだけ近いところで事業を展開するためには、量販店や生協との直接取り引きは大事な取り組みですし、取引先をさらに拡大していく必要があると考えています。
 ――国産農畜産物を消費者に買ってもらうためには、まず安全・安心がありますが、安全に対する仕組みとかトレーサビリティについては、JA組織が一番しっかりしていますね。
 永田 トレーサビリティを含めて、安全・安心について、JAグループは徹底していますし、消費者の皆さんもそのことは分かっています。それだけに、外食産業や加工品でもキチンとした産地表示をして欲しいと思います。

 

◇全国組織の情報網・総合力を活かして

 ――「消費者ニーズ」ということがよくいわれますが、例えば果実の場合、国内生産量は減っていますが、1人当たり消費量はあまり変わりません。つまり輸入が増えているわけです。輸入品の多くはケーキ用のイチゴとかサンドイッチ用のトマトとか加工用です。こうした消費者の変化にうまく対応していないのではないでしょうか。加工用は種子の段階から栽培方法そして契約段階まで一貫しないとうまくいかないと思います。そのためには全農やJAのリーダーシップが必要ではないでしょうか。
 永田 加工メーカーは、いかに安く原材料を手当てし、そして一定の量を必要としています。それを国内で供給しようとすると、産地によって品種・単価のバラツキがあるなど、年間通して安定的に供給するうえで課題は多いと思います。しかし、九州から北海道までという日本列島の特性を活かしてリレー出荷できたら、かなり長期にわたって旬の農産物を供給できると思いますがコストの面では課題が残るでしょう。
 加工品やハンバーガーなどのファーストフードで、使われているトマトが国産かどうか表示されていたら、多少高くても国産を選ぶ消費者も多いのではないでしょうか。
 ――量販店や加工品などにはリレー出荷をキチンと行えば輸入品はかなり抑えられますね。それは全農の情報網と全国組織の強みですね。
 永田 その通りです。
 ――加工用などいままで以上に増えてきている需要への対応が遅れていると思いますので、全農が生産者を組織しそうした需要に応えればうまくいくのではないかと思います。研究所もあり技術力をもっているわけですから、総合力・組織力を発揮する時代にきているのではないでしょうか。

◇日本農業を守るため加工や外食でも明確な産地表示を

 ――量はそれほど多くはないと思いますが、農産物の輸出も全農の仕事ではないでしょうか。日本の人口は減少しますし所得も減るということになれば、日本農業が持っている技術は高いので輸出を考える時期にきているのではないでしょうか。あわせて、海外での日本の農産物のパテントなども重要だと思いますが。
 永田 とくに果物は外国にはない高い品質をもっていますから大いに輸出したいと思いますが、輸出をするということは反面、輸入を否定できなくなりますから微妙な部分もありますね。一方で、輸出も必要でしょうが、商社などが外国で日本の農業技術を使って農産物を生産していますから、海外の技術レベルも高くなり日本と変わらなくなることも想定されます。種子を持っていってつくればコストも安くなりますしね。また、生産技術は交流して互いに高まることは世界的な食料問題などを考えればいいことだと思います。しかし、日本農業を守るためには、安全・安心の問題を含めて産地表示をキチンとすることです。

 

◇いまの時代、攻めの姿勢でシェアの拡大を

 ――「生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋」を経営理念に3年間改革に取り組まれてきましたが、今後の課題はなんでしょうか。
 永田 いろいろなことがあって「業務改善命令」を受けて3年経ち、改革ができたと思います。それは、内部統制といいますかガバナンスやコンプライアンス態勢がキチンとできていなかったことが一番大きな原因でした。
 そして農水省が業務改善命令で要求してきたことは、子会社も含めた全農グループが対象であったことはもちろんですが、JAグループ全体でそれに応えて、コンプライアンスの問題を中心に、生産者にも消費者にも身近な存在となるよう努力をしてきました。その成果がでて今日があるわけですから、結果的には努力してきてよかったと思います。
 この3年間は二度と同じことを繰り返してはならないという“守りの姿勢”が大きかったと思います。しかし、そのことを踏まえながら、大転換期といわれるこれからは、もっと外向きに“攻めの姿勢”でいく時期にきていると考えています。いまの時代は、生産資材など全農の取扱量は減っていく傾向を否定できませんが、量は減ってもシェアを拡大していくことが重要です。
 ――具体的には…
 永田 やはり農家へはTACの活動を盛り上げ、活性化することです。一方で消費者と近いところで販売し、農家と消費者をつなぐ懸け橋になる努力をしていくということです。
 ――ありがとうございました。

JA全農経営管理委員会 永田正利会長(右)・高崎経済大学 吉田俊幸学長(左)

(写真)JA全農経営管理委員会 永田正利会長(右)
高崎経済大学 吉田俊幸学長(左)


インタビューを終えて

 農家所得は、農外でも農業所得でも大幅に減少しており、高度経済成長期以降の農村経済を支えた諸要素が大きく変化している。農協も時代の変化に対応した事業、組織運営の変革が求められており、組合員から農協が選別される時代を迎えている。
 今後、「農業協同組合の基本は、経済事業であり、農家の期待の7〜8割は経済事業」という会長の指摘がその原点である。同時に、農協は農業・農村地域を振興するための新たな視点からの事業、組織運営の構築が求められている。そのためには、大規模経営者、高齢者、女性、兼業者等を多様な担い手と位置づけ、実情に沿った営農、経済事業を展開することである。
 政策的には、戸別所得補償制度が導入された場合には、販売を軸とした事業運営がますます求められる。「経済事業をしっかり行い農家との接点をもち、消費者との懸け橋なる」ことを期待する。
(高崎経済大学学長 吉田俊幸)

(2009.09.30)