特集

【第25回JA全国大会特集】 新たな協同の創造と農と共生の時代づくりをめざして
日本農業を継続的に発展させていくために
【トップインタビュー】
安田舜一郎 JA共済連経営管理委員会会長
聞き手:小池恒男 滋賀県立大学名誉教授

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【トップインタビュー】 地域社会、地域農業にどう貢献していくのかが課題  安田舜一郎(JA共済連経営管理委員会会長)

・組合員・地域住民に信頼されなければJAの存在意義がない
・次期3か年計画では「3Q訪問活動」の徹底をめざしたい
・農業や地域社会のあり方を無視した企業参入は地域を崩壊させる
・組合員・地域住民に信頼されなければJAの存在意義がない

 相互扶助という協同組合の精神をもっともよく具現化した事業が共済事業だといえる。JA共済事業は厳しい環境下でも着実に農家組合員だけではなく地域の人たちからも信頼され、共済・保険業界において確固たる地歩を築いてきた。しかし、事業基盤である農村社会の高齢化、人口減少など今後の見通しは必ずしも明るいものではない。そうしたなかで次期3か年計画を策定するポイントは何か。そして現在の農業をめぐる諸問題をどう考えるのかを安田舜一郎経営管理委員会会長に聞いた。聞き手は小池恒男滋賀県立大学名誉教授にお願いした。

◇昨年並みに推移している21年度の推進状況

安田舜一郎 JA共済連経営管理委員会会長 ――「アメリカ発の金融危機に端を発する世界的な悪化を受けて、アメリカ型の市場原理主義への過度な偏重を見直す動きが強まっている」という第25回JA全国大会議案の冒頭の書き出しに強烈な印象を受けました。そして、日本経済は上向きかけているといわれていますが、主要経済指標のことどとくが収縮していて、先が見えない状況が続いていますが、JA共済連の20年度の決算報告などをみると、直接的には金融危機の影響を受けていないようにみえますね。
 安田 運用資産の8割強が公社債で外貨建ての比率が小さいのですが、それでも100年に1度といわれる金融危機の影響を免れることはできませんでした。しかし、支払余力比率の低下は小幅にとどまり、経営の健全性は確保できたと思っています。
 ――確かに経常利益とか当期剰余金は減っていますが、直接事業収益は19年度より拡大していますね。
 安田 年金とか福祉など公的なものへの不安や低金利が続いているところに、新仕組みの一時払生存型養老生命共済が出て好評だったため掛金収入が増えたからです。ですから20年度は増収減益だったわけです。
 ――今年度はどうですか。
 安田 8月末の推進状況では、生命共済が昨年度より落ちていますが、その他の主な共済種類はほぼ昨年度並みで推移しています。

(写真)安田舜一郎 JA共済連経営管理委員会会長

 

◇次期3か年計画では「3Q訪問活動」の徹底をめざしたい

小池恒男 滋賀県立大学名誉教授 ――大企業などでは経済指標が好転しているなどといわれていますが、一般の生活者の段階では、有効求人倍率とか失業率をみると依然として厳しい指標がでています。そうしたなかで策定される次期3か年計画の狙いとポイントはなんでしょうか。
 安田 最近の状況をみると、私たちの基盤である農家組合員が減少するなかで、組合員・利用者および地域住民とのつながりの強化を通じて組織・事業基盤の維持拡に取り組みたいと考えています。そのためには一人ひとりの保障点検とニーズの的確な把握のために、少なくとも年に1回は全契約者世帯への「3Q訪問活動」が必要だと考えています。
 そのうえでJA共済連としてどうあるべきなのかといえば、時代にあった仕組みを開発をすると同時に、時代にあうようJA共済連の体制を見直すとともに効率化をはかり、いかに契約者や地域に還元していけるのか、安全・信頼の保障を提供していけるのかが、一番のポイントだといえます。
 JA共済事業は、農業者の基盤のうえにある事業ですから、最終的には地域農業を守る、日本の農業を守ることにつながっていかないと、共済事業を行っている意味がありませんから、そこをしっかり見つめて、こうした課題の具現化をはかっていくことも、次期3か年の重要な課題です。
 ――効率化するというのは具体的には…
 安田 
全国一斉統合をして来年で10周年を迎えますが、共同元受であるJAとJA共済連がそれぞれの役割を果たしながら、さらに一体化をはかっていくことを考えないといけないと思います。

(写真)小池恒男 滋賀県立大学名誉教授

 

◇組合員・地域住民に信頼されなければJAの存在意義がない

 ――第25回JA全国大会の議案を読んでいくつかの気になる点がありましたので、それについてご意見をお聞かせいただきたいと思います。まず「もう一段の合併による規模拡大」という表現があります。いま各県平均10JAですがこれを2とか3あるいは1をめざすということですか。
 安田 いままでは、合併で組織基盤・経営基盤の強化ということをいってきましたが、今大会では必ずしもそのことを推し進めてはいません。
 ――それはなぜですか。
 安田 いまは地域の特性をしっかり発揮していかないと、日本の農業もJAも難しい時代に入ってきています。JAの経営基盤だけで合併して、継続性の保てる地域農業あるいは地域社会の活性化にどれだけJAが寄与できるかというと、大きくなるだけでは意味がありません。
 地域農業の特色をだして機能し、組合員や地域住民に愛され信頼されて経営基盤をキチンと構築していかないと存在意義そのものが問われかねないわけです。
 ですから今大会では、地域農業をJAグループとしてどう守っていくのかが主たる課題ですし、「新たな協同の創造」というテーマが掲げられているわけです。

 

◇「県域戦略」とは地域の特性を活かした基本戦略をたてること

 ――次に「各JAの枠組みを超えて、県域等を単位として、あたかも一つのJAのような機能集約を行う」という県域戦略が打ち出されていますが、これはどういう意味でしょうか。
 安田 都市型とか純農村とか県域で特色があります。同じ県内でも都市型の地域もあれば中山間地のところもあります。そういうなかで、JAと県域が一体化してどう県域の基本戦略をたて、信用・共済・営農経済の各事業がどうかみ合っていくのか、あるいはかみ合わす機能を中央会がどう果たすのかということです。
 ――それは中央会からJAへという上意下達ではないわけですね。
 安田 上意下達では、地域におけるJAの存在価値がなくなります。中山間地とか平場あるいは都市型とかいろいろな地域特性がありそこにJAが存在しているわけですから。しかし、都市型であれ中山間地であれ、日本の農業をどう守っていくのか、それにそれぞれのJAがどう貢献できるのかという基本線をキチンとたて、具体的なやり方は県域とJAがしっかり協議したうえで、やり方はそれぞれのJAで違って当たり前だと思います。

 

◇食と農の基本的な考え方に基づいた計画生産が

 ――次に改正農地法についてですが、これにはいくつかの留意すべき問題点がありますが、大会議案もその他の文書を読んでも、それらに対する備えが不十分で、改正農地法によって地域がどういう問題に直面することになるか、そのときにJAがどのような支援策を打ち出すべきか、といった点にはあまり関心が払われず、農地利用集積円滑化団体とか、JA出資型法人の設立、JA本体による農業経営の検討といったところにいきなり踏み込んでおりそこに危うさを感じるのですが…。
 安田 農地の問題もそうですが、日本国民の生命の根源である食と農を、自給率や国土保全、環境保全を含めて将来にわたってどう位置づけるのかという国としての基本的な考えが明確でないと思います。
 例えば自給率を50%にするなら、そのために日本の国土をどう活用していくかという視点から米は国土の何割を使うとか、自給率を下げているのは飼料だから、飼料用米をどれくらい作るとか、蔬菜についてはどうというように、国家自体が国民の食について計画生産を提示して、国民的な合意を得て、政策をその方向にシフトさせていく。そのなかで、日本の農業をJAを含めてどう守っていくのかと考えるべきです。
 ――そのなかで農地問題も考える…。
 安田 JA出資型法人はどちらかというと担い手の少ない中山間地などで設立されますが、ほとんど赤字になります。私は、県域のJAグループが行政も巻き込んで、地域の農業を守るための基金的なものを設立して、一定期間で自立してくださいと支援するような仕組みをつくらないといけないと思います。

 

◇農業や地域社会のあり方を無視した企業参入は地域を崩壊させる

 ――最近、一般企業の農業参入が増えています。そしてその形態もさまざまですが、農協陣営ももっと積極的に考えなければいけないのではないでしょうか。
 安田 私はいまの企業参入がすべて悪いとは思いませんが、企業が農業に参入して本当に継続性をもてるのか、そして地域とどう同調できるのか。地域文化や地域社会とどうなじむのかということを考えず、企業論理だけで参入すると地域社会の崩壊につながりかねないと思います。
 ――企業もJAとの良好な関係といいますね。
 安田 企業が農業は地域に根ざしたものだということを理解して参入してくるのかどうかです。採算がとれなくなると企業は撤退していますしね。
 ――それから流通業界は優秀な産地や生産者を囲い込もうとしていますね。
 安田 JAグループは集荷して市場にというだけではなく、消費者や実需者のニーズに的確に応えるいろいろなビジネスモデルをつくっていかなければいけないと思います。

 

◇相互扶助精神に基づいて安心を提供し続ける

 ――最後に、全国のJA関係者へのメッセージをお願いします。
 安田 新たな政権が誕生し、農業政策についてはまだはっきりと見通せない部分もありますが、われわれは日本農業を継続的により発展的に構築するために、農政に対応していかなければいけません。
 その中で、共済事業は相互扶助精神に基づいて、地域社会、地域農業そして契約者に、安全安心をきちんと提供していくことが次期3か年でも問われていますので、しっかり対応していきたいと考えています。
 さらに、共済事業として社会構造の変化にも対応していきますので、ご理解とご支援をお願いいたします。

taidan.jpg(写真)小池恒男 滋賀県立大学名誉教授(左)
安田舜一郎 JA共済連経営管理委員会会長
(右)


 
 
インタビューを終えて

 第25回JA全国大会協議案で共済事業そのものについて論じている部分はそれほど多くはありません。内容的には、現在策定中の22年度からの「次期3か年計画」の基本的な考え方がベースになっていると思われます。つまり、「次期3か年計画」の三つの検討方向、1組合員・利用者および地域住民とのつながりの強化を通じた事業基盤の維持・拡大。2JAの共済事業実施体制および連合会のJA支援機能等の強化。3さらなる事業基盤の維持・拡大に向けた大きな事業展開、が提起されています。その中でとりわけ注目されるのは、2のJA・連合会の体制整備、連合会のJA支援機能の強化、3の農地法改正等を踏まえた新たな農業・食料リスクに対する保障提供、等々の提起だと思います。安田会長の発言が、重要なこれらの点に沿って進められていること、加えて、これらの発言が強い信念と確信に裏付けられたものであることに改めて驚かされました。ありがとうございました。
(小池恒男 滋賀県立大学名誉教授)

(2009.10.01)