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戸別所得補償制度への期待と不安―現場からの声(1)

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戸別所得補償制度への期待と不安―現場からの声(1)  担い手の育成に役立つ仕組みか〜熊谷健一さん(岩手県)

JAいわて中央(岩手県)
前専務・熊谷健一氏

 新政権の農業政策の目玉、戸別所得補償制度は平成23年からの本格実施に向けて、来年度から米戸別所得補償制度と水田利活用自給力向上事業がモデル事業としてスタートする。現在、制度設計が検討されているが、生産現場では期待と同時に不安もある、と聞かれる。今回から同制度に対する産地の声を紹介していく。今回は東北地方の意見を聞いた。
 第1回は岩手県のJAいわて中央の熊谷健一前専務。「現時点で問題点は大きく4つある。1つは全国一律の生産費と販売価格で交付額を決めるとしているが、これは不公平だということ。認定農家や集落営農、受託組織など意欲を持って取り組んでいる人たちは生産費でも販売価格でも努力しているから、全国一律では担い手育成にならないのではないか・・・」

JAいわて中央(岩手県)

 現時点で問題点は大きく4つあると思っています。
前専務・熊谷健一氏 1つは全国一律の生産費と販売価格で交付額を決めるとしていること。これは不公平だということです。
 認定農家や集落営農、受託組織など意欲を持って取り組んでいる人たちは生産費でも販売価格でも努力しているから、全国一律では担い手育成にならないのではないか。
 その不安を解消するため定額交付金の一定額については各県に使い方を委ねる仕組みをつくることはできないか。地域で意欲ある担い手を育てていく調整に一部を使ってはどうかということです。
 2つめは、標準的販売価格の取り方。過去数年の平均価格というが、販売価格は下がる一方だという心配がある。むしろ下支えする最低価格基準を決めておく必要がありそれがないと担い手の経営は不安定になる。毎年米価が下がっていけば平均価格も下がるばかり。補てんがあるといっても米づくりには夢も希望もない、とならないか。
 3つめは推進体制です。これまでの水田・畑作経営安定対策でも集落営農組織などへの推進事務で音を上げている。今回の政策で営農組合や農協に事務を任せれば大変な事務量になり、人員も必要になるが、今のところまったくその体制が分からない。
 4つめは、少なくとも年内にはこの急激な農政転換について、はっきりさせないと来年の作付けに影響するという点です。つまり、説明責任。水田・畑作経営所得安定対策の導入時には、何月何日改定というかたちで何回も説明資料を現場に示した。あのときのように今度の政策と前の政策との違いはここだということを何回も分かりやすく資料を出し、各県あるいはJA、営農組合に対して説明をするべきだと思う。これを年内に完了しないと来年の設計ができません。

                     ◇   ◇

 今、地域では、がんばってもがんばらなくても所得補償をしてくれるのだから集落営農をはずれたい、という声が出てきた。そうなると、集落営農を中核で担ってきた人からは今までの機械代などでへの投資はどうなるのか、といった話が出る。やはり担い手がつぶれるような政策であってはならない。
 米粉・飼料用米の増産は必要だが売り先がないものを作っても展望はない。今までの政策でも売り先があることを条件に10a8万円水準の交付があったわけで、作ることは簡単だが買い手がなくては推進はできないと思う。

(2009.11.11)