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戸別所得補償制度への期待と不安―現場からの声(5)

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戸別所得補償制度への期待と不安―現場からの声(5)  地域の特性をどう反映させるのか?井田磯弘さん(福岡県)

全国稲作経営者会議相談役(福岡県前原市)
井田磯弘氏

 民主党農政の目玉、戸別所得補償制度について生産現場ではどう考えているのか。現場からの期待と不安の声を伝える短期集中連載シリーズ。第5回は九州は福岡県の全国稲作経営者会議の相談役である井田磯弘さん。
 「私たちはかなり以前から米価への下支え策、いわゆる岩盤対策が必要だと訴えてきたが前政権は耳を貸さなかった」という。

イメージ写真 現在、27haに米を作付け、裏作麦は6ヘクタールの期間借地を含め33ha作付けしている。
 米の生産調整面積は40%近く求められている。10年ほど前からWCS(ホールクロップサイレージ)で対応していたが、藁も利用することから地力増進が問題となり、昨年から飼料用米に切り替えた。
 JAが一元集荷し、利用については地域の養豚農家のほか、JAと生協との連携なかできちんと活用されるように取り組んでいる。これから新規需要米の取り組みが増えてくれば販売先、利用先も課題になる。出口対策の整理も大事になってくるのではないか。

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 私たちはかなり以前から米価への下支え策、いわゆる岩盤対策が必要だと訴えてきたが前政権は耳を貸さなかった。
 その点、今回は岩盤対策を入れることになったようだが、現場の声を聞かないで一方的に出してきたという感じもある。とくに全国一律の補てんという点だ。地域によって生産費は違うから、せめてブロック別程度の基準で決めるといった配慮が必要ではないか。本当にどの程度の補てんになるのか懸念している。
 一方、麦・大豆の交付金は10a3・5万円と示されているがこれも不安材料のひとつである。
 品目横断対策で福岡県が問題にしたのは過去実績に対する支払いの仕組みだった。作付け面積を増やしても支払い額は過去3年実績で固定されているから不満が出た。今後は全面的に実際の作付けを支援する仕組みにしてほしい。
 ただ、この制度も米の生産調整と関連づけるべきではないか。米が過剰になり価格下落したときも、今後は納税者負担で補うということだから、米の生産調整は必要だということにしておくべきだと考える。

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 もうひとつの問題はこれまで産地づくり交付金を活用して野菜など地域振興作物をつくって生産調整を達成してきたが、支援水準が低くなれば、そこから生産調整が崩れるのではないかということだ。小規模農家はもう生産調整は止めだ、自分で米は売ろうということになりはしないか。やはり地域水田協議会の役割や位置づけをきちんとしておくことが重要。しかも行政だけではなく、JAが関わらなければうまくいかないと現場は思っている。
 集落営農組織での貸し剥がしも心配されている。これまでの政策では規模要件を設けて個別経営体の育成を重視し、それができないところには集落営農を促進するという考え方だった。そこを今度の政策でどう整理していくかも課題だと思う。

(2009.12.04)