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戸別所得補償制度への期待と不安―現場からの声(6)

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戸別所得補償制度への期待と不安―現場からの声(6)  自給率向上と経営安定を目的にルール整備を〜芹田省一さん(秋田県)

秋田県農業法人協会会長(秋田県大潟村)
芹田省一氏

 来年度から実施する戸別所得補償制度モデル事業での支援水準など詳細の検討が遅れていると伝えられている。政府内部での検討に欠かせないのは現場の声ではないか。今回は大規模経営者に新政権の農政に対する意見も含めて聞いた。

秋田県農業法人協会会長(秋田県大潟村)芹田省一氏 米の作付けは約10ha、転作が5haで、転作は小麦と豆類。稲・麦・豆の2年3毛作だが、出身地の旧峰浜村に11haほどの畑を借地し枝豆、ネギ、カボチャなども作っている。
 本来であれば、生産者は安全でおいしいものをたくさん作っていれば経営は成り立つというのが理想だと思う。
 しかし、生産者が生産だけでは食べていけない状況になり、生産から加工、販売まで取り組まざるを得なくなってきた。
 私たちが村外で野菜生産を始めたのも自衛手段であり、ここまで取り組めば何とかなると考えていた。しかし、最近では価格の低迷で利益は出ない。補助金を入れてやっと黒字だ。
 米の全算入生産費が60kg1万6800円とされているがこれは最低ではないか。現実の米価から農家の手取りを考えれば1万3〜b4000円程度だからこれではとても合わない。規模の恵まれている大潟村でさえも決して余裕はなく設備更新などは借入金に頼るしかない。

◇    ◇

 こういう危機のなか今回の選挙で自民党政治はもうだめだという選択をした。民主党の政策がいいからということではなく、とにかく変えてみようと。そのなかで出てきたのが戸別所得補償制度。支援水準はまだ明らかではないが、いくらかでもあれば農家支援になることは間違いない。しかし、水準の問題だけではなく政策の目的やルールなどに課題があると思う。
 大潟村では自由な農業という考え方が広がり定着した。政策に協力しながら農業経営をしていこうとしてきたわれわれの立場からすれば、“自由な農業は自己責任なのだ”と割り切ってきた。だから自由な農業に支援の必要ないと考える。
 米過剰基調のなか、99%の農家が生産調整をしている結果、米価格の低下はそれなりに抑制され、自由な農業を主張する生産者の経営に貢献するという皮肉な構造になっていると感じている。
 今回の制度は過去の経過に対するペナルティは一切なくおおらかな政策だ。米粉や飼料米をつくれば交付金が出る。このことはこれまで施策協力してきた農家の立場とすれば正直いって戸惑いと困惑の感が大きい。
 自由な農業者が今度の政策に参加する場合、
 たとえば3年、5年と続けるという誓約のようなものを条件にすべきではないか。一定のルールが必要で、目先の利益だけで動くことをやめさせ、本当に自給率向上を実現しようとするなら国も一定のルールを満たしたうえで交付される仕組みを考えるべきではないか。

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 6次産業化も新政権の方針だが、これまでの経済システムは分業論だったのではないか。
 製造する部門は、いい物を安くできるだけたくさんつくる。それを販売する流通業、サービス業などに分業し、すべての部門で適正な利益が確保されるようにして社会は成り立ってきたはず。しかし、このところの日本は経済状態が悪く価格低下を招き、結局、農業に限らずモノづくりの部門にシワ寄せが大きい。すべての農家に6次産業化をすべきというのは果たして本当に良いことなのかと問いたい。
 根本的な国のあり方として、日本を“モノづくり”に戻す視点から農業を考える必要もあると思う。

 

(2009.12.07)