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【アジアとの共生】 貿易自由化で本当に豊かになれるのか?

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【アジアとの共生】 貿易自由化で本当に豊かになれるのか?農業者と農業者の協力こそが「明日への一歩」を生み出す(1)

協力による農村づくりこそ『人間の安全保障』を実現する

 世界的な食料価格の高騰、地球温暖化などの気候変動、人口増加、そしてグローバルな経済危機によるさらなる格差の拡大など、世界の食と農、人間の持続的な生存をめぐる課題は山積し状況はいっそう深刻になっている。
 こうしたなかでもWTO(世界貿易機関)交渉では自由貿易促進の考えのもとで交渉が続いているが、現在のドーハ・ラウンドが開始された2001年とは世界情勢は様変わりし、「農産物貿易の自由化追求で世界は本当に豊かになれるのか?」との疑問が世界の農業者、消費者の間で大きく膨らんでいる。
 一方、JAグループはアジアの農業団体とさまざまな運動で連携し多様な農業の共存を訴えるとともに、組合員からの募金を「アジアとの共生募金」としてアジア地域の農業・農村の発展に活用してもらう取り組みを続けてきた。
 今回は共生募金の活用概要や各国からJAグループに寄せられた声を紹介するとともに、農村開発に関わる専門家から私たちの今後の取り組みに必要な視点を提言してもらった。


JAグループの「アジアとの共生募金」

がめざすもの


◆総額4000万円が各国で活躍


toku0912100803.gif JAグループはFAO(国連食糧農業機関)の「FAOテレフード募金」活動に1997年から参加し、栄養不足に悩む途上国などの学校給食や女性グループの食品加工事業などへの支援を続けている。
 一方、1999年の第3回WTO閣僚会議の前にアジア7か国の農業団体で「協力のためのアジア農業者グループ(AFGC)」を結成。これまでに節目ごとに共同宣言を発表してきた。
 2004年の共同宣言では「グローバル化と貿易自由化のなか、農業の商業化と集約化はしばしば小規模農業者を犠牲にしてきた。重要なことは不必要な衝突や競争を避けつつアジア農業者間の協力を円滑にすることである」と主張している。
 JAグループはこの主張に基づいて2005年からアジアの農業団体との継続した連携に基づく「アジアとの共生募金」へと運動を発展させている。
 05年から09年3月末までに集まった募金総額は4000万円を超す。このうち1200万円がFAOテレフード募金に、約2800万円がアジアの農協など農業団体を通じて、協同活動による農村女性の権利拡大や、耕作放棄地の再森林化、協同組合・農家リーダーの能力向上のための研修に使われるなど着実な実績を上げている。

(上表、拡大図

 

◆協同の力と連帯に確信を

 インドネシアではインドネシア農政運動組織が協同組合と農家リーダーの起業ビジネスのための研修や、土づくり研修、バイオマスエネルギー生産のための技術研修などに役立てている。
 フィリピン自作農民連合会では募金を活用し、有機米栽培技術の普及と生産した米の販売のためのマーケティング支援にも活かした。
 同国の米農家の所得向上と持続可能な農業に貢献している。
 タイではタイ協同組合連盟がバイオ燃料用農産物の普及プロジェクトを実施。エネルギー安全保障と地方の自立、農村の新たな雇用創出に向けた取り組みの支援に活用している。
 ベトナム協同組合連盟は各地域の農協組織の機能強化研修に募金を活用しているほか、インド協同組合中央会は農村女性の権利拡大のための協同活動づくりに、スリランカ独立農業者ネットワークは堆肥を生産者に低価格で提供する事業立ち上げに活用したり、農家が副収入を得るための再森林化事業にも役立てた。
 FAOテレフード募金への協力に対してはジャック・ディウフFAO事務局長が「農業はいずれの国においても経済、社会、文化、伝統の不可欠かつ主要な構成要素。農業の持続的な発展なくして世界の飢餓と貧困の撲滅はありえない。JAグループは飢餓との闘いでFAOの重要なパートナー」とのメッセージを贈ってきている。
 JAグループの役職員、青年・女性部、さらに地域住民も含めJAグループに結集した力(=募金)が、アジアをはじめ各国の農業者を励まし、命を支える農業・農村づくりに活かされている。

 

環境変動への適応策に

日本農業の知恵が役立つ

(財)アジア・人口開発協会常務理事・事務局長 楠本修氏

 


(財)アジア・人口開発協会常務理事・事務局長 楠本修氏 食料は余っているときは商品として輸出されるが、不足時には食料は商品ではなくなる。つまり、食料には商品という側面と命を支える側面がある。
 WTOが進める貿易自由化は商品としての食料を強調、自由化を進めれば自然に適地適作が進み、生産性も向上し増産が図られ、生産者にとっても消費者にとっても最適化が図られるという楽観論に立っている。しかし、気候変動問題を考えると食料生産そのものの基盤が危うくなっていると考えなければならない。
 温暖化の進行による海水温の上昇は海水の膨張を引き起こし川への海水遡上が懸念されている。たとえば、メコン川の上流でのダム開発によって河川水量が減少すれば水圧が低下し流域のかなり奥地まで塩害が起きかねない。そうなればアジアの主要米作地帯であるメコン下流の米の生産が落ちるだろう。
 こうした気候変動問題への対応策には「緩和策」と「適応策」がある。緩和策とは風力発電や太陽電池などを開発し環境負荷を減らしながらエネルギーを確保しようといった技術的な努力である。現在は企業の関心もこうした緩和策ばかりに集中している。しかし、これだけで解決できるわけではない。アジアの河川における海水の遡上といった問題を考えると「適応策」が非常に重要となる。
 この事例として、1993年の日本の大凶作を思い起こしてみよう。この時、伝統的な農業知識を持ち、地域の風土を知り、なおかつ近代的な農業技術も習得し、勤勉に農業をしていた篤農家は、徹底して水管理や病害虫対策をした結果、同じ地域でもそれほど収量を減らさなかった、ということを農業関係者が強調していた。
 これからの気候変動に対しては小農民のこうした「適応策」が非常に重要になってくる。アジア各地域が伝統的なノウハウを掘り起こして伝えていくことが必要で、そのためにアジアの農協が協力をする。
 この連携は利益を得るためだけではなく、人がその地域で生きるためのもの。まさしく自給的な農業、命を支える食料の生産をどう維持していくかに結びつく重要な取り組みだ。
 商品としての食料、あるいは貿易自由化の観点から行われている大規模で工業的な農業はこれからの気候変動に脆弱な面がある。気候変動には地域地域に応じた細かい対応が有効だ。そこに日本の農業、農協が知識で貢献できる。

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 現在では、食料安全保障に質や安全性も求められている。曲がっていても味がよくて有機であるといったことのほうが市場価値を持ち始め、これは途上国でも同じだ。ただ、農薬の使用基準が明確でないなど問題があるから、日本が安全性証明などの面で協力できれば食の安全につながる。
 農業の知識が増えることで気候変動に対応する適応力もつく。それは自給力の向上と同時に、その農産物が高い市場性を持つことで所得にもつながる。アジア域内での質の確保も含めた食料安保の確立になると思う。
 伝統的な知識、知恵を使って農地をきめ細かく管理して農業を行う―、こうした実践に科学的な裏付けをつけて気候変動への「適応策」とすることがこれからの時代に必要だ。その力を強化するための農協のような組織づくりがアジアに求められている。

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(2009.12.10)