特集

【2010年新春特集】新たな協同の創造と地域の再生をめざして
座談会「『FEC』自給圏の形成目指して 新たな基幹産業の立ち上げを」
内橋克人 経済評論家
駒口 盛 JA宮城中央会元会長
梶井 功 東京農工大学名誉教授

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【座談会】「FEC」自給圏の形成めざして  内橋克人・駒口 盛・梶井 功(前編)

・多国籍企業は雇用力を衰退させた
・輸出が増えれば交易赤字も増える
・利益を海外に滞留させる多国籍企業
・「使命共同体」の活動が期待される
・リストラの波は正規雇用に及ぶ
・新政権には青山半蔵みたいな心境
・農政は旧政権の下で歪められてきた

 フード(食料)のF、エネルギーのE、ケアのCというFEC(フェック)の基幹産業を立ち上げて自給圏を築いていく時代が来たとの提起をめぐって議論が展開した。そうした大転換に欠かせない農村の「人」の問題や、ネコの目農政などを振り返って、戦後農政の総点検が求められた。そして基幹産業づくりには協同組合やNGO、NPO、社会的企業など「使命共同体」の活動が期待されるとし、「新たな協同」は社会革新をめざすことになるとの強調があった。

従来型“モノづくり”はもう限界
不均衡経済は国を滅ぼす

◆多国籍企業は雇用力を衰退させた

 梶井 鳩山由紀夫首相がJA全国大会に贈った祝辞の中には「今後、日本が目指すべきは、すべてを政府に依存する政府万能主義でも、格差を生み出し弱者を切り捨てながらすべてを民間に委ねる市場原理主義でもない」などとなかなかすばらしいことが書いてあります。
 市場原理主義ではないといっているわけです。ほかに「自立と共生」の理念も書かれています。しかし具体的な政策はまだはっきりしません。
 ひと足先にチェンジして富裕層優遇税制の見直しとか医療保障制度の改革や最低賃金の引き上げというように、方向を明確に示している米国のオバマ大統領と比べて日本の民主党政権はどうももたついています。
 そこで今日は転換の方向や日本の新政権の問題点などを議論していただきたいと思います。 内橋先生はかねがね転換方向として「共生セクター」の強化、「FEC自給圏」の確立を主張されていますので改めて、そのポイントを解説していただければと思います。
 内橋 多くの国民は、政権交代で新しい国づくりの階段を1歩上ったと認め、サポートしたいと思っていますが、期待と現実の間にはかなりの落差があるかも知れませんね。
 私はFEC自給圏の形成がこれからの大きな政策課題になると考えています。これが21世紀日本において真に目指すべきビジョンにならざるをえない、その理由について最初にちょっと触れておきたいと思います。Fはフーズで食料、Eはエネルギー、Cはケアで医療から介護、教育までを含む広い意味での人間関係領域です。
 最も強調したいことはFとEとCの新しい基幹産業が生まれなければ、21世紀日本は必ず行き詰る、国民の安心も安全もない、ということですね。
 第1に大企業製造業が「雇用力」を激しく衰退させてしまった現実。これまで自民党旧政権時代、頼りにしてきたトヨタ、キャノン、ソニーをはじめとする日本型多国籍企業(私はグローバルズと呼んできました)が、いま国内で人々に「雇用の機会を提供する力」を急速に失いつつあることです。


◆輸出が増えれば交易赤字も増える

内橋克人氏 経済評論家 経済財政白書は「雇用保蔵」が600万人を超えたと分析しています(2009年版)。雇用保蔵というのは企業が抱える余剰労働力、つまりは「企業内失業者」のことですが、それが90年代不況の時代も含めて、実質的に過去最大規模にまで膨らんでしまった。
 企業からすればそれほど余分な労働力を抱えているわけで、かつては窓際族などとして、形の上だけは雇用を維持していたわけですが、もはや抱え切れない瀬戸際にきています。
 また雇用調整助成金という公的補助によって、なんとか失業を免れている中小零細企業の従業員が199万人います。最近では大企業・製造業でも増えてきました。
 その上に完全失業者360万人超ですから合計すると大変な数です。日本の全就業者数を5000万〜6000万人として、このような潜在的失業者を含めた実質失業率はとっくに10%を超えていることになりますね。これだけの潜在的失業者を抱えたまま新年を迎えた日本の企業社会。目の前に次の新たな雇用危機が迫っていることは明らかでしょう。これらの雇用保蔵を解消するため、企業が余剰労働力の排出を始めれば完全失業率の10%超は避けられず、現在の米国以上に最悪事態になるでしょう。
 雇用調整助成金の期限切れを迎える企業も続出しておりますし、職なき人びとの割合からみても、この事態はまさに恐慌です。今年は潜在的失業者が顕在化する、つまり失業者となり、「高度失業化社会」の到来は避けられない。昨年、一昨年の「派遣切り」から今年はいよいよ「正社員切り」へと進むことになりますね。
 日本の外需依存経済とは、実質においてそれらグローバルズ(日本型多国籍企業・超国家企業)依存の経済ということでした。年間の外貨獲得高の3分の1はグローバルズ10社で稼いでいます。上位30社をとると半分を稼ぎ、また90社以上をとるとほとんど100%近くを稼いでしまいます。
 従って政府の政策支援もそれら多国籍企業に集中されてきました。彼らが国内での雇用力も販売力も急速に失い、それでは、というわけで今度はインドをはじめとする新興ミドル層の大量消費が期待できる海外のボリュームゾーンを目指しているところです。
 衰退する日本型多国籍企業の雇用力に代わって、これから誰が国内の雇用を担うのか、そういう大問題がここに1つあるわけです。
 またグローバルズは交易損失をふくらませています。過去、彼らの間には輸出で稼いだ外貨で海外から安いコメを買えばよい、などという倒錯した認識が一般的でしたが、今は輸出すればするほど交易赤字が増えるという構造になってきました。 

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内橋克人氏 経済評論家


◆利益を海外に滞留させる多国籍企業

 日本は加工型貿易国です。自動車や家電製品などをつくるのに必要な原材料の輸入価格が上がるのに、製品の輸出価格はどんどん下がっていきます。その格差による損失は一昨年でGDPの5%を超え、30兆円近くとなりました。
 グローバルズが事業活動をすればするほど海外への所得移転、つまりは国富の流出が進むという構造は世界でも珍しく、日本の労働者は働けば働くほど貧しくなっていく。
 これは外需依存でやってきた国の宿命で、輸出価格は中国製品などとの競争で下がっていく一方で、輸入資源のインフレーションは希少資源を核にしながら傾向的に続く。その差額の交易損失はますます拡大せざるを得ない。しかし、EU諸国では域内で自給圏を形成しておりますので交易損失は0.5%。日本とはケタ違いです。米国も0.8%に過ぎません。
 さらにグローバルズには稼いだ利益を海外に滞留させ、国内に還流させないという問題もあります。その金額は17兆8000億円にのぼります。海外法人に溜め込んで、それを有効に活用する能力がないため主として証券を買ったり、マネーに投資したり、いずれにしても日本に戻そうとしないのです。
 理由は日本に戻すと法人税が高くつくからだという。しかし現実には実効税率40.7%に対して実際の税負担はHOYAで15.3%、トヨタ紡織20.9%、松下電器産業(現パナソニック)26.3%といった具合です。グローバルズがいろんな税制上の特典を受けているからですね。
 にもかかわらず日本経団連などは“法人税をもっと下げろ”と求めています。
 旧政権はこうした要求をマル飲みしかねない、それほど大企業とりわけグローバルズ優遇は国策になっていました。
 日本経団連は民主・自民両党の政策をABCDとランキングして、自民党の政策にはすべてAやBの高い評価を与え、それに見合った政治献金をするという癒着ぶりでした(民主党にはほとんどC、D)。そういうあり方をこの際、とりはずしたというだけでも政権交代の意味は大きかったと思います。一般の有権者には理解の外でしょうが・・・。
 それから円高になると旧政権はドル買い円売りで為替を円安へ誘導しましたが、それが1年半で37兆円に達した時期もありました。これもグローバルズへの政策支援です。

(左から)梶井教授、内橋氏、駒口氏(=2009年12月、農協協会事務所にて)

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(左から)梶井教授、内橋氏、駒口氏(=2009年12月、農協協会事務所にて)


◆「使命共同体」の活動が期待される

 そうした支援を受けていながら、グローバルズは正規と非正規の雇用を差別するなど、急進的な雇用破壊を進めた。一方で、国内市場、地域社会に密着して事業を営む農業、中小零細企業や商店街など、つまりローカルズは疲弊の一途をたどり、当然、雇用力も衰退しています。
 こうした産業構造をこれからもそのままにして生き続けられるとは考えられません。とすれば私たちが生きていくためには新たな産業を立ち上げていくしかなく、雇用機会の創造ということをやらないと国の経済は回っていきません。
 マクロでみると、日本経済のこれまでの担い手が再び力を盛り返すことはまず考えられない。それらに代わる新たな「基幹産業」をどうつくり上げていくのか、そう考えた時にFEC自給圏形成の必然、さらに協同組合をはじめとする共生セクターの担うべき役割と領域の大きさ、これを否定することはできないと思います。
 そこでは地縁共同体でも利益共同体でもない第三の共同体である「使命共同体」の活動が期待されます。使命を同じうする人びとの新たな共同体、たとえば協同組合、NGO、NPO、社会的企業などです。それらを担い手としながらFECを新たな基幹産業として立ち上げていくべき時代がきています。
 現実に北欧では就業者の6割がFECとその関連産業に従事しています。ですから今回の金融危機でも上層の金融機関は打撃を受けましたが、一般国民が生きていくインフラそのものは毅然として力を保っているということです。
 ここでちょっと触れたいのは、いま米国では借金に依存する過剰な消費はやめ、消費者自身が「入るを量りて出るを制す」、つまり所得に見合った消費を、と意識の切り替えに動き始めたことです。もう過剰にモノを買うことはやめよう、と。日本としては従来型の外需依存型経済をこれからも続けるというわけにはもういかなくなった。
 それにつれて米国人の家計貯蓄率も7%近くに上昇しています。日本では1980年代始めごろまでは22%くらいでしたが、今は0%に落ち込んでいるのではないでしょうか。貯蓄を取り崩し、抱えている負債(借金)も大きいわけですから。このままで内需の回復は期待できません。日本経済は極めて不均衡な、歪んだ構造になっています。


◆リストラの波は正規雇用に及ぶ

梶井 功 氏 東京農工大学名誉教授 梶井 日本型多国籍企業の問題点は、ほとんどまだ議論されていませんね。
 内橋 私は「不均衡経済」は国力を衰退させ、国富を減衰させる元凶だ、とウォーニングしてきました。21世紀日本の未来はこうした不均衡経済の解決を視野の外においてはあり得ないでしょう。
 不均衡は、グローバルズとローカルズ、農業と製造業、また企業セクターと消費者・生活者・家計セクター、働く者同士の間で間断なく広がっています。それが景気の自律的な回復力を奪っているわけです。
 梶井 日本のグローバルズが海外に溜め込んでいる18兆円近くの利益はマネーゲームなどでも動かしているわけです。
 内橋 そうですね。マネーの一翼を担いながら運動を続けているわけです。
 梶井 そういうことも一般には知られていませんね。
 内橋 余談ながら、かつての権威ある経済白書は小泉構造改革の時代、経済財政白書と名を変えました。経済財政諮問会議をサポートするのが白書の役割だ、と。以来、何度も稚拙な現実誤認、的はずれな予測を行うようになってしまい、かつての経済白書に比べて全然権威がなくなってしまいました。
 梶井 雇用保蔵とは相当皮肉な言葉ですね(笑い)。
 内橋 人間を冷蔵庫の中に入れて貯蔵するような・・・(笑い)。
 それにしてもかつての窓際族のように「生かさず殺さず」さえ許さない働かせ方、クビの切り方が法的にも許される時代になってしまったということですね。今は解雇の4要件といわれる雇用ルールさえ無視され、やがては正社員の本格リストラが始まるわけです。
 梶井 これからの新しい基幹産業の1つはF、つまり食料と農業だとのお話がありました。
 また先のJA全国大会は「大転換」を強調しましたが、その方向は明確に示されていないと思います。今後の日本の基幹産業の一翼として本格的な建て直しをやらないとダメなんだという覚悟や見通しを持って大会方針が組み立てられていないのではないかという気がします。新政権への要望も含めて、駒口さん、いかがですか。

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梶井 功 氏 東京農工大学名誉教授


◆新政権には青山半蔵みたいな心境

駒口 盛 JA宮城中央会元会長 駒口 新政権をどうみるか。いってみれば小説「夜明け前」の主人公青山半蔵みたいな心境ですね。多分ほかの農家も同様じゃないかと思いますよ。期待に沿うものになるのかどうか日が経つに従って疑心暗鬼になっているといった感じです。
 農村現場では「人」が一番大事ですが、そこが心配です。
 私どもが集落営農に取り組んだ時は役場にも農協にも優秀な人材がいて、プランナーとなり、また実行部隊となる若い連中がいました。それらをまとめる力が集落にあり、農協組合長と市町村長にも力がありました。
 軍隊でいえば司令官、参謀、部隊長がそろっていたわけですが、今は司令官がJA合併で地域の実情に暗くなり、農家のことを事業体みたいな感じで考えており、地域や農業のことよりも自分のJA組織をどうするかで懸命になっています。
 私の現役時代は「農業問題への対応は、農業・農村・農民をセットで考えないといけない」といわれましたが、一番最初に手をつけるべきは農業者、いわゆる実行部隊だと思います。
 というのは私の集落は30戸で農家組合みたいな組織をつくっていますが、その中で実際に農業をやっているのは一人だけなんですよ。年齢は53歳で、息子さんは学校の先生ですから後継者はいません。
 私たちの時代にせっかく完全ほ場整備をやり、今後の村の農業を展望したのですが、それらを引き継ぐ人がいないという状況になっているのです。鳩山さんはそこを考えてくれるのかどうかが見えてきません。戸別所得補償制度にしても3点セットの対応にインパクトを与えるのかどうか説明はありません。
 民主党議員の中には、戸別所得補償制度は農業政策ではなくて社会政策だと思ってくれと語っている人もいます。では農業政策はどうするんだという問題になってきます。

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駒口 盛 JA宮城中央会元会長


◆農政は旧政権の下で歪められてきた

 それから最近、東北の農家が頭にきているのは、秋田県でこれまで転作をやらなかったコメ農家に対して県がペナルティを課すようなことはいけない、もしそういうことをするとすれば県全体を戸別所得補償の対象からはずすこともあるうるという赤松広隆農水相の発言です。
 減反しないと需給バランスがとれないから、みんなで貧乏しても我慢してやろうという時に自分だけが抜け駆けで田んぼを作ったらもうかるのはきまっています。それではダメだと、みんなで話し合ったものまではずすというのは不可解です。
 農業政策よりも農家の心情をどう考えているのかという疑問もあって青山半蔵的な心情になつつあるといったのです。
 梶井 人の問題でいえば1980年に24才以下の青年農業者の割合は英国の16%、ドイツの10%に対してフランスは8%と低かったため、フランス政府は就農青年に手当てを出す助成制度をつくりましたが、当時日本はすでに3%だったのに全然手を打ちませんでした。それで私は対策の重要性をいい続けましたが、取り上げてもらえず今日に至っています。
 内橋 最近は農業高校に人気があるとのことですが、実は農家出身の生徒は1人もいませんよ、とある高校で聞かされてほんとうに驚きました。農業のワリに合わない実態を知る息子たちは、もうその道は選ばないということですね。ショックでした。
 “食えるボランティア”とよくいわれますが、食料を作る農業が“食えない産業”であっていいはずはありません。農業には日本人が憧れる豊かな生活、優雅に生活のできる条件がそろっているにもかかわらず、農業政策は旧政権の下で歪められ、その歪んだ経済のなかで不当におとしめられてきたと思います。
 日米安保条約の第2項目は経済協力を定めたものですね。日本の市場開放が取り決められ、大豆などの主要な穀物市場の開放は軍事同盟と一緒に約束させられています。米国は大きなグローバル戦略の中に農業を位置づけ、重視していたわけです。
 日米対等などといいながら、日本には本当の意味での対等な貿易上の柱を打ち立てることのできる政治家は不在でした・・・。


後編に続く

(2010.01.08)