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【2010年新春特集】新たな協同の創造と地域の再生をめざして

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2010年を「地域の再生」に向けた新しい出発の年にしたい  農文協編集局

・全国1万4000カ所、直売所は「地域の再生」の拠り所
・『シリーズ 地域の再生』いよいよ刊行開始
・危機を根本的に解決する主体としての”地域”
・農山漁村は、すでに元気と自信を取り戻しつつある
・「地域という業態」による地域産業興し

 2009年10月7日に開催された第25回JA全国大会では初めて、JAグループの最も将来性のある販売事業として直売事業(ファーマーズマーケット)を位置づけた。直売所は市場出荷型に比べて、小売価格に占める農家手取りは30〜40%から70〜80%にアップ、農協手数料も平均値で2.5%から15%にアップする。直売事業は農家手取りと農協の営農経済事業を同時に改善するわけだ。これまで、女性部の活動、経済事業ではなく生活事業などとされてきたJAの直売所が、改めて大きく展開しそうである。

◆全国1万4000カ所、直売所は「地域の再生」の拠り所

 

2009年10月7日に開催された第25回JA全国大会 2009年10月7日に開催された第25回JA全国大会では初めて、JAグループの最も将来性のある販売事業として直売事業(ファーマーズマーケット)を位置づけた。直売所は市場出荷型に比べて、小売価格に占める農家手取りは30〜40%から70〜80%にアップ、農協手数料も平均値で2.5%から15%にアップする。直売事業は農家手取りと農協の営農経済事業を同時に改善するわけだ。これまで、女性部の活動、経済事業ではなく生活事業などとされてきたJAの直売所が、改めて大きく展開しそうである。
 全国1万4000カ所にまで広がった直売所はいま、「地域の再生」の拠り所となっている。
 市場流通の規格から自由な直売所では、農家が、ズラシ(早出し遅出し)、葉かき・わき芽収穫、密植・混植などの「直売所農法」を工夫し、個性・地域性があふれる魅力的な品ぞろえを可能にしている。葉っぱビジネスや薬草利用、山菜とその加工品、蔓や竹を使った工芸・クラフトなど、野山の幸を生かす工夫も盛んで、里山の維持にも貢献している。
 そして、直売所を基点とする地域住民・都市民との交流は、料理教室、農村レストラン、学校給食、農業体験などへと輪を広げ、そこでは多様な「担い手」が生まれている。
 直売所の多くは、女性、高齢者の活躍に支えられ、最近では、兼業農家の定年退職者や新規就農者が、栽培を勉強しながら少しでも現金収入を得る貴重な場になっている。
 そしていま、遊休地が増えるなかで、小さい農家を増やそうという試みも始まっている。神奈川県南足柄市では、一般市民が最低300m2から農地を借りて農業をすることができるしくみをつくった。名付けて「市民農業者制度」。10aに満たないような借り手のつかない農地と、市民農園よりはもう少し広い畑を耕したい定年帰農層を結びつけるのがそのねらい。農業で自立することまではめざさないが、販売はしてみたい。そういう層を市民農業者と名づけて、空いている農地の担い手になってもらうというわけだ。
 直売所があれば、新しい「小さな農家」を呼び込みやすくなる。直売所を生かしてむらに住む人を増やし、「地域の再生」にも参加してもらう。これまでの会社仕事とはちがう働き方に、生きがいを感じる人々も多い。

 

◆『シリーズ 地域の再生』いよいよ刊行開始


 直売所を拠り所に地域の再生にむけた取り組みが進むなかで、農文協では昨年11月から、『シリーズ 地域の再生』(全21巻)の刊行を開始。すでに多くの方々から定期予約をいただいている。出版不況、全集など大型出版の不振が叫ばれて久しいが、本シリーズへの反響や期待は大変大きい。


◆危機を根本的に解決する主体としての”地域”


 囲み記事の一文をぜひお読みいただきたい。『シリーズ 地域の再生』の「刊行の辞」である。冒頭で「この危機を、根本的に解決する主体は国家や国際機関ではなく”地域”だ」と述べた。
 なぜ、「地域」なのか。いま、「地方分権」「帰農」「田舎暮らし」など、農山村に対する人々の関心が高まり、「地域ブーム」ともいえる様相である。以前にもそんな時代があった。石油ショックで高度経済成長が幕を閉じ、低成長時代を迎えた1970年代後半、高度経済成長がもたらした都市への人口集中と地方で進む過疎化、都市と地方の格差増大を背景に「地方の時代」「地域主義」の主張が盛り上がりをみせた。しかしその後のバブル経済のもと、「地域主義」の理念は矮小化され、大型リゾート開発、電子機器その他ハイテク産業の地方への誘致、そして公共事業の拡大へと向かった。
 こうした中央から地方への資金と仕事の流れが、地方経済を押し上げ、地域の雇用と個人消費の増大を支え、都市との格差を縮める力になったのは確かだ。しかし、この効果が大きかった分、その後に進行するグローバリズムのもとでの工場の海外移転や公共事業の縮小が地方経済に与える打撃は大きかった。中央から地方への資金や仕事の流れは縮小し、外部からの資金注入によって地方が潤うという構造は失われた。この構造が回復・強化されることはもはや考えにくい。
 しかし、政治・経済の世界がどうであろうと、この間、より本源的に、そして、理念に留まらず現実的・実践的な課題として、「地域の再生」「地域の自立」にむけた取り組みが着実に進んでいる。中央に身をゆだねるのではなく、地域内の自立的な産業・仕事・暮らしを築こうとする営みは、昔から続けてきたむらの生き方であり、それが新しい形を伴いつつ、地域をつくり続けているのが、現代という時代である。
 激しく動く経済や政治とは次元を異にして進む「地域の再生」、それこそが、この「国のかたち」に希望のベクトルを与え、グローバリズムに翻弄される世界の地域の困難を打開し、平和な世界をつくる国際連帯の道でもある。「この危機を、根本的に解決する主体は国家や国際機関ではなく”地域”だ」という「刊行の辞」に、私たちは、そんな思いを込めている。

 


◆農山漁村は、すでに元気と自信を取り戻しつつある


 「グローバリズムと新自由主義に翻弄された農山漁村は、すでに元気と自信を取り戻しつつある」と「刊行の辞」で述べたのは、むらが新しい形を伴いつつ、地域をつくり続けているからである。その元気や自信の大きな拠り所になっているのが、先に述べた、農家、地域が自らの力でつくりだしてきた直売所、地産地商の広がりである。本シリーズの第15巻「雇用と地域をつくる直売所」では、「売る場所」に留まらない直売所の豊かな可能性を事例を通して明らかにする。

 

◆「地域という業態」による地域産業興し


地域産業興しの土台である直売所 直売所、地産地商を土台にして、地域内の自立的な経済循環を地域から創造する。その時、課題になるのが「近代的”所有”や”業種”の壁を乗り越えた、流域連携や農商工連携による新しい仕事おこし」である。
 本シリーズでは、地域のさまざまな業種がつながり、地域産業を興す方法と実践を多様な場面で追究する。
 第8巻「地域をひらく多様な経営体―農業ビジネスをむらに生かす」では、大企業進出の危険性をおさえつつ、農業と福祉・医療がかかわる事業展開も含めて地域の各種経営体の可能性を描き、第16巻「水田活用 新時代」では、水田を地域産業興しの拠点として生かすために、麦、ダイズなどの地産地商・農工商連携の方法を追究する。第18巻「森業―林業を超える生業の創出」、第19巻「海業―漁業を超える生業の創出」では、従来の林業、漁業の枠を超えた、地域連携、業種連携の創出と育成を提言、第17巻「里山・遊休農地をとらえなおす」も、近代的な土地所有観を超える「総有」の考え方をベースに、市民参加も含めた里山と遊休農地の再生プランを具体的に提案する。
 そんな産業興しの出発点になるのが「足元の地域資源」を見直すこと。「ないものねだりでなく、あるもの探し」の地元学こそ「地域の再生」の出発点であり、本シリーズの第1巻・初回配本は、「地元学からの出発」であった。

 

◆「手づくり自治区」と進化する集落営農

 

 こうした産業・仕事起こしを進めるためには、人々が共同するための組織づくりが必要だ。自治体も農協も大型合併を進めてきた現在、地域密着型の組織が求められている。その一つが本シリーズ第5巻のテーマ「手づくり自治区」である。旧村や小学校区など「手触り感」のある範囲で、住民が当事者意識をもって、地域の仲間とともに手作りで自らの未来を拓く。その活動も地域の防災から景観づくり、さらに地域ビジネスと展開していく。
「集落営農」も、機械の共同利用や農政・補助金対応に留まらない、地域再生の拠り所として進化している。農地・農道・水利施設の共同管理、さらには福祉タクシーの運営などの集落維持機能と効率的農業生産とを両立し、地域が直面している困難な課題を解決していく集落営農。第7巻「進化する集落営農――地域社会営農システムと農協の新しい役割」のテーマである。

 

◆農協は地域に何ができるか


 むらを基礎とする「手触り感」のある組織が「地域の再生」の担い手である。そして、農協や行政がこれをバックアップするとき、「地域の再生」は大きく前進する。
 JAは今年の25回全国大会で、「消費者との連携による農業の復権」「JAの総合性発揮による地域の再生」「協同を支えるJA経営の変革」の3つの協同を掲げ、「販売農家だけではなく、小規模・自給的農家、女性農業者、定年後帰農者等の多様な農業者と、地元商工業者、消費者、地域住民、行政などの地域関係者と多様な方法で連携、ネットワークを構築していくことでJAも強化し、協同の力を発揮する」と、地域形成の立場を明確にしている。
 本シリーズ第10巻「農協は地域に何ができるか」への関心は大変高く、期待も大きい。

 

◆「地域主権」と「むらの原理」


 農協に協同組合の精神が求められるように、地域の行政には、「地域の再生」にむけた自治の精神と創造的な仕事が求められている。 地方自治のあり方については、第6巻「自治の再生と地域間連携」で追究する。そしてもう一点。
 農家による「地域の再生」は、「地域主権」といった権利によるものではなく、地域で生き続けるなかで長年培ってきた自給と相互扶助の原理に支えられている。各種の施策の活用も行政における自治の精神も、この「むらの原理」を踏まえたものでなければならない。これについては内山節氏(哲学者)の第2巻「共同体の基礎理論―個人の社会から関係の社会へ」がヒントを与えてくれるだろう。

 


「シリーズ 地域の再生」刊行の辞

 今、私たちの行く手には暗雲が立ち込めているように見えます。
 私たちは、「近代」の行き詰まりともいえるこの危機を、根本的に解決する主体は国家や国際機関ではなく”地域”だと考えています。
 都市に先んじてグローバリズムと新自由主義に翻弄された農山漁村は、すでに元気と自信を取り戻しつつあります。その元気と自信は、近代化=画一化の方向ではなく、地域ごとに異なる自然と人間の共同性、持続的な生き方、自然と結んだ生活感覚、生活文化、生産技術、知恵や伝承などを見直すことによってもたらされたものです。
 また、近代的”所有”や”業種”の壁を乗り越えた、流域連携や農商工連携による新しい仕事おこしも始まり、それを支援する官民の動きも活発になってきました。農山漁村における地域再生の芽が意味するものを学ぶことで、都市における地域も再生への手がかりをつかむことができるのではないでしょうか。
 人びとがそれぞれの場所で、それぞれの共同的な世界としての”地域”をつくる――私たちは、そこに希望を見出しています。
 危機と希望が混在する現在、地域に生き、地域を担い、地域をつくる人びとのための実践の書――地域再生の拠りどころとなるシリーズをめざします。

 

新創刊雑誌  『季刊 地域』と映像作品・集落営農『地域再生編』

 

 農文協では「シリーズ 地域の再生」とあわせて、新雑誌『季刊 地域』を創刊し(今年4月発売開始)、映像作品『集落営農支援シリーズ 地域再生編』を発行する。
『季刊 地域』は、農家、農村リーダー、行政・農協、NPO・企業、そして地域貢献をめざす大学や、地域にむかう市民を「地域の再生」にむけて「共感」のもとに結び直し、業種縦割り中央集権では見えなかった地域資源を生かす農工商連携・流域連携、人々の「共同の技術」と地域主体の施策活用によって仕事、暮らし、新しい風土産業を創る総合実用・オピニオン誌をめざす。
 そして映像作品「地域再生編」は、「農業経営や地域社会がかかえる問題や課題を解決し、人びとがはりあいをもって働き、活き活きと住み続けることができるよう、地域住民が話しあい、知恵を出しあう協同活動」であり、「地域の再生・活性化と効率的農業生産とを両立する”地域営農システム”」として進化する集落営農の取り組みを追ったもので、全集の執筆者でもある楠本雅弘氏が監修。
 2010年を、「地域の再生」に向けた、新しい出発の年にしたいと考えている。

(2010.01.22)