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JA全農米穀部特集

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【JA全農米穀部特集】 JAグループの機能分担で販売力を強化 生産者手取り向上を実現 〜22年産米 生産・集荷・販売基本方針〜

1.22年産を取りまく環境と対応の基本的考え方
2.基本方針
 生産対策・集荷対策・販売対策・消費拡大

 JA全農はこのほど「22年産米 生産・集荷・販売基本方針」を決めた。来年度から「戸別所得補償モデル対策」が実施されるが基本方針では、この農政の大転換で米穀事業を取り巻く環境が劇的に変化するとの認識のもと、JAグループ各段階の機能分担により、JA・連合会が再結集して販売力を強化、生産者手取りの向上を実現する取り組み方向を示した。
 同方針で示されている状況認識と生産・集荷・販売・消費拡大の基本方針を解説する。

需給変動に応じた価格形成と弾力的販売が軸
多様な需要者ニーズに対応した米穀事業へ

JA全農米穀部特集 22年産米基本方針 図1

1.22年産を取りまく環境と対応の基本的考え方

◆米需要減のなかでの農政転換への対応

 基本方針では、22年産米を取りまく環境として、政権交代と米政策の大転換による「自己責任」の明確化、を指摘している。
 米政策の大転換とは具体的には、戸別所得補償モデル対策の実施だ。これは麦・大豆・新規需要米(飼料用米、米粉用米等)などを支援する「水田利活用自給力向上事業」と、米の計画生産に参加した生産者へのメリット措置を講じる「米戸別所得補償モデル事業」である。
 これらの事業は水田機能を活用した戦略作物の自給率向上と水田農業経営安定を図ることを目的としており、基本方針では「JAグループ米穀事業も、このことをふまえたものとすることが必要である」ことを強調している。
 一方、21年産米については契約・販売進度が大きく遅れており、今年の端境期には大量の販売残発生が懸念される状況にある。また、景気低迷が長引くなか、米消費は引き続き減少するとともに、家庭用、業務用ともに低価格志向がますます強まっている。
 こうした状況について「引き続く米消費の減少と過剰作付により、常に価格低下のリスクをはらんだ、言わば綱渡りの環境が常態化」していると指摘。
 この現状のもとで、「自己責任」を明確化して転換する米政策では、需給調整対策が見通せないことから、22年産米については、これまでの「需給均衡を前提とした価格維持と統一的販売」から「需給変動に応じた価格形成と弾力的販売」へと軸足を移して、米穀事業を再構築することを基本方向とすることを掲げた(図1)
多様なニーズに対応
 基本的な対応は「供給サイドのみを重視した視点だけではなく、多様な需要者ニーズに対応した米穀事業への転換」としている。
 そのための基本的取り組みとして以下の5項目を上げている。
[1]米販売は、播種前・収穫前・契約栽培等の安定的取引の拡大、パールライス事業強化による精米販売の拡大など有利販売に取り組む。
[2]有利販売に取り組んでもなお価格が低下した場合、生産者の所得は政策で補償される仕組みに転換したと認識し、米穀事業としては販売残が発生しないよう需給に応じた価格形成と弾力的な販売を行う。あわせて全農は米取引価格を公表する。
[3]集荷では、実需に結びついた生産提案と出荷契約の積み上げを行う。共同計算運営では「需給変動をふまえた県域での慎重な概算金対応」を徹底する。あわせて生産者への資金対応を実施する。
[4]多様な需要者ニーズに対応した生産者やJAの米生産努力(品質評価など)を品代金に適切に反映させるため、費用共計の導入や委託非共計・買い取りなど多様な手法に取り組む。
[5]水田機能を活用するため飼料用米・米粉用米・加工原料用米など低価格帯需要の米生産を拡大していく。
 以下、生産対策、集荷対策、販売対策、そして消費拡大対策を示している。


2.基本方針

生産対策
◆計画生産への参加を周知徹底

 生産対策の柱は、▽米戸別所得補償モデル事業の周知徹底と加入促進、▽JA地域農業戦略の検証・見直しによる担い手への農地集積とコストダウン、水田機能の積極活用、となっている。
 米のモデル事業は、計画生産に参加した生産者へのメリット措置である。その点と具体的な支援内容を生産者に周知徹底するとともに加入促進を図る。
 また、計画生産未実施者のJA事業への取り込みを図ることも課題とした。その際は、地域実態に応じ、従来からの計画生産実施者への配慮のもとで事業対応する、としている。
 JA地域農業戦略の検証と見直しによる担い手への農地集積や集落営農の組織化は、生産コストの低減を図るためにも必要だ。また、それによって水田機能の積極的な活用も図ることをめざす。
 具体的には飼料用・米粉用・加工原料用などの低価格帯需要の米生産への取り組みだが、これは「水田利活用自給力向上事業」の支援を活用して推進する。
 このうち飼料用米生産には、多収性品種栽培、直播栽培、立枯乾燥など、地域実態に即した低コスト生産に取り組むとともに、円滑な販売のために21年産からの増加分は、全農が輸入トウモロコシ代替として全国の系統飼料会社に供給する。
 一方、米粉用米は、需要規模が不確定なため、必ず需要を確定したうえで作付け推進すること、としている。また、加工用米は、生産者の手取り確保を最優先して、高価格帯需要量に見合う生産・販売に取り組むことを基本としている。

JA全農米穀部特集 22年産米基本方針 図2

JA全農米穀部特集 22年産米基本方針 図3


集荷対策
◆地域実態に応じた多様な手法で集荷促進

 集荷対策では▽需要に応じた生産提案、▽精度の高い出荷契約、集荷・販売計画の策定などが柱となっている【(図2、3)】。
 需要に応じた生産提案をするために、需要者等との協議を先行させる。それをもとにした生産提案を生産者・JAに行って出荷契約を積み上げる。
 出荷契約では、生産者へ契約概念を徹底し、確実に集荷されるよう精度を高める。
 また、地域実態に応じ稲作部会等の組織を活用するとともに、JA対応を強化、精度の高い集荷・販売計画を早期に策定することも課題としている。
 集荷手法の多様化では、販売機能強化のため県域共同計算への結集を主体としつつ、地域実態に応じて委託非共計や買い取りも組み合わせる。また、地域によっては、パールライス部門による買い取り集荷にも取り組むこととしている。
 米政策の大転換のなか、概算金については、基本的事項でも触れたように需給変動をふまえて県域で慎重に対応することが重要だ。早い段階から概算金対応への考え方を生産者に周知すると同時に、生産者の資金需要対応を実施することも重要だとしている。
 そのほか、JAは、計画生産未実施者を含めて、カントリーエレベーターなどの共同乾燥施設や、農業倉庫などのインフラを活用して集荷数量を確保する取り組みも掲げている。


販売対策
◆需要に応じた柔軟な価格形成

 販売対策では▽需要に応じた販売価格の柔軟な設定、▽実需者との結びつきの強化、▽精米流通への転換促進、▽有利販売のための全農グループ一体の販売推進の徹底などが柱だ。
 価格形成については、自ら販売したい価格での主体的な価格形成への取り組みが基本である。ただし、需給緩和時には市場実勢や、競合他社の価格動向に応じて柔軟に価格設定するとしている。
 また、用途別・取引形態別・精米品位に応じた格差を設けるなど多様な価格を設定するとしている。


◆全農が指標価格形成

 全農は、相対販売価格などを定期的に公表する。これにより売り手・買い手ともに納得感のある指標価格形成を行う。価格形成では、産地銘柄間の価格差、居所については従来の常識や慣習にとらわれない方針も掲げた。
 具体的な販売対策では産地パールライス工場での精米により、精米形態での流通拡大にも取り組む。こうしたJAグループの経営資源を活用することで経費を圧縮し、流通過程の付加価値を確保することも狙いだ。
 また、パールライス事業では、拠点工場の再編を進め精米品位の向上とコスト削減も図る。パールライス精米販売では80万トンを目標数量に掲げている。
 そのほか、有利販売のため全農グループとして価格基準等基本的な取引条件を統一し、需要者・販売先に対して「一体的推進」を行うほか、JAと販売計画・販売情報を共有化し、「価格引き下げ圧力の連鎖を断ち切り」JAグループとして有利販売に努めることも重要な取り組み方針としている。

JA全農米穀部特集 22年産米基本方針 参考図


消費拡大
◆自県産米の県内消費率向上運動を展開

 今回の農政転換では水田機能を活用し自給率向上をめざすことが強調されている。そのためには需要と結びつき国内産農産物が着実に消費されることが重要となる(参考図)。
 こうしたことからJAグループでは引き続き消費拡大運動に取り組むが、米穀事業では取引先や量販店、生協、需要者と連携し、国内産米の使用拡大運動に取り組む。また、米粉使用商品など新規需要を開拓するため、食品メーカーと連携した新たな商品開発も進める。
 自県産米の県内消費比率拡大運動にも新たに取り組む。そのため販売計画の策定にあたっては、県内消費率の数値目標を定め、取引先、消費者への販売推進を進める。
 そのほか、米輸出も課題だが、生産者にとって一定水準の所得確保が見込める新規需要米を基本に採算確保を前提とする。販売では海外での競合を避けるため、全農が主体となって実施する。

(2010.03.29)