特集

「安心」と「信頼」で地域をつなぐJA共済
2010JA共済連特集

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【JA全共連 安田舜一郎会長インタビュー】 地域とのコミュニケーションで新たな協同を創造する

安田舜一郎 JA共済連経営管理委員会会長
聞き手:太田原高昭 北海道大学名誉教授
・相互扶助精神に立ち返り農協運動を進める
・JA共済が頑張ると地域や農協が元気に
・JA職員も地域住民の一員として地域を考え行動する
・ニーズに的確に応える事業展開で地域に貢献する

 JA共済連は3月19日の臨時総代会で、2010年度からの新3か年計画『「安心」と「信頼」で地域をつなぐJA共済〜組合員・利用者との100%コミュニケーションをめざして〜』を決定した。行き過ぎた市場原理主義、新自由主義経済などによって地域・農村経済の疲弊が進むなか、JAグループは昨秋の第25回全国大会を経て農業振興と地域社会の活性化にむけて大きく動き出したが、現場で農家・組合員からの高い信頼を得るとともに、協同組合運動に大きく貢献してきた共済事業の役割について、農業・農村・JAを取り巻く現状に触れながら、安田舜一郎JA共済連経営管理委員会会長にお話をうかがった。インタビュアーは、太田原高昭北海道大学名誉教授。

生産者と消費者が一体となって
食と農に取り組む時代に

◆地域に活力を与える施策と活動が大事

 
太田原 私が住んでいる北海道は共済事業発祥の地といわれています。全共連創立から来年で60周年を迎えますが、今や共済事業はJA経営を支える事業に大きく成長しました。まずは日本の農業・農村の現状について、会長がどう見られているかをお聞かせ下さい。
安田 地域によって農業・農村の形は様々あり、地域内でも条件のいいところと不利地域との地域間格差が大きくなっています。先日、新たな食料・農業・農村基本計画が閣議決定されましたが、やはり国として、将来にわたって日本の食と農、地域社会・農村社会をどうするのかという基本的な指針をもっとしっかりした形で明示してほしかったと思います。来年度から本格的に導入される戸別所得補償制度でもそうですが、原点に戻って農業・農村の位置づけをしないといけません。現状のままでは、ますます地域の活力は失われ疲弊していくでしょう。農村・地域社会に活力を与えることが国の施策としても、われわれの活動としても重要だと思います。
太田原 新基本計画でひとつ評価したいのは、食料自給率を50%に上げると明言したことです。担い手が減っていく中で自給率を上げていくのは簡単なことではありませんが、JAグループが全体のリーダーとして、50%どころかそれ以上できるんだ、という決意表明をしないと国民も安心できないと思うのですが・・・。
安田 日本の食文化は、戦後大きく変わりました。コメだけではなく、畜産、園芸果樹なども含めてトータルで何をどう確保すれば50%に上げられるのかという明確な具体策を、国が提示する必要があります。そういうものに基づいて農業者が一生懸命努力すれば所得確保はできるんだ、ということをしっかり示してほしいですね。50%とか、六次産業化というような漠然とした目標でなく、これとこれをしっかりやれば食の安全と安心は大丈夫という基本方針を国民に示すことが一番大事だと思います。
太田原 国だけではなく、消費者のほうでも色々考えなくてはいけませんよね。早い話が、もっとみなさんがコメを食べるようになれば、自給率60〜70%は難しくない。しかし今の日本人の食生活に合わせて50%まで上げるのは難しいと思います。JAグループとして、消費者へのアピールはどうすればよいでしょうか。
安田 消費者は、生産者にとってお客さんですから、これを食べろ、あれは選ぶな、とはなかなかいえません。われわれができるのは、食のグローバル化が進んでいるので100%国産というのは難しいので、せめて地産地消を広げていくことでしょう。そこで一番の問題は、国民の間で食べものに対するニーズが大きく変化しているという事実です。例えば、タンパク質の消費量は戦後一貫して上がっています。生活が豊かになればタンパク質の消費は上がるんですが、タンパク質はエネルギー効率が非常に悪い産物ですね。牛肉を1kg生産するため実に11倍の穀物が必要で、自給率を下げている最大の原因は輸入飼料なわけです。だから、ただ消費者のニーズを大事にするだけではなく、日本の耕地を、飼料米や米粉なども含めてどう利用していくべきか考えることが自給率向上の最大の課題ではないしょうか。
太田原 問題は多様化、複雑化していますが、農協運動でも消費者に広く呼びかけて地産地消の輪の中へ一緒に入ってもらう、というような多面的展開が必要になってきたということですね。


◆相互扶助精神に立ち返り農協運動を進める

JA共済連安田会長太田原 昨秋のJA全国大会スローガンは「新たな協同の創造」ですが、そういった課題を見据えながらこれからの農協運動のあり方をおうかがいしたいのですが。
安田 ざっくばらんに言えば、政権が変わって農協運動のあり方が難しくなりましたし、われわれの方でも見直さなくてはいけない点があったと思います。これからの農協運動は、相互扶助精神の原点に立ち返り、生産者の手取り拡大、地域・農村社会やコミュニティの活性化、などにどうかかわるかが重要なテーマになると思います。
太田原 やはりこの1年間で最大の変化は政権交代ですね。それによって、地域が考えずに済ませてきたことが見えてきました。JAは、国の食料の管理をどうするか、という問題を政治マターで考え、議論すべきでしたが、それを政権与党に任せてきてしまったという感じがします。自民党から民主党に替えてすぐ済む、という話ではありません。JAとしての政策をきちんと立てて、それに近い政党を選択していくというように、今までの考え方を逆にしないといけません。「新たな協同の創造」は、そういうことを含めたスローガンだと思いますが、いかがでしょうか。
安田 今まで農業協同組合組織は生産者の側に軸足と目線を置いてやってきましたが、今後はそれだけでは成り立たなくなっております。
生産者と消費者、国民が一体になって、食料と農業の問題に取り組む段階に入ったという認識に立ち、生産者団体として掲げたものと思います。
太田原 JAとしても、視野が広がりましたよね。行動する相手がたくさん見えてきたという積極的な意味があります。ただ心配しているのは、このスローガンによって地域住民や准組合員を重視して、JAが本来農業に根ざしているんだということが薄まってしまわないかということです。
安田 農業の担い手がどんどん少なくなって、各集落でもいわゆる専業でやっている人が1人とか2人とかになっています。そのような中で地域の環境保全や水利管理なども難しくなってきました。新たな協同の創造の一つとして農業者と地域住民でコミュニティを形成し活動することにメリットを感じてもらえれば、一緒に地域農業を支えていけるのではないかと思います。


◆意欲ある担い手が安心して生産できる仕組の開発を

太田原 地域の疲弊は激しくなっていますが、商工会議所の人たちがよくいうことは、「JAに一番期待するのはとにかく農業の振興だ」ということです。農業者がいなくなったら、みんな仕事がなくなってしまって、商店街もシャッターを閉めてしまう。だからJAに一番望むことは、われわれと似たような商売をやって商売敵になることではなく、JA本来の農業生産を発展させる、農業従事者を増やすという使命を果たして欲しいということです。新たな協同の中で、それは非常に大事なことではないでしょうか。
安田 まさにその通りです。農地の問題もあって担い手を増やすのは限られていますが、農業と地域社会がどうやって共存共栄を図っていくか、ということも地域コミュニティ活性化の大きな課題だと思います。
太田原 担い手が増えにくいのは、耕作地が何haなくちゃいけない、など色々な条件で狭くしてしまったためでしょう。しかし兼業者だって、女性だって、高齢者だって、みんな地域の担い手ですよね。だからそういう人たちをしっかりサポートするのが、JAの役割だと思います。共済事業は、あらゆる年齢層や専業・兼業などに関係なく、一人ひとりの組合員に即して考えていく事業ですから、そこから協同組合論を考えていく、という時代になったといえるのではないでしょうか。
安田 われわれもこれまで地域の担い手を狭い範囲で位置づけてきたことは否めないかもしれません。しかし、WTOなども含めて市場が開放されたとき、果たしてそのような担い手たちは強くあり続けられるかは分かりません。むしろ兼業農家のほうが真の担い手になるかもしれません。地域の本当の担い手というのは、性別、年齢、経営規模とかに関係なく意欲ある人です。現代の農業経営は、栽培とか生産の技術者であると同時に、経営感覚を持って将来展望を描ける意欲ある人でないと、なかなか難しくなっています。JA共済は規模の大きな生産法人から小さな兼業農家まで、相互扶助の精神に則って、ひと・いえ・くるまの総合保障で地域全体を支えています。
 今、食の安全・安心や生産から流通までのリスクを保障する仕組みの開発を検討しています。そのような仕組みを提供することによって、意欲ある担い手が安心して生産に打ち込んでもらえるようにしていきたいと思います。


安田会長インタビュー

◆JA共済が頑張ると地域や農協が元気に

太田原 それは大変力強いですね。私は、家の光文化賞の審査委員長をやっていましたが、例年、女性の受賞者が多い中、昨年、初めて男性が農水大臣賞を受賞しました。これが非常に感動的な話でした。その人は熊本のJA青年部の人ですが、地域でもっとも規模が大きくて最先端を走っていた人が急に離農して安定した職業に転職する、といい出しショックを受けたそうです。男性自身、自らの10年後の姿が見えなくて、10年後の自分を考えてみたいと思いJA共済のライフプラン講座に参加したそうです。そこで、今の自分をしっかりと認識して、何が不足して何が充足しているかが明確となったことで、どういう共済に入ればいいかが分かっただけでなく、10年後のために今何をすべきかが見えてきたといっていました。そこで青年部みんなでライフプランの研修を受けたら、今までなんとなく毎日を生きてきたことに気付いて、計画を持って行動するようになり、青年部のみんなも考え方が変わってきたというんです。
 さらに自分たち一人ひとりのライフプランだけでなく、地域全体の10年後のライフプランも考えて、小学校での食育や地域活動を始めるようになり、地域全体が変わってきたというんです。みんな非常に張り切っているという報告でした。
 JA共済の力は大変なものだなと感じました。JA共済が頑張れば地域全体やJAの元気が出ると思いますがいかがですか。
安田 まさにそのような活動をするためにJAの総合事業があるわけです。今は共済事業の実績の7割強がLA(ライフアドバイザー)による実績で、実績確保に力を注いでいるという現実はありますが、共済による保障だけではなく、営農等も含めた総合事業としての事業推進により、より良い地域社会づくりに取り組んでいかなければなりません。
太田原 農業者の意欲という意味では、さきほどの青年部の彼もきっかけはLAのアドバイスだと思いますが、3Q訪問活動などJA共済事業で展開していることが農業者の意欲とうまくかみ合ったとき、ものすごい力を発揮するんだなと感心しました。


組合員・利用者との絆を強める
「3Q訪問活動」

◆営農からくらしまで相談機能を発揮するLAの活動

安田 LAは総合事業の中で取り組むことによってその強みを発揮できます。他の生保や損保は、FPが生活設計をしていますが、われわれJAは生活設計も営農指導もやるので、総合事業を展開する中でいかに3Q訪問活動を機能させることができるかというのが大きな目標です。
太田原 訪問活動というと、職員も農家も敬遠する昔のボウリング推進のイメージがありますが、そういう体制から脱却し、総合事業の一つとして、組合員・利用者との絆を強める活動が3Q訪問活動だと思いますね。
安田 多くのJAでは、営農も経済も経験した職員がLAになります。3Q訪問活動はLAの大事な仕事です。もちろん、本来の事業推進という意味合いももちろんありますが、契約者とその内容の確認とかだけでなく、営農経済や暮らしの悩みについても相談する機能、専門的な話になったとき、それぞれ金融や営農につなげていくという、JAにとって大事な機能を担っています。まさに、「フェイス・to・フェイス」の活動です。それぞれの家庭にきちっと対応していくのがLAです。しかし現実はまだ理想論のようにはいかない部分がありますが、しっかり相談機能を発揮しているLAの方が目標達成も早いんですね。
太田原 やはり、そういう人は組合員の方から申し込んでくるでしょうね。いろいろな相談を受けていると、最初に話していた以上のものに、あれもこれもと加入してしまったり・・・(笑)
安田 ただ、お客さんにとって、今の事業や経営、くらしのあり方も含めた中で、何が一番有利なのかを提案していかなければいけません。なんでもいいから加入してもらい、ボリュームを増やすというだけではお客さんに迷惑をかけますからね。
太田原 LAはその人の暮らしの中でどの共済が必要なのかを勉強しないといけませんから、JAの研修や教育機能も大変重要ですね。
安田 JA共済連としても、共済事業はもちろんしっかり現場の方々に勉強してもらうような研修を提供していますが、総合事業の中で、県本部も含めてJAにどう人材育成の形を提供していけるかが、われわれの重要な役目だと思っています。


◆信用・共済・営農経済が一体となって農協の使命が果たせる

北海道大学太田原教授太田原 JA共済連の優績組合表彰を見ると、やはり共済だけ一生懸命推進したというよりも、総合力のあるJAが受賞しています。多くが合併した大型JAですが、それで組合員から離れるというのではなく、もともとのJAは事業所として残して地域に密着し、総合的な結びつきを強めて共済の実績をあげているJAだと思います。
安田 共済事業はJAの総合事業の一部門に過ぎませんが、現在ではかなりのJAで経営の柱になっています。組合員やお客さんに選んでいただいてきたわけですが、そこにあぐらをかかずに、さらに機能を充実していくことが、これからの事業推進で一番大きな課題になっていきます。
太田原 民間の保険会社とも激しい競争をしていますが、一般企業は保険なら保険という切り口だけでしかお客さんと付き合っていません。JAはトータルでその家のことや農業経営のことなどなんでも知っているわけだから、その人のライフプランの中でどんな共済が必要かを提案できるのが強みですね。
安田 われわれの出発点は、相互扶助と絆です。そこで果たすべき使命を、しっかり組合員とかお客さんに示していけるかどうか。大きな輪の中で、地域における使命と責務をきちっと果たしていきたいと思います。
太田原 まさに協同組合の原点ですね。今、協同組合の信用・共済部門を分離させようという意見が出ていますが・・・。
安田 JAの役割は農家の経営から生活、そして健康といったものを総合的に支援していくことにあります。信用・経済・共済・営農を総合事業として展開し、その使命を果たすのが本来の姿です。
太田原 まったく、同感です。それぞれ部門別で独立採算するのはいいことですが、事業を分割してしまったら、農村破壊につながりますね。
安田 そういう総合性を持っているのは農協だけではなく、労働組合などにもありますし、総合的な事業で弱い立場の人を守っている協同組合組織は日本全国にいっぱいあります。これを分離することで、国民に対して何のメリットがあるのでしょうか。甚だ疑問を感じています。


◆JA職員も地域住民の一員として地域を考え行動する

太田原 先月に決まった新3か年計画の中では、地域貢献も重視していますが、共済事業としての地域貢献とはどういうことを考えているのですか。
安田 例えば、地域医療の面では厚生連等への医療機器助成等を行っていますが、大事なのはハードだけでなくソフトをどう提供していくかではないでしょうか。職員自らが暮らしているその地域コミュニティにかかわり、地域社会の活力をどう守っていくかということが重要だと思います。
JA職員やLAは一地域住民として自分の地域をどう考えるかによって、ハード、ソフト、またはその両面で地域をどう支えるかという問題に柔軟に対応しなくてはいけません。そしてこの活動は全国一律の方針では難しいと思います。
太田原 民間保険会社と違って、職員自身が地域住民であるというのもJAの強みだと思います。地域住民として、いろんな課題が見えますよね。地域医療などの大きな問題では、厚生連病院にどれだけのお医者さんを連れてくるかが課題になっていますが、そういった連携についてはどうですか。
安田 JA共済連は、間接的に地域医療に関わっていくことだと思います。例えば交通事故に遭われた方が社会復帰できるようにと、静岡県中伊豆と大分県別府にリハビリテーションセンターがあります。社会復帰へ一生懸命取り組んでいる人を手助けすることで、地域医療に貢献していければ、と思います。


◆ニーズに的確に応える事業展開で地域に貢献する

太田原 最後ですが、共済事業に取り組んでいるJA役職員の方々へメッセージをお願いします。
安田 JA共済事業にとって非常に厳しい環境が続いていますが、だからこそ新3か年計画の内容に具体的に取り組むことが必要だと考えます。特に3Q訪問活動に引き続き取り組み全戸訪問することで、組合員や地域の人たちの信頼を深め、JA共済へのニーズを発掘していけると思います。そのニーズに的確に応えられるような新たな事業展開、仕組みや制度、サービスの改革などを実行し地域に貢献していきたいと思います。また農業経営にはさまざまなリスクがありますが、いかにリスクを軽減させ、セーフティーネットを築けるか、というのが共済事業の大きなよりどころですので、LAはじめJA職員の方々にはそれを実現するような事業展開をお願いしたいと思います。
太田原 今日はありがとうございました。

 

【インタビューを終えて】

 私は以前『明日の農協』という本を書いたことがありますが、その中で共著者の武内哲夫教授(故人)が、「農協事業の組合員満足度」というアンケートを紹介され、共済事業の満足度が最も高いというデータを示しておられました。営農指導事業とか、販売事業を予想していたのでびっくりしたことを憶えています。
 共済事業は「相互扶助」「共助」という協同組合の理念が最もわかりやすい事業なのだと思います。安田会長は農業、農村が置かれた状況から、共済事業の役割、意義について諄々と説かれ、それをそのまま格調の高い農業論、農協論として聞かせていただきました。いま農協の一つ一つの事業をこうした観点からとらえ直すことがとても重要だと共感しました。
 とくに会長が力を入れて話された「3Q訪問活動」については、単なる共済推進活動ではなく、組合員とJAとの結びつき、絆を強める観点から総合的に取り組まれている運動なのだということがわかって、目からうろこが落ちました。一部局ではなくまさに総合農協の力を集中すべき課題です。それだけにただの事業推進にならないように、会長の思いを現場の皆さんの共通理解にするべく、話し合いや研修を強化していただきたいと思いました。
(太田原高昭)

(2010.05.17)