特集

「これからの園芸防除対策」

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【園芸防除対策】 基本的な飛散低減対策から取り組もう

「ポジティブリスト制度」導入後の課題とその対応
・ドリフト低減ノズルや遮蔽ネット利用で対応
・果樹の混植園地帯ではノズル開閉などで工夫
・飛散防止対策および器具洗浄など十分に

 初夏から夏にさしかかり、みずみずしい野菜や果物が、本格的に出まわる季節を迎えた。ポジティブリスト制度の導入から4年が経過し、農薬のドリフト(飛散)対策も行政やJAグループが一体となった取り組みで、さほど問題となるような現象は見られないが、依然として、現場ではその対応に苦慮していることも事実。農薬のドリフト(飛散)対策を中心に、これからの園芸防除対策をJA全農 肥料農薬部 農薬課にご寄稿を頂き特集をまとめた。ドリフト対策は、基本的な飛散低減対策からはじめよう。

◆ドリフト低減ノズルや遮蔽ネット利用で対応

 平成18年5月、農薬の残留基準にポジティブリスト制度が導入されてから、ちょうど4年が経過した。制度が導入されるにあたり、特に一律基準値が0・01ppmとなったことによる課題として、ドリフト(飛散)による一律基準値の超過が問題になると想定され、行政とJAグループが一体となり対策を講じた。
 まずは基本的な飛散低減対策をとること。風のないときに散布する、散布圧力を高くしすぎない、作物の近くで散布する、ノズルの向きに注意する、などである。これらは使用者のちょっとした注意で実行できることであり、農薬散布の基本として守るべき事項である。さらに、飛散が懸念される場合には、ドリフト低減ノズルの利用、遮蔽ネットの利用、さらに飛散しづらい剤型への変更などの対策をとるようにした。これらの対策について、研修会や講習会での説明や、チラシやポスターの利用などにより、現場への周知を徹底した。

◆果樹の混植園地帯ではノズル開閉などで工夫

 これらの対策の結果、今のところドリフトが原因と考えられる残留基準値超過の事例は多くはないが、現場ではその対策に苦慮しているところも多い。
 その1つが、果樹の混植園地帯である。SS(スピードスプレヤー)などを用いた散布が多用されていることもあり、隣接する多作物への飛散は避けられない。SS散布においては、こまめなノズル開閉や送風量の低減などにより飛散を少しでも少なくする工夫をしている。さらに隣接作物にも適用のある農薬を使用することなどで対応している。しかし、複数作物に適用があることを優先して剤を選定するため、結果的に同系統の薬剤を連用することになり、その結果、抵抗性害虫や耐性菌の発生が懸念される、また、効果やコストを二の次にせざるを得ないケースもある、などの課題がある。
 また、近年直売所に出荷される生産者が増えてきた。直売所では、多品目の作物を継続的に出荷することが求められるため、少量多品目の栽培をされることが多い。そのため隣の畝に異なる作物が栽培されている場合もあり、飛散防止が大きな課題となる。現場では上記の散布の基本を守り注意深く散布することに加え、隣の作物に適用のある薬剤を使用する、粒剤などドリフトの少ない薬剤を使用する、農薬が飛散しては困る作物に被覆資材をかける、などの対策がとられている。また、栽培ほ場を集約する、緩衝地帯をもうける、作付時期を調整する、などの栽培上の対策も講じている。
 なお、長期間の継続した出荷を目的に栽培を行う場合、同じ作物でも畝ごとに収穫期が異なる場合も多い。その場合には前日まで使用できる薬剤を利用するなどの配慮も必要である。

◆飛散防止対策および器具洗浄など十分に

 いっぽう、散布予定以外の作物への農薬残留の原因として、問題になっているのが散布機のタンクやノズルに残った薬液によるものである。
 散布器具の洗浄が不十分でホースやタンクに薬液が残っていた場合、次回の散布時にそれがそのまま散布されるため、基準値を超えてしまう可能性がある。実際、散布器具の洗浄不足が原因と考えられる基準値超過事例が見られている。
 肩掛け式や背負い式の散布機の場合は、タンクに残った残液を排出した後、流水でタンクの内部を洗浄するとともに、ノズル、ホースに十分通水する。
 次回の散布開始前に、数秒間通水する、試し散布を行ってから作物に散布するようにすると配管内に残った残液の影響を低減することができる。
 セット動噴やさらに大型の防除機の場合は、残った薬液を完全に抜き、タンクや配管、ホース内の洗浄を十分に行う必要がある。この場合も、次回の散布時に散布開始直後の散布液は作物にかけないなどの対応をとると安心である。
 今後も、農薬の適正使用はもちろんのこと、飛散防止対策や器具の洗浄などを十分に行い、安全な農産物を作れるようにしたいものである。

             アオムシに被害を受けたキャベツ葉   アオムシ(老齢幼虫)

アオムシに被害を受けたキャベツ葉(左)・アオムシ(老齢幼虫)(右)

            オオタバコガ雌成虫  ミカンキイロアザミウマに被害を受けたナス  トマトハモグリバエに被害を受けたキュウリの葉   

オオタバコガ雌成虫(左)・ミカンキイロアザミウマに被害を受けたナス(中央)・トマトハモグリバエに被害を受けたキュウリの葉(右)

 

(写真提供)石川県植物防疫協会および静岡県植物防疫協会:美味しい野菜ほど害虫に好まれる。

(2010.05.19)