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COP/MOP5の主要な論点

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輸入された遺伝子組み換え生物によって悪影響が生じたときの責任と救済―COP/MOP5の主要な論点―

・カルタヘナ議定書とは?
・ルール作りで対立する意見
・日本の農水大臣が議長を務める

 今年10月18日から29日まで、名古屋で「生物多様性条約第10回締約国会議」(COP10)が開催される。この会議については多くの報道があるが、それに先だって10月11日から15日まで名古屋で開催される生物多様性条約に基づく「カルタヘナ議定書第5回締約国会議」(COP/MOP5※注)についてはあまり知られていない。
 そこで、6月2日にバイテク情報普及会が開催したこの問題についてのセミナーでの市場裕昭外務省地球環境課課長補佐の講演内容から、何が主要な論点かをまとめた。

◆カルタヘナ議定書とは?

 「生物の多様性に関する条約」(生物多様性条約:Convention on Biological Diversity=CDB)は、ラムサール条約やワシントン条約などの特定の地域、種の保全の取り組みだけでは生物多様性の保全をはかることができないとの認識から、新たな包括的な枠組みとして提案された。1992年5月に案文が採択され、同年6月にリオデジャネイロで開催された「国際環境開発会議」(地球環境サミット)で、気候変動枠組条約とともに署名開放され、翌93年12月29日に発効した。現在、192カ国とEUがこの条約を締結している(日本は93年5月締結)が、米国は未締結だ。
 この条約は、地球上の多様な生物をその生息環境とともに保全すること、生物資源を持続可能であるように利用すること、遺伝資源の利用から生ずる利益を公正かつ衡平に配分すること、の3つを目的としている。
 日本では、95年以降「生物多様性国家戦略」を策定(2010年第4次)するとともに、08年6月に「生物多様性基本法」を公布・施行している。
 「カルタヘナ議定書」は正式には「バイオセイフティに関するカルタヘナ議定書」(Cartagena Protocol on Biosafety)といい、生物多様性条約に基づき「遺伝子組み換え生物(LMO)の国境を越える移動に焦点をあて、生物多様性の保全および持続可能な利用に悪影響をおよぼさないよう、安全な移送、取扱いおよび利用について」十分な保護を確保するための「措置を規定」するものだ。
 95年に開催された生物多様性条約第2回締約国会議(COP2)で合意され、99年にコロンビアのカルタヘナで開催された特別締約国会議で議定書の内容が討議され、翌2000年に採択、03年に発効された。今年5月現在で、157カ国とEUが締結しているが、主要な遺伝子組み換え作物の生産国である米国、カナダ、アルゼンチンは非締約国となっている。
 カルタヘナ議定書のLMOの輸出入に関するルールでは、下図のようになっている。

カルタヘナ議定書のLMOの輸出入に関するルール

◆ルール作りで対立する意見

 それでは、10月に開催されるMOP5では何が論議されるのだろうか。
 主要議題は「遺伝子組み換え生物の国境を越える移動から生じる損害の責任と救済に関するルール作り」および「カルタヘナ議定書戦略計画(2011〜20年)の策定」などとなっているが、問題は「責任と救済のルール作り」だ。
 カルタヘナ議定書第27条「責任と救済」では、損害が発生した場合の責任の所在や救済方法について、国際的なルールおよび手続きを作成する作業を、同議定書第1回締約国会議(MOP1)から4年以内に完了するすることを求めている。
 04年2月のMOP1で「責任と救済」に関する作業部会を設置し、交渉を続けてきたがまとまらず、08年5月にドイツのボンで開催されたMOP4直前に交渉の進捗をはかるために共同議長が指名した地域代表を含む少数国(日本など26カ国)会合(共同議長国フレンズ会合<FCC>)で、COP4で決定された「今後の検討の対象とする作業文書」について、MOP5までに2回開催し検討することになった。
 今年2月にマレーシアで開催された第2回FCCにおける主な交渉スタンスの違いは次のようなものだという。
 「LMO輸出国/先進国」(ブラジル、EU、日本等)は食料等の貿易に影響がない仕組み技術開発に影響がない仕組み科学的根拠に基づく実効的な制度を主張。
 アフリカやマレーシア等「LMO輸入国/途上国」は生産者以外の全て(開発者、製造者、販売者等)に責任を課すなど、厳しいルールが必要損害の範囲をLMOによるものだけではなく、LMO由来の産品によるものまで広げる必要があると主張している。

◆日本の農水大臣が議長を務める

 こうした主要な論点を整理したのが下表だが、10月のMOP5の議長国(農林水産大臣が議長となる。COP10は環境大臣が議長)である日本は、「議長国としてバランスをとり」「科学的な根拠に基づく実効的な制度」によって安全に輸入できることを基本的なスタンスにしているという。個別の論点では、表中の下線部分が日本のポジションのようだ。
 「事業者」の定義一つ取り上げても、LMO農産物の種子を例に考えると、「輸出国」における(1)開発者(2)生産者(3)輸出者がおり、輸入国に運ぶ(4)運搬者、そして「輸入国」における(5)輸入者(6)流通者そして(7)農業者などの使用者が想定される。
 何らかの要因で、自然界に放出され、在来の野生種の駆逐や生態系の破壊など「損害」が発生したとき、責任を追及される「事業者とは誰をさすのか」とういうことについても大きな意見の相違がある。これをどうまとめるのか? それともさらに議論を続けていくのか。いずれにしても容易な問題ではないようだ。

MOP5の主要論点

注) 「COP」とは、Conference of the Partis)の略で、国際条約を結んだ国が集まる会議(締約国会議)のこと。
「COP/MOP」とは、Meeting of the Parties)の略で、COPに併せ、条約に関連する議定書の締約国による会合のこと。

(2010.06.18)