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農薬特集

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間近に迫った臭化メチル全廃 ―ジュネーブ会議での勧告と今後の対応―  シンジェンタ ジャパン(株)技術顧問 楯谷昭夫

・土壌処理用は申請どおり勧告
・日本の全廃への転換計画を高く評価するMBTOC
・代替技術の開発プロジェクト
・諸外国でもすでに全廃
・代替方法の普及導入

 オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書第30回公開作業部会(OEWG)は、6月15日から18日までスイスのジュネーブで開催された。議定書の国連環境計画(UNEP)の技術経済評価委員会(TEAP)の部会(MBTOC)は、オーストラリア、カナダ、日本、イスラエル、米国から提出された不可欠用途用臭化メチルの申請を審議し、その結果を報告した。日本が申請した2012年分の土壌処理用は申請どおり勧告し、クリのくん蒸処理用は申請数量を30%削減して勧告し、合計21万9609トンを勧告した。OEWGは、このTEAPの勧告を了承。
 この勧告は、10月に開催される第22回締約国会合に上程され、決議されることとなる。この会議に国連環境計画(UNEP)の臭化メチル技術選択肢委員会(MBTOC)の専門委員として出席されたシンジェンタ ジャパン株式会社技術顧問の楯谷昭夫氏にその概要と今後の対応についてまとめて頂いた。

◆土壌処理用は申請どおり勧告

 日本は、メロン、キュウリ、トウガラシ類、ピーマンの土壌伝染性ウィルスの防除用、ショウガの根茎腐敗病を発病させるピシウム菌の防除用、クリに付着するクリシギゾウムシのくん蒸処理用について申請した。09年に決議された11年分と今回勧告された12年分の数量は表のとおり。
 12年分は、土壌消毒用は申請どおり勧告された。他方クリシギゾウムシの殺虫用はヨウ化メチルが09年9月に登録されたことから申請数量の30%が削減され勧告された。
 日本は土壌処理用の申請を13年に全廃すると公表しているので、土壌用は今回の申請が最後となる。

◆日本の全廃への転換計画を高く評価するMBTOC

間近に迫った臭化メチル全廃 ―ジュネーブ会議での勧告と今後の対応― MBTOCの土壌部会は、日本の次のような不可欠用途用臭化メチルの全廃への取り組みを高く評価し、申請数量の全量を勧告した。それは、(1)2013年全廃を公表していること(2)脱臭化メチル剤による産地に適合した代替技術の栽培マニュアルを開発し2013年から普及するとして代替方法への転換計画が具体化していること(3)ショウガの根茎腐敗病のピシウム菌の防除のため農薬メーカは日本植物防疫協会に代替剤の実用化試験を委託し、その結果登録、登録申請、登録申請のための試験成績の作成など代替剤の開発が具体化していること(4)臭化メチルの使用と放出を削減するため、単位薬量を削減し低透過性フィルムを使用していることである。
 1995年以来日本はモントリオール議定書で定める削減スケジュールを前倒し、さらに05年から12年までの不可欠用途申請数量を年々削減している。また近年の植物検疫処理用臭化メチルの使用量が著しく減少していることも評価されている。筆者は、これら日本の努力を海外の臭化メチル代替技術の開発と放出の削減に関するシンポジウムで紹介してきた。

◆代替技術の開発プロジェクト

 農水省は臭化メチルの規制が開始された1995年以来代替剤開発のための補助事業を進め、クロルピクリン乳剤の開発、クロルピクリンの適用病害虫の範囲の拡大、1,3DとMITCの混合剤の(ディ・トラペックス剤)の適用病害虫の範囲の拡大など、既存の土壌消毒用代替剤について多くの土壌病害虫への適用拡大を図ってきた。また、農水省は、不可欠用途用臭化メチル申請の全廃を公表した08年に「脱臭化メチル剤による産地に適合した代替技術の栽培マニュアルの開発」事業を立ち上げ、08年から10年の3カ年で代替技術のプロトタイプを確立し、11年から12年の2カ年で実証試験を行い、代替技術の栽培マニュアルを確立する。代替技術の達成目標は防除価が無処理に比べ80%を確保し、収量は臭化メチル剤に比べ90%を確保することとしている。クリはヨウ化メチルが09年9月に登録されたが、登録申請者はその使用方法と価格面からの技術的経済的実用性が明らかでないとしてその全廃時期を明示していなかった。

◆諸外国でもすでに全廃

2011年分の決議数量と2012年分用勧告数量(トン) 土壌伝染性ウィルスの防除で現在研究が進められている代替技術としては、弱毒ウィルスの接種(ピーマンとキュウリ)、メロンとトマトとの輪作、防根透水性フィルムによる隔離床栽培(メロン)、山土、ヤシガラ、パーライト、フスマ、鋸屑、木材樹皮を混合し、これらを30リットルの袋に入れて水分と養分を補給する少量培地耕栽培(キュウリ)、ウィルスがピーマン苗の根から感染することを防止するための根部を紙で包みこむ方法(ピーマン)、土壌ウィルスの根への感染を防止するため苗を植えつけるポットが土壌中で自然に分解する生分解性ポットの利用(ピーマン)などである。
 ショウガの根茎腐敗病のピシウム菌防除には、現在農家は種々の方法を用いてその発生を防いでいる。植え付け前には圃場の心土破壊による排水の促進、井戸水や圃場から離れた水源からの無病菌の水の確保、無病種ショウガの確保、圃場での罹病植物の撤去、などあらゆる方法により防除に努めている。臭化メチルの代替剤としてのクロルピクリンは、被覆撤去時の臭気の拡散による圃場近辺住民からの苦情があり、ダゾメットとキルパーは、有効成分MITCへの分解と薬害防止のため処理後の残存ガスの放出には十分な時間を要するため植え付け時期が遅延し、ショウガの栽培期間が短縮するので、収量減となることからどうしても臭化メチルが必要であった。1,3DとMITCの混合剤のディ・トラペックス剤と生育期でのジアゾファミドの潅注処理が最近登録されている。また、アゾキストロビンとメタラキシルMの混合剤(ユニフォーム)とヨウ化メチルが登録申請されており、その登録が待たれている。さらにアミスルブロムは登録申請のためにメーカは薬効薬害試験の委託試験を日植防に委嘱している。
 日本は、13年に全廃としたが、これは、日本だけが独自に行ったものではない。すでにスイス(07年)、ニュージーランド(08年)、EU(09年)は全廃しており、イスラエルは12年に全廃する。オーストラリアとカナダとは全廃は公表していないが、その申請数量はわずかだ。他方、米国の申請数量は他国に比べ非常に多いが、申請数量は年々著しく減少している。

◆代替方法の普及導入

 日本のクリくん蒸処理用については、09年3月にヨウ化メチルが登録された後、速やかに技術的経済的に実用可能な技術の確立を図り、技術確立後1〜2年、最長でも3年で現場への普及がなされることを目途とするとしているが、MBTOCは13年に全廃することを期待している。また、たとえMBTOCが2―3トンを勧告したとしても製造メーカがコストに見合わないことから製造しないことも予想される。この様な状況下ではクリについても13年に全廃を目指し、代替剤としてヨウ化メチルの実用化を鋭意検討することが必要と考える。
 臭化メチルの全廃は目前に迫っている。各産地では代替方法を試行し、その効果を確かめ、それぞれの産地に適合した代替方法への転換を進め、土壌病害の的確な防除を行う必要がある。

(2010.07.22)