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特集「生産者の所得向上とJA全農の役割〜国産農畜産物の販売力強化をめざして〜」

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【インタビュー】宮下弘 代表理事理事長に聞く  いまJA全農がめざすもの 「変革・創造・実践」で経済事業を活性化

・直販事業で力をつけ競争力を高める
・JAと一体化することで推進力をアップ
・組織風土を改善する攻めの運動を

 日本の農業・農協を取り巻く環境は厳しいが、JAグループの経済事業は日本の農業、地域社会と生産者・組合員のくらしを守る農業協同組合の要の事業であり、日本の食料を確保し、安全で新鮮な国産農畜産物を提供する重要な事業だ。
 経済事業を担う全国連であるJA全農は本年度から「国産農畜産物の販売力強化」をメインテーマに「変革・創造・実践」することを掲げた「3か年計画」をスタートした。
 そこで本紙では「いま全農がめざすもの」は何かを宮下弘理事長に聞くとともに、「生産者を支援する新技術開発と営農・技術センターの役割」「持続可能な畜産経営に向けた取り組み」「期待される新農薬AVH―301」「国産農畜産物の販売拠点としてのAコープ」などを特集として企画した。

全事業の共通目標は
国産農畜産物の販売力強化


生産者の所得向上をめざして
◆直販事業で力をつけ競争力を高める


宮下弘 代表理事理事長 ――この4月から新「3か年計画」がスタートしましたが、第1四半期(4〜6月)はどのような状況でしたか。
 宮下 事業分量は計画比、前年対比とも101ですから、ほぼ順調なスタートだといえます。ただ、当期利益はほぼ前年並みで推移していますが、事業利益段階ではまだ赤字です。3か年計画では、最終年度で事業利益を黒字にする計画にしましたから、何としてもそれはやり遂げなければならないと考えています。
 ――事業環境が厳しいなかですから大変ですね。
 宮下 21年度の決算では事業分量が5兆円を割り込みましたが、事業管理費などを徹底的に絞り込んできた効果が出て当期利益を確保することができました。
 事業分量は米の集荷率が落ちていることや、農産物の販売価格が下がっていることなどから、販売事業での減少が大きく、購買事業も農業全体が右肩下がりのなか、いたしかたない所もあると思います。今後は飼料や肥料、さらに農薬のような力の強いコアの部分を充実していくことが大事だと思います。
 ――農薬では開発基金の積立も実施されましたね。
 宮下 水稲用除草剤AVH―301のような優れた剤の開発を積極的に充実していくということで、総代会でもご理解をいただきましたし、農薬メーカーからも注目されています。
 ――3か年では「国産農畜産物の販売力強化」を全事業を通じた共通目標として掲げられましたね。
 宮下 各品目ごとに具体策を策定していきますが、米は県産ブランドが中心の販売ですし、青果物は県段階で市場にどう対応していくのかということがある一方、全農として統一的に何かできるかと問われれば、なかなか難しい面はあります。
 しかし、生産者が価格の低迷などで苦しんでいる時代に、経済事業を担う全農が果たす役割だと考え、この目標を掲げました。簡単に結果が出るものではないと思いますが、自ら叱咤してやっていかなければならないと決意しています。
 国産農産物の販売の大宗を占めるのは市場ですが、全農の直販子会社とメグミルクで約8000億円売上げがありますから、これを充実することで市場に対する競争力を強化することと、生協や量販店などへの直販を地道に行い力をつけていくことです。
 ――生産者の手取りをいかに確保するかは、全国共通の課題でもありますね。
 宮下 
日本の農業を大事にしなければいけないという国民的な理解は高まってきていると思います。しかし、そのための具体的な行動はというと、スイスのチーズのように、高くても自国産を守るという国民的コンセンサスが醸成されているとはいい難い状況だと思っています。
 ――販売力を強化するためには新品種や新技術の開発にも力をいれていくことにしていますね。
 宮下 農業生産だけではなく販売力強化につながる技術を中心に強化するため、平塚の営農・技術センターをリニューアルしました。5年ほど前に東京青果センター(現・JA全農青果センター(株)東京センター)を複数温度帯で温度管理できる施設にしましたが、そのことで生協や量販店の信頼を得て、業績が伸びました。そういう基盤づくりをしていくことも大事ではないかと考えています。

 


大きくなるTACの役割
◆JAと一体化することで推進力をアップ

 

 ――前の3か年計画では「改革」が大きなテーマでしたが、今回は「変革・創造・実践」をテーマとしており、改革を終えて次のステップへという印象をもちましたが…
 宮下 そういう面と、次のステップへの準備という部分とがあります。例えば購買事業そのものはいままでの路線で方向性は合っていると考えるので、それをさらにきちんと密度を濃くして強めていくことを目指します。しかし、推進の面では、組合員の意識が変わってきたことや競争が激しくなっていることなどから、JAグループ全体として推進力が落ちてきている実態もあります。
 ――解決するためには…
 宮下 一つは、TACのように生産者と直接接する役割を強化することです。
 もう一つは、推進を県段階、JA段階と分けず一つの単位にまとめて考えることが必要ではないかと私は考えています。いま県との段階では広域拠点などを設置し効率化しようとしていますが、JAとも壁を取り払い一体化した推進を考える時代ではないでしょうか。
 かつてはAコープもJA―SSも全部JAが運営していましたが、いまはそういう時代ではないということを大方の方が理解され、県域を超えた広域化を図っています。そのことで個々のJAで運営するよりも高いレベルで機能を発揮していこうとしています。農機も同じような方向にいくと思います。
 ――生産者との接点という意味ではTACの役割は大きくなりますね。
 宮下 そうです。TACの活動は着実に成果をみせはじめています。例えば全農の商談会などでも、TACは元気があってTAC関連のブースや参加人数が増えています。また、TACが発掘したこだわり食材を中心にした料理などを提供する「みのりカフェ」と「みのる食堂」を9月に銀座・三越に出店します。デパートへの常設出店は初めてのことですが、一つの試みとして期待しています。

 


現場目線で仕事の質を高める
◆組織風土を改善する攻めの運動を

 

 ――8回目の改善命令が農水省からだされ、専任役員と専任部署の設置をされましたが…
 宮下 本会100%子会社による米・青果物などの不適正表示に対し、6月に業務改善命令が出ました。これまで職場討議や規定・規則、マニュアルの策定などを行い、周知徹底をはかってきました。そのことで、大半の人たち、大半の部署は5年前に比べれば変わってきているのは事実です。それでもこうした事案がおきるのは“魂”がこもっていなかったからであり、私たちがやってきたことが上滑りしていたからだと反省しています。
 今回の改善命令をきっかけに私たちは専任部署(食品品質・表示管理部)を設置し「現場で抑える」ことに取り組むことにしました。
 「あれをやれ」「これはしてはいけない」と指示・命令をするのではなく、専任部署担当者が、本部長・事業部長・社長にまずヒアリングを行い、品質管理に対する姿勢の弱いところから拠点・現場に入り、点検をして現場で協議して改善をしていくというものです。この作業を1年間を通して実施します。
 専任部署の職員には「君たちの仕事に全農の次のステップがかかっている」といいました。これは、不祥事を再び起こさないというだけのものではなく、仕事の質を改善し高める攻めの運動だということです。
 だから彼らに限らず全農の職員は、現場に行って上から目線で話をするなと私はいっています。現場をよくするために、現場の人間とよく話し合って、点検をして改善することです。そうすることによって初めて本質的な仕事の改善が結実すると考えます。
 ――ありがとうございました。

(2010.08.31)