特集

特集「生産者の所得向上とJA全農の役割〜国産農畜産物の販売力強化をめざして〜」

一覧に戻る

【全農特集】生産から販売まで確かな技術でつなぐ 「生産者を支援する新技術開発と営農・技術センターの役割」

・生産者と実需者のニーズをマッチング
・農業生産に貢献する技術を開発
・消費者に「価値ある商品」を提供
・JAグループの人づくりセンターとしても
・「懸け橋」を“見える化”する役割も

 今年5月、神奈川県平塚市にある営農・技術センターがリニューアルしてオープンした。新センターは、JA全農3か年計画の目標である「国産農畜産物の販売力強化」を実現するために、新品種の育成や新技術の開発などによって、生産者を支援することが求められている。そこでセンターの機能とめざすものを取材した。

◆生産者と実需者のニーズをマッチング


新装なった営農・技術センターの本館 営農・技術センター(以下、センター)は今年5月に、西側敷地に施設などを含めて集約し新たにリニューアルしてオープンしたが、組織的にもセンターが所属していた旧営農総合対策部が旧大消費地販売推進部と統合し、生産から販売までを一貫して取り組む専務直轄の「営農販売企画部」となり、その位置づけも変わった。
 大西茂志営農販売企画部長は「部の役割は、販売と生産をマッチングさせていくことで、消費と農業の現場を技術でつなぎ、生産者の手取りの向上や消費者の豊かな食生活を実現すること。そのなかで新センターは、開発された技術を生産や販売につないでいくこと」だと位置づける。
 そのときのキーワードは生産場面では「単位時間当たりの生産性と利益をどうあげるか」であり、消費者・実需者へは「マーケティングにもとづき価値あるものを提供する」。この二つを実現することだと大西部長。
 具体的にいえば、従来は取引先から例えば「タマネギが欲しい」といわれれば、「産地を見つけて集める」という発想だった。これからはそういうニーズがあれば、取引先が満足する品質と量が確保できる品種とその適地を見定め、かつ生産者も手取りがしっかり確保できる生産・栽培方法を提案し契約できるようにする。
 そのときに固定費を抑えるためにレンタル農機を使うとか、場合によっては不適地であっても「FOEAS」(地下水位制御システム)など、不適地を適地にする技術や手取りが確保しやすい品種などを織り交ぜて、トータルで提案していく。
 こうしたトータルな提案をするためには、販売現場の要望をもとに肥料・農薬・農業機械など生産資材だけではなく、品種の選定から栽培方法、さらに生産管理まで多くの技術の裏づけが必要になる。

(写真)新装なった営農・技術センターの本館

 

沿革

◆農業生産に貢献する技術を開発

 

 センターでは、表1、表2にあるように、昭和37年の設立以来、多くの分野で数多くの技術開発を行い、日本の農業生産に貢献してきている。
 さらに組織内だけではなく、平成19年には農研機構(独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構)と連携協力協定を締結し、農研機構がもっている研究成果を、JAグループの組織力を活用して農業現場に普及し、実用化をはかることにも取り組んでいる。
 その具体例が、本紙でも紹介したことがある「鉄コーティング水稲種子を用いた湛水直播栽培技術」や水田を畑地化し野菜栽培を可能にすることもできる地下水位制御システム「FOEAS」(フォアス)だ。
 これらの技術の普及は、農研機構と全農が共同で策定し「全農が技術の現場への移転」を実施。農研機構はこれに必要な「情報の提供および技術指導等を協力」する形で進められている。そして、現場で得られたさまざまな情報がフィードバックされ、技術がさらにブラシアップされることになる。
 さらに全農では、つねに農研機構の最新技術を迅速に把握しただちに現場につなげるため、茨城県つくば市の農研機構内に、営農・技術センター農産物商品開発室「つくば分室」を設け全農職員を常駐させている。
 また、センター各研究室は、全農の各事業部の主要課題にも技術面から取り組んでいる。
 具体的に、生産面では「土壌診断に基づく適正施肥による施肥コストの抑制」「低コストな独自型式農機、韓国トラクタの普及」そして「農機レンタル事業の推進」などによるコスト低減。簡便な技術で高収量を実現した新生産システム「トマトの一段密植養液栽培」や「FOEAS」、「鉄コーティング水稲種子」の普及などがあげられる。
 また、いま問題となっているSU抵抗性雑草にも効果が高い水稲除草剤「AVH―301」(9/3詳細記事更新予定)や高活性ヒエ剤の「MY―100」などの新農薬の開発にも積極的に取り組み、実用化を図ってきている。

主な機能とこれまでの主要な成果

 


◆消費者に「価値ある商品」を提供

 

農薬検査では高性能分析機器による効率的で、精度の高い分析検査を実施 こうした生産技術だけではなく消費者のニーズにあわせた特性や加工適正をもつ米や野菜、花などの品種開発もセンターの重要な役割だ。米では良食味米「はるみ(湘南6号)」、野菜では良食味に重点をおいた根深ネギ「あじぱわー」やJA販売本数1000万本を超えたスプレーギクの品種開発などがある。
 農産物の流通面でも、低コスト・省力化をはかる段ボール原紙や組立作業の省力化をはかるノンステーブル箱。植物由来樹脂PLAパックなど、総合包装提案活動にも取り組んでいる。また、イチゴの傷みを大幅に低減する「ロバスト流通システム」をメーカーと共同開発したりもしている。
 JAグループの国産農畜産物の販売拠点であるAコープで販売されているエーコープマーク品は「主原料国産100%」や「国産米粉使用」などJAらしい商品づくりを進めているが、こうした商品開発にもセンターは積極的に取り組んでいる。

(写真)農薬検査では高性能分析機器による効率的で、精度の高い分析検査を実施

 

◆JAグループの人づくりセンターとしても

 

農業機械基礎講習会 そして公的機関からも認定を受け高い信頼性を誇る「残留農薬検査室は」農産物の残留農薬分析を行うだけではなく、JAグループの残留農薬分析関係の人づくりも担うセンターともなっている。
 肥料価格が高騰するなか、施肥コストを抑制するためには、土壌診断にもとづく適正な施肥設計による土づくりが不可欠だが、肥料研究室に「全国土壌分析センター」を設置するとともに、全国8カ所に設置された広域土壌分析センターの運営・支援を実施している。
 こうした技術的な機能と同時に、JAグループの「人づくり」もセンターの重要な役割だ。センターで実施される技術者養成や資格取得のための研修会・講習会の受講者は累計で13万人を超えたが、これからもますます重要になる役割だ。
 センターの機能を駆け足でみてきたが、これ以外にもまだまだ多くのものがセンターにはあることも忘れてはならない。

(写真)農業機械基礎講習会

 


◆「懸け橋」を“見える化”する役割も

 

トマト一段密植養液栽培 販売力の強化が全農の目標だが、それは売り場の棚を確保するということではなく、消費側のニーズと生産者・担い手のニーズをマッチングさせることだと大西部長はいう。
 いままでもそのことはやられてきてはいるが、これからは社会が高齢化し消費それ自体が縮小する傾向にある。そのなかでどう価値あるものを見つけ、最終マーケットを見据えながら、生産性をあげ確実に生産者の手取りを確保するような事業にしていかなければ、これからの農家経済や地域経済を維持していくことは難しい。
 そのためには、JAが生産者・担い手と直接接するTACや全農事業部と実需者である生協や量販店と接する全農グループの販売会社の連携強化が必要だ。
 そして、実需者には「価値ある商品を提供」し、生産者には、生産性の向上を実現し手取りを確実に確保できる「技術を提供」することで、生産者と消費者の「懸け橋」を「見える」ものにする、センターの役割がますます重要になっている。

(写真)トマト一段密植養液栽培

(2010.09.01)