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全農生産資材事業3か年計画のポイント

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【インタビュー】鈴木盛夫 生産資材部長に聞く  提案型事業の展開で国産農産物の安定生産に貢献する

多様なニーズに応えた事業を組み立てていく
・農業機械
・出荷資材
・建設事業
・新技術

 国産農産物が消費者の食卓に届くまでには、生産するために必要なさまざまな農業機械や収穫された農産物を輸送するための容器など多くの資材が必要となる。そうした資材から、園芸用ハウスや米麦の乾燥調製施設であるカントリーエレベーターまで、全農生産資材部の守備範囲は広い。また、今年度からの3か年計画の実践にあたっては4月に「総合園芸対策プロジェクト」を立ち上げ新たな展開方向をみせている。そこで鈴木盛夫部長に、このプロジェクトを中心に、各分野の重点課題を聞いた。

総合園芸対策プロジェクト
作物別に生産資材・技術を総合的に提案


鈴木盛夫 生産資材部長 ――4月に「総合園芸対策プロジェクト」を立ち上げられましたが、このプロジェクトの位置づけと取り組み内容をお教えください。
 「全農は3か年計画の最重点課題である『国産農畜産物の販売力強化』の専任部署として営農販売企画部(営販企部)を新設しました。営販企部は、生産と販売をマッチングする作物別の総合生産体系を構築することを目的にしています。つまり図1の左端に営農・技術センターの技術などがあり、右端に実需者や販売先のニーズがあり、営販企部はこの全体をコーディネートするわけです。しかし、そのためには実際に生産するという工程が必要です。その生産面で作物別にパッケージ提案をしていく部署です」
 ――いままでにはない機能をもったプロジェクトということですか。
 「作物を生産するためには、品種の選定とか土地の耕起から播種・防除・収穫・出荷あるいは加工などさまざまな作業工程があり、そのそれぞれに技術や資材が必要です。いままでは全農組織内でいえば肥料、農薬、農機など個々の部署と縦割りで検討していました。そうした従来の方法ではなく、図2のように、総合的に検討する窓口を生産資材部に設置したということです」

提案イメージ

総合園芸対策PTの位置づけ

◆生産者の所得の最大化に貢献する

 ――具体的にはどういう仕事になりますか。
 「図1は加工・業務用ホウレンソウを例にしたものですが、施肥や防除の時期や方法、耕うんから収穫までどのような技術や機械・資材が必要かという標準的な体系をパッケージ化したものです。図には書かれていませんが、農機ではどういう性能の何馬力のものとかより具体的に提案し、全体としてコストがいくらかかるのか。コストを抑えるためにレンタルにするとどうなるかなど提案する必要があります。
 もちろん園芸作物は地域によって作付体系などが違いますから、標準的パッケージを基に、地域に合った体系にアレンジしていくことが大事です。
 また、地下水位制御システム『FOEAS』を導入した所とか、導入しようとしている所には、どういう作物が適しているのか、それをどう生産するかを提案することも必要です」
 ――作物別総合的にというのは新しい視点ですね。
 「とくに新しい産地をつくるときに、トータルコストと生産量や販売価格を明確にした総合的なパッケージ提案をしますから、生産者の手取りや収益が予測でき、農家所得の最大化に貢献できます」
 ――既存の生食用産地については…
 「既存の生食用産地は技術的には確立していると思いますが、資材面で何かお困りのことがあるかもしれませんし、もっとこういう面で工夫をしたいということがあると思います。従来のように部門別ではなく、総合的に出向いていってそういう要望を聞き、事業を組み立てていくことも必要になると思っています」
 ――TACとの連携も大事ですね。
 「いろいろなパッケージができれば、TACの人たちがそれをもって産地に行くこともできるようになると思います」

 

農業機械
◆ニーズに合ったサービス形態を提案する

独自型式コンバイン ――これからの農機事業については…。
 「農機については、いままでは業界全体が新品供給を中心に動いてきました。しかし、農家戸数が減っているので需要の減少がはっきりとでてきています。
 しかし、生産費に占める農機の割合は、水稲で23%くらいのウエイトを占めていますから、生産コストを考えるときに非常に重要な要素となっていると考えています。したがって、従来の新品供給から中古、あるいはリースやレンタルさらに作業受託を含めた『所有から利用へ』といった新しいサービス形態を提案していく方向に転換をしていく必要があると、基本的には考えています」
 ――事業としては厳しいものがありますね。
 「そうはいっても新品を保有するニーズはありますし、大規模法人や集落営農、小規模農家などによってそれぞれニーズは異なります。例えば大規模法人の場合は、現在の規模では、この馬力帯とこの馬力帯の2台でよいけれども、新たな作物にチャレンジしたいときにはその部分をプラスαでレンタルするというケースもあります。レンタルは小規模だけというわけでもないのです。いろいろな選択肢を揃えることでニーズに応えていくことだと思います」
 ――新品については何がポイントになりますか。
 「やはり低コスト化です。いままで取り組んできた韓国製トラクターや独自型式を中心に、低価格な農機をメーカーと協議していくことが柱だと考えています」
 ――独自型式は増えていますか。
 「当初は独自型式ということで、例えば20%価格が安いものとか決めていましたが、もう少し柔軟に考え、そこまでは安くないけれど従来より10%程度安い機械とか、独自型式に近いコンセプトをもった重点機種により、バリエーションを増やしてきています」
 ――メーカーも対応してきているわけですね。
 「独自型式の提案とか韓国トラクターという背景を持ちながら協議をするなかで、メーカーさんもラインアップを揃えてきてくれています」

(写真)独自型式コンバイン

◆レンタルでは事業継続できるビジネスモデルを

 ――リースの状況はどうなっていますか。
 「全農としては昨年度で終了した新生プランで、リースによる農機導入方法の普及を図るため独自の財源を使い助成措置を行ってきました。それが国の施策にも結びつき250億円の緊急リース対策が昨年実施されました。助成措置は終わりましたが、新品を導入するときにリースという形態を一定程度普及するという役割は果たしてきたと思います」
 ――レンタルについては
 「取り組みを始めて3年目です。現在レンタルしているのは、田植機とトラクターおよびその作業機ですが、いずれの機械も使っていただいた農家から、確実に低コストであること、新しい機械を使えること、格納庫が不要など高い評価をいただいています。とくにトラクターの作業機では、土づくり機械も含めて自分で購入することはできないが、借りれるなら使ってみたいというニーズがあり、評価をえています。
 しかし、レンタルが事業として成り立っていくためには、新品販売と遜色のない収益を出せるビジネスモデルをつくる必要があります。田植機では耐用年数ぎりぎりまでレンタルするのではなく、早めに中古として売却することで収支をとることも含めて検討しています。
 いずれにしても事業継続ができるようにし、JAグループだけではなく、他もレンタルをおこない、市場をつくっていくことも大事だといえます。また、同時に中古市場をきちんとつくっていくことも、レンタル市場を確立するために必要だと思います」

 


出荷資材
◆多様な流通形態に見合った資材を開発


 ――段ボールなど出荷資材についてはどうですか。
 「流通形態がどんどん多様化しています。段ボールを例にすると、今までは生産者から市場・量販店までの輸送を考えた流通容器でしたが、いまは直売所、ネット通販が増えてきているので店頭での展示資材、さらには消費者が家に持って帰る容器など、実需者のニーズに応えた総合包装提案を生産者にしています。
PLAパック 米も流通が多様化していますから、米袋も用途にあった規格に見直し事業を組み立てなおしていきたいと考えています」
 ――植物由来樹脂プラスチックパック(PLAパック)の取り扱いも拡大していますね。
 「イチゴ、ミニトマト、ミディトマトなどのパックとして、21年度は約930万パックでしたが、22年度は5000万パック、3か年の最終年度には1億5000万パックを目標にし、重点品目として取り組んでいます」

(写真)PLAパック

 


建設事業
◆CEの諸課題に対応した総合コンサルを実施


 ――カントリーエレベーター(CE)など建設事業はどうでしょうか。
 「CEについては、建設後10年以上経っているものが6割以上と老朽化しています。近年、補修ができていなかったり、運用面でもオペレーターが不足し事故が起きたり、稼働率が低下するなどの課題を抱えていますので、CEの総合コンサルを実施していきます。専門的な知識が必要なので人づくりも合わせてやっていきます。目標としては22年度で10カ所、3カ年で90カ所程度取り組みたいと計画しています。すでに7カ所が決まっています」

 

新技術
◆太陽光利用など新技術にも積極的に


 ――今後取り組む新技術とか新分野はありますか。
 「生産資材や出荷資材は生産物があってはじめて必要になるわけですから、いかに生産基盤をつくっていくかだと思います。
 そういう意味でハウスのヒートポンプで、加温だけではなく除湿とか冷房効果の検証を含めて実証試験を行うとか、太陽光利用型の植物工場の取り組み、さらにハウス電力の確保として太陽光パネルやフィルムの活用などにも実証試験をし、取り組んでいきたと考えています」

(2010.09.16)