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焦点 生協の2020年ビジョン

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【生協の2020年ビジョン】大きく変化する時代に応えられる生協へ―「つながる」「笑顔」「信頼」キーワードに―

・3つの視点から検討された「10年後の姿」
・多様なニーズに厳しい環境下どう応えるか
・家族のあり方が大きく変容した社会
・地域住民の過半数が参加する組織へ
・日本農業を守り自給力を高める
・地域社会におけるネットワークを共に

 日本生協連はかねてから検討を行ってきた「日本の生協の2020年ビジョン」第1次案(以下「ビジョン」)をまとめ公表した。そこで、このビジョンの基本的な内容を紹介するとともに、「ビジョン」を貫く基本的な考え方や食料・農業問題との関連について、日本生協連の芳賀唯史専務理事に語ってもらった。
 この「ビジョン」は1月の「全国政策討論集会」を経て1月末に「第2次案」をまとめ、地方別の論議を重ねて3月末までに「第3次案」をまとめ、6月の総会で最終決定される予定となっている。なお全文は日本生協連のホームページから誰でもダウンロードすることができる。

組合員の暮らしを支え、
農業を元気にする事業を展開


◆3つの視点から検討された「10年後の姿」


日本生協連・芳賀唯史専務理 「ビジョン」では、「10年後のありたい姿」について「つながる」「笑顔」「信頼」の3つをキーワードに、候補案を3つ提案し、これからの論議のなかで決めてもらうことにしている。そしてそのビジョンを実現するために「ふだんのくらしへの役立ち」など、5つのアクションプログラムを提案している(表参照)。「ビジョン」を検討してきた視点について芳賀専務は、大きく3つあるという。
 一つは、時代が変わって「協同組合の出番」になったという時代認識。二つ目は、かつてないほど「組合員のくらしが厳しくなっている」ということ。三つ目がそうした『期待』と『厳しさ』という時代認識に立つと生協の『事業は変わっていかなければならない』という、この3つの視点に立ってビジョンを策定し、ビジョンを実現するための「アクションプラン」という構造になったという。

「日本の生協の2020年ビジョン」第1次案の概要


◆多様なニーズに厳しい環境下どう応えるか


 「ビジョン」では、「組合員のくらしは、格差や貧困が広がり、年金や雇用など将来に不安を抱え、きわめてきびしい状況」である。事業面でも「厳しい競争環境」は「全国チェーンや地域でリージョナル展開する食品スーパーとの間でさらに激化」し「生協の事業の新たな展望を創り上げなければ、日本の生協全体が存続の危機に陥ることも自覚」しなければならないと厳しい現状認識を示している。
 当初案では「これから厳しくなる」という表現がされていたが、検討の過程で「いま、すでに厳しい」という認識が示され、書き換えられたという。
 もう一つ全体を通して「多様な人たち」が地域や社会に存在しており、その多様な人たち(組合員)「一人ひとりのくらしとニーズに応える事業を確立」していかなければならないことが、随所で強調されている。
 「1970年代から80年代の生協は、少数の人たちのニーズにピタッとはまる事業を行ってきた時代だった」が、しだいに「組合員の範囲が広がるとニーズが多様化」してくる。基本的に生協は「組合員のニーズを事業活動を通して実現する組織だから、組合員のニーズの広がりによって、事業を多様化・多角化してそれに応えていくのは使命」だと、芳賀専務は考えている。


◆家族のあり方が大きく変容した社会


 そして生協を支えてきた「団塊の世代が高齢化」し、世帯構成もかつての夫婦と子どもという「標準世帯」は減少し、いまもっとも多い家族構成は「単身世帯」だというように「家族のあり方は大きく変容」している。子育て世帯、単身者世帯、障がい者世帯など多様な人びとのニーズにどう応えていくかが大きな課題になっている。
 とくに「次の世代である20歳代は結婚しないと生協に入ってこない。しかも結婚しない人が増えている」。この状況を「突破しないと次の時代の発展がない」。若い世代が子育てをするときにかつてのように「家族や親戚」や「地域の支援」を得られにくい社会になっているので、「子育て支援」が「この状況を突破する大きなカギとなる」とも考えている。


◆地域住民の過半数が参加する組織へ


地域住民の過半数が参加する組織へ 「ビジョン」策定の視点の一つとして、生協の「事業を変えていく」ことがあげられているが、「一番変わらなければいけない事業は?」との問いに、芳賀専務は「『店舗』事業です」と答えた。
 いま生協店舗は全国に約1000店あり一部を除いて赤字の状況が続いている。「これを変えることが最大のポイント」となる。
 「世の中がオーバーストアのなかで生協の店舗がどう変わっていくかは大きなテーマですが、残念ながら『ビジョン』では、具体的な道筋を示していない」。今後の「ビジョン」の議論のなかで「深めなければいけない大きなテーマ」だという。
 「アクションプラン1」では、そのトップに「組合員のくらしの変化に応え、そのニーズを捉え、生涯を通じて利用しつづけられる事業を確立し、ふだんのくらしへの役立ちをより一層高め」「生協利用のウエイトを高め、地域で過半数世帯の参加をめざす」とある。
 地域の過半数を生協組合員にするためには「気楽に使える店舗事業を確立しなければならない」と芳賀専務は考えている。その背景には、店舗事業を中心に展開している宮城・兵庫・北海道で生協組合員が住民の過半数を超えている事実があるような印象を受けた。
 事業のもう一つの柱である「宅配事業」については、「すべての都道府県で地域世帯数の20%以上、全国で1000万世帯の利用を実現」すると、具体的な数値目標を掲げた。
 いずれにしても「くらしの変化に対応して、組合員一人ひとりのライフスタイルから求められる品質、価格、提供単位など、商品事業の革新」をはかっていく(アクションプラン1)のだが、多様な組合員の多様なニーズに応えようとすればするほど「事業的には採算をとることが難しくなる」(芳賀専務)。それを「IT技術を活用」することで、コスト抑制をしたいと考えている。


◆日本農業を守り自給力を高める


 農業や食料問題について「アクションプラン3」で「世界的な食料事情を見据え、日本の食料の自給力を高めていくために、食料・農業問題に取り組みます」と基本的な考え方が示されている。
 そして「食卓と農業をつなぐ取り組み」の項で
 世界の飢餓状況や世界的な食料問題の動向、日本の農業の現実を見据えながら、日本の食料自給力向上の取組みを進める。
 産直事業の展開をはじめとした事業活動を強化する。
 フードチェーン全体を通じて、安全性を確保し、社会(環境含む)コストを低減させ、マーチャンダイジング機能を活用し、食卓と農業をつなぐ役割を果たすとしている。
 今回の「ビジョン」は、今年5月にまとめられた答申「食料・農業問題と生活協同組合の課題〜食卓と農業をつないで〜」をベースに検討してきたので、最近の「TPP問題については、これからの論議でどう入れ込むかが課題」となる。
 芳賀専務は「世界が自由貿易に大きく流れていくなかで、日本の農業を守り自給力をどう高めるかは、非常に重要なテーマ」であるとしたうえで、「日本生協連は、自由な貿易なしには存続できない企業の労働組合が支えている職域生協、海外農産物を扱わない主義の生協、良質・安価な海外農水産物を扱うことも大切と考えている生協等がこぞって参加する日本で唯一の全国生協連です。したがってTPPのような問題に日本生協連自身が「絶対反対」とか「賛成」ということは難しい。
 しかし「政策や意見の違い、生業の違い、乗り越えて一致点で手を結ぶのが協同組合の特質」だから、すでに取組まれ、さまざまなチャレンジが行われている産直をはじめとする「組合員のくらしを支える事業の強化と地域農業を元気にするための取組み」は、「みんなが一致」できることであり、「そこで指導性を発揮することが、日本生協連の最大課題」だと考えている。そのことで「日本の農業を元気にしたい」というのが芳賀専務の望みだ。


◆地域社会におけるネットワークを共に


 店舗や宅配などの生協事業のインフラを活用して「夕食宅配、買物支援の移動販売車、地域での見守り活動、高齢者の資産管理支援や貸付事業、葬祭事業、リフォーム事業、地域のNPO支援など、それぞれの地域のニーズに応えた取り組みを展開」することで「地域社会への貢献」をし、地域と「つながる」ことが「アクションプラン2」の柱だ。
 ここで大事なことはこうした事業を通じて「生協が地域で農協やNOP、NGOなど善意の人たちとネットワークをつくる」ことであり、国連国際協同組合年の活動として「地域で協同組合間連携し、地域で広がることがカギ」ではないかと芳賀専務はいう。
 そして最後に、JAグループや生産者に「地域のなかで孤立している一人ひとりの状況、崩壊する地域社会が現在の際立った特徴だといえる。それを乗り越えていくためには、地域社会におけるネットワークをどう強めるのかが非常に大きなポイントだと思うので、地域の現場でやれることを、一緒にやりましょう」というメッセージを語った。

(2010.12.01)