特集

【第56回JA全国女性大会特集】地域といのちと暮らしを守ろう 女性たちの力で
座談会
<出席者>
・小澤かおりさん・木村圭子さん・塩田美恵子さん
<司会>
宮崎総子さん

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【座談会】〜消費者の視点で考える食料問題〜 食卓の安全、家族の健康その原点見つめる時代

・作り手が見えると大事に食べる
・ものは溢れても豊かさ欠ける現代
・日本の農業壊さない価格設定を
・痛い目にあってからでは手遅れ
・国産の良さをもっとアピールすべき
・TPP問題の本質知らせる報道を

 昨年秋、突如話題に持ち上がった「TPP」(環太平洋連携協定)問題。完全な自由貿易をめざすTPPに参加すれば、日本の食料自給率は13%にまで下がることが明らかとなり、「食」を取り巻く現状は厳しさを増す。
 ふだん農業やJAとの関わりが少ないなかで、主要メディアを情報源として生活している主婦の方にお集まりいただき、その視点から食料問題、農業問題をどう考えているかについて話してもらった。
 座談会では安心・安全な「食」を求める意識の高さや、将来への不安の声が聞こえた。
 司会は元テレビキャスターの宮崎総子さん。

現場を知れば消費者意識は変わる

生産者の想い もっと届けてほしい

<出席者>
小澤かおりさん(40代。主婦。夫と娘の3人家族)
木村圭子さん(50代。主婦。夫と2人暮らし)
塩田美恵子さん(50代。主婦。夫と2人暮らし)
司会
宮崎総子さん(60代。元テレビキャスター。一人暮らし)


◆作り手が見えると大事に食べる


「信頼できる食品表示をしてほしい」 小澤


小澤かおりさん 宮崎 みなさん初対面ですので、まずは家族構成など、自己紹介からお願いします。
 塩田 私は子どもが独立して今は夫と2人暮らしです。夫が2年前にリタイアしたのを機に、今は2人で元気で心豊かに生きることを目標にして生活を見直しているところです。やはり食べることは生活の中心になるので食材選びなどには気をつけています。
 木村 私は子どもはいませんのでずっと夫と2人で暮らしています。生活クラブに加入していて、食材はそこから調達しています。それをせっせと食べていたら、半年くらいたったときに体がいい感じになったんです。そのときに初めて体への食べ物の影響を感じて、質の良い食べ物を考えて食べるようになりました。
 小澤 私は主人と中学2年生の娘と3人で暮らしています。主人は仕事柄、毎日夜遅くに帰ってくる生活がずっと続いています。私の仕事は夫とこれから成人して出産なども経験していく娘の健康を保つことだと思っています。今は多くの情報が溢れているので、食材を選ぶときにそれに踊らされず、正しい情報を選ぶように心がけています。友達からの口コミを頼りにすることがほとんどですので、そういった点で女性のパワーを感じますね。
 宮崎 塩田さんはどのように食材を調達しているんですか。
 塩田 私は木村さんと同じで生活クラブに入っています。入会したのはもう20年以上前になりますね。
 宮崎 それじゃあ具体的に農家を訪問されたこともありますか。
 塩田 はい、生産者を訪ねて話を聞いたこともあります。生活クラブではただ買うだけでなく、生産者に自分たちの希望も聞いて作ってもらい、それを購入するのです。お米は生産農家と1年間の契約を結んで購入しています。私は山形県の遊佐の生産者から買っていて、そこから毎月送られてきます。こういう仕組みは農家も安心して生産できると思うんです。
 小澤 それ、すごくいいですね。農家の方も励みになりますよね。
 宮崎 私はね、取材の関係で佐渡の農家の方と知り合いになって、一度訪ねたことがあるんですね。海と山に囲まれたところで、その場所に立ったらとっても気持ちがよくてびっくり。人間がこれだけ気持ちいいんだから稲も気持ちいいんだろうなぁと思いました。実際に現場に行くと作り手の姿が見えて、安心とか信頼感がでてきますよね。木村さんはどこかに行きましたか。
 木村 12月に東京・用賀で有機栽培の野菜を出荷している農家の畑に行きました。東京の食料自給率は1%だそうですが、1%のなかにこの貴重な野菜が入っているんだと思ったら、農地を守らないといけないんだなぁと思いました。やっぱり野菜は近いところから買いたいですね。
 宮崎 家の近くに朝採り野菜が買えるところが5カ所くらいあるんです。スーパーなどと比べられないくらい鮮度がよくて、おいしいんですね。
 塩田 私は宇都宮にもともと父がやっていた畑を持っていて、色々な種類のジャガイモなどを育てています。やはり自分で作ったものだと大事に食べますね。だから身近に生産している人の姿が見えるということは一生懸命さが伝わってきますから大切に食べますし、なおさらおいしく食べられますよね。
 小澤 そういう生活、憧れますね。実家が長野なんですが、両親が自分で食べる野菜は全部自分たちで作っていて、それをたまに送ってくれます。キュウリなんかは曲がっていたり虫がついていたりするんですが、新鮮でおいしいですね。両親が作ったものだと普段は捨ててしまう大根の皮や葉っぱも工夫して食べるようになります。

 


◆ものは溢れても豊かさ欠ける現代

「若者も食に関心もってほしい」 宮崎


宮崎総子さん 宮崎 外食はしますか。
 小澤 たまにします。今安いお店が流行っていますが、そこの野菜はどこから来るんだろうと思ったりします。でもあまり考えすぎても楽しく食べられないので、普段は少し高くても質のよいものを食べるようにしてバランスをとっています。
 塩田 私もたまに外食しますが、価格で決めないで安心できるものを食べるようにしています。今は低価格競争で安いお店が多いですが、生活クラブで食材を購入しているとある程度値段がかかるのは当然だとわかるので、安いのには何か理由があると思うんです。
 木村 私はほとんどしないですね。昔はファストフードも好きだったんですけれど。
 宮崎 私は子どもを産んでから「大地の会」に入会してそこの食材で子育てしました。ファストフードには連れて行ったことがありませんでした。
 塩田 私も子育てするうえで、小さいころの食べ物が大事だと思ったので生活クラブに入りました。今は独立した息子たちと話をしていても、食べることを大事に思っていると感じるので、改めて子どものころの食生活は重要だと実感します。
 宮崎 昔の方が食材の種類が少なくて物もなかったけれど、母が庭で野菜を作ったり近所の商店のものを買ったりと、十分に豊かな食生活をして楽しく暮らしていたように思います。今は豊かといわれているけれど、疲れている人が多いように見えるわね。テレビ局で働いている若い子なんかを見ていると、カップラーメンとかで食事を済ましていて。だから若いのに体力がないのよね。
 小澤 やはり食生活は人間の体の基本だと思うんですよね。今の若い人は体力がない人や妊娠できない人が多いといいますよね。
 塩田 あとアレルギーの子どもも多いんですよね。
 小澤 赤ちゃんの花粉症というのも聞きます。そうなるとやはりお母さんの母体が健康か、ということになりますよね。今の若い人たちは生まれたときからコンビニがあって冷凍食品があってファストフードがある、という環境の中で育っていますからね。
 木村 やっぱり体力にしても精神力にしても食が基本なのではないでしょうか。
 宮崎 そうですよね。私のちょっと上の世代なんてものすごく元気で長生きですものね。
 だから今の若い世代が不安ですね。でも漢方に興味を持ったり健康に気を使う若い人は増えていると思うので、それが入り口になって食にもっと関心を持ってもらえるといいなと思います。
 小澤 自転車通勤も流行っているようですし、健康志向になっていることは確かですよね。
 塩田 生活にゆとりがないのが問題なのでしょうか。今の若い人は携帯や趣味などにお金がかかると、まず食費を削るそうですよ。
 木村 食べるものが体調に影響するので食生活は大切にしなければいけないですよね。
 宮崎 私たちくらい年をとらないと、「人生で健康が一番」という当たり前のことに気付かないのですね。

 


◆日本の農業壊さない価格設定を


「自分の国は自分で守らなければ」 木村


木村圭子さん 宮崎 今の日本の食料自給率は40%と低いのが問題になっています。これについてどう考えますか。
 塩田 これだけ経済がグローバル化すると、いつまでも日本だけ関税を高くかけて外からのものを入れないわけにはいかないのかなと思うんです。日本の農業を育てながら外国からもものを買いつつ日本のものを輸出する、ということがうまくできないものでしょうか。
 木村 かつては自給率100%に近かったわけですよね。それから考えると国は農家と農業を壊しすぎてしまったのではないでしょうか。
 小澤 若い人が農業を継げないという現状はいたたまれないです。
 木村 遊佐のお米生産者の方と交流会をしたときに、専業農家が一人もいなかったことにショックを受けました。お米以外に野菜を作っていながら他の仕事もしていて、なおかつ後継者問題もあるんですよね。これからの農業はどうなるんだろうと思いましたね。
 宮崎 テレビで時々ブランド農産物を作る“儲かる農業”が取り上げられたりしていますが、付加価値の高いものだけを作っても、私たちの食も農業も守れないですよね。
 小澤 そうですねぇ。お米の安さにはいつもびっくりしています。
 木村 本当に安いですよね。どんどん値下がりしていますよね。
 宮崎 これでは農家はお米を作れなくなっちゃいますよね。もうちょっと値上げしてもいいのにね。
 塩田 これだけ安いのに消費量が減っているわけですからね。そう考えるとパンって高いですよね。もうちょっとお米の価格を見直してほしいと思います。
 宮崎 安心して作れるような仕組みにしないと、生産者がいなくなってしまいそうで心配…。
 塩田 お米だけじゃなく調味料や油といった基本的なものも外国に頼らないといけないのが日本の今ですよね。大豆の自給率もかなり低いですからね。
 小澤 大豆って日本ですごく作れそうなイメージがあったんですけど…。
 宮崎 外国の広い土地で一気に作ったほうが安く作れてしまいますからね。
 塩田 やっぱり生産者と消費者とがもうちょっと意見交換して、お互いに納得できる価格のものが作れるように、支えあっていかないといけないなぁと思います。

 


◆痛い目にあってからでは手遅れ


「子どもころの食生活が大事ですね」 塩田


塩田美恵子さん 宮崎 みなさんは輸入農産物がたくさん入ってきたらどう思いますか。
 小澤 日本のもののようにかなり安全に作られたものが安く入ってきたら買っちゃいますよね。
 木村 消費者の立場からいって、安全に基準を置いて同等ならば安い方を買いますよね。そうなると自分の国の農業を守るということは二の次になってしまうのが一般の消費者だと思います。
 小澤 今は特に私たちの生活に困るようなことが起きているわけではないので、つい意識が弱まってしまいます。実際に痛い目にあってみなければわからないというのが私たち国民の現実であって、そこが問題ですよね。
 宮崎 でもそうなったときにはもう取り返しがつかないことになっているでしょうね。
 塩田 TPPに参加すると日本の食と農業が大変なことになるという報道はまったくないですし…。
 小澤 本当に。
 木村 今後、世界の人口が増加して食べ物の絶対量が不足する時代が来ると聞きました。今の日本では食べ物を捨てたりしていますが、この先は戦略的に食料を確保することが必要になってきますよね。国の安全のために本気で考えないとだめなんじゃないでしょうか。
 塩田 安いものが入ってくるのを食い止めるだけじゃなくて、日本の農業を育てるにはどうしたらいいんでしょうか。なかなか私たちには生産者の声が聞こえてきませんし、そういう報道が足りないと思います。
 宮崎 マスコミが取り上げないという現状があると思います。「食」に関した報道はあっても“農業をどうするか”といった視点で捉えているものは少ないですよね。
 小澤 自由経済の流れに任せるのではなく、意識的に仕組みを変えていかないと食べ物が確保できなくなったらどうするのかと不安に思ってしまいます。
 宮崎 そうですねぇ。自分の国の食べ物を確保するのに精一杯になれば、昨年ロシアが小麦をストップしたように、他の国へ出さなくなるのは当然ですよね。この前は中国がレアアースをストップして企業は大騒ぎでしたが、私たち消費者は食料じゃないから実際に痛みは感じなかったけど、それと同じことよね。
 木村 やっぱり自給率を上げないといけませんよね。自給率が低いと最近の穀物のように他国の影響を受けてすぐに価格が高騰しますからね。
 宮崎 今の政策では自給率50%をめざしているんですよね。それがTPPに参加すると13%になるというから…。
 全員 そんなに下がっちゃうんですか!
 宮崎 自分の国の食料は自分の国で賄うようにしないと自由な発言もできなくなりますよね。一番なくなって困るのは食料ですから。これは命に関わることですからオイルショックのときよりもっと大変になると思いますね。

 


◆国産の良さをもっとアピールすべき

 

 木村 今は低価格志向で外国から安いものを受け入れる傾向なので、「安心なものは高くても買う」というのがなかなか世論にならないですよね。
 塩田 でも今は食品に産地や加工した場所がきちんと表示されるようになってきました。これは私たち消費者が求めたからだと思うんですよね。安ければいいという人ばかりではないということなんじゃないでしょうか。
 木村 そうですね。そこから国産のものを大事にしていこうという姿勢が生まれてくると思います。
 小澤 消費者は判断の基準がいくつかあって初めて選択できますから、食品表示は大事ですね。
 塩田 生活クラブでは届く野菜に年間どれだけの農薬をいつ使ったか、といったことが書いてあるんです。そういうものが他の商品にもほしいですね。それだと安心なので、いくらか高くてもやむを得ないという判断ができます。
 小澤 今は加工したところを原産国と表示して生産したところと大きく違っているものもあるので、消費者が信頼できる表示をしてほしいです。外国産が悪いということではなくて生産者の顔が見えることで消費者は安心できます。
 宮崎 やっぱり“安全なもの”イコール“おいしいもの”なんですよね。日本の食料というのは残留農薬とか世界でも厳しい基準で作っていると聞くのですが…。
 木村 そうなると、TPPに参加して輸入食品が増えれば農家が壊滅するということと合わせて、国民の健康被害も心配になりますよね。
 小澤 農家だけではない問題ですよね。そういったことも消費者にもっとアピールしてもらいたいですね。
 塩田 TPPに参加すると自給率は13%になるとのことですけれど、大規模化を進めるとか農業の形態を変えてなんとか自給率を高く維持できないものでしょうか。
 宮崎 といっても日本の耕地面積はオーストラリアと比べてもかなり少ないですから競争できないのではないでしょうか。あちこちの農地を1戸の農家でやるのは余計コストがかかってしまって。今は大規模農家のほうが倒産しているそうです。
 小澤 大きさの面では敵わないと思いますが、味は断然日本のものの方がおいしいですよね。
 宮崎 たくさん食べる子どもが何人もいる家庭だったら、“おいしい”“安全”より量があって安い方を選ばざるを得ないですよ。
 塩田 でも日本の農業がつぶれていいなんて誰も思っていないと思います。食料を自給するだけでなく環境を守るという大きな意味もありますし、支えていきたいという気持ちは消費者にもあると思います。
 宮崎 消費者の思いがそうでもやっぱり最後は政治や政策になるわよね。

 


◆TPP問題の本質知らせる報道を

 

 塩田 生活クラブでは市販のものより高いものもありますが、それでも安心だから買っています。輸入品であれば安く作れますけれど、ちゃんとした飼料などを使うと価格は高くなります。そういう背景がわかってくれば消費者も違ってくると思います。作る過程がよくわかっていないと普通の消費者はスーパーに行けば値段が安いものを選んでしまうと思います。
 宮崎 そういう取り組みも必要ですが、国民の大多数がそういうふうになってくれるかには不安がありますよねぇ。
 木村 ある程度の価格差でなければやっぱり難しいですよね。数倍も輸入品との価格差があれば、国産を選ぶ人は数%になってしまうでしょうね。
 小澤 自由貿易になればそうなるということですよね。もっと国が支援することはできないのでしょうか。
 木村 農業は国民の食に関わる基本の問題なので、国がある程度考えなければいけないと思います。なんでも自由経済に任せたら怖いです。
 宮崎 国民は「TPP」とはどういうものかよくわからないので、こういったことへの関心が本当は薄いのではないでしょうか。
 塩田 政府と農業関係者は「賛成」「反対」というだけではなくて、日本の食と農業をどうするかについて知恵を出しあえないものでしょうか…。
 木村 運動が孤立しないように国民全体で考えなければいけない問題ですよね。ただ値段が安ければいいということではないですから。
 塩田 TPPの報道が少ないと思います。マスコミにはTPPの問題点や、日本の農業はどうなっていくのかという分析と解説をした詳しい報道を求めたいですね。
 小澤 マスコミの力はすごく大きいと思いますね。消費者の声も出ないと運動は広まっていかないと思います。だからきちんとした報道をしてほしいですね。
 宮崎 今の若い人は趣味に関心が流れていて、社会のことに対して考えを持たない人が多いですよね。もっと社会のことにも目を向けさせる流れをつくらないといけないと思います。
 これまで農協も消費者に伝えるのが下手だったと思います。農業というのは国民の命を支える食を作るということですから、それが危機を迎えたときに何が起きるかを早くからもっと理解させるべきだったと思います。
 それでは最後に農村の女性に向けて何かメッセージを一言ずつお願いします。
 塩田 日本の農業って本当に大事だと思うんです。消費者と生産者と一緒になってできることをして応援していきたいと思います。
 木村 自分の国は自分たちで守らなければいけないと思いますので、そういう意識で食料問題を捉えて農業を守る意識が自然に広がっていけばいいなぁと思います。
 小澤 同じ女性として家庭を守るものとして目線は同じなので、農家の女性の方にはこれからもがんばっていただきたいです。
 宮崎 TPP問題で日本農業はどうなっていくのか正直わからない部分もありますが、女性の井戸端会議のような声が農業の方からも聞こえてくるといいですね。そして生産現場の生の声を反映できる場所があるといいなぁと思います。本日はどうもありがとうございました。

【座談会】〜消費者の視点で考える食料問題〜

(2011.02.01)