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【第56回JA全国女性大会特集】地域といのちと暮らしを守ろう 女性たちの力で
現地ルポ
輝くJA女性たち
JA松本ハイランド(長野県)

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【現地ルポ】輝くJA女性たち・JA松本ハイランド  「女性参画センター」がJAと地域を元気に

・女性組織をネットワーク化
・「おいしさとどけ隊」が発進
・JA活動へのファンづくりも
・基礎は正組合員加入運動
・農協らしい組織づくりを

 長野県のJA松本ハイランドは、平成20年に女性参画センターを設置した。
 同センターは女性理事が中心となり、女性部や助けあい組織、集落でのくらしの活動担当委員(くらしの専門委員)のほか、JAの女性職員代表などで構成している。女性理事数の拡大実現を機に、さまざまな女性組織の力を結集させ「女性参画のうねり」を作り出そうと動き始めた。
 JAトップ層も「協同活動は女性の力なくして成り立たない」(伊藤茂組合長)と活動の広がりに期待している。

地域住民を巻き込むパワー発揮

◆女性組織をネットワーク化


 JA松本ハイランドが、JAの運動と事業運営に女性の声を反映させようと女性参画を積極化させたのは、平成5年の女性参与制度の導入から。同年に4名が選ばれ、以後3期にわたり選出された。
 その後、平成14年に女性部から1名、助けあい組織から1名の計2名の理事が誕生、さらに17年の改選では5名に拡大させた(女性部3名、助けあい組織「夢あわせの会」1名、若妻大学OB会1名)。
 20年には役員定数見直しで理事数が54名から39名に改定されたが、女性理事数は5名を維持。現在の女性理事の割合は12.8%となっている。
 「女性参画センター」はこうした女性理事数の拡大がきっかけになった。
 会長を務める島田貴美子理事は「女性理事が5人誕生した、というだけで何か実現できるのだろうか、さまざまな女性組織を5人が中心になって1つにまとめ意見を出していくことが必要では、と考えました」と振り返る。
 この動きと合わせ、JAとしても女性組織の意見を集約し、女性が主体となっている生活文化活動や関連事業の推進と、事務局機能を一本化する機構改革を検討、総合企画部門にあたる企画人事部を新設、そこに担当部署「福祉文化課」を置くことにした。
 この体制のもとに、女性部、助けあい組織、若妻大学OBのほか、集落単位の“農家組合”で選出されているくらしの専門委員や、各生産部会の女性部、JAの生活関連事業を普及する生活指導普及員(組合長が委嘱)などを参集、女性組織のネットワーク化をめざす「女性参画センター」が設置されたのである。運営会議には16名が参加している。

 

◆「おいしさとどけ隊」が発進


代表理事組合長 伊藤茂氏 最初の運営会議では地域の抱える課題やJAのあり方などに「女性の視点」からさまざまな意見を出し合った。
 基本的なテーマとして改めて確認されたのが、「農」と「食」だ。女性の立場で農業生産について広く情報発信することが大事だということと、さらにJAの販促活動のあり方にこんな意見が出た。
 「農産物を買うのは女性がほとんど。イベントや店舗での販促活動は男の人より私たちがアピールしたほうがより共感されるのでは。お手伝いをしてはどうか――」。
 この声をJAの理事会にも届けようとなって、後の理事会で女性理事が提案した。
 一方、ちょうどそのころ、伊藤茂組合長は、いわゆる販売員を頼んで店頭PRする販促ではなく、若手の女性職員を生かした活動ができないかと検討をしていた。信用・共済事業などに携わっている職員であってもJA職員である以上、地域の農業と農産物について勉強してもらう必要がある、というのが理由だ。
 「自分のJAは農業でどんなポジションにあるのか知る機会にもなる」(伊藤組合長)。
 そのため話は一気に進み、翌月の理事会で運営会議のメンバーと女性職員で構成する販促隊の結成を決定。その翌月の21年6月には、農産物販売促進隊「おいしさとどけ隊」が結成された。
 名前は女性理事たちの発案。ユニフォームもつくり女性職員と合わせ計43名の女性“隊員”が、地元を中心とした販売促進活動を担うようになっている。参画センターのメンバーは農家のベテランかあちゃんたちだ。若い女性職員が活動をともにすることは農家の思いが職員に伝承されることにもなる。
代表理事専務理事 望月直道氏 望月直道専務は、PR活動といえば「元気のいい男の職員がやれ、とまさに男社会=農協を反映したものだった」が、それが大きく転換することになった、という。

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上:代表理事組合長 伊藤茂氏
下:代表理事専務理事 望月直道氏

 


◆JA活動へのファンづくりも

 

 もうひとつセンターとして実現したのが食のイベント「よい食パク博」である。21年度は「地元“食材”まるかじり」、22年8月の第2回は「地元“ごはん”まるかじり」をテーマに開催した。
 各組織がブースを出店、地元の米や野菜などを工夫を凝らして参加者に提供した。来場者には地域の女性、一般消費者が多く好評だった。組織内向けではなく、地域に開かれたイベントにしたことによってJAへの理解促進にもなったのではないかという。
 平林きみえ理事は「女性の力を総動員して農業とJAをPRする場になった。女性参画を進めれば何ができるかを示したと思います」と語る。
 地域の女性に対して、農業の魅力発信、学習の場の提供となったこのイベントを、島田理事は「今年以降も続け定着させていくことが女性参画をさらに進めることになる。センターの設置は女性も自信を持っていい時機に来たということでは」と考えている。

「食は命」を参加者にアピールした「よい食ぱく博」。昨年は「ごはん」をテーマにした

(写真)
「食は命」を参加者にアピールした「よい食ぱく博」。昨年は「ごはん」をテーマにした

◇     ◇

 この2つがこれまでの女性参画センターの成果である。
 ところで、そもそも「センターの設置」と聞くと、多くの人は「建物を作った」とイメージするのではないか。しかし、島田理事は「建物なんかどこにもないんです。よく『センター設置? スゴイですねぇ、今度見学に行ってもいいですか』と言われることもありますが」と苦笑する。
 実際、JAの福祉文化課の入り口に看板ひとつあるわけでもない。小紙記者も建物とまではいわなくても何かしらスペースがあるのでは、と思い浮かべて訪ねたのだが「それが男の発想ですよ(笑)」と女性理事たちにチクリ。
 確かに「センター」は「施設」も意味するが、なにより「ある部門の中心的な役割を担う機関」をさす。その意味では建物など必要ではなく、めざす機能が発揮される中心的な組織であることこそ「センター」の名にふさわしい。まさにこのセンターは「JAの女性参画を中心的に担う機関」として組織した。
 「建物なんて発想、全然ありませんでした(笑)」。
 しかも女性参画促進のための活動方針や数値目標などを決めるだけの会議体ではない。
 「おいしさとどけ隊」も「よい食パク博」も「女性参画を進めれば何ができるか」を示す具体的な活動そのものであり、一方でそれは女性の視点を反映させたJAの事業運営の実践にもなっている。また、一般消費者の女性も巻き込んだイベントは、これからの「女性参画による地域づくり」の姿かもしれない。
 女性参画センター立ち上げ時の事務局を努め、現在、同JA初の女性支所長である百瀬康子・新村支所長は「いかに多くの人に関わってもらうかがそもそも協同組合。JAも女性参画を“戦略”として考えるのではなく“当たり前のこと”として、女性が輝く場をつくる必要があると思っています」と話す。

 女性理事のみなさん。左から平林きみえ氏、市野瀬統子氏、島田貴美子氏、古田教子氏

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女性理事のみなさん。左から平林きみえ氏、市野瀬統子氏、島田貴美子氏、古田教子氏

 


◆基礎は正組合員加入運動

 

 参与、女性理事の誕生、そしてその拡大という歩みの背景には、女性の正組合員の着実な増加がある。
 女性参与が誕生した平成5年には正組合員比率は約12%だったが、理事が5名となった17年には約20%、21年末では27.8%となった。(正組合員数2万2083人中6149人)。女性総代は83名で9.2%。今年の改選では20%まで増やす目標をJAは掲げている。
 ただ、これらを増やすには「やはり女性の意識改革が大事」と市野瀬統子理事が話すように、この地域が特に意識が進んでいたわけではない。
 望月専務も「女性総代を増やそうとJAが働きかけても、私は正組合員じゃないから、との答えはしばしばでした」と振り返る。
 古田教子理事は「そもそも農協が“おとうさん中心主義”。だから、おとうさんが正組合員なら他の家族も組合員では、となんとなく思っていて、なぜ正組合員に? という感覚がある」と指摘。そこで女性部も複数組合員制に理解を深める運動に力を入れ、21年度は正組合員加入数で全国2位となりJA全国女性協から表彰された。

 

◆農協らしい組織づくりを


女性部部長 武井久枝氏 その女性部は部員1992名。正組合員加入率は45.4%だ(21年度)。部員数は全国トップクラスを誇るが「いかに若い世代の後継者を増やすかが課題になっています」と武井久枝部長は話す。
 そのため22年度にはフレッシュミズ部会づくりに取り組み17支部のうち7支部で組織が立ち上がった。
 働きかけたのは若妻大学の卒業生たち。今では全国に広がるJA女性大学は、旧松本平農協が昭和47年に全国に先駆けて開講した若妻大学がモデルだ。卒業生は1000名を超え今年で40年。武井部長もOBだ。「野菜づくりから家電製品の扱い、それから農協について同じ世代で勉強ができ仲間づくりにもつながった」と話す。その体験を今の若い世代にも生かしてもらいフレッシュミズを出発点に女性部を担っていってほしいと考えている。
 ただ、組織としてこだわるべき基本は「地域」と「JA」ではないか、と武井部長の話からは感じられた。
 同JAの女性部はフレッシュミズ部会などこれまで世代別組織を設置せず、あくまで「女性部」一本としてきた。それは、「地域」とはそもそもさまざまな世代が暮らしているものであり、助け合いが基本の「JA」の組織である以上、「その地域での助け合いのための組織」が基本ではないか、という思いがあるからだ。
 確かに生活を楽しみ豊かにする文化活動など個々人のニーズに基づく目的、世代別の組織も必要だろうが、ベースは「地域に農協らしい組織をつくること」。たとえば女性組織が先駆的に取り組む高齢者福祉活動などはその例だ。だからこそ、武井部長は女性部も「JAの組織である」ことを訴えていきたいという。組織をめぐるこうした基本的な考え方が、改めて広がることも、女性参画に期待されることだろう。

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女性部部長 武井久枝氏

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 JA松本ハイランドが平成19年に掲げた基本理念は「挑戦・信頼・改革・創造」。基本目標の1つに「活き活きとした協同活動により力強く運営するJAをめざす」がある。
 平成16年の第3次合併によって7つの旧農協が1JAとなった。望月専務は「合併によって自分たちが協同組合をつくったという意識が薄れるなか、自ら参加、運営する組織であることを明確にすることに力を入れてきた」と語る。
 そのひとつが先に触れた「農家組合」づくりだ。地域の協同活動とJAの事業に組合員自らが関わり、その意思を反映させるためである。農家組合長のほか、くらしの専門委員、信用専門委員などがいる。このうち女性参画センターの設立によって、くらしの専門委員の9割強は女性で組織されるようになった。望月専務は「女性参画センターの思想が地域に生かされ、JAがもっと闊達な組織になればいい」、伊藤組合長は「協同活動の担い手は女性なくしては成り立たない」と強調している。

(2011.02.02)