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【レポート】活発になる民間金融機関の農業投融資

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【レポート】活発になる民間金融機関の農業投融資  農政ジャーナリスト 鈴木俊彦

・農業法人などに果敢に接近
・無担保2億円の融資も
・専任担当者を置き地域に密着
・県農業信用基金協会と提携
・農業メインバンク機能の強化を

 農業分野への投融資に乗り出す商系金融機関の動向は、JAグループにとっても軽視できないトレンドだ。そこで農政ジャーナリストの鈴木俊彦氏に都銀や地銀などの動きをレポートしてもらった。

◆農業法人などに果敢に接近

 このところ各金融機関は、農業への投融資を活発化させている。その背景としては金融界全般を覆う資金の運用難と、低金利による利幅の縮小があり、それだけに死中に活を求める金融機関のしゅん動が見てとれる。
 今世紀に入り、農業生産分野の資金需要は冷え込みが続いてきたが、農業法人化の動き、さらには六次産業化の動きなどと連動して、営農設備投資へのニーズが高まりをみせてきた。
 その兆しに着目したのが、当時の農林漁業金融公庫(現在の日本政策金融公庫)で、都銀・地銀との協調融資により農業面への資金注入を強化しつつある。こうした動きの仕掛人は、元農水事務次官→農林公庫総裁の高木勇樹氏である。農業界に顕著な変動あるところ、そこに高木氏の姿が見え隠れするところから、「高木勇樹万有(蛮勇)引力説」も流れたくらいで、いまも同氏は日本プロ農業総合支援機構副理事長として、農政の世界に隠然たる影響力を保持している。
 現在約1万2000に達する農業生産法人は、(1)農業内発型と(2)異業種参入型に二分されるが、1戸1法人を別にすれば、いずれも雇用型農業であり、設備投資による分業形態を採るだけに、施設費や人件費、事務費、販売促進費等の資金需要を伴う。
 こういう状況の中で、各金融機関は投融資対象として、農業法人やアグリビジネスを標的とし、地域の強みを取り込むために、果敢なアクセス(接近)活動を展開している。


◆無担保2億円の融資も
【都市銀行】

 平成18年ころから、当時の農林公庫と都市銀行との協調融資形態が見られるようになった。
☆三井住友銀行 農業法人を集めた商談会「アグリビジネス交流会」をメガバンク(大手銀行)では初めて開催した。対象を農業法人に特化した無担保融資「Vファンドアグリ」の取扱いを始め、成長性が見込めれば無担保で2億円を上限に融資している。
☆三菱東京UFJ銀行 農業分野への融資の強化をめざし、特に今後成長が期待できる農業法人を支援し、農業の活性化を促す。農産物加工や流通を含むアグリビジネス分野の企業も融資の対象とする。
☆みずほ銀行 旧農林公庫当時から取引先の信用リスクデータの提供を受け、農業法人向け融資の新商品を開発。農業法人の経営を支援し、付加価値の高い農産物生産を後押しする。


◆専任担当者を置き地域に密着
【地方銀行・第二地銀】

☆鹿児島銀行 平成16年、金融機関の皮切りとして農業専任担当者を置き、地域の主要産業である畜産への融資を強化している。行員たちは農業経営分析データを片手に農家を訪問し、経営効率や財務体質を審査して優良農家に営業攻勢をかけている。農業食品関連融資を専門に手がけるのは本店のアグリクラスター推進室で、行員を県の農業担当部署に派遣し、人材育成にも取り組んでいる。
 「農協と競争する気はない。ただ農協に行き辛い人もいるようだから」とは、大野芳雄会長のスタンス。香港の東亜銀行とも提携している。
☆北洋銀行 鹿児島銀行の動きに触発されて、同行と提携を結び「大消費地の首都圏から離れている銀行同士」と、農業や食品企業の情報交換に着手。東京・池袋で両行合同の農業融資商談会を開催している。
☆常陽銀行(茨城) 農業事業者向け無担保の小口融資「大地」を開設。茨城県の農業改良普及員や専門技術員のOBを雇用して営農指導を担当させたり「食の相談会」も開催している。
☆八十二銀行(長野) オリックスと提携して上限3000万円の農家向け無担保ローンを投入した。
☆青森銀行 県農林水産部OBを招へいして人脈づくりに乗り出し、県農業信用基金協会との提携融資商品「あおぎん農業ローン・アグリパートナー」で資金需要に対応している。リンゴ生産者団体への法人化アドバイスを行い、法人設立・農地取得に関する資金対応や支援に努めている。
☆愛媛銀行 農業投資資金として「えひめガイヤファンド」を設立。「ガイヤ」とは南予地方の方言で「すごい」を意味する。すでにアグリビジネス15社へ3億円余の投資を実行している。
☆東京スター銀行 旧相互銀行の第二地銀として、静岡県下で施設園芸を営む農業法人と融資契約を結び、設備投資を支援している。
☆京葉銀行 旧千葉相互銀行当時から、農村の若者向け結婚相談所を設け、農村地域金融に力を注いでいる。


◆県農業信用基金協会と提携
【信金・信組】

☆広島信用金庫 集落営農法人との意見交換会や商談会「アグリビジネスフェア」を開催。広島銀行とともに県信用基金協会と債務保証契約を締結し、同協会保証付き農業者専用融資の取扱いを開始した。「マーケットイン型の儲かる農業」の創出支援と担い手育成など地域活性化に結びつける融資作戦だ。
☆茨城県信用組合 融資審査部内に「農業事業グループ」を立ち上げ、県農業信用基金協会と債務保証契約を締結した。農業融資商品「豊年」を同協会との提携で開設、融資額上限は法人で1億円、個人で6000万円、融資期間25年以内。市町村が認定する「認定農業者」と県が認定する「エコファーマー」には0.5%の金利優遇をしている。


◆農業メインバンク機能の強化を
【JAバンク】

 以上、各金融機関の融資スタンスは、いずれもリレーション・バンキングといって、地域住民との関係強化作戦だが、この「リレバン」こそJAバンクが本家本元。担い手金融リーダーによる徹底した融資展開で、農業融資残高は2兆4132億円をマークしている。各金融機関の農業融資攻勢が強まるなか、自信を持って農業メインバンク機能の強化に努めて欲しい。

【略歴】
すずき・としひこ
早大法学部卒。昭和32年家の光協会入会。全中広報局出向、大阪支所編集駐在員を経て、出版部編集長、地上編集長、電波報道部長等を歴任。農政ジャーナリストの会元幹事、協同組合懇話会常務委員。

(2011.04.26)