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【農薬特集】「最近の野菜における病害虫防除対策」(1)

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「最近の野菜における病害虫防除対策」(1)―次世代の大型殺虫剤が続々登場―農研機構・野菜茶業研究所 上席研究員 武田光能

・摂食停止で餓死させる殺虫剤も
・野菜類における主要害虫の分類群
・チョウ目害虫の発生時期と地域性
・次世代の大型殺虫剤

 安全・安心、かつ新鮮で健康な野菜を生産していくためには、その地域の病害虫の発生状況を的確に把握した適期防除が望まれる。本紙では、「最近の野菜における病害虫防除対策」を、農研機構 野菜茶業研究所のご協力を得て2回にわたりお送りすることにした。第1回は、害虫防除対策。次世代の大型殺虫剤が続々登場しているが、あくまでも系統の異なる殺虫剤のローテーション散布が重要であり、有用な薬剤を長く大事に利用したい。

◆摂食停止で餓死させる殺虫剤も

 野菜類の害虫防除は、害虫がどのように野菜類を加害するか、その生態を理解して適期に有効な防除対策を講じることである。病害虫の発生を知るためには、都道府県病害虫防除所の発生予察情報を入手し、地域の発生状況を把握する必要がある。
 野菜類を利用する害虫の生態を理解すれば、防虫ネット、べたがけ、黄色灯といった物理的防除法を利用することができる。発生時期や侵入方法、生息場所と産卵部位を知ることで観察が容易になり、発生初期の適期に農薬を使用することができる。
 農薬の使用場面では系統の異なる殺虫剤のローテーション散布で、抵抗性の発達を回避することができる。新たに開発された有効な薬剤は長期にわたって大事に利用する必要があり、適切な使用で安定的に高い防除効果を得ることができる。
 近年、害虫のリアノジン受容体に結合してカルシウムを放出させ、筋繊維の収縮により摂食行動を停止させて餓死させるというまったく新しい作用機作の殺虫剤が注目されている。ここでは、野菜害虫の発生動向に加えて、これら次世代の大型殺虫剤を紹介する。

◆野菜類における主要害虫の分類群

 都道府県病害虫防除所は、多発が予想される病害虫の警報・注意報を発表し、防除対策を呼び掛けている。これまでの警報や注意報を解析することで、主要害虫とその地域性を知ることができる。
 昆虫にはチョウ目、ハエ目、カメムシ目、アザミウマ目といった分類群がある。1998〜2010年に全国で375件の警報・注意報が発表され、その70%がチョウ目害虫であった(図参照)。ハダニ類は13%であったが、そのほとんどは冬季のイチゴが対象であった。アザミウマ目は、アスパラガスやアブラナ科野菜で顕在化しているネギアザミウマの14件、果菜類のミカンキイロアザミウマとミナミキイロアザミウマがそれぞれ10件であった。カメムシ目の4件がアブラムシ類で、残り19件はタバココナジラミであった。タバココナジラミが媒介するトマト黄化葉巻病36件を加えると、果菜類でのタバココナジラミの重要性がうかがえる。

野菜類の発生予察情報の警報・注意報にみられる害虫の分類群

◆チョウ目害虫の発生時期と地域性

 チョウ目害虫は、気温が上昇する5月から11月に本格的に発生する。北海道や東北では5〜6月のコナガに注意が必要であり、成虫の初飛来が早いほど発生が増加する。関東以西では7〜10月にかけてオオタバコガ、ハイマダラノメイガ、シロイチモジヨトウ、ハスモンヨトウが重要となる。北陸ではこれらに加えてネキリムシ類の注意報が発表されている。
 主要なチョウ目害虫の中でも特にコナガ、オオタバコガとハスモンヨトウは各種系統の殺虫剤に対して抵抗性を獲得した難防除害虫であり、露地野菜ではこれらの害虫に対する防除対策が不可欠となる。

◆次世代の大型殺虫剤

 フルベンジアミド(フェニックス顆粒水和剤)は純国産の全く新しい作用機作を持つ殺虫剤であり、各種系統の農薬に抵抗性を獲得した難防除のチョウ目害虫に高い防除効果を示し、ハエ目にも高い効果を示す。
 クロラントラニリプロール(プレバソンフロアブル5)は米国デュポン社の開発で、アントラリニックジアミド系の薬剤で殺虫剤抵抗性のチョウ目害虫やハモグリバエ類に卓効を示す。
 これら2種の殺虫剤は、散布から収穫までの日数が短いという特長を持っている。また、散布剤として用いる場合にも各種のチョウ目害虫に2週間程度の高い残効性を示し、露地での主要天敵であるクモ類、生物農薬として利用される寄生蜂や力ブリダニ類、訪花昆虫への悪影響がほとんどない選択性の高い農薬である。
 クロラントラニリプロールは、キャベツやレタス等のセル成型育苗での育苗期後半から定植当日の灌注処理で省力的な散布が可能である。灌注処理は各種のチョウ目害虫に30〜40日の長期にわたって高い防除効果を示す。
 これら次世代の殺虫剤は、既存の殺虫剤と異なるまったく新しいタイプであり、有機リン、カーバメート、合成ピレスロイド、IGR系等の殺虫剤に抵抗性を示す害虫にも高い防除効果を示す。ただし、これまでにも卓効を示す農薬に対して各種害虫が抵抗性を獲得したように、同一薬剤の多用を繰り返せば抵抗性が発達する懸念がある。物理的防除法や害虫の繁殖源となる雑草防除等の環境整備で害虫が増殖しにくい環境とし、有効な薬剤を長期にわたって利用できるような対策が必要である(表参照)。

次世代の大型殺虫剤

(2011.05.12)