特集

JAは地域の生命線―協同の力で全力で被災地の復興を
出席者
JA新いわて 会長 田沼征彦 氏
JA栗っこ代表理事組合長 菅原章夫 氏
JA新ふくしま 代表理事専務 菅野孝志 氏
司会
農林中金総合研究所 常務 鈴木利徳 氏

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【座談会】被災地トップ層が語る=現場は今  田沼征彦氏・菅原章夫氏・菅野孝志氏・鈴木利徳氏

・炊き出し食材持ち寄って被災者救援
・組織再編にらんで復興計画案作成へ
・がれき撤去がカベ使えない制度資金
・およそ計画的ではない「計画的」避難
・上からの指示待つ行政と、JAの違い
・船を流された半農半漁の組合員は…
・誰に頼まれたのでもなく自然に動く
・農地復旧には国の買上げ手法も要望
・不安の“はけ口”として営農集会を開く
・協同組合セクターとしての活動を展望

 「JA組織の弱体化がいわれる中、被災地救援ではJAの活動がものすごい」「助け合いの協同組合精神が発揮されている」などといった話題が語られ、「地域で"泣き顔"をする人があれば力になろうとするJAはすばらしい」、そしてこうした協同組合の風土を「後代にもつなげていくことと、協同組合間提携が非常に大事になっている」との強調もあった。
 復旧・復興の話題も多かったが、特徴的なのは異業種も含めた協同組合セクターによる調査研究機関として新しいシンクタンクを東北の地につくりたいというものもあった。農業は命を育む仕事。だから私たちは安心・安全を追求してきた。その蓄積を一瞬に吹き飛ばすような原発事故などは絶対に防がなければならないという思いを込めた提案だ。

被災地支援の精神を今後につなごう


改めて見えた協同組合の価値

課題は異業種組合間の連携


◆炊き出し食材持ち寄って被災者救援


 鈴木 始めに東日本大震災の被害なり現在の状況を一通りお話いただき、その中に出てきた重要なキーワードについて意見交換できればと思います。福島の原発事故については次元の異なる問題を抱えているため、後で集中的に議論したほうがよいと考えます。
 それでは復旧の取り組みも含めて概略を、田沼組合長からお願いいたします。
JA新いわて 会長 田沼征彦 氏 田沼 3月11日夕、避難所への炊き出しが始まりましたが、行政からは「明日以後の米はない。農協で何とかならないか」との話があり、すぐカントリーエレベーターから玄米を出して精米し、トラックで運んだところ、途中で「許可証はあるか」と警察官に止められ、「バカな事をいっている場合じゃない! 支援物資の米だ」とけんかしたり、そんなエピソードもありました。
 避難は長丁場になると見て、被災の軽かった生産農家からも炊き出し用米を「少しずつでもよいから」と集めました。これが予想以上に集まって米不足は起こしませんでした。また野菜などの支援食料も避難所へ届けています。
 農家の被害は、津波を受けた田畑が600haとなり、うち田植えをしたのはたったの10aだけです。それも日増しに稲の色がさめてきました。正常に戻るには掛け流しをしても4、5年はかかるといいます。
 対策は行政がしっかりした中身のものを出して来ない状況ではどうにもなりません。しかしJAでできることはやらなければと、海水に漬かった土を使わない生産方法なりハウス栽培なりを考えていきます。
 JAの被害は山田支所が津波に呑まれました。全体の職員は約1200人ですが、うち約40人が被災し、1人が亡くなりました。家族をすべて亡くした職員もいます。
 鈴木 JAは随分、支援活動をなさっていますね。ではそれらも含めて菅原組合長お願いいたします。

 

◆組織再編にらんで復興計画案作成へ


JA栗っこ代表理事組合長 菅原章夫 氏 菅原 私どもの農業倉庫には米が40万袋ほどありましたが、そのほとんどが地震で、「はい」崩れを起こしてしまったという被害もあります。さらに停電のため玄米を精米できないという事情もありましたが、何とか食いつなぎました。
 3月12日には緊急の県下JA組合長会議を開きましたが、この状態では単一の農協として経営を維持することが危ぶまれるということも含めて、総体的な組織再編も兼ね、7月の県連総会までに復興ビジョン案を作ることになりました。
 また当分は内陸部の被害の小さい農協が、沿岸部の被害の大きい農協を支援しており、なるべく近くの被災農協へ人や車を派遣しています。また県中央会も職員を被災農協へ1人ずつ配置するといった支援体制を組んでいます。
 県外からは、山形県の連合会が宮城県中央会に職員2人を常駐させるといった支援をいただいています。
 さて、米どころ宮城県の平成23年産主食用米の生産数量目標面積は約6万9000haですが、うち浸水などで作付け不能となったのは約5700haです。復興には時間がかかるわけですから、この作付面積だけは今後とも何とか確保しなければと県内の組合長会議でもいろいろ話合いました。
 そこで、被災地支援及び米の生産・供給量確保のためというわけで、内陸部の農家などとの地域間とも補償を実施することになりました。10a当たり1万5000円が基準です。しかし難しい面も多く調整は難航しました。あとは県間調整もあります。
 一方で、1000haくらいは除塩して何とか作付けしました。何回も代掻きをして水を流したのですが、1週間ほどすると稲の色が黄ばんできたようで、今後どうなるか心配です。

 

◆がれき撤去がカベ使えない制度資金


がれき撤去がカベ使えない制度資金 ところが農地復興といっても、がれき・ヘドロの撤去という大きな壁があります。早く撤去をと国に何度も要請して市街地は片付いて来たけれど農地のほうはまだほとんど手付かずです。撤去しないと次の対策が出てこないのですよ。
 第一次補正予算の4兆円に期待しましたが、農業関係に使える資金はほとんどありません。普通の状況時の助成制度でやろうとしても今のような事態では使えないのです。
 例えば、農地復旧の反当たり3万5000円という助成ですが、その前提となるのはがれき・ヘドロの撤去です。これは個人的には手がつけられません。
 そこで受け皿つくりが集落段階で始まっていますが、ここはむしろ農協に受け皿を任せられないのかといいたいのです。いずれにしても前段にはがれき処理があります。
 やはり、もっと大きな予算で思い切った中身にしないと、農業復興はあり得ない。農業復興がなければ地域復興もありません。もっとスピード感をもってほしいと申し上げたい。
 鈴木 がれき撤去などの仕事に対する3万5000円の支援は被災農家経営再開支援事業というものだったと思います。
 その受け皿組織として地域農業復興組合というものをつくることになっていますが、その組合はもうできてきていますか。
 菅原 できつつあります。
 鈴木 がれきの撤去は1人ではできないから制度をつくっても3万5000円は使えないということですね。
 次に原発事故を抱えた福島の場合、政府対応の機能不全を含めると“五重苦”という言葉も使われますが、ひと通り現況をお話いただけますか。

 

◆およそ計画的ではない「計画的」避難


JA新ふくしま 代表理事専務 菅野孝志 氏 菅野 家屋関係の被害が結構ありましてね。JA共済契約者では約6000戸、額面にして80億円程度の共済金が今月中にも支払われるかなという状況です。
 そこで今、大切だなと思うのは、建設業関係が企業系列化されていく中で、地域に密着して仕事をしていた瓦葺きの職人とか左官とか大工さんたちが労働市場を奪われていくことがあるために、それよって災害復旧に時間がかかっているのではないかということです。
 地域に必要な建築の労働分野が非常に大切だということを災害の中で感じ取ることができたのではないかと思います。
 デジタル社会の中でインターネットやIT機器を使う産業がもてはやされる日本の経済では建築職人などはどちらかといえば一段低くみられがちです。今度の災害はそうした大きな構造問題を投げかけたのではないかと思います。
 一方、支援活動ではJA女性部が地域婦人会などいろんなネットワークの中で協力して活躍しました。
 行政などの被災者対応は物資配給にしても数さえそろえばよいといった事務的な面がありますが、JA女性部の場合は心温まるものの提供を考えた上で活動しています。そうした点でJAの組織活動はきちんと機能していたと思います。
 原発事故対策では計画的避難区域が設定されていますが、「計画的」というからには避難先での生活や仕事などをどうするかをきちんと保障する枠組みを示すのが普通です。
 プランが示されたあとで移転するのが通常ですが、福島にはそういうものが何もない。場当たり主義です。仮設住宅をあちこちにつくったが、そこにはコミュニティもない。だから入居者はまだ3分の1というところもあります。
 それらを考えると、地域再生に向けた国の復興のあり方には夢も希望もないといえると思います。

 

◆上からの指示待つ行政と、JAの違い


農林中金総合研究所 常務 鈴木利徳 氏 鈴木 事務的な数合わせとか行政の対応の遅れに対するご意見が出ましたが、福島原発事故農業復興連絡会議という場が設立されたとうかがっています。行政、農業委員会、土地改良区、酪農組合、県連・JAという構成ですが、どういう機能の仕方をしていますか。
 菅野 これまでも農業振興連絡会議というのがあったのですが、今度の災害を機会に放射能汚染や賠償請求も含めて各機関の担当者が1フロアに集まって対応していこうということになりました。ただ県市の担当者は「上からの指示がないからできない」としか発言しないので私は憤りを感じています。
 農業団体のほうは、一番困っている農家組合員や地域住民に目線を置いた場合、やることが決まっているのに県や市はなんでやろうとしないのか、これでは仕事が停滞するばかりだというわけです。JAグループには組合員の暮らしを守るんだという今までの活動で培ってきたベースがあり、それを今回のいろんな施策の中でも実証できたのではないかという気がします。
 鈴木 行政の中央集権的なあり方が、今回の災害の中で地域での機能不全を起こしている、地方行政自身も機能不全を起こしているということを私も現地にいって感じました。その点、JA新いわてではどうですか。
 田沼 後手々々に回っていますね。うちのほうも同じです。例えば、支援物資受け入れ担当の県職員にしても不手際が多い。中継地に届いた物資はすぐに現地へ発送したらよいのに「集まってから発送する」という職員もいます。

 

◆船を流された半農半漁の組合員は…


 県は「緊急時の対策や訓練はしっかり講じている」といいますが、それが活かされていません。生ものを腐らせてしまうケースもあり、送り主が聞いたら、どんな気持ちになるか、情けない話です。
 私どもの組合には、農協と漁協の両方に入っている人が結構いますが、船を流されたりして漁業面の損害が大きく、今後は両立できないという状況もあります。
 「去年の12月に新しい船を買ったんだけど、その船だけでなく家も流された。残ったのはかあちゃんと借金だけだ。どうにかならないか」と私に訴えた組合員の切実な声が耳に残っていますが、その人が二重ローンの重荷に耐えられるかどうか。とにかく行政と一体で取り組みの方向を早く見出していくべきです。
 鈴木 菅野専務が指摘した問題ですが、大企業は住宅建設1つを見ても組み立て式の工法です。昔は地域に電気屋さんまでがひと通りそろっていたのですが、今は少なくなりました。それが復旧のスピードに影響しているのかも知れないという提起について田沼組合長いかがですか。
 田沼 商店の場合、もとの所に店を建てたいけれど、また津波にやられる心配があるため行政による宅地開発などを待って着工を保留しているのではないか。だから地域の職人さんに本格建築の仕事が来るのは先になると考えます。

 

◆誰に頼まれたのでもなく自然に動く


 鈴木 菅原組合長は組合員組織の支援活動がスピーディに機能していると話され、感銘を受けましたが、地域の方々のJAに対する評価はどんな感じですか。
 菅原 3年前の内陸地震でも被災しているので今回の震災でも対応は早く、農協全体の支援と合わせ女性部は3か月の計画を組みました。被災地は野菜不足なので“持ち寄り野菜”という支援もあって大変喜ばれました。生産組合などに声をかけるとかなり集まるのですよ。
 その活動は誰に頼まれたわけでもなく、自然と組織が動き出すという展開です。助け合い精神が浸透して来ているのですね。
 鈴木 最近はJA組織の弱体化がいわれ、組織の危機、事業の危機、経営の危機、などといわれた時期もありましたが、今回はJAがものすごい活動をしているなと感じています。
 菅原 特に災害時には結集しますね。相互援助の協同組合精神が強く出てきているんじゃないか。去年の口蹄疫禍で、うちは率先して宮崎に義援金を贈りましたが、これは3年前の内陸地震の時に助けてもらっているからです。口蹄疫では農協職員延べ2万2000人が作業にあたったそうです。
【座談会】被災地トップ層が語る=現場は今 地域での“泣き顔”に対して力になってくれる農協組織はすごいですね。でもそんなことはほとんど評価されません。メディアが取り上げないからです。ほかのボランティアのことは報道しても農協のことはほとんど扱わないのです。
 鈴木 我々の責任も感じますね。もうちょっと農協のPRが必要です。
 ところでJA共済の建更の査定が大変だと聞きますが、どんな状況ですか。
 菅原 県外からも随分応援いただいて処理は早まっています。JAは細かいところまで調査するために、支払いが遅くなる事もあるんです。
 田沼 うちは個々の家屋を調べるのではなく図面で進めています。2階だけが残っていても、それは半壊でなく全壊と査定するのです。
 そうした中で推進をし、建更の新規契約が前年度の2倍に増えました。

 

◆農地復旧には国の買上げ手法も要望


 鈴木 話を次に移しますが、立ち直れなくて農業をやめる人が出てきた場合、地域には集落営農組織のような受け皿となる組織はあるのですか。
 菅原 集落営農組合があります。ないところについては、これを機会に国のほうで農地の再整備をやっていただきたい。どうにも手の付けようがない被災地については国がいったん買い上げて再整備し、農地として使えるところは再払い下げしてもらう――そういう制度をなんとか実施してほしいと考えています。
 すべてを失った農家の復旧は二重債務となりますから、個人で取組むのは厳しい。やはり農協が集落営農組織の中に入り、その中心となって方向付けをしていくほうがよい。
 例えば、水田から園芸への転換など再編成のプランづくりをしたほうがよいのではないかと、いろいろ検討しております。
 鈴木 田沼組合長はいかがですか。
 田沼 私どもの被災地の農家は稲作といってもほとんどが飯米程度の規模です。また園芸のほうも小規模が多い。だから、この際、農業をやめる人が出てくる可能性がもっと強まるかも知れません。
 しかし、うちも菅原組合長のおっしゃったようなことを考えており、集落営農の中身をもっと広げて考え、よい方向を見出していきたいと思います。
 鈴木 では、福島の状況に焦点を合わせたお話に移りたいと思います。放射能汚染から避難している組合員と農協との間の連絡はどんな体制ですか。
 菅野 その前に1つ、組合員への職員の対応は極めてスムースに来たのかなと思っています。その中で、組合員の抱えている多くの不安を解消するために私たちはできるだけ組合員の近くで活動を展開していく必要があると感じました。

 

◆不安の“はけ口”として営農集会を開く


 例えば果樹園で花粉交配を手伝いながら組合員と話し合った職員もいて、不安解消へ職員の役割は非常に大きかったと思います。
 計画的避難区域の人たちについては農家全てを巡回して情報を集め、行き場の決まっていない人たちについては行政に情報を開示してもらうことで復興連絡会議の了解を得ました。
 一方、4、5月には緊急営農集会を開いて生産者・出荷者が3000人、2000人と集まりましたが、これは物事を決めるという集会ではなく、みんなが抱えた不安をぶちまけるいわば“はけ口”でした。そこには農協に対して何かいえば動いてくれるという期待がありましたし、県と町の担当者も参加しました。
 とにかくお互いが少しずつでもよいから前に進んでいけるような環境を整備することが大切ではないかと思います。
 さて私は、今度の大災害を契機に、新たな地域再生に向けた協同組合セクターの実践的シンクタンクをつくることを提起しています。地域復興に向け、そうした調査研究機関を東北地方につくり上げるべき時期ではないかと思うのです。
 東北の中で岩手、宮城、福島3県の協同組合をベースにし、できれば茨城を含めて財団のようなものを立ち上げてシンクタンクを設立するのです。
 協同組合セクターですから農協だけでなく漁協などとも協力しますが、やはり農協が軸となり、JAグループの支援を受けてつくり上げていきたいものです。
 行政がどうの、国がどうのといっていても始まらないので、自分たち自身が動いてシンクタンクをつくりたいと思います。そうしないと、これを機会に東北の農業・地域は弱くなるばかりだという感じがします。
 設置する場所としては、津波と原発を考えると、福島県の相馬あたりが一番条件を満たしていると思います。

 

◆協同組合セクターとしての活動を展望


 鈴木 非常に重要な問題提起がありましたが、協同組合セクターとして財源も負担し、具体的に何かをやっていこうという意見についてはいかがですか。
 田沼 漁協との提携の意見がかなりありましたが、漁業の中身も救うことのできる農水一体の復興計画が切実に求められます。
 鈴木 災害対応や支援活動を通じて協同組合としての良さ、協同組合の価値が改めて見えてきましたが、これを今後につなげていく取り組みと、もう1つは協同組合間提携が非常に大事です。農協から漁協へ、もう少し手を差し伸べることがあってもよいのではないかと思います。
 菅原 これをチャンスに漁協や商工関係の組合との連携を強化すべきです。
 鈴木 JA新ふくしまとしての重点活動を改めてまとめて下さい。
 菅野 地域の歴史を未来に継ぐために、変わらぬ自然を取り戻すことです。「オレの畑の環境放射線量は何ぼあるだべ」という心配が農家にあります。そこでJAは本店と7ブロックに1台ずつ計8台の測定器を入れて地上と、その上1mなどを測っています。そのデータを蓄積して、できる限り開示すれば、今後の生産の中でいろんな方策が出てくるはずです。
 それからゼオライトを果樹園と野菜畑と花畑に敷いて放射性物質の吸収度などを見る研究もしています。
 またダンボールみたいな紙にゼオライトを吹き付けて畑に敷き、放射線量を削減する試験も製紙メーカーと共同で進めたいと思っています。
 鈴木 では最後に原発事故に苦しむ福島の農家の方々に応援メッセージをひとことずつ贈っていただけますか。
 田沼 原発事故に振り回されて、どうにもならず本当に困り果てていることと思います。1日も早い収束と農業再生の実現を応援しています。
 菅原 見えない敵と闘っているような不安な気持ちには図り知れないものがあると思います。われわれは今後とも支援を惜しみません。
 菅野 ありがとうございました。

(2011.07.15)