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再生可能エネルギーに挑戦するドイツの協同組合

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再生可能エネルギーに挑戦するドイツの協同組合―第1回 「100%再生可能エネルギー地域」をめざす  村田武(愛媛大学・教授)

・「再生可能エネルギー法」が後押し
・再生可能エネルギー開発で農村再生

 昨年末、ドイツ・バイエルン州の農村で、再生可能エネルギー開発の現地調査を行った。その現地レポートを全3回で紹介する。

 ドイツでのエネルギー生産で、再生可能エネルギーへの転換に拍車がかかっている。昨年末には、総発電量に占める再生可能エネルギーの割合が、原発を上回る見通しになったと発表された。再生可能エネルギー発電の割合は、2010年の16・4%から11年には19・9%に増える見込みで、総発電量に占める順位で火力発電に次いで2番目になるというのである。他方で、原子力発電は22.4%から17.7%に低下する見込みである。
 福島第一原発事故後、脱原発に踏み切れないわが国政府とは異なって、ドイツではメルケル政権が明確に脱原発への転換を明らかにした。


◆「再生可能エネルギー法」が後押し

 ドイツの過去30年における再生可能エネルギーによる発電量の伸びが大きい(図参照)。2010年には1020億kwhに達し、そのうち大きく伸びた風力発電とバイオマス発電が、それぞれ35・9%、33%を占める。
 今世紀に入って再生可能エネルギー生産が急増した背景に、電力供給法(1991年制定)を2000年に再生可能エネルギー法に改め、風力発電だけでなく、あらゆる再生可能エネルギー発電について、発電設備所有者の総経費が売電収入でまかなえるようにした電力買取補償制度の導入がある。さらにこれに弾みをつけたのが、04年に同法を改正して、それまでの太陽光発電の買取り対象規模の上限(100kW)を廃止し、買取り価格の発電規模別設定を行ったことである。
 ちなみに、04年法では、バイオガス発電については、06年から26年の20年間にわたって、発電量が500kW以下の小規模発電では1kWh当たり平均21〜23セント、500kWを超える場合には平均16〜19セントという固定価格での買上げとなっている。このような助成のなかで、全ドイツで92年には139施設にすぎなかったバイオガス発電設備が、11年11月末には7100施設にまで増加し、発電力も総計275・5万kW(1施設当たり平均388kW)になったのである。

ドイツにおける再生可能エネルギーによる発電量の増加


◆再生可能エネルギー開発で農村再生

 さて、このようなドイツにおける脱原発と再生エネルギー拡大戦略は、農村の再生と関わって新たな展開をみせるようになった。農村こそ、エネルギー生産と環境保護の機能を発揮できること、とくに再生可能エネルギー用のバイオマス生産が可能であることが注目されるようになった。
そして、再生可能エネルギーの地域供給をめざす「100%再生可能エネルギー地域」づくり運動が農村を先頭に始まっている。それはエネルギー生産を遠隔地の大電力会社から地域に取り戻すことによってエネルギー生産から得られる利益を地域が獲得できること、また地域企業によるエネルギー供給の拡大を通じて、エネルギー供給の地域自治体による「再公有化」という方向もありうるとする。
 この「100%再生可能エネルギー地域」という目標を村や郡のレベルにとどめず、大都市圏で最初に打ち出したのが南ドイツバイエルン州都のミュンヘン市である。ミュンヘンの目標は、2015年までに市民の家庭消費電力、25年までに企業の消費電力を再生可能エネルギーで100%供給するというものである。「そのためにはミュンヘン市を囲む農村地域がエネルギー生産を担うということになるのであって、これは農村地域にとっては大きなチャンスだ!」という指摘のあることもうなずける。
 ミュンヘン市の計画は、もちろん、ミュンヘン大都市圏内の発電源だけでは達成不可能である。全ドイツないし欧州レベルでの対応を前提にしている。北海やバルト海の沿岸域での風車増設と既存風車の出力アップによる風力エネルギーが当面最大の供給源である。次いで、南ドイツのアルプス第三紀層で有望な地熱発電。加えて、生物由来のエネルギー源として主にバイオガスや、太陽光発電とソーラー熱エネルギー(温水)施設。したがって、ミュンヘンにおけるエネルギー戦略は電力と熱エネルギーの結合生産方式であって、コジェネレーションによるバイオマス利用を重視しての「電力・地域暖房結合」である。ミュンヘン市はすでに全ドイツでも最長の600kmもの地域暖房網をもっており、さらに都心部から郊外に広げられつつある。ミュンヘン大都市圏の農村がこれを活かさない手はない。


第2回では「バイエルン州の酪農経営とバイオガス発電」(板橋衛板橋衛・愛媛大学准教授)第3回では「ライファイゼン・エネルギー協同組合」(酒井富夫・富山大学教授)を紹介する。

(2012.03.07)